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文章を厳密に検討させる

                     −説明と描写を区別して読ませる 大森氏実践の「追試」−


長谷川博之(トークライン中学秩父JEサークル)

国語科の授業では、文学的文章の指導にせよ説明的文章の指導にせよ、文章を厳密に検討させることが大前提である。大森修先生の発問・指示を一部修正し、追試した。(修正したのは熱海と真鶴の位置関係を問う発問を削除したことと、文章に線を引かせ持ってこさせる指示を入れた点です。)


この秋山梨で開かれた「大森修セミナー」において大森氏は「真鶴」(志賀直哉)を模擬授業された。
私はその文章を用い、氏の指示・発問を修正して授業にかけた。
 

(教材本文)

 夜が迫って来た。沖には漁火が点々と見え始めた。高く掛かっていた半かけの白っぽい月が何時か光を増して来た。が、真鶴まではまだ一里あった。丁度熱海行きの小さい軌道列車が大粒な火の粉を散らしながら、息せき彼らを追い抜いて行った。二台連結した客車の窓からさす鈍いランプの光がチラチラと二人の横顔を照らして行った。         


まず列指名で読めない漢字は自由に読ませた。
俳句・短歌の学習で慣れている生徒達は、「沖にはギョビが……」などと進んで音読した。
続いて、追い読み・一文交代読み・個人読みと変化をもたせて練習させた。
全員がすらすら読めるようになった後、次の指示を出した。

指示1 一行空きで一〜六と書きなさい。

指示2 プリントに一文ずつ番号を振りなさい。隣と確認しなさい。

リズムを作り出すために、指示後5秒ほどで指名した。周囲はあわてて取り組んだ。授業では、このようなたったひとつの指名で緊張感が生まれる。タイミングが命である。

発問1 時間帯はいつですか。漢字一字で答えなさい。

初発問は誰でも答えられ、しかも以後の展開に関わる内容を問う。意図的に指名して大いに褒める。

発問2 登場人物は何人ですか。

全員正解。赤丸をつけさせた。
テンポよく進める。

発問3 二人は列車の中にいますか、外に いますか。

「中」と書いた生徒が6名いた。根拠を問うたが返答がなかった。
「外」派を起立させ根拠を述べさせた。
最初に、「勘だ、という人は座りなさい」と指示。22名中13名が座った。9名に発表させた。自分と同じ意見が出たら座るように習慣づけている。
授業から「なんとなく」「勘」を放逐したい。
全員の作業を止めさせ、答えを考える際にはできる限り文章中に根拠を探すよう指導した。

発問4 この文章を3つに分けます。二つ目のまとまりは何文目からですか。三つ目のまとまりは何文目からですか。

半数が書き終えたのを見届け見せに来させた。全員の解に小さな丸をつけた後、パターンを板書し、挙手で人数分布を確認した。

ア) 二つ目A 三つ目D……15名
イ) 二つ目A 三つ目C……7名
ウ) 二つ目C 三つ目D……3名
エ) 二つ目D 三つ目E……3名


指示3 一番少ないエの人起立。エと判断した理由を発表しなさい。A君からどうぞ。

検討はいつもこの型で進めている。最初の一人を指名してやると、後の生徒も抵抗感なく参加する。発表したら座っていく。
結局エは3名とも「なんとなくです」「勘です」と答えた。
以降ウ、イ、アの順に繰り返した。この段階では根拠を明確に指摘できる者がいなかった。

指示4 考えが変わった人がいるかもしれない。もう一度挙手で確認します。

先ほどの発表で拍手を受けたものがあった。
確認した後、「人の意見を聞いて自分の考えが変わることはいいことだ」と褒めた。
分布は、エが消え、以下のとおりになった。

ア) 9名
イ) 6名
ウ) 13名

おかしいものを一つずつつぶしていった。
「イはおかしい。CとDは話が変わっています。」
「アはおかしい。@Aを分ける根拠がない。」
「それなら、イもおかしい。@とAを分けています。」
「@〜Bは風景について書いている。Cは『が、』と始まり、変化しているようだ。DEは列車のことだ。」B子のこの発言に拍手が起きた。最終的にウに絞られた。正解だと告げた。

