QUAD レストア方法
発音ユニット
63系は、片chにつき、4枚又は6枚のユニットで構成されていて、一枚のユニットは、二つの格子状の枠が貼り合わされてます。

下の写真は、上が低域ユニットで下が中高域ユニットです。 個々のユニットは、格子状の枠に、2mmほどの穴が無数に開いたプリント基板の信号電極が接着されています。片側の枠に導電剤が塗布されたフィルム(振動膜)が貼ってあり、二つの枠を貼り合わせると、フィルムが電極の中央にきます。

写真の上側はフロント側の枠で、こちらにフィルムが貼られています。 下はリア側の枠で、中央縦に高圧配電用の赤色の配線が見えます。
大型モデルである 2905 と 2912 は、片chで低域ユニット4枚、中高域ユニット2枚の計6枚で構成されており、その他のモデルでは、各2枚の計4枚で構成されています。

以下、特にことわらない限りユニット数が片ch4枚のモデルについて記載します。
下がユニットの内側です。 上がフィルムの張られたフロント側で、黒く見えるのが導電剤です。
このユニットでは、左側二箇所に破れが見られ、周囲に剥離が見られます。 しかし、この程度の破れや剥離は、通常、ノイズの原因とはならないようです。

下のリア側の内側には化学繊維の目の細かい「紗」のような布が貼られています。上下には高圧配電用のアルミ箔が貼られています。
ノイス発生の最大原因は電極の剥離による電極とフィルムの近接です。
下の写真が枠と電極が剥離している様子です。 枠と電極の接着には、G17のようなゴム系の接着剤が使われているようで、経年劣化によりボロボロになって接着力を無くし、剥離を起こしています。
しかし、プリント基板の電極に信号を入力するためのラグが付けられている個所では剥離は起きていない場合が殆どです。 仮に接着剤の劣化が起きても、ラグで電極と枠が繋げられているため、剥離には至らないということです。
下の写真は、ラグが最も多い、中高域ユニットの信号が入力されるラグの部分です。
ラグの数は、最も少ない低域ユニットで片面二つだけ(ユニット一枚で四つ)です。そして、ラグの多い中高域ユニットでも片面十一個(ユニット一枚で二十二個)です。
ノイズの発生は、ラグの無い箇所で最初に起きる場合が殆どで、具体的には、スピーカーの四隅からということになります。 


ユニットは、下の写真のとおり、ガチャ玉やガチャックのようなクリップで止めて貼り合わされています。使用されているクリップの数は、一枚のユニットについて四つから八つとマチマチです。 クリップが四つしか使用されていない場合、隙間ができいることも見受けられます。 また、テンションが落ちているものがあったり、右の写真のとおり、割れてしまっていて用をなしていない場合もあります。
ユニットは、中央三ヶ所も金属のボルト・ナットで留めて貼り合わされています。


それでは、レストア手順を説明します。

ユニットを二枚に剥がす前に、ボルト・ナットで貼り合わせるための穴を枠の周囲10ヶ所に開けます。
そしてユニットを二枚に離し、フィルムを剥がす、ラグを外す、といった作業をし、枠と電極板を別々にします。 次は枠と電極のクリーリニグです。 枠はスクレパーと溶剤で接着剤をきれいに落とします。
クリーニングが大変なのは電極であるプリント基板です。

枠のリブと接着されていた部分の穴が接着剤のカスでふさがっています。
このふさがった穴の数は、ざっと計算したところ、基板8枚で約6000 もありました !
この穴を、まずドリルの刃を一つ一つ通してカスを落とします。 実にウンザリする作業です。 その後、溶剤で洗浄するようにクリーニングします。

写真は作業前後が判るように撮ったものです。
手前半分がクリーニング済みで、うしろ半分が作業前の状態です。

カスは大雑把に落としても、次の接着面さえ綺麗にしてあれば接着力には問題ないばすですが、カスが残っていると?れ落ちてノイズの原因にもなりかねないと思い、完全に除去するようにしています。

なお、スピーカーのリア側となる電極には紗のような布が貼られていて穴のクリーニングにドリルは使えないので、溶剤でクリーニングしています。


なお、接着剤が劣化しておらず、枠と電極板が強固に接着された状態が保たれており、無理に剥がすと電極板そのものが割れたり、銅のプリントが剥離したりする恐れのある場合は、枠の裏側から、枠のリブと電極板の間に接着剤を流し、「裏打ち」で補強することもあります。 この方法は、経年変化の少ない、新しいモデル、例えば 988 や 2805 などで使用することが多いです。 63 や PRO-63 では、まずこの方法は使えず、電極板を剥がすことになります。


次に、枠と電極とをエポキシ系接着剤で付けてから、ラグを付けます。 ラグは、信号入力用にもともとあったものに加え、剥離防止用として増設します。
ラグの数は、低域用ユニットで片面2個から18個 (ユニット一つ両面で36個) に、中高域用ユニットで片面11個から22個 (ユニット一つ両面で44個) にしています。
下の写真はラグ増設後のものです。 両方とも低域ユニットで、端と中央部分で、元々は全くラグの無かった部分です。
これでユニット枠にフィルムが貼れます。 木枠にフィルムを張り、適当なテンションをかけてから枠に接着します。ここで使用するのもエポキシ系接着剤です。 

接着剤が固まったら枠の周囲を切り、導電剤を塗布します。 使用する導電剤は、最新のポリマー系のものです。 この、導電剤の効果持続期間ですが、英文の説明では PERMANENT ですが、日本語では「半永久」となっています。

次に中央三ヶ所の貫通部分のフィルムを切り取り、ユニット左右端と、中央三ヶ所の穴の周囲の導電剤を拭き取ります。左右の端はユニットを取り付ける金属アングルへの高圧のリークをなくすために必須ですが、中央の穴の部分は、ポリカーボネートのボルトナットを使用することもあり、理屈の上では拭き取る必要はありません。しかし、この部分は信号電極のプリントが無いので導電剤の意味が無く、オリジナルと同様に拭きとっています
ニットを貼り合わせます。
電気的には浮いていて問題ないものの、金属を使用するのは精神衛生上良くないので、周囲10ヶ所と中央3ヶ所をポリカーボネートのボルト・ナットで留めています。 周囲の穴はフィルムで塞がれていますので、ボルトを通すことでフィルムを破損することのないよう前処理をしておきます。


組み上げたユニットを本体に入れて仮接続をし、音出しテストをします。 このとき使用する本体は、テストベンチとして別に用意してある正常なものです。 聴感テストのほか、入力端子ごとの電圧を測定し、場合によっては、念のため周波数特性も測定します。 無響室ではない普通の部屋ですので正しい周波数特性はとれませんが、異常なピークやディップが判別できる可能性があるので実施しています。

音出しテストが済んだら、高圧回路の部品交換、保護回路外しなどを終えてある本来の本体に戻して仮接続で音出しテストをします。 この段階で問題が出ることはまずありませんが、ユニットに問題が無いことは判っていますので、仮に問題が出ても切り分けは容易です。

長時間と大音量の音出しテストを経て本組みをします。 この先はユニット配置替えの項をご覧ください。
トップページに戻る