和製怪奇ホラー
     総天然色

怪奇映画の代表作品は多い
映画全盛期である青春やアクションものが過ぎ目の肥えた新世代の観客が刺激を求め怪談物が廃れ家族向けに怪獣物が返り咲く70年代頃。
変身人間シリーズや「マタンゴ」や「吸血鬼ゴケミドロ」血を吸うシリーズ、などはその中心。

常に客は刺激を求め
くどい描写の怪談物は60−70年代までは各社刺激を与えていたがリメイクの繰り返しで次第に飽きられる。
怪獣映画も同じ時期にあったがそれだけでは物足りない。
路線は人間臭さを持ち合わせた怪奇映画に一部スポットが向けられ大人と若者に的が絞られた作品といえる。
後にアクションスター達も映画から離れ歌謡界に映画からTVドラマへと流れが動きつつあった。
どの映画会社も大胆な発想で刺激の強い色があった。


「マタンゴ」 東宝
原作は外人でも映画の登場人物は日本人。映画として劇中の物語は勿論アレンジが加わっている。
漂流しどこの島かも分からぬままサバイバルを強いられ、不満が募り人間関係が崩壊し互いに利己主義で本能のエゴを剥き出す。
それだけでなく怪物にも襲われ生存の危機に瀕する事態になる。切迫し混乱する中1人辛くも脱出し奇跡的に助かったかに見えたが
時既に遅くキノコの菌糸にやられ東京の病院の一角に閉じ込められる。
理性を常に保っていたはずの主人公は島で暮らしたほうが幸せだったと想いを語る。

少なくとも上流階級に近い裕福な人間達の俗世間に対する欲望をチープに描写しつつ、ハングリーと恐怖のどん底に叩き落す。
草の根を嗅ぎわけイモを掘り、海草やカメの卵まで毎日の食料としてはとても耐え切れない。
貯蔵していた缶詰も全てなくなり飲水も残り少なくなる。
もう皆を信用できず自分だけ助かろうとして船を直して海に出た男は海を彷徨ったあげく死ぬ。
他の者達は欲のために崩壊する。そしてとうとうキノコに手を出したその末路は人間そのものを失う事になるとは・・・。

生き抜いていかなければならないそこに大量の食料となる悪魔の種子が巧妙にもあり虜にされる。
これで助かったといえるかは疑問であり不問。
何度も見やすく飽きないのは汗も出るような役者の顔と緊迫感を感じえるはっきりした演技にもある。
日本映画で孤島を舞台にした映画は戦争映画くらいで怪奇映画でこの設定は珍しい。



本多猪四郎 と円谷英二のコンビでゴジラを代表する怪獣映画や地球防衛軍を代表するような近未来映画など数多く出された。
怪奇特撮ジャンルには期待してもリメイクには期待したくない。良い新作ができる開拓と独創性が失われるからだ。
今やホラーブーム再来だが役者も若々しく1パターンになってる。
そこで怪奇映画といってもサスペンスや普通の怪談のようでもしっくりこない。マタンゴに代わる作品はもう出ないだろう。
製作の田中友幸は後に血を吸うシリーズで監督の山本迪夫と組んでいる。 ※注目すべき脇役は土屋嘉男。天本英世(マタンゴ)


「吸血鬼ゴケミドロ」 松竹
ボディスナッチャー地球侵略が基本テーマ。人間関係に重点があり結末もインパクトのあるものになっている。
真っ赤な空の中、ハイジャックされたジェット機が飛行体とのニアミスで墜落し
要人暗殺をした犯罪者が水銀のような地球外生命体に乗っ取られ生存者達を吸い尽くす。
水も食料も無くエゴを剥き出した人間は獣になり人類は死滅する。

色々な身分、地位のある人間達が1人また1人と犠牲になり人間が風解と化し跡形もなくなる。
地球に来襲した円盤のイメージがラストに影を落とす。
遅すぎた、何もかも遅すぎた。

人間同士で戦争をしている場合じゃないという警鐘を込めている。
赤く光る円盤が来襲し地球が乾燥してしまうのも衝撃を覚える。
BGMと理論的に解釈する所がポイント。人間ドラマ以外は至ってシンプル。
松竹で恐怖怪奇映画の配給は珍しい。また配役も普段顔合わせが無いような組み合わせで場面の1つ1つが濃い。



SFを取り入れた怪奇作品だけにゴケミドロを凌ぐ作品は考えられない。
他の怪奇物は吸血髑髏船など。
脚本は高久進で超人機メタルダー(1987)や北斗の拳(1986)も手がけた。
監督は東映の佐藤肇で東映作品の海底大戦争(1966)の後に松竹で映像化に至った。 ※注目すべき脇役は金子信雄。

