ACOUSTAT の修理依頼
2019年 7 月 ACOUSTAT の高圧回路の修理の依頼がありました
このサイトをご覧になった愛媛県のМ氏からのご依頼でした。

リサイクルショップ店頭で見つけたものの、「片chの音がかなり小さい」ということででジャンクとして販売されていたそうです。 「夢にまで見た ACOUSTATのモノリス型スピーカーが手の届くところにあり、思わず入手しました。」とのことです。 直しようがなければ処分すればいいや、とも思われたそうです。

この辺の気持ちは実によく理解できます。 私がこの道楽を始めるきっかけになった STAX ESS-3A を入手したときも同じ気持ちでした。要は欲しいのです。 ジャンクなのに欲しいのです。 駄目なら処分すればいいや、というのは自分を納得させるための理由で、何とかしよう、何とかなるただろう、という気持ちもどこかにあるのです。

さて、「ほぼ片chですが、鳴らしてみると、生まれて初めて聴く静電型スピーカーの自然な音色に圧倒された」とのことでした。

ここで私が不思議に思った、というか感心したのは、静電型を聴いたことがないのに「夢にまで見た ACOUSTAT」と仰っていることです。 
普通はQUADが出て来ると思いますし、静電型に関心のある方でも、せいぜい Martin Logan か、若くない方でしたら STAX を知っている程度ではないでしょうか。 ACOUSTAT をご存知だったこと自体に感心するばかりでなく、最初からACOUSTATの優秀さを喝破していたその眼力に敬服します。

閑話休題

説明どおり片chしかまともには音がでなかったので、高圧回路とネットワークの入ったシャーシ・モジュールを左右交換し、故障はモジュールにあるということで、小生に修理の依頼が参りました。

次の写真、左側がモジュール内部の様子で、左下に高圧回路のある基板が見えます。 右側がその基板を外して裏面から見たもので、右下にダイオード五段のコッククロフト・ウォルトン回路があります。
ACOUSTATは、色々なモデルに同一型番のモジュールを使用しています。 しかし、このモジュールは、MK-141-C というもので、M氏に教えていただいて知ったのですが、MODEL 1 専用とのことです。 MODEL 2、MODEL 3、MODEL 1+1、MODEL 2+2 などには MK-121-C という型番のモジュールが使用されているとのことです。

M氏が入手されたのは MODEL 1 とのことで、本来はサブウーファーが付属しているモデルであるとのことでした。
修理のご依頼は高圧回路ということでしたが、シャーシごと送っていただきました。 そして、修理は、故障している側だけではなく、安心のため、両chとも高圧デバイスを交換しました。

修理後に我が家のACOUSTATに繋いでテストしたところ、故障のあった側の音量が低いままです。 電圧を調べると、コッククロフト・ウォルトン回路の出口は正常ですが、ユニットへの電圧が低くなっていました。 原因は明らかです。 上・右の写真にある、螺旋模様の長い抵抗の導通不全です。 確認のため、この抵抗を左右で交換して確認しました。 この抵抗は何と 500MΩ !  普通に売られているとは思えませんでしたが、ネット通販は大したもので、同形状ではありませんが簡単に見つかりました。

高圧が正常に出なかった原因は抵抗でしたが、ダイオードとコンデンサーは交換して正解だったと思います。 QUAD も STAX もそうですが、古いこの回路は劣化していると考えるべきですし、ACOUSTATではダイオードが破裂したという記載のあるサイトもあります。


