戦車かくして壊れぬB

傷つく「鐵牛」


 例によって好評なのか不評なのか全く判らない当企画である(笑)が、世間の思惑を少しは気にしつつ、我が道を行くのである。早速本文をどうぞ。
 将来の参考事項に就て(戦車学校研究部 戦車関係資料 昭12.9.21)

 戦闘の結果将来の参考となすべき所左の如し。

 1.砲塔の天蓋は車内より操作し所望の傾度に於て止め得る如く改造するを可とす。蓋し天蓋を開き之を倒したる後に再び閉めんとするは敵弾の下に於ては頗る危険なればなり。

 2.新式戦車中には敵小銃弾の跳び込むもの甚だ多く、負傷の大半は跳込弾又は鉛粉に因るものなり。展望孔及び眼鏡付近の孔は最小限度に減少するを要す。

 3.操縦手の前扉の下には防弾除けの横材を設くるを要す。当隊に於ては昨日来此作業を実施中なり。

 4.戦車眼鏡は一般に鉛粉に対し効力ある硝子に更新するを要す。

 5.拳銃孔は一般に有利に利用せられあり、現に某戦車はクリークに陥落し敵の肉迫攻撃を受けたる際砲塔銃と拳銃を以て戦闘せり。尚此際兵は拳銃弾を射耗せし後は心細くなりしと云う。

 6.戦車内用の鉄帽を考案するを要す。戦車内に鉄帽を用いて乗務し得る如く研究するを要す。

 7.37粍砲砲弾は法線上に命中すれば貫通するも然らざるものは貫通せず。

 8.迫撃砲は打撃力大なるも装甲版を破壊せず、単に風圧力を以て乗務員を吹き飛ばし内部の小銃銃把を折損したる程度なり。

 9.チェック式7.7粍の小銃弾は装甲版に1.2ミリの打痕生じ、時には5−6粍浸徹し頭部の嵌入せるものあり。

 10.我が戦車の銃砲の命中は一般に可にして将校以下全員必勝の信念に燃えあり。

 11.時正に酷暑、戦車内の温度は120度に達し、鉄板焼けて手を触れ難く、中隊長以下襦袢一枚とならざるを得ず。従て此白色の襦袢は敵に好目標を呈し狙撃を受け易く、車外の作業、連絡の為下車せる場合等敵の狙撃を受けて重傷せるものあり。将来戦車隊兵員の襦袢は茶褐色に染色するを可とす(細見中佐通信)。


 戦車に関する意見(米田大尉私信 昭12.)

 1.37粍対戦車砲に依り破損せる戦車9月25日までに8台、内2台は燃料槽を貫通火災を起し修理不能廃品となる。尚1台は装甲版を貫通し、放熱箱破損、第六気筒内に敵砲弾駐止しあり。

 2.迫撃砲弾に依る破損戦車2、共に装甲版及砲大架ボルト、ナット折損せしのみにして、乗員鼓膜破損及び顔面軽傷に終る。

 3.敵徹甲弾(7粍7又は13粍?)に依り銃防弾具2、対物鏡レンズ破損加修不能2、戦車砲防弾器破損4、同砲身に命中砲腔内部に凸痕を生ぜしもの2、其他銃砲大架銃眼部に敵弾命中弾痕を生ぜしもの十数箇あり。概して銃砲部の金質装甲版に比し抗力不十分なり。


 器材及整備(戦車学校研究部 支那事変戦車情報 昭12.10.16)

 1.迫撃砲全弾命中2、内1は火焼す。対戦車砲貫通5、内1は火焼す。
 対戦車砲(榴弾の命中せるもの数十、一車にして12発、十発各1あり。)
 砲の防弾器弱く小銃弾貫通駐退不能となりしもの多数、軽機防弾は稍強く貫通1なり。

 2.無線は通信手当初多く負傷、今は使用しあらず。遂に実効を収めずに終わるか。アンテナは駄目、目標となり緒戦に銃砲弾に折損せらる。着けるならば偽アンテナを全部に着ける要あり。又竹棹が長くて一般の通信線を切ること多し。而して大隊の指揮には無線を利用せざれば指揮は不可能なり。

 3.負傷者の多くは銃砲弾破片創なり。戦車に間隙多き為なり。何処からとなく入り来る。砲塔空気孔の経始、展望孔の数、経始(例えば縦のものは大なる価値なきが如し。)
(昭12.10.9 細見中佐通信)


 前回紹介した北支に変わって、中支からの報告である。こちらでも対戦車砲による、車輌被害が出ていることがわかる。また、前回「迫撃砲の全弾屡々命中したることあるも(略)何等の損害なく」とあったにもかかわらず、こちらでは戦車1輌が被弾、炎上したことになっている。恐らくは装備車輌の使用エンジン(ガソリンとディーゼル)の違いが明暗を分けたのであろう。

 通信機材についても、有効か評価不能かと報告が分かれているが、無線の必要性に関しては一致している。戦車モデラーの立場としては、アンテナ支柱と線がどのように配置されているのかが気になるところである(笑)。

 拳銃孔の有効性と、天蓋の操作に関する記述は、中国兵が戦車に対して勇敢に戦ったことを物語っているし、間隙から銃砲弾の破片が入り込むと云うのも同様。

 戦車内部温度が120度(当然華氏であろうが、摂氏換算では88度となる!)云うのは労働条件としてはかなり酷い部類に入る。乗務員がシャツ一枚になるのも納得。白シャツにすることで模型では夏を表現出来ることだろう。