グリーン・ケミストリー調査委員会、平成13年度素材産業技術対策調査(循環型基礎素材産業構築対策調査)グリーン・ケミストリー調査報告書(平成13年度経済産業省調査委託報告書)、(49-113)2002.3 から一部抜粋

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目次

第二部 評価尺度の構築

第一章 評価手法の限界に関する一般的考察
 1. 評価手法の限界の必然性
 2. 環境負荷項目間のトレードオフの評価
 3. 市民への定量的データ公開について
 4. まとめ

第二章 LCAを用いた評価尺度に関して
 1. ISO-14040sのまとめ
  1.1 ISO-14040
  1.2 ISO-14041
  1.3 ISO-14043
 2. LCA実施の目的や範囲設定について
  2.1 LCAの目的と範囲設定
   2.1.1 目的・用途の適切な設定
   2.1.2 LCA実施時間の短縮と結果の正確さ
  2.2 プレLCAの実施
  2.3 範囲設定が不適切なケーススタディー
 3. インベントリについて
  3.1 LCIの簡易化と調査範囲の設定
   3.1.1 ライフサイクルの一部のステージを制限
   3.1.2 主系列からの深度を制限(depth設定)
   3.1.3 寄与度の低いプロセスを制限
   3.1.4 資本設備製造等の特定の要素の未考慮
   3.1.5 インベントリ調査範囲が不適切なケース
  3.2 原単位に関する考察
   3.2.1 地理的有効範囲について
   3.2.2 時間的有効範囲について
   3.2.3 文献・算出方式による違い
   3.2.4 積み上げ方式の原単位について
   3.2.5 産業連関方式の原単位について
   3.2.6 方式によらず共通する事柄について
   3.2.7 原単位の選択が不適切なケース
 4. インパクトアセスメントに関する考察
  4.1 LCIA検討の背景
  4.2 時間消費法によるインパクト係数の決定
  4.3 時間消費法を用いたインパクト係数算出手順
  4.4 「時間消費法」によるインパクト係数の設定方法およびその結果
  4.5 各種容器のLCA結果および考察
   4.5.1 容器間比較のLCI結果
   4.5.2 TCM-avを用いたLCIA結果
   4.5.3 他のインパクト係数を用いたLCIA結果
   4.5.4 LCIA結果に対する考察
  4.6 まとめ
 5. 不確実性分析に関する考察
  5.1 感度分析
  5.2 不確実性分析
  5.3 モンテカルロ法を利用した不確実性分析
  5.4 データ収集の省力化と不確実性評価の連携
  5.5 感度分析および不確実性評価手法の課題
  5.6 まとめ
 6. LCA手法に関するまとめ

  参考文献


第二部 評価尺度の構築

第一章 評価手法の限界に関する一般的考察
 環境への影響度を評価するには、様々な手法がある。環境影響評価(環境アセスメント)、製品(環境)アセスメント、環境パフォーマンス評価、リスクアセスメント、ライフサイクルエネルギ、ライフサイクルコスト、MIPS、ライフサイクルアセスメントなどの手法が使われている。環境問題は非常に多様かつ多面的であるため、いくつかの切り口で環境への影響を評価し、総合的に判断する必要が生じている。

1. 評価手法の限界の必然性
 ライフサイクルアセスメント(以下LCAと略す)は、製品あるいはサービスの製造、使用、廃棄のライフサイクルにおけるシナリオが一つに特定されたと仮定した時に、環境からのインプット総量、および環境へのアウトプット総量を算出する手法である。シナリオが特定できない場合は評価できないことから、例えば「生物多様性の評価」や「素材への材質表示」の影響などを評価することはできない。材質表示をすることで製品のリサイクル率がどの程度向上するのかがわかれば(つまりシナリオが特定できれば)、勿論LCAの評価対象になる。
また時間の概念を無視して環境影響の積算値だけに注目しているために、再生される資源の消費影響、あるいは拡散の速度や消失の速度が関係する環境負荷物質排出の影響を正確に評価することは難しい。例えば木材が再生される速度よりも消費される速度が小さければ環境負荷はゼロであり、水質汚濁物質は、閾値以下であれば環境改善効果があるものもある。
更に環境への排出が人口密集地なのかそれとも海上なのかの違いによって環境影響はまったく違った意味合いを持ってくるが、そのような位置情報も無視している(時間の概念、あるいは空間の概念を取り入れたLCAを推奨するグループもあるが概念提起の段階を出ていない)。

