IMFの世界経済見通し(2015年、秋)(2016.3.20)

パソコンの都合で、少し遅れてしまったが、昨年秋に発表された世界経済見通しは次の通りであった。

表1 世界経済見通し(GDP伸び率 %)

国名、項目2014年2015年2016年
世界算出3.4%3.1%3.6%
先進国1.8%2.0%2.2%
米国2.42.62.8
ユーロ圏0.91.51.6
日本-0.10.61.0
英国3.02.52.2
カナダ2.41.01.7
他の先進国2.82.32.7
新興国、途上国4.64.04.5
ロシア0.6-3.8-0.6
中国7.36.866.3
インド7.37.37.5
アセアン5か国4.64.64.9
ブラジル0.1-3.0-1.0
メキシコ2.12.32.8
サウジアラビア3.53.42.2
その他の指標
世界貿易量(財貨、サービス)3.3%3.2%4.1%
石油価格(米ドル)-7.5-46.4-2.4
消費者物価(先進国)1.40.31.2
同上(新興国、途上国)5.15.65.1
(資料) IMF、World Economic Outlook(2015年10月号)

1 IMFの論評

この中で目立つことは、世界産出(生産)は、2016年には3.6%とあまり落ちていない。しかし、石油価格は、2015年にー46.4%、2016年にー2.4と、大きく値を下げている。これが産油国を中心に、大きく有効需要が下がった原因となっている。こうした石油の需給の基本関係は、まだ崩れていない。

(1) 日本と密接な関係を持つ米国や中国などの需要はまだ十分に回復していないことは、中国の過大な供給力が素早く低下できなかったことが原因であるが、米国がいったん金利をゼロから引き揚げてはみたものの、貿易相手国の動向が的確に把握できなかったので、投資や生産を拡大できない状況にある。2008年以来、米国は自身の経済運営に、自信を失っているように見受けられる。共和党の大統領候補の動きに関心が高まっている。つまり、世界経済の生産(産出水準)は落ち込んでいないが、米国や中国が自国にとっての有効需要の増大を確実にとらえることができていない。国際的な構造調整が必要となっている。

金融政策の面でいえば、2015年12月から米国の金利引き上げが始まったが、英国ではまだこれを追いかけてはいない。日本では、日銀が突然マイナス金利を導入し、人々を大いに慌てさせたが、効果はあまり期待されていない。日本とユーロ圏では、将来も長期にわたり、財政の要求に対し受動的な中央銀行の金融政策が今後も続くと期待されている。米国が金利上昇に正面から取り組まないと、新興国の市場経済は、「待ち」の姿勢から脱却できないだろう。

(2) 表1にみられるように、世界経済は、2014年に3.4%、2015年に3.1%と成長している。2016年には3.6%に上昇する見込みであるが、日本、米国、ユーロ圏も徐々に拡大していくであろう。日本の伸びは、−0.1%(2014)、0.6%(2015)1.0%(2016)というスピードであるが、日銀の緩和政策によってどうやらこれが保たれている。世界経済土地研究所は、これで日本経済がデフレから脱却したとは考えていない。構造改革を行っていないからである。

土地制度の矛盾が非常に大きな空洞となって、スポーンと穴が開いており、他の先進国並みの健全性を持っていない。、日本人はこのことに誰も気が付いていない。いまやフランスと日本の土地制度は、明治時代には同じであったが、現在は全く別の土地制度に転換してしまっている。フランスが大きく土地所有権制度を公共性優先に転換してしまったにもかかわらず、日本の土地関係者は、そのことを知らないので、日本の土地制度は明治維新のままで、土地投機向きとなっており、完全に時代遅れのものとなっている。(注)明治政府の地租改正は、政府に初めての租税収入をもたらした貴重なものであったが、それは土地の価格を上げて地租収入を増加させるための土地投機優遇政策であった。

中国経済は、6.8%(2015)、6.3%(2016)と下降するが、住宅関係の不動産、信用、投資が過去に過大だったためである。しかし、株式市場の影響は大きくないだろう。インドの成長率は7%を超えており、インド経済に特別の問題はない。ロシア経済は、−3.8%と2015年に後退したが、これは石油価格が復活しなければプラスに転ずるのは難しいだろう。

米国連銀は、FOMCが金利引き上げに都合のよいデータが得られるのを待機している。日銀は、国債を買い続けるしか方法はないだろう。マイナス金利の効果はまだ出ていない。日本では、もっと強制的な構造改革が求められているようである。これは安倍内閣の優先課題である。労働力の参加を拡大させることは、欠くべからざる要件であるが,サービス部門での生産性向上も必要である。

