STAX ELS-F81 のレストア  その二

裏側木製パネルの様子です。 左の黒いパネル、左下にAC入力の3Pコンセント、右下にパイロットランプ、上はAC入力電圧切替用のダイアルがあります。  パネル右には銘板と、その下に信号入力端子。
右の写真は木製パネルを外してひっくり返した様子です。 右が信号トランス、左が高圧回路などが入ったシャーシです。
 信号トランスが裸なのが、何となく STAX らしくない感じです。
  
  

シャーシ内部はこんな感じ。  左下に高圧トランス、右下に3Pコンセント。 プリント基板は、右にFUSE、中央星形のものは入力AC電圧切替用のトランスタップの接点。 上側にコッククロフト・ウォルトン回路のコンデンサーなどの乗った基板。
右の写真が上から見たもの。 コンデンサーの間にダイオードが見えます。 右に並んでいる抵抗は、トランスのアース線とアースの間に入れられたものです。これについては別項の回路図を見ていただいた方が判り易いと思います。


コッククロフト・ウォルトン回路のコンデンサーとダイオードは当然交換したのですが、写真を撮り忘れました。

さて、ここで、ユニットへの信号入力端子関係について。
右と左の違いがお判りになるでしょうか。
左がレストア前のオリジナルの状態です。 信号トランスから来ている線は二本で、それを基板に並べられた抵抗の通り方でフルレンジとWOに分けています。 左右に渡っている赤と黒との線がWO用で、中央の黄色と青の短い線がフルレンジ用です。 ユニットのフロント側とリア側の両方の端子がユニット裏側に付けられています。 これはユーザーにとってはどうでもいいことですが、私にとっては大変なことなんです。 どういうことかといいますと・・・STAXで最も多く使われているベークライトのユニットでは、フロント信号の端子は前に (フロントも前も同じ意味だろ !) 、リア信号の端子は後ろに付けられています。 ですので、ユニットを本体に取り付けるときは、フロントの配線を先に半田付けしておく必要があります。 これが結構面倒で神経を使うのです。 STAX も少しは学習したようで、F81 では、前後端子ともに、本体に取り付けた後に半田付けできるようになっているのです。 ところで高圧線ですが、左端にニョロッと立っているテフロン被覆の線なんですが、オリジナルでは、どこに繋がっているのか見えなくなっています。 これは、ユニット下端に沿うように右端まで行き、小さな銅箔の端子に繋がっています。  レストア後の右の写真では、左下の端子に高圧線が繋がっているのがお判りいただけるでしょうか。 この手法はSTAXの他のモデルでも採用している方法で、QUAD の真似です。 フィルムを貼っていない側のユニットフレーム内側四周にアルミ箔を貼り、その一か所の角からボルトを外側に出して端子を付ける、というもので、これにより、信頼性も上がり、メインテナンスも楽になっています。
右の写真では、ユニット前後を貼り合わせるのにポリカーボネートのボルト・ナットを使っているのがお判りいただけると思います。


レストアが終了し、ユニットを仮止めした状態が左の写真です。 この状態で各種の特性検査をし、大音量・長時間などの音出しテストをします。 この段階では、ユニットは木片で仮止めしてあります。
オリジナルの止め方ですが、上・左の写真に一部写っていますが、黒い長いアルミ板が使われています。 長いままですと、ポリカのナット側の出っ張りに当たりますので、このアルミ板を切らなければなりません。 木の板を使って楽をしてもいいのですが、ここはオリジナルを尊重して、アルミ板を所定の長さに切り、止めビス用の穴を空けました。 そして、本止めして完成したのが右の写真です。
右側の下部の黒い板は基板保護用の樹脂板です。 もう片chのものは最初から付いていませんでした。


と、これでメデタシメデタシとなればいいのですが、グリルネットをどうするか・・・という大問題があります。 かなりボロボロな状態で来ましたので、替えなくていいや、というわけにはいきません。
写真左の左半分がオリジナルのものです。 左端の黄ばんだところが表に出ていた部分です。 端の回り込んでいた部分は本来の色が残っています。
右側は比較のために撮ったイタリアのものですが、少し目が細かいかな、ということと高価 (過ぎる?) なことから不採用としました。 以前、STAX ELS-6A のグリルを自分で張り替えた方がいらして、その方が購入されたものと同じものを注文しようとしたのですが、売り切れということで断念。 その店は類似のものを紹介してくださったのですが、決断がつきません。 話ははしょりますが、適当に買ってみたり、見本を取り寄せたりと、色々とやりましたが、これだっ ! というものが見つかりません。 結局、紹介されたものを買ってみました。 オリジナルはアイボリーという感じなのですが、来たものはかなりグレーが強い感じでした。 生成りといっても色々な色があり、またロットによっても違うようですので、全く同じものは二度と手に入らないのかもしれません。 まあ兎に角張ってみよう、ということで完成したのが右の写真です。 モニターによってかなり見え方は変わると思うのですが、ややグレーがかっているものの、落ち着いた、少し渋い、いい感じに出来上がり、ホッとしました。



