思い付くまま ・・・・・ 遅延回路コイル騒動顛末
 A 氏からQUAD 2905のレストアを依頼され、分解したところ、次の写真のとおり、配線が一つ外れているのを発見しました。
八つに分割されている帯域のうち、中心から三番目で、上下二枚ある中高域ユニットの上側のユニットです。 フロント側だけ外れていて、リアは正しく半田付けされていました。 浮き半田で外れたというより、最初から全く半田付けされていないようです。( 左の二つのラグへの半田付けもかなり危なげです。)

この影響を考えてみます。
信号が入力されないのは、八つの帯域のうち一つだけで、同心円のかなり狭い幅の部分、しかも、上下ユニットの上側だけ。 リアは正常に信号が入っていきますので、この部分だけ、プッシュプル駆動ではなくなる。 しかし、両側の帯域は正常に駆動されており、一枚のフィルムを駆動しているので、両側の帯域に引っ張られ、大した影響はないのでは・・・・・
入力側から電気的に見ると、負荷の一つが完全に半分になっていて、インピーダンスの不整合が生じている。 これがどのような影響があるのか、正直言ってよく判らない・・・・・・

このスピーカーをお預かりし、SW ON したときに ポツッ と一回だけポップノイズが出ましたが、それがこの影響かどうか不明です。 しかし、私のいい加減な耳で聴いた限りでは、音楽は正常に聴こえた感じでした。

それにしてもいい加減なレストアです。 もうこの程度は慣れっこで、このためだけに新たな項を起こす気にもなりません。
さてさて、呆れはしましたが、変な異常も見当たらないので、通常のフルレストアで問題ないと判断し、大して気にも止めず作業続行です。
途中省略で、レストアが完了し、ユニットへは仮配線で各種テストを実施した後、組み上げて完成しました。 パネルも付いて完全に組みあがったので、最後に、周波数特性の測定をしました。
ここで、 ん ?  と思いました。  1kHz から上の特性に「暴れ」が見られます。 正常なものでも、この部分は多少ギザギザが見られるのですが、その振幅の大きさがいささか気になりますし、明らかにもう片chとは違っていました。 いずれにしろ完成後はしばらく鳴らしているので、他の作業をしながら鳴らしていると・・・・・・信号の強弱の強の部分で変なノイズが乗りはじめました。 聞いたことのない種類のノイズで、ノイズの出る場所が、中高域ユニットを中心としているものの、スピーカー全面をランダムに移動する感じがあります。 下のU-Tubeで音を聞いてみてください。 ノイズが移動する感じは判りにくいと思いますが、ノイズの種類はお判りいただけると思います。 ( 動画をプラグインで挿入しようとしたのですが、サポートされていないので You-Tube にしました。申し訳ありません。

P1000440 - YouTube

ノイズの種類からして、ユニットに起因するものではないという確信はありましたが、まずは再度分解してユニットを外し、テストベンチで鳴らしてみました。 やはりユニットに問題はなく、また、予想どおり高圧回路にも問題ありませんでした。 そうなると、最も厄介な遅延回路(ネットワーク)を含む信号系ということになります。 これまでの経験で、最も疑わしいのはキャパシタです。 遅延回路の基板を外し、L、C、Rをチェックしてみると、何と一つのコイルに導通がありません。
左の写真は 63 ですが、使われている遅延回路ユニットは同じ構造です。 このコイルは、前後各六個使われていて、信号線に直列に入っています。 導通がなくなっていたのは、黄色矢印で示した箇所のもので、フロント側、最も低域に配置されているものです。 もし一番右側のコイルが切れていると、フロント側は最高音にしか信号が行かなくなるという訳です。 切れていたのは最低域のものでしたので、単純に言うと、信号が行かなかったのは、フロント、最低域の二つの帯域です。 ( 最低域の二つの帯域間にコイルはなく、抵抗で繋がっていますので、コイルは全部で六個ということです。 )
コイルが切れた原因は判りません。 ユニットへの配線線が外れたまま使っていたのが原因かとも思いますが、配線の外れていた帯域と切れたコイルの帯域とは異なっています。 とはいっても、何らかの関連はありそうな気もします。

外したコイルの写真です。 大きさは大体、幅48mm、高さ51mm、本体厚み8mmで、片側の開いた半透明な樹脂のケースに入っていて、全体を蝋で覆ってあります。  うっすらと円いコイルの形状が透けて見えます。 コイル中央から出る線を外に繋げる線が縦に黒くあります。

さて、ここからが本題です。

正常なコイルを測定したところ、直流抵抗は5.2KΩほど、インダクタンスは3Hほどでした。 これで推測できるのは、かなり細い線が使われているらしいということで、直すのはかなり大変そうです。 このコイルを単体で買ったとしても数千円という感じですので、買えればそれが最善ですので、色々と調べましたが、新品・中古ともに無理のようでした。
次に、遅延回路全体が売られているかどうか探してみました。 すると、e-bay に中古のものが二件あることはあったのですが、結構高額です。 最後の手段は、私の手持ちの 63 から取ることですが、当然のことながら、その 63 は、部品取りにしか使えなくなります。 また、料金をどうするのかも悩ましいところです。 そこで、どうしたものかとA氏に相談したところ、修理してくれそうな人の心当たりがあるとのことでした。 そして、A氏のお知り合いのB氏が、「直せる、あるいは巻き直せる」と仰っているとのことで、連絡先を教えてくださいました。 実は、このとき、何か嫌な予感がしたので、私が直接B氏と接触するのはお断りし、A氏を介することにしました。 つまり、あまり意味はないかもしれませんが、修理は、私が依頼するのではなく、A氏が依頼する、という形式を保ちたかったのです。 そして、早速、切れたコイルトと、遅延回路の基板一式をB氏に送りました。 B氏はお忙しいようで、すぐには修理にとりかかれないかも、とのことでした。

