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めし 題名:Crazy Fujiyama Food Park (海外用タイトルってイモくさい) いつの時代からか人里はなれた山に棲みついた食屍鬼がいるという伝説がある この物語は実話である・・・(予想がつく内容やな) |
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■第一話・禊■ 人もこない宿場町は荒れ果て風が吹きすさぶ。 雲行きも怪しく通り過ぎるのは痩せた野良犬くらい。 近くの村の集落は家々が遠い距離間隔を保っているかのように点在。 ここはいつからか藩主が断絶され統治も途絶えた地域になっていた。 若者はこの村から出て行ったため寂れる一方だ。 (ムード作りのため、ぬるいです) 傘張りや草履に竹かごの品を作って遠くまで出稼ぎする。津守田兵どんもその1人だ。 彼が出かけて行ったあと明るい空だが雨が降ってきた。 すると田兵の家から暇を持て余した童子が出てきて雨空の中どこかへ行った。 「あがったようですし、そろそろ行きましょうか」 草が生い茂り荒れ果てた寺で雨宿りして村に向かってくる3人組がいた。 奥方と番頭、そして丁稚奉公の娘。 「宿はどこも閉まってますね、めし処があったのでそこで食事にしましょう」 一足先に様子を見てきた番頭に連れられて一行は店に入った。 「珍しいね、お客さんかい」そういう店主だが店には何も札がない。 何か食べるものは無いかと番頭が尋ねると、「めしと菜っ葉、あとはたくわんしか出せねぇだ」 「喉を通らないな飲むものはあるか?」 店主は白湯をかけて食うといいと言い残して奥へ消えた。 3人の間には会話もなく黙々と食べ食事を済ませた。 「どこか泊まるとこはないか」と尋ねると奥から 「銭儲けしてもしゃーないから開けてるとこはねぇ」ぶっきらぼうな返事が返ってきた。 野宿するしかないかと思案に明け暮れていると、どこか他所の家にでも泊めてもらうといいと教わった。 峠の茶屋を越えた先に村があるという。 夜も更ける頃合には村へ着いたが住んでいるのはどこも駄目だった。 仕方なく空家に泊まり翌朝に出ることにした。 虫の音も聞こえるがガマの鳴き声がうるさく聞こえ蒸し暑い夜だ。 奥方の目を盗み番頭は丁稚の寝床に潜り込んでは鼻息も荒く汗ばむほど欲を満たしていた。 翌朝は嵐になっていて雨水が中まで吹き込んできたので目が覚めた。 表に出ると何やら村人達が騒がしい様子。 のぞいて見るとムシロを被せられた遺体があった。 顔は青白く生気は無い。何か獣に噛まれたような傷が元で家の前で死んでいたと聞かされた。 二の腕から先が無く熊にでも食いちぎられたと見られる。 地主さんの家へ作物を届けに行ったきり晩は帰ってなかったらしい。 「お前さんらこのまま空家にいるよりは地主さんのお屋敷に泊めてもらうといいべ」 「奥方そうしましょう」 大粒の雨が土砂降りに降り続いている。 集落の農村から少し離れたところに山間を背にした屋敷が見える。 そこでは寝たきりの地主の妻とおかっぱ頭の孫娘がいた。地主さんは既に他界したという。 雨戸を叩く音が激しく昼間でさえ陽が落ちたままのように薄暗い。 「幸、何か食い物を持ってきておくれ」 そうおばばに言われて孫娘は里芋を運んできた。 くる日くる日も嵐が強く出るに出れなかった。 「幸、何か食い物は無いかい」 「さっき食べたでしょ、これはあの人たちに出す分よ」と言い聞かせてる。 天候も悪く作物の育ちも悪い。 急の嵐も続いてるせいで今まで育てた農作物はすっかり駄目になっている。 蓄えが無くなれば山に探しに行くしかない。 ■第二話・殻■ 村には色々な人達が道すがら雨宿りを求めて来る。 ある晩、番頭は書置きを残し屋敷から消えていた。 おばばの姿も見かけない時があり、 嵐の激しい音さえ耳に入らないくらい刻一刻と不安な気持ちと不気味さを増している。 幸の話によると生前の旦那夫婦は睦まじい仲だったらしい。 屋敷にはびしょ濡れ姿で童子がときおり作物を届けに来ては体も拭かずまた帰っていく。 奥方は宿を借りている手前、何かしたかったが何もできる事が無い。 