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樹々が緑で覆っているキャンパスに眞菜美が辿り着いたのはもう太陽が高々と上がった
昼過ぎだった。左腕を裏返し、見た腕時計の掲示板の針もそのことを証明するように全て
の 針が右サイドにある数字を指していた。眞菜美は気落ちしたように、重そうな足取りで講
堂へ向かった。
眞菜美が教室の後ろのドアから入ろうとする頃、講義はもう終わろうとしていた。眞菜
美はそれを察知したかのように、ドアに伸びかけた手は留まり、足も反対方向へと進みだ
した。
樹々の緑がきらめいて、そよ風にざわめき立つように枝を揺らしている。その樹々の陰が
白い学舎を曇らせる、不規則な形を形成して立ち並んでいる学舎群の中、南に位置する建
物の一階部分からほのかな匂いと人々のざわめきが辺りに広がっている。
ざわめきと匂いを抑えている壁と窓の向こう側には、疎らになりつつも人でごった返す
学食の広い空間があった。その中に並んでいるたくさんのテーブルとイス、窓側に陰った
光の入る位置で眞菜美は遅い昼食をとっていた。
黙々と箸で物をとり、自分の口に放り込む。茶碗と箸を置いて、湯呑みに手を伸ばす。
だが、その湯呑みの中にはお茶は入っていなかった。
眞菜美の動きが一瞬止まる。どうしようかと考える時間。しかし、そう考え出して間も
なく、眞菜美の眼前の上の方からやかんが現れ、その先から流れる薄い黄緑色の液体が見
えた。そして、その液体は湯呑みに吸い込まれるように、注がれていった。
「あ、ありがと」
恐縮したように、湯呑みを手元に引き寄せた眞菜美は首をすくめるように礼を言うと、
湯呑みの中のお茶を口に注いだ。
「ふぅ」
お茶を飲み、安心したように眞菜美は一息つくと、また眼前が陰になっているのに気付
いた。その陰を見上げるように視線を上に向けると、改めて気がついたように、いった。
「あ、おはよっ。反町くん」
「珍しいじゃん。眞菜美が遅刻なんてさ」
気付いてもらえた反町はそう言って、対面の席を引いて、座った。
その反町が席に着くのに意識が持っていかれていた眞菜美の横から、ふいに女性が現れ、
いった。
「ホント、どうしたのぉ〜?」
「わっ。尚美ー、なによ!急に!?」
すこし驚いた様相を見せながらも、椅子においてあった荷物を眞菜美は窓側の椅子に移し
て、尚美の現れたほうの椅子を空けた。
尚美はすかさずその空いた椅子に腰を下ろすと、すこし嫌らしそうに笑いながら、言葉
を続けた。
「眞菜美がなかなか来ないからさぁ、反町ったらソワソワしてさ、全然落ち着きなかった
のよぉ〜」
「そっ、そんなコトねぇーよっ!」
怒鳴るように反町は否定すると、二人の視線か逃れるように、肘をついて、表に顔を向け
たままその上に顔を載せた。
すこしクスっと眞菜美は笑うと、呆れ顔の尚美と顔を合わせた。