思い付くまま ・・・・・ STAX 本社での試聴
あれは確か1967年だったと思います。 何月だったかは記憶していないのですが、特に寒くも暑くもない季節だったような朧げな記憶があります。 当時、我が家は西武池袋線の池袋から二つ目の東長崎にありました。 学校から池袋駅までは3km弱だったので、帰りは池袋駅まで歩いて行くことが結構ありました。 裏道には緑も多く、歩くのになかなか相応しい環境だったと記憶していますが、それにしても若くて元気でした。
STAXのことは知っていましたが、学生の身ですので買うことなんか全く想像もできませんでした。 当時使っていたシステムといえば、確か、スピーカーがPAX−20Fで箱は自作のバスレフ、プリが自作のC−22のコピー、メインアンプがKMQ8、モーターが二つ付いたTEACのターンテーブルに、アームがAT−1001(?)は持っていたけどこれはAT専用だったような気が・・・それとNEATの安いアームがありました。 カートリツジがFR−1とDL−103でトランスがFRT−3あたりだったと覚えていて、近所の金持ちの友達が「ハチノス」を使っているのを驚きの目で見ていました。
中学・高校のときから秋葉原には足繁く通っていましたが、STAXなんて音を聴いたことも見たこともありませんでした。 それで、何故STAXの本社で試聴してみようなんていう気になったのかいまだに自分でも不思議なのですが、歩いて池袋駅に行く途中と言えば途中にあった、ということくらいしか考えつきません。
その建物は普通の民家といえばそうなのですが、白のペンキで塗られた羽目板の外壁の洋風建築で、今でも地方の診療所・医院としてありそうな建物でした。 ですから、とてもオーディオ製品のメーカー本社とは見えませんでした。 当時の住所から調べてみたら、この建物は、「旧マッケーレブ邸 (雑司が谷旧宣教師館)」として、都の文化財に指定されているようです。
玄関を入った右側に、昔の家によくあったように、応接間といった感じの部屋があり、そこが試聴室でした。 担当してくださったのは中年男性で、営業という感じではなく、技術系の方に感じました。 スピーカーは、これも朧げな記憶なのですが、その大きさの記憶からしてELS−6Aではないかと思います。 このモデルの発表がこの辺の年次ですので、恐らく最新モデルが設置してあったものと思います。 ターンテーブルは全く記憶がないのですが、アームとカートリッジはいずれもSTAXのものだったと記憶しています。 アンプも全く記憶がないのですが、STAXのOTLだったと考えるのが合理的です。
プログラムの希望を聞かれてお任せしたところ、流れてきたのはWE GET REQUESTS のB面トップの You Look Good to Me
でした。 このレコードはRay Brown のベースの録音が良いことで有名です。 冒頭の弓で弾くベースの音が流れてきたとき、その透明感、リアリティに驚きました。 軽く透き通っていながら量感・質感が本物のウッドベースなのです。 ピアノの音はこのレコード評に違わずポタポタとした音でしたが、我が家の音とは全く違っていました。
その一曲だけで辞したのですが、感想を聞かれた記憶もお伝えした記憶もありません。 担当された方は、どうせ買えるはずもない若造と思ったでしょうし、こちらもひどく緊張していましたから。
帰途に連れに感想を聞いたら「ガラス細工のような音」とのことでした。 その連れというのは、後年、我が女房となる女性でした。
そして、我が家では、あの時のELS−6Aが鳴っています。