(C)インターネットランド>中学校>1年生>国語>言葉の学習>比喩>詩>土
長谷川博之(JHS☆埼玉)
比喩指導の導入として詩「土」を扱った。教科書にも掲載されている。大森修氏の実践を土台に,浜上薫氏の実践(発問2〜5,指示10・11)を取り入れた。情景を鮮明にイメージさせるのが目的であった。
14年度1年生,11月に授業した。
指示1 ノートを開きなさい。
2 黒板に詩を書きます。一行開きでノートに写しなさい。
3 書き終わったら微音読していなさい。
「土」を板書する。
指示4 読めない字は自由に読んでごらんなさい。3回読んだら座りなさい。
この後列指名で読ませた。
もちろん読めなくともかまわない。しっかりした声で読んだ者を褒める。
「蟻」はすぐに出た。「蝶」が分からない子には,「羽をひいて行く」に注目するよう告げ,推測させた。
その後,私の後を追い読みさせて正しい読みを知らせ,すらすら読めるまで練習させた。
「ああ」の読みにこだわった。上手な子を褒め,全員に練習させた。
指示5 暗唱したら座ります。全員起立。
6 隣同士で確認し合ってごらんなさい。
何度も音読させることで内容の理解が進む。学習への興味も増す。
指示7 @〜Gと番号を書きます。二行空きです。書いたら見せにいらっしゃい。 │
一字読解風に進めた。
発問1 この詩を二つに分けるとしたらどこで分けられますか。
指示8 ノートの詩を二つに分けて見せにいらっしゃい。
すぐに見せに来る。〇×で評価した。1/3が見せに来た段階で次の指示を出した。
彼らが考えている間に,発問1が書けない子3名のそばに寄って教えた。
指示9 分けた理由を書いておきなさい。
ここでは発表させない。短時間で,「できる子」は文章化できるが,他の子は書けないからである。
「ああ」からが後半部である。板書の詩に縦線を引き,句切る。
日常の現実の「土」の世界が一瞬にして非日常,非現実の青海原の世界となる。(これは説明しない)
発問2 前半の情景を絵に描くとします。何を描きますか。
指示10 描くものを言葉で書きなさい。
1分ほどで書かせ,発表させる。教師が板書する。
「蟻・土・蝶の羽・蟻が蝶の羽を運んでいく様子」が出た。
発問3 絵に色を塗ります。何色が必要ですか。
30秒ほどでノートに書かせ,発表させたものを板書する。
「茶色(土)・黒や赤っぽい茶色(蟻)・白や紫や黄色(蝶の羽)」が出た。
発問4 後半を絵にします。何を描きますか。
「ヨットが動いている・波・海と波・ヨットが風に吹かれている・かもめ」が上がる。板書する。
発問5 絵に色を塗るとしたら,何色が必要ですか。
書かせず,列指名で答えさせる。「白(ヨットの帆)・青(海原)・白(波)」が上がる。「太陽の白!」という意見もあった。
発表内容を板書して確認する。
指示11 前半と後半,二つの風景を比べて気づいたことを書きなさい。
「前半は暑そうだけど,後半は涼しそう」と例示する。
生徒の答えである。
・前半は生き物だけど,後半は自然。
・前半は忙しそうだけど,後半は気持ちよさそう。
・前半は波や風の音が聞こえないけど,後半は聞こえてくる。
他に,「前半は現実で後半は想像」「前半は目で見た世界,後半は想像の世界」という意見があった。
大いに褒めた。
発問6 この詩にはどんな比喩表現が使われていますか。
指示12 ノートに書き出しなさい。
(1)ヨットのやうだ = 蟻が蝶の羽を引いて行く様子
(2)大海原(波・湖)= 土
生徒からAが出ない。
説明1 実はもう一つ比喩表現が隠れているのです。
発問7 三行目に「ああ」とあります。これは何に感動しているのですか。
ここでは全員が終わるのを待たない。半数が書き終えた時点で訊いていく。
生徒の解は「蟻が蝶の羽を引いている様子がヨットに見えたこと」が多数であった。
だが,これは違う。この解釈では題名「土」が説明できない。題名は「ヨット」とでもなろうか。
「ちがいます」とだけ告げ(解は告げない),次の問いを発した。
補助発問 話者は立って見ていますか。座って見ていますか。
指示12 「立っている」「座っている」どちらかに決めて書きなさい。
理由を書かせ発表させた。
生徒の解は「座っている」が半数以上であった。だから「海=土」が出てこないのだ。
座って見ているならば,意識は蟻と蝶の羽だけに集中し,地面全体を意識することはない。
「立っている」という子どもに理由を訊いたが,要領を得なかった。
「私は,立っているだと考えます」と説明した。
発問8 座っていると蝶の羽に意識が向きますよね。でも,ここでは立っていると考えてごらんなさい。蝶の羽以外に見えてくるものはありませんか。
間を置いて,問うた。
発問8 もう一つの比喩表現はどれでしょう。ヒントは題名です。
ヒントによって気づいた子が出てきた。書けた子から持ってこさせた。
ひとりふたりが正解すると教室が盛り上がる。正解する生徒が増えていく。
最後まで書けなかった生徒が3名いたが,全体に「友だちの意見をメモしなさい」と告げて正解者に発表させた。
説明2 話者は「蟻が蝶の羽をひいて行く」様子と辺り一面に広がる「土」が同時に見える位置からこれらを見ています。立っているからこそ蝶の羽が土に描く線を意識します。その線がヨットが通る時の「波」のイメージと重なります。その瞬間に,頭の中で地面が「大海原」に変わったんだね。
最後に二通りの比喩があることを教えた。
「〜のようだ」「〜みたいだ」は直喩,「土=海」のように「〜のようだ」と明らかに書かれていない比喩を隠喩という,と説明した。
《先行実践》大森修:『続国語科発問の定石化』(明治図書,1987),p.118
浜上薫:『発問づくりの技術』(明治図書,1991), p.74