和製怪奇映画と言っても数えるくらいしかない狭いジャンル
怪談映画を含めてもあまり多いほうではない。

怪談映画のほうはお決まりの場面でどう怖く見せるかくらいで、
何度リメイクされようが俳優が変ろうが感じるものは同じで感想もさほど大差ない。
怪談映画のリメイクも新作もさっぱり無くなった。
時代劇に喜劇にお色気に怪獣と小説原作など他に需要はいくらでもあった。

映画が低迷し娯楽がTVに移り変わっていた70−80年代ともなるとTVの特撮ヒーローに怪奇さが盛り込まれ子供を震え上がらせる材料になった。
漫画は怪奇ものだらけであったが映像化するにはキリがないためアニメ化に最たるものであった。
レンタル店が増えた頃ともなると多くの映画作品を生で見た世代が「マタンゴ」と「吸血鬼ゴケミドロ」を扱ってたりして客に注目され始める。
この2作品しか目に映る機会が無いばかりか、ホラーやモンスターものの大百科を見ても和製怪奇映画のものは10本くらい。
80年代以降はホラーもSFも海外から入ってきて雑多になり日本映画はミステリーに移り変わってきていた。
気を引く内容を求めるためアイドル歌手にまで映画の枠は広がった。小説原作で映画化ともなれば角川書店が有利で業界で一躍抜きん出た存在になった。
ミステリーには怪奇ホラーでもなんでもトッピングできる素材ではあった。90年代になると日本映画の時代は過ぎてしまった感じがした。
洋画も良い作品はそれほど無いと覚えるくらい今ひとつ盛り上がりに欠けていたか不満があったと思う。
この頃はTVの洋画放送がメインで新作映画は耳にも入ってこない。ホラーにコメディをトッピングしたものやゴミと感じていたホラーばかりだった。
ここから10年間はTVで洋画の再放送が繰り返されるばかり。そしてDVDが定番となってからの現在は”怪奇”が最注目されている。
ブームが何度やってこようが邦画の怪奇作品で新作が配給されなければラインナップもこれ以上は増えない。
「マタンゴ」と「吸血鬼ゴケミドロ」は海外で高評価を受けている。
映像特殊効果の注意点

現代におけるジャパニーズホラー映画はフィルム映像が綺麗というか手を加えてないので手抜きか安っぽい感じを受けてしまう。
折角DVD化しても買う気にはなれないのが正直なところだ。作り手側は注意してほしいものだ。

「Matango」リメイクを考えてみる


宍戸開、佐藤浩市(大学教授・村井研二)
竹中直人(社長・笠井雅文)
宮内洋(ヨットマン艇長・作田直之)
沢田研二、渡部篤郎(新進作家・吉田悦郎)
佐野史郎、岩城滉一(漁師の息子ヨットマン・小山仙造)
秋吉久美子(歌手・関口麻美)
古手川祐子(教え子大学生・相馬明子)

佐原健二、土屋嘉男コンビでリメイクもまだイケる考えはある。久保明はそのまま教授ならば脚色して主役も変更する必要がある。

教授・村井と教え子・相馬は逆の設定も良いし同僚でもよいはず。
作品の設定は4000万円のヨットだが今はその設定では食料積んで7人も乗れないので現在の様式にすると大型クルーザーの部類と仮定。
マグロやカニ漁船などの大きい船に救助されて主要メンバーが合流してから島へ漂着するパターンもありえる。
島からの脱出は緊急用の手漕ぎボートかイカダでよりサバイバル性を出す。

主人公はこの作品をそのままイメージするなら宍戸開
他は存在感のある人物になりえる佐藤浩市しかない。ラストにドーンと見せるのにも負けない。
この2人の人物はどちらも捨てがたいのでキャラを追加してもよいと思う。

この作品の土屋嘉男が演じる笠井の表情を出せるのは竹中直人をおいて他に居ない。顔だけでなく演技もよく似ている。
体力仕事が嫌でとうとうキノコに手を伸ばしてしまった役にはうってつけの味になる。

ヨットマン・作田にはハンサムなルックスが必要。宮内洋になら寡黙なキャラでも存在は潰れずにイケる。

漁師の息子・小山はサバイバルを助言するリーダー格。
ここはうんちくタレても問題ない存在のキャラになれる佐野史郎にやってもらいたいと思うが最後の病院の医者達の1人でもよい味になる。
その場合は肩をめくり上げたシャツ一枚でサバイバルの指揮を執るなら岩城滉一しかない。
こういう役に意欲を示さず却下だろうがキノコにならない1人なので後はキャラの性格づけ次第だろう。