これで本当に終わりかと思いきや、まだしつこくあります。
うしろのカバーの処理です。 後ろのカバーには金網が張ってあり、その内側には薄い多孔スポンジ(?)が張ってあったものと思われます。 といいますのは、そのスポンジがボロボロ、というより、殆どホコリというような状態にまで崩れていたので、何が貼ってあったのか判別できない状態でした。 吸音性能は兎も角、ある程度の防塵はしたいし・・・・スポンジでは結局劣化するし・・・・迷った結果、STAX で TW の部分だけに貼られていることの多い、アクリアという断熱材を貼ることにしました。 これは、グラスファイバーよりも繊維が細くて密で、フカフカしていて音響抵抗も小さそうです。 
左の写真は貼った内側からのもの、右は外から見たものです。


これで本当に完成です。


さて、肝心の音ですが、小さいので、正直、あまり期待はしていませんでした。 特に低域は、この小ささですから、全く期待はできません。 ところが、スケール感こそ出ませんが、仰角を調節してフォーカスを合わせますと、STAXらしい、リアルな音像が浮かび上がります。 特にソロヴォーカルでのリアルさは特筆ものです。 低域もそれなりに納得のいくもので、配置次第でもっと良くなると思いました。 普段使いに手元に置きたくなりました。 流石 STAX で、ただ安いものを売っただけではないようです。

最後に、このスピーカーをレストアするに至ったいきさつと、このスピーカーの行先について書いておきます。
ある方からメールが来て、STAX  ESS-4A  ・ ESS-4 ・  ELS-F81 の三組を取りに来れば下さる、との内容。 かなり遠方だったこと、また、ただ頂く筋合いはないので、下さるというお申し出は、全てお断りしていますので、残念ながらお断り申し上げました。 すると、我が家まで運搬するので買い取ってくれないか、というお申し出がありました。 買い取り業者にも売らず、ヤフオクにも出さず、遠方から届けてくださってまで私に、と仰る。 買い被りですが、私の静電型スピーカーに対する思いが伝わったような気がして、喜んでお受けしました。 ご夫婦でおいでになりました。 遠方からですのでお引止めするのは気が引けたのですが、我が家の STAX の音をお聴きになりませんか、とお誘いしました。 音が出たとき、奥様が 「 ああ、STAX の音だ !」 と仰ったのです。 このとき、お譲りいただいたスピーカーはレストアしてお返ししなければ、と思いました。  折角の機会ですので、たまたまレストアが上がった QUAD PRO-63 も聴いていただきました。 そのときに、このPRO-63は譲ってもらえないか、というお話もありましたが、これはレストアでお預かりしているのでお譲りできないと申し上げました。 しかし、託していただいたSTAXのレストアの目途はありませんので、その場でSTAXをレストアしますのでお待ちいただけませんか、とはお伝えできませんでした。 後日、手元のPRO-63を新たにお譲りするためにレストアし、ご依頼者に連絡したのですが、そのときに、ESS-4A が手元にあることをお伝えすると、STAXのレストアを待つ、ということで、PRO-63 が宙に浮きました。 そこで、STAX をお譲りくださった方に連絡しますと、お買いになるということでお送りしました。
さて、STAX のレストアですが、ESS-4 系は経験があるので、まず F81 に手を付けた次第です。 完成して聴いてみますと、予想外の音で仕上がりも綺麗でした。 そこで当初の思いどおり、お返しできれば、と思い、お買いにならないかお尋ねし、無事にお返しすることができました。 仕上がったスピーカーを見たとき、元居た家に帰りたそうにしていましたし、スピーカーも綺麗になって戻れて幸せだと思います。
この F81 を聴いていただいた感想ですが、
繊細で軽やかで、透き通った音色でとても感激しました。
今ここでレコーディングしている場面で聴いているような生々しさがとても魅力的です。
心配していた低域は、柔らかく、気持ちよく出てくれます。
左右にQuadをくっつけたら、なんとさらに低域が豊かに出てきました。
こんなに小さいのに、これで十分楽しめます。
とりあえず、昔の古いソニーのアンプ(TA−3120F)で聞いてみたのですが、とても気に入ってしまいました。
今、スタックスを鳴らすのに これも古いダイナコのパワーアンプ MK3 をレストアしています。
これだったらドライブできるかな?と思っています。(メーカー推奨 100W以上ではないですが。)
サランネットはこれがぴったりです。これでゆっくりと好きな音楽を楽しめます。
貴重な製品を復活させていただきありがとうございました。
私と家内の宝物になります。」とのことでした。

毎度のことですが、こうしたお声をいただくと、まさにレストア冥利に尽きるというもので本当に嬉しいです。

有難うございました。

ということで、今回のスピーカーは、ただ買い取ってレストアして売った、というものではなく、大事になさっていた前の持ち主から、信頼されて託された、という風にしか思えないのです。

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