番頭は村の夜這いで色情に狂い、それでは飽き足らず、 嵐の中を駆け回っては木々の道に通りかかる旅人を襲う山賊になり果てていた。 色欲で飢えを紛らわし肉体は痩せてしまっている。 そのため、ときおり逃げられてしまい若い娘や子供まで狙うようになった。 村にそういう人達も逃げてくるので屋敷の奥方達の耳にもその話は届いていたがそれが番頭だと気づくはずもない。 屋敷には奥方の他に逃げてきた女やその連れを含めて3人ほど泊まった。 ある日屋敷に浪人が泊まりに来て山賊の後を追い斬り捨てた話をし山賊が所持していた薬入れの根付を見せられた。 奥方は山賊は番頭だったのだとその時に始めて分かった。 番頭は食事も与えられず弄ばれて骸となったものを食っていた。 生きていた者も僅かに居たが、 連れ去られたある者は力なくぶつぶつ物を言い続けたり、 別の者は切り捨てられたばかりの番頭にしがみ付いて蛇のように悶え続け、 既に気が触れていたという。 村には赤子を連れた者もいつしか居なくなって山賊に襲われたのだろうと思っていた。 しかし番頭は斬られて死んだはず。生き返ったとか、たたりなどと埒も無い考えを懐き恐れていた。 熊にでも襲われたかのような深い傷を負った骸が日に日に増える。 堪り兼ねた村人の頼みで浪人はその手助けに一役買って出た。それは奥方からも口添えしたからだ。 山蛇も多く気をつけないと足元も危ない。 賊を切り捨てた鍾乳洞にも行ってみたが誰もおらず骨がむき出しになった遺骸だけが残っていた。 ただ、誰の骨か分からないくらい散乱している。 番頭が食っていた骸の数だけではないような・・・。 (そういえばあの娘達はどこへ・・・) 浪人は説明のつかない惨状が腑におちななかった。 ■第三話・渦■ 嵐は続いていた夕日さえ雲空を不気味な赤黒い色に照らしていた。 村では落武者や恐ろしい形相の白髪魔の鬼が魑魅魍魎が跋扈しているという根も葉もない祟りの噂が出てきた。 既に幕府は崩壊し奥方は主人に先立たれ、お家も売り払い駿河から浜松まで行く当ての無い旅だった。 この村もほっとけず腰を下ろす事にしていたその矢先である。 丁稚の花と幸が廃寺の卒塔婆が乱立する墓場まで夜な夜な肝試しで行ってみたがガマの鳴き声しかない。 「ねぇ花ちゃん帰ろ」 あとで怖くなってカワヤにいけなくなるのもしばしばで花より幸のほうが少し年下なので怖がりだ。 障子には木々や草の影が重なり生き物のように見える。 ある日にようやく嵐が通り過ぎたので滝が流れている場所まで行って食べ物を調達してきた。 茸や佃煮に出来る虫や、蔓状の根芋など。魚も捕ろうとしたが水浸しになってそのまま遊んでしまう。 魚のほうは浪人が持ってくる事があるが、 すぐに奥方や村人の数人を呼んでこさせて話しをし深刻な顔つきをしている。 「溜池まで何か引きずった跡があり吹き出した泡は異臭を放っていたが何かあるのか?」 浪人が村人に問いただしたが魚も棲み着かない臭い水で毎年ああだと答えていた。 村人はいつもの事で気づいてなかったが浪人は決して汚い水だけの臭いではないような臭気に感づいていた。 (あれは明らかに死臭だ、まだ何かある) 浪人はそれだけを確信して犯人の手がかりになるものを捜していた。 奥方はこの屋敷のおばばの様子に何か感づいていた。 ときおり出かけてはどこに行ったか消息がつかめないのだ。誰に聞いても分からない。 今度ばかりはと、あとをつけてみた。 山林の奥で廃墟となった古い山小屋に入ったのを確認したが壁から覗いても何をしているか分からなかった。 物音を立てても気づかれた様子もない。奥方は仕方なくこの場所を後にした。 奥方と幸を残して皆が出払っている時におばばから食べ物の催促が止まない。 「芋はもっと無いのか、もっとおくれ」 いつもは幸が運んでいるが出かけるため、奥方が代わりに食べ物を持ってきた時に豹変した。 「お前を食いたい」