2 70年前のフランスの土地改革の教訓ー土地は私有財産とされているが、それ以上に公共財でなければならない。

1945年に終了した第二次世界大戦の後、フランスでは猛烈な住宅不足、土地投機、で激しい土地投機が発生した。これは大きな政治問題に発展した。日本とフランスは遠く離れており、終戦直後という大きな歴史的転換点の中で、日本とフランスの両国は、共通する土地制度(土地は私有財産であり、商品であるという哲学)を持っていた。しかし、戦後のフランスは、長年の伝統と習慣により地主は、原則として土地は売らないという慣習が定着していた。しかし、フランスの第二次大戦後の地価上昇は、2−3倍、高いところでは5,6倍という異常な地価を示していた。(注)1990年代の日本での激しかった土地バブルは、せいぜい4倍程度の地価暴騰に過ぎなかった。

戦前にフランスを離れ、戦場や植民地で母国のために戦ったフランス人が本国に帰国しても、住宅用地を土地市場で買うことは非常に困難であった。

そこで、大きな政治問題となったため、一定の地域をゾーニング区画と定め、政策目的に必要な用地は、一般の土地法制の例外を認めることになった。土地収用にのほかに、例外として国や公共団体に対し、用地の先買い権を認め、価格についても合理的な地価の範囲に収まるよう公的規制を導入し、徐々に改革を進めていった。個別のゾーニング政策を、政府が立案するときに土地のゾーニングが、政策目的と融合されて公共用地に関する新しい政策が、徐々に形成されていった。これは、徐々に、1950年ごろから1975年ごろまで約30年間にわたりフランス全土に実施され、土地は公のものとして公共財として取扱うこととされ、土地市場にも公的な介入が容認されるようになった。

このことは、見えざる土地革命といわれ、約30年後には土地は純粋な私有財産、商品ではなく、性格が大きく転換し、公共財的に転換してしまった。これで土地投機が激減したそうである。これが第二次大戦後における奇跡と呼ばれ、栄光の30年といわれている。これが、経済を成長路線へ乗せるきっかけとなったという。土地投機は最悪の哲学である。土地の値上がりが激しいことにつけ込み、日本では金融機関や一般企業までもがどっぷりと土地投機に浸ったのであった。この大きな反動が日本経済をドップリと土地(地価)デフレの中に陥れてしまった。世界一に舞い上がった日本の高い地価は、高い住居費と生活費(教育費等)の格差を生み出したため,そのしわは消費の節約にまで広がってしまった。

土地制度というものは、資本主義経済においても、社会と経済の中核をなすものである。占領軍が主導した日本の農地改革は、日本の農業を貧乏な小作農業から、豊かな農業に転換させることができた。しかし、70年後の今の日本に求められるものは、土地所有権制度に代わる新しい土地制度、すなわち公共財としての土地制度と、貧乏人でも富裕層でも気軽に利用できる、イギリス型の利用権中心の土地制度なのである。フランスは、これを約30年かけて実行してきたのである。日本では、与党野党を問わず、土地に関する新しい発想が何もなく、同一の土地制度をとっているはずのフランスと日本の土地制度のギャップは、広がるだけである。これが経済構造と、経済政策の盲点となっている。これでは、世界一地価の高い日本の経済成長は達成できないのである。

終戦後のドサクサ時代でなければ、日本でももっと早く土地は公共財となっていたはずである。しかし、フランスの土地改革に関するニュースは敗戦という巨大な、長期間の情報ギャップのため、日本に全然伝わらなかったのである。日本人は、明治以来海外情報にには、極めて敏感に反応してきたが、昭和20年代はコメや食料もなく、土地や住宅どころではなかったのである。日本の経済構造がフランスよりひどいのは、フランスが30年かけて必死に断行した土地改革がなかったためである。、日本人は、農地改革だけで十分だと慢心してしまったのである。この土地改革がなかったためである。日本人は、いまでもフランスでは土地所有権制度しかないと思っている。それは大間違いなのである。私が、いくらそれを日本人に説いても、全然信用してもらえないのが残念である。

日本人は、すでに改革されてしまったフランスの正しい現実を知らずに、フランスは我が国(日本)と同じ土地制度であると今でも信じ込んでいる。これは悲劇であるとともに喜劇でもある。これだけの大きなマスメヂアの空洞化や情報ギャップがあるのは一体どうしたことなのだろうか? 日本経済の低速経済を是正するには,土地を公共財として土地投機を根絶する構造改革以外に方法はない。日本の首相が5月に伊勢志摩で、議長を務める、G7サッミトでは、ぜひ安倍首相にこのことを議論してもらいたいと私は熱望している。このことが実行できなければ、アベノミクスを成功させることは、不可能であり、G7にとっても日本にとっても不幸なことである。

(注)詳しくは、「新しい隆盛のための礎石(上下巻)」山口健治著(出版社、東京リーガルマインド)を参考とされたい。

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