食料の無い島
Hungry The last soldier


ガダルカナル島、ここには廃棄された大日本帝国軍の跡地がある
大量の砲台や防壁、化学実験施設や防空壕。
雑草が生い茂り無機質の存在であるかのように遺物は錆びついて観光地にもならない。
夏になると、どこからともなく憲兵隊が現れて消えていくという話がある。
1942年に日本軍が上陸し激戦を繰り広げ僅か1年で撤退した理由が他にあった。
発見された資料を基にできるだけ再現したつもりである。
(プロローグ書いておくと書くのに楽ね)

料の無い(仮)
絶倫:1943
最後の炊飯のための用意をするため水溜りから水を調達していた時である。
敵兵の広範囲の散策により場所を嗅ぎつけられていた。
隊はバラバラに散り、僅か数人だけが見えない敵に追い詰められていた。
「おのれ!鬼畜米兵め!」
業を煮やし興奮した男が飛び出た。
「待て、行くな行くんじゃない、鮫島ぁー!」
新田の前で同僚が大量の射撃により撃たれ絶命。
「兵頭先に行けっ」
連隊長の新田は兵頭を先に逃がし自分も逃げたが敵兵の銃弾が足をかすめた。
敵を出来る限り味方のいる要害に引き付けて逆に殲滅できればと思った。
他の3人は新田と兵頭達とは別の方へ逃げていったのかそれとも撃たれたのか後を着いてきている様子は無い。
後方で爆撃による大きな爆発が起きたが敵か味方かも分からない。兵頭と新田はそれにかまわず走り続けた。

僅かな小山を登り下りL字型の道の先にはブロックで覆われた入り口があった。
島の周りからも上空からも見つかることが無い自然の要害にトンネルを掘った所。
以前に来たことがあるが味方がいる様子は無い。
防空施設が発見された場合に備えて、各ポイントに点在させてある。
見たところ入口が爆破されてないのでこの場所は発見されてない。
真夏だというのに中はひんやりしている。

「まいったなあれが最後の食料だというのに」
新田は汗をぬぐい途方に暮れた様子。
貯蔵庫に木箱を重ねてあり何か入っているようだ。
「缶詰がありますよ隊長」
兵頭は缶詰を手に取ったが1つしか無い。
「兵頭、お前が食え俺は腹は減ってないから大丈夫だ」
自分より若い兵頭に後を託したい気持ちから新田はそう言って拒んだ。
この島では負傷したら簡単に傷が治るような風土ではない。
腐敗した死体があちこちに散乱して虫が食い病原菌を広げているのだ。
スコールも多いが真新しい雨水でないと蚊のせいですぐ赤痢をしてしまうようになる。

丁度雨が降り出して来てしばらくすると大雨になり1人の隊員が戻ってきた。
「はぁはぁ」
濃いヒゲが逞しい男で全身が雨で濡れている。
新田の同僚で本来なら隊長をしてもおかしくない男だ。
「渡嘉敷、無事だったか」
新田はそう言って立ち上がろうとしたが足を負傷しているため立ち上がれず壁にもたれた。

「ここにいたのか、大雨が降ってくれた御蔭でなんとか逃げられた」
新田が他の者はどうしたか聞くと「分からん」と一言だけ言ってうなだれて首を振った。
「いつ終わるんだこの戦争は」

既に半年以上もこの島で戦っている。
軍服も汚れが中々取れず汚くなる一方だし傍受されるのを恐れて無線も無い。
以前に一隊が無線を使い傍受されたため本隊が壊滅的な打撃を受けた。
艦隊司令部から無線機を使わないようにするため壊すよう連絡があり、それ以来使えないという経緯がある。


たった2晩を明かしただけで3人は食料を探すためだけの労力で体力も衰え生気なく痩せこけていった。
蛇や蛙を捕らえては焼いて食ったが胃袋を満たすだけの量にならないばかりか生臭くて吐きそうになる。