そう言い放って老人とは思えない動きで襲い掛かって噛まれた瞬間に気絶した。 最後に見えたのは片腕が無いおばばとそれを見ていた幸の姿だった。 浪人はあの小屋で襲われ出くわした身軽な白髪魔を斬った時にその腕が切り落とされたのだった。 花が帰ってきた時には奥方の姿は無く、翌朝になっても浪人は帰ってこなかった。 蒸し暑いその日、溜池に浮かび上がったのは犠牲者だった。 その中には半分かじりつかれた姿の奥方の骸もあった。 浪人は村人達によって落武者の犯人にされ騙まし討ちに遭い滝つぼへ捨てられた。 花は幸から事実を知らされ泣きじゃくるばかりだった。 気だるく生暖かい風と共に黒雲がまたやってきて溜池の骸も沈み村に影を落とす。 幸は花を逃がしたかったが「もう遅いのよ・・・」そういったあとに涎を滴らせ物凄い形相で迫り来る鬼婆の姿があった。 「ひぃ」 叫び声も弱弱しく消えていき骨にかじりつくような音が響く。 この屋敷の地主も死後は妻によって骸を食われていたのが発端である。 そして集落は農作物が育ちにくい天候が長く続くので蓄えが無いと飢えが激しい。滅多に人は住み着かない。 村人も戸締りはしておき夜は外出しない。 屋敷には禍々しい形相の肉つき面が飾られていたが、いまや水没して屋敷は跡形も無い。 またこの地域には男を色仕掛けで誘いをかけ、たぶらかしては銭を稼いでいた童子がいたという。 稼いだ銭を元に鬼婆のための食料を買っていたのだろうか。飢えが激しくなれば里から出てしまう。 守人としての役目があったのかもしれない。 田兵の消息をたどると各地方に似たような伝説が点在する。 水没した場所と離れている山林には道祖神が祭られている。 銭の入った小壺がいくつも埋まっていたそれを元に数年後作られた。 道に迷わないようにするためか、それとも賽の河原を歩ませるためかは分からない。 |
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| その後、鬼婆がどうなったのか童子はどこに消えたのか消息を記す物は残っていない。 | 終 |
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| 食欲の秋 |
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■あとがき■
なんやらゾンビ物ちゃうやんけ、地方の怪談物になってますな。 「鬼婆」は楳図かずお著の漫画でもあるように 面をつけて食べ物を荒らしているといつしか外れなくなってしまい本物になって襲ってくる話があります。 話が類似してしまわないように後説で面を出してなんだったのかを想像に任せるようにしてます。 映画は「鬼婆」(1964)というのがDVDになってるのでどぞ。ちなみに映画は見たこと無いです。 さらに映画の「蛇娘と白髪魔」(1968)は見たことありますがイマイチです。 食屍鬼=死者が起き上がって人を食べる1つの形態は置いといてます。この話で死者が這い出してきて襲ってくるのにするのは無理(汗) 生真面目に書いたのでベースにはなる、ここから脚色して付け加えるのは簡単。 信州を舞台にした姥捨て山の物語である映画「楢山節考」も考えにチラついてましたけど二番煎じは軽く却下。 姥捨て=鬼婆に繋げるような想像できる範囲がいくつかあると楽しみが半減しますしね。 濃い話の小説を読むのは慣れた人には苦痛ですし映画なら映像描写してなんぽのお手軽さです。 食人村やらしてもオモロないし。食屍鬼=鬼婆という基本系になるのを手軽にセットして置いただけ。 妖怪なのか幽霊なのか死霊なのかのセッティングはしませんでしたからそこは想像と映像次第ですね。 勝手に狂人になってるキャラもいますが物語の枠を分散して広げるためのミソです。 津守田兵と童子は軽く存在させて、そして奥方と番頭に丁稚奉公人の花。屋敷の幸と鬼婆の2枠をメイン。 3枠同時に進行させると話の筋がそれ過ぎてしまうのでカット割りすぎにならないようにしたまで。 1951年の東宝映画で「めし」というのがあります。めし食いながらうまそーと見れる作品ちゃうなと思った。 いわゆるグルメ番組なスタイルから逆行して飢えをテーマにめしと繋げました。 センスだけでハングリー精神が無くCMボコスカしてる選手を応援するとナゼか自分の運気が下がります。 これも関係されていて他人より自分の事を前提に考えなくては破滅するという事にうまく繋がってます。 前々から思っていた事ですが、書くときにはまったく無意識で完成。お後がよろしいようで。 |