フランスの土地改革の歴史的概観(参考資料)(2016.12.15)

世界経済土地研究所は、2016年9月以降世界経済と日本経済の大きな流れの中で、「米国のトランプ大統領候補の人物像」(9月1日)、マイナス金利について「日銀の総括検証で量的緩和から金利誘導へ」(9月25日)を読者に紹介した後で、日本がどうしても緊急に実行すべき政策として、「最悪の構造欠陥は土地所有権制度」(10月15日)を指摘し、その後に、「土地制度がマクロ経済のバランスをどのように撹乱してきたか」(その1)(11月1日)および(その2)(11月26日)で指摘してきた。

日本の現在の土地所有権制度を、どうしても大改革の対象としなければならない理由として、フランスはこの土地制度を事実上棚上げしてしまい、政府や地方公共団体の行う公的事業については、土地のゾーニング政策の導入と並行して、土地を事実上公共財として扱うという方向で、大胆に土地改革を進めてきたことを指摘してきた。

しかし、この指摘は、あくまで抽象的であったため、もう少し、その時期と概要を具体的に読者に説明することが、どうしても必要なことであると考える。そこで、とりあえず、フランス人の書いた「フランスの土地政策」を読み、その概要を、ここで紹介することにする。1789年の人権宣言で始まった絶対的土地所有権を、きわめて早いテンポで、土地が純粋な私有財産から事実上の公共財の方向に逐次改革されていったかという過程を、より具体的に示すことができると思う。

フランスにおける近代の土地改革は、次のように発展してきた。この記述の根拠は、ヴァンサン・ルナールとジョセフ・コンビの共著「フランスの土地政策(T945−1990年)」(住宅新報社)に基づくものである。この本を読んでいただければ、フランスでの累次にわたる土地政策の変化を理解して頂けるものと思う。

(発展段階1ー19世紀)

都市計画法に基づき、公的目的を達成するため、所有者から土地、建物を収用する権限(収用権)を認め、適切に補償することを認めた。

(発展段階2、1852年)

近代的な意味において、フランスの最初の都市計画の法文と考えられるのは、1852年3月のデクレ(政令または政府決定)による、首都パリの「安全と健康のために」と銘打った建築線と建築許可に関する厳格な規則であった。これによって、道路新設のための土地の強制買収権限と、特別な手段が行政当局に付与されることになった。同時に、「ゾーニング」という都市計画の考え方が、次第にフランスに導入されていった。

(発展段階3,1952年以降)

発展段階2の改革は、100年後になって、急速に時代遅れとなったので、政府は、都市計画の内容を改正し、都市計画が、マスタープランと、ローカルプランとの二つに区分されるようになった。(1958年、1962年)また、公的当局は土地政策の手段として、先買い権を有することが認められた。(1958年以降)

(発展段階4、1962年以降)

1967年に、「土地利用の方向づけに関する法律」によって、ZUP(優先市街化区域)は、ZAC(総合的な枠組み)に包含されることとなった。

(発展段階5、1983年)

1983年に、ローカル・プランまたは土地占用計画は、POSと呼ばれ、土地利用の法的拘束力を持つ都市計画図書とされ、国、市町村、商工会議所等が、共同で作成することとなった。同じく1983年に容積率(COS)が定められ、土地1平米当たり建築可能な床面積を決めた。また、COSを超過する場合には、超過負担金が課されるようになった。

表1 フランスにおける土地ゾーニング政策と土地の公共財化の歴史的な展開
制度名成立時期制度の概要
収用権都市計画法に基づき19世紀から実行公益目的を達成するため、所有者に対し適切に補償したのち、土地、建物を収用する。
先買い権1958−60年に発効、ZUP,ZAD,ZIF,DPUへ適用する。土地政策の手段として、公共当局は先買い権を利用する。土地取引介入区域(ZAD,ZIF等で、適用される)
ZUP優先市街化区域(500区域)1958年に創設新しい住宅区域での住宅建設のための計画的基盤整備
ZAC協議整備区域1967年、不動産デベロパーと公共当局が協定を締結し、相互協力と負担割合を明らかにした。ZUPは、ZACという総合的な枠組みに包含された。
ZAD長期整備区域1962年創設、公共当局や土地公社、準公社の協力公共当局が14年間にわたり、土地の先買い権を行使できる区域
ZIF土地取引介入区域1975年法、人口1万人以上の都市を対象都市の土地取引への介入を認める。
DPU市街地先買い権ZIFを市町村にも拡張したもの都市区域の土地と建物の先買い権を、市町村が利用できることにした。
POS,ローカルプラン、または土地占用計画1983年創設POSは、土地利用の法的拘束力を持つ都市計画図書で、国、市町村、商工会議所等が共同で作成する。
COS、容積率1983年ごろCOSは、土地1平米当たり建築可能な床面積を表す。COSの超過分については、COS超過負担金が課される。


私がこの表を見て感心するのは、関係法令の正規の土地法を改正せずに、デクレや行政命令でこうした大きな土地改革を実行したことで、土地は私有財産であるという前提を保ちつつ、このように大胆な土地の公共財化を事実上実施してきたこと、つまり、フランスの持つ行政の、迅速な融通性に驚嘆するのである。これは、行政が時代を先取りしているという感が強く、日本の正反対であるということである。日本は1990年代に、あれだけの経済の瀕死の重傷を土地投機バブルで受けたにもかかわらず、鈍感な国民と政府の下で、まったく土地改革の声が上がらないことについては、フランス人は多分理解することができないだろう。

日本の安倍内閣は、アベノミクスに力を投入したが、国民の称賛を得ることに失敗した。安倍内閣は、1945年以降のフランスにおける激しい土地バブルの処理を行ったフランス流の大胆かつ巧妙な土地改革を大いに見習う必要があるのではないだろうか?米国の次期大統領トランプ氏は、8年間も続いた民主党政権とは全く次元の異なる経済政策を採用する可能性が強い。日本は従来の単純な米国との調整、追随政策でなく、日本独自の歴史的かつ実証的な根拠のある、新しい土地政策による新しい構造改革を採用することによって、新機軸の経済政策を打ち出すべき時期に来ている。遅れ、遅れてきてしまったその時期は今しかない。今がその出発の時期である。

(備考)本稿は、前回まで発表した論文の理解を、補足するためのものである。この原本となったフランスの事情は、1990年に発表されたもので、古い部分もあり、未定稿とさせていただきたい。(筆者)

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