ある日、腰に銃弾を受けた傷で神経をやられ身動きできないでいる隊員を見つけた。
「本宮はじゃないか、おいっしっかりしろ!」
生きているのを確認したが、汗だくで息も絶え絶えに虚ろな目で「隊長・・・」と何度も呟いた。
すぐに防空施設に運び入れ手当てをした。
「やつは助かるのか?」
渡嘉敷が目を細め渋い顔で答えを求めると傷を塞ぎ終わった新田は
「弾は貫通しているがこのままだと動けないだろう」と答えた。

そして翌日になり新田は本宮を気遣っていた。
「隊長・・・首から下の感覚が無いです・・・」
そう言う本宮に対して新田は傷を見るため掛け物をそっとめくると横っ腹はウジが沸いていた。
本宮は自分におきている光景に絶望したように表情を引きつらせ上を仰ぎ声にならない。
新田がやるかたない気持ちのまま外へ出て本宮のために出来る限りの事をしてやるため水と食料を探しに行った。

そして新田が戻ってきた時、本宮についている兵頭がいた。
「貴様!何をしているんだっ気でも狂っているのか!」
兵頭は息絶えた本宮の肉を剥がし食っていた。近くには撃たれた渡嘉敷の死体が転がっている。
その瞬間、防空施設の入り口が崩れ落ち中は闇だけになった。
島では人間が人間を襲い食う食肉の連鎖を繰り返し、生存を賭けた戦いが繰り広げられていた。
くしくもこの日、撤退命令が下された。

軍部が密かに研究させ遺伝子操作した食料は究極の生存率を誇る人間兵器にするための物だった。
行方不明者も続出し島に駐留していると危険なため半壊した本隊と合流した隊の生存者だけが撤退できた。
3分の1は撤退できたが、死者・行方不明者はゆうに2万人を超えたという。

本国では島での戦闘が思わしくないとして追加派兵を行ったため新田達を含めた連隊がこの島に来たのだ。
いくつかの種類のサンプルが食べられ多くの兵士の犠牲によって究極の兵士が後に爆発的に増えた。
帰還した兵達はその事実を認識してはいなかった。戦いと飢えで狂っただけと見ている。

米兵の度重なる爆撃と掃討作戦によってそれは潰えた。
そしてこの秘密を知っている軍部の関係者の殆どが米軍統治下で裁かれ極刑を言い渡され処刑された。
この問題は米軍の機密文書に加えられた後に痕跡を消した。

今やこの事実を知るものはいない。


37年後、

1980年ソロモン諸島独立2回目の記念日を向かえ式典が行われた。
移住者もいくらか増え、観光リゾート開発が進み
火山や珊瑚礁を見に訪れる客や戦争の歴史跡地を調べに来る専門家達もいる。
クライヴ教授は案内役の女性を連れて方々を見学していた。
出版社のウィンストンもここを訪れクライヴ教授と会い色々な話を聞くことができた。
夜になり一室で執筆が終わるとスコッチを飲んで椅子に腰掛け寝てしまった。

心地よい朝を迎えたとはいえない。雨上がりのせいか頭も重い。
薄着が基本だが虫に刺されたくない人は厚手のものを着ている。
ウインストンは最初から薄着、
「教授、よく眠れましたか?」
クライヴ教授は昨日スーツを着ていたが今日はシャツ一枚の薄着だ。
「朝から元気だな君は」
コテージもあるのだが夜になると1人では怖いのか客には不評であまり稼働率は無い。
朝から夕刻までTV取材なども頻繁にきている。フロントでそういう光景に遭遇した。
銃撃戦が激しかったのか薬莢などが探せば落ちているのを発見できる。
今では鳥などが持ち去ったりもするが、
戦時中には敵に嗅ぎつけられないように使ったらすぐ拾い埋めるか海に捨てるのが通例だった。
「私はこれから中心部に行こうと思いますがご一緒にいかがですか?」
ウインストンにそう誘われたが教授のほうは
「いや、私は資料館で少し調べ物をしたいので遠慮するよ」