配達の二日後、B氏からA氏に連絡があったとのことで、その内容は、「直せない。 巻き直したとしてもかなり高額になり、e-bayで買った方が安い。」というものでした。 B氏というのは、オーディオ機器を製造販売している方、つまりプロでして、まず、この対応に驚きました。 プロが「直せる、あるいは巻き直せる」と言ったんですよ。  最初に、直せるかどうか、兎に角一度見せて欲しい、ではなく、「直せる、あるいは巻き直せる」と言ったのです。 プロですので、このコイルを知っているのかなと思いました。 というか、はっきり言って、どうも信用できなかったので、嫌な思いをしたくなくて、直接の接触を避けました。 最初の嫌な予感が当たってしまいました。

仕方ありませんので、コイルを返送してもらいました。 すると、次の写真のとおり、横っ腹に穴が開いています。 コテのようなもので溶かして穴を開けたようです。 後日 A氏と電話で話したのですが、穴を開けていいかどうか、事前に了解を求められてはいない、とのことでした。 これには再度呆れてしまいました。 直せる、と言っておいて直せなかったばかりでなく、了解もなく勝手に穴を開けたのです。 これがプロの所業、もっと言えば、常識のある人間のやることなのでしょうか。 私は A氏とB氏との関係を知りません。 直せると言って送らせておいて、勝手に穴を開け、そして結局直せない。 それが許される関係なのかどうか、私は知りません。 しかし、下敷きの中にも消しゴムあり、いや違った、親しき中にも礼儀あり、というように、私には、どんな親しい関係でもできない対応です。  A氏にお尋ねしたところ、特に謝罪はなかったようです。 
それにしても、了解もとらずに、コテで樹脂ケースを溶かして穴を開けるとは、何とも荒っぽいことをしたものです。 せめて蝋を溶かしてコイルをケースから取り出す努力をしてみるとか、何かやりようがあったと思うのですが・・・・ こんな風にされてしまうと、仮にコイルを直せたとしてもこの醜い穴は残ってしまいます。

後日、 A氏からのメールで、B氏からの連絡内容をお知らせいただいたので、その文面をコピペします。

・コイルの断線現象を確認した。
・コイルを測定すると、3H, 5.4kΩと想定以上に極細の線を巻いていることが分かった。(これは外観からは判からなかった)
・コイルのモールド表面を溶かして見たが、極細の線ゆえに修復は困難であろうことが予測された。
・このため新たに線まいてコイルを作成する必要があると判断したが、コイルの線が想定より細すぎて手持ちの治具では切れてしまう。そのため、新たに治具を用意する必要がある。
これより、かなり修理費用がかかってしまう、ということです。
そこでeBayでESL-63 の基盤が出品されていることを話しますと、eBayで基盤ごと購入する方が安いでしょう、ということで修理は中断しました。

とのことでした。
この文も、吟味してみると妙な感じがします。 まず、インダクタンスと直流抵抗値から、かなり細い線材が使用されているらしいことは、外観から想像できると思うのですが・・・次に、モールド表面に穴を開ける前に、蝋を溶かしてみようとは思わなかったのですかね。  想定より細い線とのことですが、どんな線を想定していたのでしょうか。もしかすると、普通のダイナミック型スピーカーのネットワークのコイルを想定していたとか・・・ だとすると、QUAD の遅延回路のことははご存知なく、また、事前に調べてもいなかったのでしょうか。 それに、普通のネットワークのコイルでしたら、私のような素人でも何回も巻いた経験がありますし、修理にプロのお出ましを願うまでもないと思います。
いずれにしても、プロとは思えない所業、並びに私の常識では測れない対応でした。
私でしたら、そもそも、見もしないで「直せます」なんて言わないですが、間違って言ってしまったら、意地でも、外注してでも、いくらかかっても責任をもって直しますけどね。

ついでに言わせてもらいますが、返送して貰う際、運送会社名も伝票番号も知らせてくれませんでした。 再配達の手間は大変なものです。 伝票番号などを教えておいてくれれば、再配達を防ぐための対応はできます。 この配慮の無さにもかなりがっかりしました。

と、呆れていても始まりませんので、次なる対応です。 A氏の了解をいただき、改めてこのコイルなり、遅延回路基板を探すことにしました。 イギリス、オーストラリア、オランダなどのサイトを探したのですが、色々なパーツは売られているものの、いずれも、その気になれば普通に手に入るものばかりで、QUAD 特有のものは殆どない、という状態でお手上げでした。 でも、これで e-bay で買ったのでは面白くも何ともありませんし、次の点が気になります。
 ・ 以前、e-bay で注文とは全く違うものが送られてきた経験があり、偏見が抜け切れないこと。
 ・ 売られている遅延回路基板は 63 のもののようで、そのまま2905には使えないので、コイルを一つだけ外して使うことになります。 そうなると、残った基板はどうしたらいいのでしょうか。 A氏にお渡しするのが筋ですが、使いようがないと思います。 かといって私が頂いても対価はどうしたらいいのでしょうか。

となると、手持ちの 63 から取るのがベストのようです。 私の性格上、手元にあるのに、 e-bay で買ってください、とは言いにくいというのもあります。 料金ですが、A氏のご了解をいただき、工賃なども込みで1万円いただくことにしました。

途中省略で、63 から取ったコイルを取り付け、2905 は無事にレストアを終えました。
下の写真の一番右が交換したコイルです。 ケースの色が白い樹脂で、2905の半透明のものとは違いますが、スペックは同一です。

次は断線したコイルの調査です。 どこが断線しているのか、はたして断線の原因は判るのか、次回をお楽しみに・・・・ということで

   TO  BE  CONTINUED  !
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