作家・吉田は沢田研二にこの美味しい役をしてもらいたい。あるいは渡部篤郎でも対極に位置する現実味が出る。
最初に神経をやられると分かっても反応を示さず麻薬代用も含めてキノコを食っていたとしか思えない節がある。危険な匂いを放つ事になる人物。
難破船から笠井が見つけて直したカービン銃を颯爽と構えてスリリングにしてほしい。
手榴弾片手にダイナマイトをハチマキにくくり付けてもよいだろうしキノコの中で魔界転生のように妖しい笑みを浮かべるのに違和感は無い。

歌手・麻美は人を食った人物になりえないと強引なだけになるのでこういう役に熟知した秋吉久美子に演じて頂いたほうが自然な絵になる。
逆に清楚で虫も殺さない性格にするのも可能。

教え子・相馬明子は薄幸の女性。デリケートな性格で選択は難しい。
名の売れた素人演技は必要ないので老若男女が見ても印象にクセのない古手川祐子でビシッと決めてもらいたい。
ちなみに現代版なら当然キスシーンは邪魔になるので不要。男性が迫る構図とは逆に女性が迫る構図も使える新しさを加えている。
こちらが大学教授の先輩とする事が自然な感じだろう。村井は年上から少し狙われている助手という構図だと面白いかもしれない。

役に不満を持たず汗だくロケをする意欲が無いとまったくダメなわけだが。即興的な空想の範囲内。
孤島で実際にどうこうする必要は無いので元々大掛かりになる部分が違う。
セットに視覚効果や特殊効果など造型の加減。近年の日本のホラー映画の手法の内と外にこの作品はある。
Vシネでは相手にされないしリメイクでは尚更話にならないのであまりに安くてヒットを狙う考えは禁物になる。
ハナからこの人怪しいと見られては予想される爆弾を抱えた役者になってしまうのでそれは却下の方向性。
名の売れた新人や知名度も無い俳優は却下した設定で考えた。
当然ながら映画会社がOKしなければ話にもならないがそれは二の次である。
たとえリメイクされても気に入らない疑問点や不信感が出るような納得いかない配役メンバーなら見る気が萎える。
まぁどうせ可能性は”マタンゴ製作委員会”とかいって前々からやってみたかったとかいうのがリメイクを担当するのだろう。
そういうのに限って1度見たら飽きたという作品にならない事を祈る。
とりあえず映画のリメイクはそう簡単では無いからひとまずサバイバルアクションRPGのゲームにならんかな?戦略がなくては始まらない。
単なる草案であり個人的に現実化する能力は無いので念のため。
それに特撮は怪奇ホラーなら新天地が開けているので気づいてほしい。


「マタンゴ」 東宝
Matango (1963)


World title
Attack of the Mushroom People
Curse of the Mushroom People
Fungus of Terror
Matango the Fungus of Terror
Matango: Fungus of Terror


Directed by
Ishiro Honda

Writing credits
Masami Fukushima adaptation
William Hope Hodgson story The Voice in the Night
Shinichiro Hoshi adaptation
Takeshi Kimura screenplay
Sakyo Komatsu uncredited


Main Cast
Akira Kubo .... Kenji Murai
Kumi Mizuno .... Mami Sekiguchi
Hiroshi Koizumi .... Naoyuki Sakeda
Yoshio Tsuchiya .... Fumio Kasai
Kenji Sahara .... Senzo Koyama
Hiroshi Tachikawa .... Etsuro Yoshida
Miki Yashiro .... Akiko Soma
Eisei Amamoto .... Skulking Transitional Matango


Cast
Jiro Kumagai .... Medical Center Doctor
Akio Kusama .... Medical Center Doctor
Yutaka Oka .... Medical Center Doctor
Kazuo Higata .... Medical Center Doctor
Keisuke Yamada .... Mushroom Monster
Tokio Okawa .... Mushroom Monster
Mitsuko Hayashi .... Dancer
Kakue Ishibanji .... Dancer
Haruo Nakajima .... Matango
Katsumi Tezuka .... Matango
Masashi Shinohara .... Matango
Koji Urugi .... Matango
Toku Ihara .... Matango
「吸血鬼ゴケミドロ」 松竹
Kyuketsuki Gokemidoro (1968)


World title
Body Snatcher from Hell
Goke the Vampire
Goke, Body Snatcher from Hell
Vampire Gokemidoro