ウインストンは案内役を連れて火口から少し遠い所であたりを見学していた。
うっそうとした茂みには墓地を通りすぎた先には地盤は固く、溶岩のような岩肌があちこちにある。
ウインストンが立ち去った後、しばらくしてスコールが降り出しTVクルー達も雨の災難に見舞われていた。
霧が深くあたりも見えない。進み続けると一面に灰が積もった後のような地面が広がっていた。

「ジム?」
どうやら道に迷ったらしい方向を示す磁石も定まらず狂っている。
「迷ったらしい、霧が晴れるまでここで休もう」
クルーはジム・キャスリーン・サントス。
キャスリーンは雨宿りになる岩陰でシャツを脱ぎ水をしぼり体を拭いた。

「た、助けて夫が」
その時、助けを求める女性が来た。穴に落ちて足をくじいて身動きできないらしい。
一行はその落ちた所にくるが空洞になっているのか返事が無い。
火口の軽い地鳴りが起きて全員の足場が陥没し落ちてしまう。

「厄日だな、どこだここは?」
サントスは戦時中に掘られた防空壕だろうという見解を示した。
たちどころに溶岩が流れ込んだために出来た柱の筋がある。
上からは光も差し込んでいるが手が届く高さではない。
「酷いな、まるでボンベイの光景のようだ」
溶岩に飲まれたものや灰に潰され
絶叫したままミイラ化した遺体の残骸があり不気味な彫刻のような世界になっている。
助けを求めた女性が1人銃剣で刺され苦悶の表情を浮かべ血を吐き闇に引きずられていった。
女性が見当たらないのに気づいたクルー達は奥へと行く。

道がいくつも枝分かれしておりどこへ続いているかさえ見当がつかない。
殆どが落盤や溶岩のせいで塞がれている。
1つ閉ざされた扉がある。出口らしきものが見当たらないのでこじ開ける事にした。
そこだけは外と違い風化もあまりしてない一室だった。
ミイラ化した遺体が3つほど見つかった。
当時に書かれたような資料などもあるが風化して読めない。
サントスが大量に置かれている缶詰や酒瓶を見つけキャスリーンと2人で分ける。
ジムがそれに気づかず糸口になるものを探している。
酒を飲んだキャスリーンは皮膚が焼け爛れて溶けて絶命する。
それを見たサントスは口にしようとした酒瓶を落として唖然としジムはそれに気づく。
2人はここから脱出も出来ず閉じ込められたまま助けを待った。

一方、クライヴ教授は人手を集め当時の施設があると思わしき場所の発掘をし始めた。
発掘が進み空洞のトンネルが広がった。
そして日も暮れたため後日に調査を再開する事にし戻った。
日に日に獣にでも襲われたような事件が多発する。
調査を終えた教授はイギリスに帰国するためウインストンに別れを告げて島を後にした。
教授のケースの中にはあの缶詰もあった。

死人が出歩く噂が後を絶たない。島全体に腐敗臭が漂う。
訪れすぐに帰国した客の話でSPが派遣され一時出入りを閉ざされる。
一室で執筆していたウインストンは突然何者かに襲われるが拳銃があったため運良く助かる。
自分を襲ってきた者の遺体を見て愕然とする。
それは食われて半壊した姿の生きている屍だった。

その頃、宿泊施設は死人の群れに襲われパニックになっていた。
一度死人から受けた傷を負えば次第に肉がただれ溶けていく。
スコールが降り続け泥で足元も滑りやすい。
溶岩や灰が積もった場所のミイラさえも生き返り人々を追い詰める。
ウインストンは生き残りの数人と合流していたが死人の群れが迫っていた。

その時死人の群れが吹き飛んだ。
体中にダイナマイトをくくり付け死人の群れを吹き飛ばしている兵士がいる。
それは歳も衰えた姿の新田だった。
スコールのせいで湿った導火線に火がつかず新田は足首を掴まれて負傷する。
ウインストンは即座に新田を襲っている死人の頭を叩き割る。
死者の群れは予想以上に多く足首をやられた新田に迫っていた。

