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徒然草第11段をこう授業する



長谷川博之(トークライン中学秩父JEサークル)

すらすら読めるまで練習させた後、小刻みなノート作業を通して主題に迫った。生徒は、話者が「この木なからましかば」という感想を持つにいたった理由を理解した。


範読・追い読み・一文交代読み・個人読み・指名なし音読と変化をもたせて練習させた後の第二時。

本作品では「作者=話者」と考えてよいことは確認済みである。

指示1 3行目の「心細く住みなしたるいほり」の部分に赤線を引きなさい。

発問1 この庵には人は住んでいるのですか。住んでいる、住んでいないどちらかをノートに書きなさい。

答えは必ずノートに書かせる。全員参加を保障するためである。

指示2 「はい」と答えた人、起立。 

31名中28名が立った。

指示3 今立っている人のうち、「なんとなく答えた」「根拠はない」という人は座りなさい。

12名が座った。立っている生徒に根拠を聞いた。

「脚注に『住んでいる』『暮らしていられるのだなあ』とあります。」 脚注に注目したことを大いに褒めた。

指示4 同じ意見の人は座りなさい。

1名残った。

「5行目に『閼伽棚に菊・紅葉など折り散らしたる』とあります。住んでいる人がいるからこそ、花が飾ってあるのだと考えます。」 答え方の上手さ、一人でも立ち続けた勇気を褒めた。

「いいえ」と答えた3名に反論の有無を聞いたが、なかった。

説明1 この庵の主人は山奥の里から、さらに奥に進んだ場所にたった一軒で暮らしている。

発問2 なぜこの主人はこんな場所に住んでいるのだろうか。自由に考えて書きなさい。

3分の1程度が書き終えたのを確認して次の指示を出す。

指示5 前に見せにいらっしゃい。

「わかりました」と言って小丸をつけ、黒板にどんどん板書させる。

「書けない人は黒板を参考にして書いてもいいのです」 いつもどおり声をかけた。

10名が板書を終えた時点で全体の作業をやめさせ、一人ずつなぜそう考えたのかを訊いた。その際、本文に根拠があるか否かも確認した。余りにも外れている解にはバツをつけ、あとは認めた。

説明2 この人は出家をしているのです。当時は出家をすることが社会的、身分的な拘束から開放されて自由になるための道でした。出家といっても、必ずしも熱心な仏教徒であるとは限りません。彼らを「隠者」と呼びました。彼らの特徴はひとつ、人生のはかなさ、そう、平家物語や奥の細道で学んだ「無常観」を教える仏教思想を基本とし、自然のままが一番よいと考え、欲望を捨てて暮らすことです。俗世間から離れ、自由の身を楽しんだ人たちなのです。ちなみに兼好も40歳前後で出家したとされています。つまり、この庵の主人と兼好は「隠者仲間」とでも言えましょうか。


2段落の学習に入る。

発問3 話者(作者と同一。兼好法師)はこの庵の主人を最初、どう評価しましたか。3字で抜き出しなさい。

半分以上がすぐ探す。先に「枕草子」で「あはれ」を学習済みだからである。指名して答えさせ、赤線を引かせる。

説明3 ここで「あはれ」とは「しみじみと趣があるなあ」といった意味です。プラス評価です。

発問4 この評価が変わってしまうのです。どう変わるのでしょうか。7字で抜き出しなさい。

今度は早い。脚注に書いてある。発言数の少ない生徒を指名して答えさせる。 「『少しことさめて』です。」

説明4 「興ざめして」とは文字通り「興奮がさめて」という意味です。なんだ、つまらないな、という感覚でしょうね。もちろんマイナス評価です。

発問5 ある「もの」がきっかけで話者の評価は変化したのです。その「もの」とは何ですか。4字で抜き出しなさい。

文字指定が続くが、こうした方が生徒は抵抗感なく学習に参加する。古典というとそれだけで拒否反応を起こす生徒もいるが、すらすら読ませて自信を持たせた後、テンポよく授業していくことで流れに引き込む。

机間巡視して正解には丸をつけていく。書けない生徒が4名いたが、周囲の助言で書いた。「柑子の木」

指示6 この庵の様子を、柑子の木を含めて絵に描きなさい。

情景をはっきりとイメージさせるために描かせる。素直に柑子の木を囲む生徒と、庵を柑子の木で囲む生徒に分かれた。後者が7名いた。意図的に4名を指名し、板書させた。

「枝もたわわになりたるまはりをきびしく囲ひたりしこそ」の部分を板書し、「が」の横に「=木の」と書いた。

厳しく囲われているのは「柑子の木」であることを確認した。

ここからが佳境である。

発問6 柑子の木が厳しく囲われていたのはなぜですか。

書けた者から見せに来させた。小丸をつけつつ書けたことを褒めた。

生徒の解は次の3種であった。

@みかんが枝から落ちないようにするため。
Aみかんを独り占めしたいから。
B木が倒れるのを防ぐため。

討論形式で一番おかしいものからつぶしていった。Aが残った。

説明5 みかんの木を厳しく囲ったのは、他人に取られまいという考えからでしょう。ここでちょっと考えて。この主人は「隠者」でしたよね。先ほど、「隠者」の特徴はどんな点だと説明しましたか。

生徒は顔を見合い口々に教え合っていた。

指示7 最後の行「この木なからましかば」に赤線を引きなさい。

全員の注目を促す。

発問7 話者はなぜ、「この木なからましかば」と思ったのですか。

根拠は文章中にある。「あはれ」から「少しことさめ」たのは何が原因なのか。発問6との関連で考える。

半分が書き終えたところで持ってこさせ、5名に板書させた。

解は以下の通り。
「隠者であるはずの主人がまだまだ欲望を捨て切れていないことに気がついたから。」
「中途半端な隠者であることを知って興ざめしたから。」


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