Directed by
Hajime Sato

Writing credits
Kyuzo Kobayashi
Susumu Takahisa


Main Cast
Teruo Yoshida .... Sugisaka, the co-pilot
Tomomi Sato .... Kuzumi, the stewardess
Eizo Kitamura .... Mano, the senator
Hideo Ko .... The Hijacker
Kathy Horan .... Mrs. Neal
Yuko Kusunoki .... Noriko Tokiyasu
Kazuo Kato .... Dr. Momotake, the psychiatrist


Cast
Hiroyuki Nishimoto .... The Pilot
Andrew Hughes .... Assassinated Ambassador
Masaya Takahashi .... Sagai, the scientist


■マタンゴをもうちょい語る

キノコの楽園
クラゲ型カサ1本のお化けタイプやナメコがニョキニョキ生えているタイプ等もいる。
船からよく見かける人間タイプはボロボロの服を着て顔はコブだらけで原形を留めていない。
肌はカビに覆われて崩れやすく銃で撃っても部分的にバラケたり貫通するだけで効力は無い。
これから判断しても見たものにゾンビと呼ばれるだけの理解は出来る。
イタリア公開での広告ではそういう点が強調されている。
日本では特撮怪人物としての認識があるが向こうでは特殊なゾンビ物に該当した認識のほうが色濃い。
キノコだけでも多種多様でキノコの楽園だという事が分かる。
口に入れられるサイズから人の高さまであるものの山でジャングルとなっている。
さすがにこの造型の密度は専門スタジオのスタッフが無くてはマネできない。
また雨季になるともっこりとニョキニョキ成長するキノコ達は再現が凄い。
リメイクを望んでもシロウトがどう考えてもできない。

レトロ感とサバイバルの意地汚さ−資源
水爆か核実験調査のボロボロの難破船。
カビだけでもドギツイ色の黄・赤・青・緑など。
黄色いカビは一面に使われていてカレー粉のよう。
衣服は汗まみれ泥まみれ。
食料を求めるサバイバルになる前に飲食がキーポイントになっている。
4千万円もかけた船の中でビールとバヤリースオレンジの250ml缶が色彩を放っている。
今思うとクラシックで思わずゴクッ美味そう・・・。
島に着いてからは食えない果実や難破船の調理室の貯蔵庫でダンボールに詰められた缶詰の山。
缶詰については食い延ばしても一週間しか持たない。
悠長にアルミ食器と陶器の皿で食事のテーブルを囲んでいる。
何を食べているのか分からないが白いスープあたりはキャンベルかもしれない(笑)
食料調達はイモ掘りや海草がメインデッシュ。カメの卵は貴重品して取引材料に扱われている。
勿論、腹を壊されては撮影に支障が出るので本物ではないだろう。

イギリス作家 ウィリアム・ホープ・ホジスン 「ボイス・イン・ザ・ナイト」
船乗りの経験を活かした小説を多数発表する。
原作は北大西洋上の星無き闇夜に船に居るデッキの男に老人が近寄ってくる。
私と彼女のために食料を分けてほしい。ただ決してランプを照らさないでほしいと頼まれる話。
アホウドリ号という船は原作も映画も同じ設定になっている。
また丁度雨季で胞子が飛んでいる設定で食べなくても蝕まれる。
この点についてはDVDのコメンタリーに解説されている。

戦争がもたらした悲劇の連鎖−汚染
キノコのお化け、細胞の変化をもたらす植物。全て核実験の影響で突然変異したもの。
核実験というと科学の発展というより戦争の道具として爆発の破壊力や影響範囲に強く影響される印象がある。
悲劇が意図しない悲劇を呼ぶ。警告的なメッセージ性も深く考えれば感じられる。
B級SFホラーだからこそ味があり見たくなる名作になりえる。
その意味ではB級の枠を超えているしただのB級と片付けられる程度の魅力ではない。
その味わいの回帰は一杯のナメコの味噌汁か豆腐の味噌汁に匹敵する。
具材は白菜でもジャガイモでも同じ事。
洋食ばかりではなく焼き魚と味噌汁と漬物、ごはんの4点セットで腹に染み渡り満足できる懐かしさがある。
フォフォフォフォ・・・

ムードを描き出す上での自然現象効果
カビにも加え嵐に曇り空、霧雨から土砂降りの雨。近寄らない動物達。(でも海カメは着岸していたか)
カビも植物も加えて全て自然の現象を表現する事により場面の効果が現れる。

増殖する種族
人間を襲ってくる捕まえに来る。それが増殖の原理と仲間意識が関係する。


天国と地獄の人生。
映像だけでなく物語のセリフからも判断できるが、それは全て人の人生を物語っている。
SFやホラーの作品として単純に知名度は高いが、奥底にはそうした意味も含まれている点が興味深い。

エスケープ