下の写真が部品交換後の高圧回路です。 私が写真を撮り損ねたので、M氏が撮って送ってくださいました。
500MΩの抵抗が青い線のように写っていますが、現物は右の写真のとおりの薄い細長いものです。
左に濃いピンクのものが縦に二つありますが、これは、2000P 6KVの黄色いフィルムコンデンサーの替わりです。 ネットワーク回路ですのでこれほどの耐圧は必要ないのですが、音質重視ということでしょうか。 同じ定格のものか見付からなかったので、1000P を二個、パラレルにしてあります。
M氏とご相談の上、この際ですので、ネットワーク関係のコンデンサーも交換することとし、必要な部品を取り寄せ、交換しました。
テストしたところ、正常に鳴っていたのですが・・・・・・・・何回目かにACに繋いだところ、元々故障していたchの音が出ません。 (汗)
調べると、ACラインのフューズ二本のうち一本が飛んでいます。 フューズは250mA。 交換し、念のためトランスだけで通電して
みると、何回目かにやはりフューズが飛びました。 どうにも原因が判りません。 きまぐれにトランスがショート(?)するということ
なのでしょうか。
回路の方も調べると、ダイオードが一つ短絡(?)しており、気分が悪いので、ダイオードとコンデンサーを全部交換しました。

次の写真が完成後のものです。 これもM氏が送ってくださいました。
左上の二本のフューズがACラインに入っているもので、上がオリジナルのもの、下が交換したものです。
右側の、緑・黄色のコンデンサーが交換したネットワーク関係のものです。
その後は何回テストしても問題ないので、この旨をM氏にお知らせした上で完成としました。

オリジナルで使用されていたフューズは、BEL の SLO-BLO タイプで、サージ電流を許容するため、瞬時であれば250mAを超えても飛ばないものです。 交換したものは普通の速断タイプです。 しかし、ここで疑問が湧きます。 この電源の消費電力の定格は5Wです。 つまりACでは50mA しか流れません。 このコッククロフト・ウォルトン回路は、サージ電流が250mA以上も流れるのでしょうか。
QUAD 63系では、速断タイプの60mAのフューズが使われています。

さて、M氏の元へお返しし、電源を繋いだら、やはりフューズが飛んだとのことでした。 ホームセンターで入手可能であった300mAを入れた後は何事もないとのことです。 上に書いたとおり、ACライン二本には両方ともフューズが入っています。 そのうち一本は飛んでいませんので、SLO-BLOタイプの250mAものが入ったままです。 そして、もう一方に、現在は300mAの速断のものか入っています。 サージ電流は250-300mAの間であると考えていいのでしょうか。 それとも、トランスの機嫌が良く、サージ電流はほぼ無く、50mA程度しか流れていないのでしょうか。 何とも判りません。


続いて低域の問題です。 本来付いているはずのサブウーファーがありませんので、低域がどうなっているのかM氏は心配なさっていました。 M氏がネットで見つけられた配線図では、サブウーファー用のネットワークがモジュール内蔵なのか外付けなのか判別できませんでした。 しかし、モジュール現物には何もなく、入力端子と並列にウファー用と思われる端子が設けられているだけです。 配線図でトランス回りの回路を見ますと、ACOUSTATの特徴である高域と低域が別の巻線で処理されていることは判るのですが、トランスのインピーダンスも、負荷であるユニットのインピーダンスも判らないので、クロスオーバー周波数などは全く計算のしようがありません。 しかし、何となく、ローカットはしていないという感じですし、我が家でのテストでも(最)低域がカットされているようには聴こえませんでした。
M氏は周波数特性測定用の機材をお持ちで、その測定データを見せていただきましたが、特にローカットされている特性には見えませんでした。 M氏は、他にバックロードホーンのシステムもお持ちとのことで、それとの比較では、ACOUSTATの低域の量感不足と質感の違いは否めないのではないかと思います。
上の写真は、M氏のリスニングルームでのACOUSTATの様子を送ってくださったものです。 天井を低めに造られたとのことですが、ACOUSTATらしい背の高さが印象的です。

M氏からACOUSTATに関する多くの情報を頂戴しました。 それらを見ますと、このメーカーのモデルのこと、即ち、ユニット数と外観とモデル名との関係、一体いくつのモデルが製造されたのか・・・・等々がますます判らなくなってしまいました。 

M氏のお持ちの、この MODEL 1 というのは、この背の高さで本当にユニットが一枚なのでしょうか。 我が家の本当のモデル名は何というのでしょうか。 何とも判らないことの多い不思議なメーカーです。
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