1) 東京ディズニーランドの秘密に迫る〜「経済のソフト化」の一例


昭和58(1983)年の開園以来、幅広い人気を集め続けている東京ディズニーランド。そこには「夢」を売るための様々な工夫がなされています。そのことに皆さんは、どれくらい気づいていらっしゃいますか?


(問1) 1983年6月、スペースシャトル・チャレンジャーに乗った女性宇宙飛行士サリーライドは、その乗り心地をディズニーランドに関わるある言葉で、「気分は□□□□□よ」と答えた。さて、何と答えたのでしょう?
  <ヒント> ディズニーランドのアトラクションで人気の高いものに共通するものです…

                              {問1の答えへ}


 ディズニーランドに入ると、すぐにアメリカの雰囲気が感じられます。アトラクションもほとんどアメリカのディズニーランドの忠実なコピーです。
(問2) そのアメリカのアトラクションの中で、日本への導入が見送られたものの1つに「潜水艦の旅」というのがあります。さて、その理由は何だと思いますか?
  <ヒント> □□□潜水艦、これが日本人には問題なのです。
                              {問2の答えへ}

☆現実を見せない工夫
(問3) ディズニーランドが他の遊園地と比べて特に優れているのは、「夢」を売るために現実を徹底して排除した点です。舞台裏もほとんど見えないように工夫されていますが、唯一、あるアトラクションから通用道路が見えてしまうところがあります。それは、何というアトラクションを利用したときにわかるでしょうか?
 <ヒント> 通用道路ですから、ディズニーランドの最も外側に近い(近づく)ものですよ。

                              {問3の答えへ}


(問4) 人気のアトラクションには大変な列ができてしまうことがしばしばです。このような時に、社員(ディレクター)が行う工夫とは何でしょうか?
  <ヒント> あなたもこのような場面にでくわしたことはないでしょうか?

                              {問4の答えへ}

(問5) みやげもの屋さんも、アトラクションの内容にあったものを、物語風に並べてありますが、もう1つ工夫していることがあります。それは何でしょうか?
  <ヒント> これは「現実」を代表するものですよね。
                              {問5の答えへ}

(問6) ディズニーランドのすごいところの1つに、ゴミが落ちていないことがあげられます。そのため、カストーディアルと呼ばれるお掃除係の人は、何人いると思いますか?
             @ 85人    A 160人   B 600人   C 1600人

                              {問6の答えへ}

(問7) このお掃除係は、常にちりとりを体の脇につけ、ほうきも同様にして体の方を動かしてゴミをちりとりに入れています。このユーモラスな動きには、ちゃんとした理由があるんです。それは何でしょう?
  <ヒント> もしほうきとちりとりを体から離して使ったら、どうなるでしょう?
                              {問7の答えへ}

細かなマニュアル(手引き書)による徹底した従業員教育
 ディズニーランドの従業員(キャスト)の客(ゲスト)へのサービスぶりは群を抜いています。しかしそれは、スタッフの質がもともとよいのではなく、細かなところまで配慮された約400種類のマニュアルによる徹底教育がなされているためなのです。

(問8) ゲストからチップをもらいそうになった時のマニュアルは次のうちどれでしょう?
@他のキャストに話しかけるようにその場を離れよ。
A「これでおみやげをお買い下さい」と答えよ。
B3回断ってもなお言ってきたら受け取ってよし。
C「私の方こそ楽しませていただきましたので」とソフトに断れ。

  <ヒント>答えは2つありますぞ。
                              {問8の答えへ}

(問9) ディズニーランドのアルバイト希望者の中には、研修期間だけでやめてしまう人がけっこういるそうです。それはなぜだと思いますか?
  <ヒント> まんざら辛いから、というばかりではない、けっこうちゃっかりした理由です。
                              
{問9の答えへ}

ディズニーはキャラクター商品のはしり?
ディズニーランドでは、後になって「なんでこんなもの買ってしまったんだろう?」というようなものまで、けっこう気分がハイになってついつい買ってしまうものです。ディズニーのキャラクター商品は、もちろん開園よりずいぶん前から売られていましたが、開園後全体的な売り上げが、30〜100%も増えたそうです。

(問10) ディズニーランドで売られている商品のうち、オリジナル商品以外は、ディズニー本社と契約している約90社(「ディズニー会」を組織)が作って販売しています。1986年ごろのその年間総売上げは、次のどれだと思いますか?
        @ 135億円    A 350億円   B 750億円    C 1350億円

  
                              {問10の答えへ}

開園時期の問題
(問11) ディズニー本社のある担当者が「10年前に東京にディズニーランドをつくっていたら、これほど成功しなかっただろう」と言っています。この理由は何だと思いますか?
  <ヒント> たしかパスポートは今、5000円くらいでしたっけ?

