弾丸は何処に当たるのか?(一部追記)
戦車模型を見るのが好きである。買うのも好きである。本当は「組み立てるのが好きである」と書きたいのであるが、ここ2年程組立をしていないので、そこまでは書かない。思いこみと過ちは筆にしても、虚偽は排するのが「兵器生活」のモットーである。
模型屋のウィンドウや、雑誌の完成品の戦車で、本当に「戦った」と思える作品を見るのはまれである。理由は各人それぞれであろうが、自分がその立場に立つならば「面倒臭い」の一言につきる。
戦車模型界においては(ずいぶん大袈裟な書き方であるが、筆者得意の「思いこみ」と云うことで御容赦いただきたい)、戦車模型は「美しく汚す」方法論が主流である。すなわち、地上を動き回れば足周りには泥が付き、キャタピラは錆び、排気管には煤が付くといった表現を行って「完成」と見なされるわけだ。そう云う事情で、心ある人士は工事現場の建築機械の観察に余念が無い。
ところが、いくら日常の観察に力を注いでも、戦車が実際に使用される状況下で、どのように破損していくかを知る事は極めて困難であると云わざるを得ない。少なくとも私は銃弾、砲弾を受けた90式戦車の現物はおろか、一枚の写真をも見た事が無い(笑)。世界50億の人間のうち、見た事のある者は100人もいないだろう。
一方で、戦地で撮影された戦車の写真は大量に存在する。もちろん破損した戦車の写真も多い。しかしそれは「ぶっこわれた」と云った方が良いような写真ばかりで、それを模型に再現するには非常な手間がかかるのである。それは簡単で「見えなくてよいはずの部分が見えすぎる」からに他ならない。
銃弾、砲弾で車体に穴が開く、乗員が逃げ出す事が可能なレベルであれば、搭乗口が開放される(逃げ出す時に、搭乗口をわざわざ閉める奇特な戦車兵はいない)、故障で放棄されるのであれば、故障個所を修理しようと云う努力の形としてエンシンルーム扉も開放されるであろう。内部の砲弾等が爆発すれば、松本零士の漫画ではないが、砲塔が吹き飛ぶ事もある。つまり内部が丸見えになってしまうのである。
それをすべての見物人が納得できる形で再現するには、要は戦車の内部構造そののを熟知し、再現できるだけの技量が要求されてしまうのである。だから私はそんな面倒臭い事はやりたくないのである。第一、そんな技量そのものが無い。
破壊された物体自身はある種の美しささえ感じられるのであるが、それを再現することはかくも困難な道なのである。
とはいえ、世間には敢えてその困難に挑む勇気ある人士は存在することも事実である。このシリーズは、そのような不屈の意志を持つ人と、そうでない人の為に書かれている。
前置きが長かったが、これには理由がある。実は今回のネタは画像だけなのだ(笑)。毎度の「支那事変兵器蒐録」から九四式軽装甲車に基く故障調査並意見」と云う史料を紹介する。どう云う部分に銃弾を受けたかがわかる興味深い(と思う人にとって、であることは云うまでもない)ものである。
図の補足説明を少し、「×印は弾痕を示す 7.7粍級徹甲弾とす」
全面(ファイルサイズ1KB)
後面(ファイルサイズ1KB)
右側(ファイルサイズ1KB)
左側(ファイルサイズ1KB)
資料に記載されている文字が読める状態にしたため、画像サイズが大きくなっているので、あらかじめ御了承されたい。
もちろん、一輌の戦車がこれだけの銃弾を受けた、と云うわけでは無いのであろうが、西住戦車長の車輌のように、それ以上の弾痕が付いたものもあるわけであるから、一例として利用されたい。
次回はまた、毎度の文章ばかりの内容に戻る。ただしいつになるかは例によって未定である。
追記:上記資料の全文を記載していなかったので、以下の文章を追加する。
図示せざる部分
イ.電気部品は更に豊富に携行するを要す。
ロ.操向制動帯の摩擦板摩耗し易し(地形は最も不良にしてクリーク地帯)軽装甲車としての価値を増大する為更に強度を増加するを可とす。
ハ.鋼索は弱きに過ぐ強度を倍加するを要す。
ニ.被牽引車は小銃弾と雖も貫通するもの多し、人員運搬の場合もあるを以て成し得れぱ小銃弾に対抗し得るものなるを可とす。
判決
1.対戦車火器に対する抗力
若干の改修を施せば12粍級以下のものに対しては十分の抗堪力あり。用法の適切に依り戦闘に使用し得。
2.履板の強靱性
尚不十分なり。
3.機関の信頼性
約8ヶ月教育せる兵を操縦手として信頼の度大なり、然れども小隊長車長にして各小隊に一名堪能なるものあるを要す。
4.其他
図示せるが如し。
敵弾下に於ける補給機関として申分なし。但し任務に就ては教練規定の精神に據るを必要とす。
備考 本意見は代表的装甲車に就き主として戦闘に使用せんとする場合の意見を集録せるものなり。
「教練規定の精神に據る」と何がどうなるのかは不明である。