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「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る」(李白)をこう授業する



長谷川博之(トークライン中学秩父JEサークル)

漢詩を構成する一字一字の漢字を詳しく検討し、話者の「視座」、「見え」を考えさせる授業を組み立てた。後半の討論で、生徒は大いに盛り上がった。


 黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る  李白

故人西のかた黄鶴楼を辞し       故人西辞黄鶴楼
煙花三月揚州に下る           煙花三月下揚州
孤帆の遠影碧空に尽き         孤帆遠影碧空尽
唯だ見る長江の天際にながるるを   唯見長江天際流

教科書には解説文が載っている。文章の検討の邪魔になるため用いない。プリントを使う。プリントには「煙花」「天際」の意味を記しておいた。

さっと授業に入る。

指示1 書き下し文を指で指しなさい。隣同士確認しましょう。

指示2 読めない語句は自由に読んで結構です。2回音読します。全員起立。

「座った人はもう一度微音読していなさい。」

指示3 範読しますから、振り仮名を書きなさい。

読めない漢字には振り仮名を振ってよいことにしている。

指示4 追い読みします。一句ずつです。

指示5 2回読んだら座りなさい。全員起立。 

机間指導で声の大きさや読み方について指導する。

指示6 隣の人と一句交替で読みます。読み終えたら立ち、順序を逆にしてもう一度読みましょう。終えたら座りなさい。

指示7 指名なし音読です。もし一度にたくさんの人が立ってしまったら譲ります。 

すらすら読めるまでさまざまに変化させて練習させている。

指示8 ノートを開きます。一行空きで一から十と書きなさい。

授業の見通しを持たせる。

発問1 題名は何ですか。(黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る)

テンポを重視する。全員が正解できる問いから始める。

発問2 作者はだれですか。(李白)

発問3 この詩の詩形はなんですか。(七言絶句)

発問4 「故人」とはだれを指しますか。(孟浩然) 答えをノートに書き、書いたら持って来なさい。

中国における意味と日本における意味とでは異なる。この点に注目させる。
案の定生徒からは「死んだ人」という解が出た。「だれ」と問われていることを確認するとともに、漢和辞典を使うよう指示した。

指示9 指名はしませんから、立って発表しなさい。A君からどうぞ。 

16名が立った。全員が「孟浩然」と答えた。辞書で調べたことを大いに褒め、ノートに赤丸をつけさせた。

発問5 話者はいま、どこにいますか。(黄鶴楼) 書いて見せに来なさい。

話者の視座を問うた。〈話者=作者=李白〉であることを確認した。
生徒の誤答は「楊州」。 「ちがいます」「もう一度挑戦しよう」と告げた。
正解者には根拠も書くよう指示した。根拠は「にて」である。場所を示す格助詞(文語文法)。

発問6 孟浩然はどこに行こうとしているのですか。目的地を表す語を二つ、ノートに書いて持って来なさい。     (広陵と楊州)

生徒は多くが一度で正解した。誤答としては「碧空」「長江」が挙がった。広陵と揚州は同じ土地であることを確認した。

根拠1.「之く」

「孟浩然の広陵に之くを送る」を訳すと「孟浩然が広陵に行くのを見送る」となる。「見送る」の主語は李白であり、見送られるのは孟浩然であるから。

根拠2.「下る」

「楊州に下る」「下る」は上流から下流へ移る、都から地方へ行く、の意。主語は孟浩然であるから。

指示10 「孤帆」に赤線を引きなさい。

指示11 「孤」のつく熟語をできるだけ多く書きなさい。(ノート七に)

生徒からは孤独・孤立・孤高が挙がった。「共通する意味は何か」と問うと、「ひとりぼっち。ただひとつ」と返ってきた。

同様に「帆」について問うた。「ヨットの帆」「帆掛け舟」などが挙がった。「弧帆」とは一つの帆掛け舟であることを確認した。

発問7 この舟には誰が乗っているのでしょうか。(孟浩然)

確認のために問うた。

発問8 話者に、舟はまだ見えていますか。(見えていない)  見えている、見えていないで答え、書いたら持って来なさい。 

時間調整のために持ってこさせ、10名ほど見た後全体に挙手で人数を確認した。
生徒は16対14に分かれた。

指示11 根拠を書いて持って来なさい。(ノート十に)

書いて持ってきた者を褒め、次々と板書させた。

「碧空に尽き」が根拠となる。「尽」は「すっかりなくなる」の意である。「弧帆」は「すっかりなくなった」すなわち、見えなくなったのである。「唯」(ただ)も根拠となる。

〈板書〉

見えている   名 
 根拠
 ・○○
 ・△△△
 ・
見えていない  名
 根拠
 ・××
 ・


指示12 少ない「見えている」派起立。根拠を発表します。Bさんからどうぞ。

B子 「『遠影』とあります。影は見えているのです。」

C男 「『唯だ見る』とあります。李白は孟浩然を見送っています。」

同じ意見の者は座る。

「見えている」派が全員座った時点で「見えていない」派の発表に移った。

D子 「『尽き』とあります。辞書で調べたら『すっかりなくなる』と書いてありました。舟の影はすっかりなくなったのです。だから見えません。」

この意見に大きな拍手が起きた。

その後指名なしのミニ討論を始めた。D子の意見を多くが支持し、「見えている」派の生徒が続々と「見えていない」に移った。
発言が途切れた時点で再度人数を確認したところ、25対5となった。

ここで教師の解を告げ、授業を終えた。
 


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