説明1 さっきB子さんが言ったとおり、@〜Bは風景について書いています。                     この部分 は絵に描けるよね。これを「描写」といいます。(板書する) それに対しCは風景ではないね。二人の置かれている状況を話者が読者に説明している。これを「説明」といいます。(板書) 小説はこのように描写 と説明とで組み立てられているのです。

「風景の描写で登場人物の気持を表現することもあります。描写の上手い作家は一流です。」
「分析批評」の授業の下地づくりである。(会話文には触れなかった)

指示5 大切な言葉だから声に出します。「描写」はい。「説明」はい。

キーワードが出てきた際には必ず声に出して確認させている。

発問5 まとまりの三つ目は「描写」「説明」のどちらですか。書いてごらんなさい。

小刻みなノート作業で全体の理解度を把握する。挙手で確認したところ、全員が「描写」。「正解!」と力強く褒めた。

発問6 二人は急いでいますか。ゆっくりしていますか。

主発問である。この問いで描写の役割を理解させる。挙手で人数分布を確認した。

「急いでいる」   ……18名                                               「ゆっくりしている」……10名


指示6 机ごと真ん中を向きなさい。

指示7 判断の根拠となる部分に鉛筆で線を引きなさい。

根拠を明確に意識させるための指示である。後の討論にも役立つ。友人が挙げた根拠には波線を引き名前を記すよう指示してある。

指示8 「ゆっくり」派、起立。C君からどうぞ。

◇C男 「半かけの白っぽい月が何時か光を増して来た」とあるから。のんびり歩いていると感じました。
◇D男 「軌道列車が彼らを追い抜いていった」とあるからです。
◇E子 「チラチラと二人の横顔を照らして行った」とあるからです。

指示9 「急いでいる」派起立。F君からどうぞ。

◇F男 「夜が迫って来た」とあるから。迫るを辞書で引くと「もう少しで届きそうになる」とある。二人は夜に追われているように感じているのだと考えます。
この意見に大きな拍手が起きた。辞書で引いたことを大いに褒めた。
◇G子 「月が何時か光を増して来た」とあります。「何時か」を辞書で引くと「いつの間にか」とあります。月の変化に気がつかないほど必死に歩いているのだと考えます。
◇H男 「息せき」とあります。これは「息をはずませて」という意味です。だからです。

意見が途切れたところで討論を始めさせた。
◇I男 「D君の意見に反対です。列車が彼らを追い抜くのは当たり前で、ゆっくりしていることの根拠にはなりません。」
◇J子 「C君の意見もおかしいです。『いつの間にか』とは、何かに一生懸命で、ふと気づくときに使います」
ここで日ごろ発言の少ないK子が立った。
「H君の意見はおかしいと思います。『息せき』は彼らじゃなくて、列車です。」
K子の意見に全体がどよめいた。あちこちで、「本当だ」、「私も列車だと思っていた」という声が聞こえた。

私は黒板に、

@列車が息せく彼らを追い抜いていった。
A列車が息せき彼らを追い抜いていった。

と書き、違いを考えさせた。
そして全体に問うた。全員が「列車」。私がK子を褒めると同時に拍手が起こった。
ここまでで意見が出尽くした。

説明2 正解は「急いでいる」です。F君とG子さんの挙げた根拠は正しい。
「ゆっくりしているか」「急いでるか」と問われたのなら「急いでいる」と考えるのが筋が通っています。根拠もありますから。
「二人は急いでいた」などと説明しなくとも風物を描写することで状況を表すことができるのです。


原作を最後まで読んだが、二人はそれほど急いでいるとは考えにくい。むしろ、とぼとぼと家路についている様子が読み取れる。だが、この部分だけを抜き出して検討するならば、「急いでいる」と考えるのが理にかなっている。
「文章を厳密に検討させる」という目的は達成できたと考える。



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