                              {問11の答えへ}


 〔答えと解説〕

〔問1〕 答えは「気分はEチケットよ」です。Eチケットはご存じのように、ディズニーランドの最高級アトラクション入場券のことです。ワクワクする代名詞として、本物の宇宙飛行にもたとえられました。

                                 (次へ)

〔問2〕 原子力潜水艦に対する日本人のアレルギー反応を心配して見送られました。なお、もう1つ見送られたのは、アメリカ歴代大統領の人形を並べた「プレジデントホール」で、これは日本でアメリカ建国の歴史を見せるのは押しつけがましい印象を与える、という理由からでした。

                                 (次へ)

〔問3〕 ウエスタンリバー鉄道です。出発してしばらく進んで、左手の樹木のカーテンが1カ所切れるところがあります。ここから舞台裏の道路が見えるのですが、ここには「いったん停止」の標識と「汽車が走っていないことを確認してから出発してください」という注意書きがあります。また、鉄道に乗っているゲストの関心も、常に進行方向右側に向くように演出されているので、ほとんどの人は気づきません。今度行ったとき、逆らって左を向いて探してみて下さい!

                                 (次へ)

〔問4〕 ディズニーランドのアトラクションでは長い行列がつきものですが、こうした場合、列が見た目で長く感じないように何回も折り返しをつけ、「進んでいる」という気持にさせます。また待ち時間を最後尾に示して「覚悟」させます。それでも列が長い場合、ディレクターはトランシーバーでディキシーバンドやぬいぐるみキャラクターを近くに移動させ、待ち時間の苦痛を少しでも忘れてもらうように配慮しているのです。

                                 (次へ)

〔問5〕 最も現実的なものと言ったらやはりお金でしょう。答えは、
値札を裏返しにしたりして、なるべくお金という現実に立ち帰らせないようにする、ということです。

                                 (次へ)

〔問6〕 答えは
600人です。5人1チームで約2haを担当、15分で1周し、2時間ごとに15分の休憩をおきます。この間に園内860カ所のゴミ箱も磨きます。

                                 (次へ)

〔問7〕 
ほうきを体から離すと、特に混んでいる時など、それに引っかかってけが人が出るおそれがあるからです。同じ理由で、アイスクリームが落ちたときもかがみこんで拭かずにクロス・タオル(ぞうきん)を下に落として足で拭き、最後もほうきを使ってぞうきんを取ります。

                                 (次へ)

〔問8〕 答えは
AとCです。これは簡単ですね。他にたとえばレストランのウエイトレスの応対でも「酒はないのか」「仕事の後つきあってほしい」などの質問にもある程度答えられるようにマニュアルができています。日本企業のマニュアルは「〜べからず」集が多いのですが、アメリカのものは「〜すべし」が多いのです。

                                 (次へ)

〔問9〕 答えは、
研修期間中は働かずにすみ、しかもアルバイト料ももらえるから、です。ディズニーランドの研修にはかなりのコストがかかっています。ディズニーランドを経営するオリエンタルランド社の人事部には、ユニバーシティ課という研修課があって、ここでアルバイトを含めた全従業員は、通常12時間(1日半)のオリエンテーションを聞きます。この中で「あなたは従業員ではなく、ショーを演出するキャスト、つまり出演者なのです」と教育されます。その後、各職種に分かれて実地教育となります(アトラクション関係2〜9日、カストーディアルや売り子1〜2日、コンピュータ操作関係3〜4週間)。

                                 (次へ)

〔問10〕 ディズニー会のメンバーは月1回、国内のディズニー商品の販売総代理店であるウォルト・ディズニープライズ社(本社:東京・六本木)に売り上げ報告書を提出しなければなりません。契約料は売上高の3%。同社の年間取り分は約40億円。それから逆算して答えはCの1350億円になります。無駄と知っていても買い物自体を楽しむ、これこそソフト経済時代の消費パターンと言えましょう。

                                 (次へ)

〔問11〕 遊園地で1人1万円以上のお金を使える状況は、80年代に入って実現したと考えられます。答えは、ちょっと難しい用語を使うと、可処分所得の増大ということになります。

※ これらの問題と答え・解説は高成田亨・粟田房穂著『ディズニーランドの経済学』(朝日文庫、1987年)をもとにつくり、また私自身がディズニーランドに行った際に確認したりして作成しました。 


現代社会メニューへ戻る

                             トップページへもどる