新田には化け物と人の区別がついていた。
閉ざされた防空施設に落ちた犠牲者の2人を襲ったあの時から。
ウインストンはそれを見て援護するが弾も切れ成す術も無い状況になった。
新田の持つ松明の火も泥水で濡れて使えない。
ウインストンを突き放しダイナマイトを硬く握り締めそれに拳銃を当てる。
新田はウインストンを一目し、逃げるなら今のうちとばかりに2人の間に一瞬空気が静まり返る。
ウインストンは泥水に足をとられながらも一目散に走った。

新田は迫り来る屍をできるだけ引き付け大日本帝国万歳と大声で言い放った瞬間自爆した。

私は無我夢中でイカダを作り島を脱出し精根尽き果てた。
医師によると海を漂い一隻の漁船に救出されたらしい。
その後、ロンドンに帰国しいくつかの本を出版した。
30日後、火山の噴火によってガダルカナル島では生きて立っている者は1人もいなくなった。
史料館でクライヴ教授を訪ねたが、ここ3日は来てないというので郊外にある教授の自宅に来た。
ドアはカギが開いているので中に入り、

そして一発の銃声が鳴り響いた。

Fin

贅沢は敵だ!

■あとがき■

貴様、歯を食いしばれ つづくぞ(汗)
過酷を極めたガダルカナル島での戦争が一番知られています。
日本人で知らない人はいないでしょう。知らない人は小学校からやり直すつもりで調べて歴史を把握してみてください。
戦争を舞台にした映画というと大抵は本来の事実に沿った過酷さがまるでないものばかりです。
残酷に次ぐ残酷で戦い続け、生き延びるかの戦争映像再現だけではいずれにせよ廃れていきますが。
感動も友情もへったくれもないですから映画は同情や共感では計れない矛盾点が色々出ます。
戦争をテーマにした映画ばかりが=名作扱いになりやすいという認識風潮も自慢げに話されるだけの道具になってます。
戦争テーマの映画は所詮偽物ですが本物志向を求める人ほど仮想すぎる話は見たがらないものです。
残虐な過酷さばかりでは映画は全て成立しないので悲惨な出来事があった舞台に頼ってます。

新田という兵士・生き抜くことに長けていてかなりの高齢になり、何を食べていたかについては触れてません。
ゾンビ化してないので缶詰を食ってない。
最初にゾンビ化した兵頭は倒せなかったので食料も貯蔵してある一室の扉を封鎖したといえます。
防空壕に落ちた外人夫婦を食ったんでしょうか?と尋ねられても分かりません。
なんの意図も無いのでそういう設定は必要なく置いて済ませてます。
2人目の犠牲者が女性なのでここで新田はある事に気づいたでしょう
この人物をラストにどう扱うかでかなり違ってきます。あまり思い浮かばず出来が良くないです。
ウインストンが逃げるとして何者かに襲われて最後に見たのは新田の姿という方向にも出来るでしょう。
殺した犯人はお前だったのかというパターンはよくあるので止めにしました。
外人を見たら構わず殺しまくるのは判断力のある新田の性格からは考えられませんので無理です。
閉じ込められたジムとサントスはどうなったか?
教授の手により出口が開かれたので出て行ったと思います。ただしゾンビになってでしょうが。
サントスが缶詰を一口は食べただろうから流れではジムは襲われて死んだというのが筋ですね。
キャスリーンが飲んだ酒瓶は缶詰に入った食べ物に含まれた成分の原液です。バタリアン汁ですね(笑)
島でのラストすぎのエピローグはウインストンがゾンビ化したクライヴ教授を始末してます。
缶詰の成分を研究していたがそれを食べたネズミから蚊のような虫を媒体にして教授は感染したものとしてます。
ここらは今までの経過から判断して想像で片付くので問題ないです。
閉じ込められてもダイナマイトは穴の中で使っても出れません。
長年経過してやっと出れたようにも思えますが、夫婦が落ちた穴があります。そこから出入りしてたかもしれません。
うまいこと繋がってますが意図的にそこまで繋がりを考えませんよ(汗)
新田にとってまだそこは戦場という事を念頭に据え置いた物語。