恥も外聞もない50万記念
街中を歩いていると、「SINCE 19XX」と銘打った看板の店を見かける。二十代の頃は、5年10年で「SINCE」もへったくれも無いだろう、と1980年代以降の年を出すところを、馬鹿にしていたのだが、齢四十を越え、「兵器生活」も10年潰れずに続いている事を思うと、「若気の至り」であったなあ…と「今は反省している」。
カウンタが50万を越えたことばかり気にしていたのだが、「一発屋」と云う言葉を思えば、10年続いている方が、むしろ立派なことではないか、と気がついたのである。それが「知る人ぞ知る名店」か、「客もないのになぜか続いている店」なのかは、本人が書くわけにはいかぬ。
50万、10年、ともに立派な記念ページをこしらえる格好の口実である。しかし、近年自分のセンスが怪しくなってきている−主筆が「面白い!」とこさえたページが世間ではさほどウケているようには見えない−自覚が出てきたので、特設ネタはやめ(『兵器生活』ベストネタ、と云うのを考えようと思うくらいの気持ちはあったが、『おまけ』だけで百もあるので、面倒でやめた)、毎度のパターンで切り抜けることにする。
以前、渋谷のデパートの古書市で、「機械化」の束を大枚叩いて買ったのだが、その一冊、昭和17年11月号(正しくは24号)に掲載された図版を紹介する。「新珍」に入れない理由は以下の通り。
図版の真ン中に線が出ているのが面白くないが、結城彩雨の小説に出てくるような悪行を、敢えて本に与える主筆の心中を察せられたい。
近代科学の粋を集めた
無敵移動トーチカ
移動トーチカ
兵器の進歩こそ、偉大であります。
小銃は機関銃、歩兵砲を出現させ、騎兵の代りに戦車が使われるようになり、又、それを攻撃する対戦車砲や速射砲も出現し、その一方には、飛行機、高射砲化学兵器などのめざましい進歩があるのであります。
”戦争は兵器の母”であるとも云えます。
近代科学の粋をあつめた、フランスのマジノ要塞は、遂にドイツの攻撃に破れたのであります。
私は、もう一度云いましょう。
”偉大なるかな兵器の力”と。
これによって諸君はこの大要塞がすでに過去の遺物になったと云うことを、はっきり知ったことと思います。
では、なにがこの大要塞にこの後かわるべきものがあるかと云いますと、先日新聞に伝えるところによる独ソ前線における”移動トーチカ”なるもののあることを知る必要があると思います。
いかなる構造で、いかなる装置かは、詳細が入手できませんのでわかりませんが、機械化では、いち早く、かくあらねばならないと云う想像のもとに、これを作り上げたのであります。(勿論、かくあらねばならないと云う図より更にいい意味で飛躍して考えた部分もあります)馬力は1000馬力の強力な発動機を要して、すべての操作は皆電気仕掛けとしたもので、戦場では華々しく、普通戦闘以上に戦い、戦線が一応にらみあいなどになりますと、地にもぐってトーチカと化するものであります。
聡明な読者諸氏は、これが「子供の科学」昭和15年1月号掲載の『無敵移動トーチカ』のパクリであることを、すでに見破っているだろう。図版のみならず、説明の文章もかなり「似ている」。
論旨は、本家が要塞の後に続くものとして、これを想像しているのに対し、こちらは新聞に出た『移動トーチカ』なるものの、あるべき姿を「想像」したことになっている。ゆえにたまたま似てしまったのだ、と主張することも出来るし、多分そう弁明したのだろうと、編集部の様子を想像することもできる。
しかし、メインの図も、断面図も、「掘鑿履帯」図もソックリなのは否定しようがない。「対空速射砲」「高射機銃」の砲塔・銃塔のデザインがちょっと違うのは、絵描きの抵抗と見るところだろう。
元の5万馬力が僅か千馬力になってしまったのは、戦時中ゆえ現実味を持たせようとして、墓穴を掘った感がある。
元ネタから3年近くたっているとは云え、後ろめたいところはあるのか、画を描いた人の名がどこにも無い。このページはもちろん、目次にも、である。
剽窃・パクリは良くないことである、と責める以前に、やってる本人は苦しいんだろうなあ、と同情してしまう。さらに自分がそれをやらかさないと誰が保証出来るのか、とさえ思っている。マイナーウェヴサイトの良いところは、そこまで追い詰められる心配をしないで済むところにある。
「兵器生活」から元ネタを取ったら何も残らない、と云う根本的問題は別にしても。
(おまけのおまけ)
これをネタにしようと決めた時、文章は元ネタそのまま使える! と思ったのであるが、打ち直さないと駄目(笑)であった。
全然違う文章を入れても問題は無いと云うのに、わざわざパクリ疑惑を裏付ける文を使っているのは、ネタの流用に関する当事者間の合意が存在していた、と云う解釈も成り立つ。絵描きにしてみれば、同じモノを描かされている不愉快さで、無記名にしたのかもしれない(しかし稿料はもらっているハズ)。
結局、マネもパクリも剽窃も、巷間云われる通り、当人の意識に帰する。外野は所詮、無責任な面白がるしかない。
(おまけのおまけのおまけ)
同じ「機械化」昭和17年11月号には、こんな図版も掲載されている。
未来の新案兵器
未来軍艦
この絵は未来の軍艦を想像してかいたものです。
即ち、将来の軍艦こそ−艦形から、砲塔。艦板(ママ)などに至るまですべて流線型になって、実に大砲や魚雷、爆弾などの直撃弾をさけるように工夫してみたのであります。
そして、敵の攻撃に対して防備を更に更に厳重にするために、艦の重量はふえてくるのですが、これによる艦の速力が鈍ってはなりませんから、更に強力なヂーゼルエンジンを使って、その速力の対策にも考えたのであります。
今まさに我々は、太平洋上に於て、印度洋に於て、将又、盟邦は大西洋や海峡地帯において、現に戦いつつあります時、これからの空軍との協力作戦に呼応して軍艦の役割は、益々重大と云わねばならないと思います。
”未来軍艦”の着想も決して、この場合、無意味ではないと信じるのであります。(前谷惟光画)
これも「学生の科学」昭和15年10月号に掲載された図版に「インスパイア」されたことが見てわかる。
艦形は当然として、艦橋横の「艦の上層部は直撃弾を防ぐため流線型になっている」説明に、「波除甲板」、艦尾の排気管と、実に「良く似ている」。
「移動トーチカ」と異なり、軍艦のカタチは同じでも、画の構図が違っているので、堂々「前谷惟光」(戦後の『ロボット三等兵』で知られる)の名が記載されている。もしかすると、元ネタ自体も当人が考案したのかもしれない。