 しかし、このようなLCAに関する評価の限界は、環境を評価する手法として一般にもつ宿命といえる。例えば、環境影響評価、製品(環境)アセスメント、環境パフォーマンス評価は、定性的、あるいは半定量的にしか評価できないことから、環境改善効果などを継続的に評価することに難点がある。リスクアセスメントはLCAよりも厳格にシナリオを設定する必要があるために結果の信頼性はLCAよりも格段に高いと考えられるが、全く同じ理由から実施するために非常に労力を必要とし、結果が出るまで数年以上かかることもまれではない。したがって、時間がかかってでも評価することに意味があるような分野、例えば発ガン性の評価や重大な事故といった非常に影響が大きく、かつ考える項目数が比較的少ない用途にしか利用できない。

LCAに限らず、特定の評価要素を圧縮したり用途を限定したりすることで概念を単純化しているのだから、評価手法に限界が現れるの当然である。むやみに評価手法の限界を突破しようと試みるのではなく、それぞれの手法がもつ単純さを尊重すべきと考える。
すなわち、1)手法としての欠点を理解しつつ複数の手法を相補的に用いて総合的に判断すること、2)むやみに手法の欠点や限界を補正することを試みず、それぞれの手法の限界に近い分野における使用は避け、手法の単純明快さを大切にすることが肝要になる。

LCAの最大の利点は、製品やサービスのライフサイクル全般について、環境負荷の程度を単純に定量化できる点にある。「特定のライフステージに関して環境負荷を増大させる要素が、他のステージで環境負荷を低減させる」といったステージ間のトレードオフは、環境を考える上で頻繁に登場する課題であり、この分野にLCAが果たせる役割は大きい。また、シナリオを変化させることで結果がどのように変わるかが比較的簡単にシミュレーションでき、改善の程度を図る物差しとなる。従来の環境改善活動は思い込みや推測によるものが多かったが、数値化することを通して関係者間の意思疎通が図れ、人的、物的、金銭的資源を無駄なく集中することができる。
 反面、局地的かつ特定のライフサイクルのごく一部の局面で発生し、かつ比較的影響の大きな環境負荷を評価することは不得手である。例えば製品に含まれる有害物などは、ライフサイクルのどのステージで環境影響を及ぼすのか、あるいは物質量がどの程度であるのかが比較的明確であるため、LCAよりもリスクアセスメントで評価することが望ましい。

2. 環境負荷項目間のトレードオフの評価
 「複数の環境負荷項目(データ区分)間のトレードオフを解決したい」という潜在的需要は大きい。例えば原子力発電は二酸化炭素の排出が小さい一方で放射性物質を排出するが、火力発現は逆に二酸化炭素排出量は多いが放射性物質排出がほどんど排出しない。どちらの発電方式がより環境によいかを判断したい場合がある。
このような問題はどのような環境影響評価手法をもってしても科学的には判断不能である。「リンゴとミカンのどちらがおいしいか」を科学的に評価することに意味がないように、それは手法に起因する限界ではなく、なにを重要に考えるかの合意形成分野の課題である。環境負荷を低減したいのであれば、「どちらか」の環境負荷低減を優先することには意味は無く、「どちらも」低減させることが本筋である。
合意形成分野の課題であることが明白であるなら、次は如何に人智を集約するかに課題が移ることになるが、そのためには必要以上に科学的であることにこだわるべきではなく、「単純明快さ」と「理解を深める情報の提示方法」が重要になる。
コンジョイント法を用いて複数の環境負荷項目(データ区分)間の重み付けをした例を散見するが、回答者が環境問題に非常に詳しくなければ単純なコンジョイント法で有用な結果が得られるとは考えにくい。また環境問題の「有識者」は、自分の専門領域を重要視する傾向があることが指摘されており、単純に知識があればよいとは限らない。
一般市民を交えた陪審員制度に相当する活動、あるいはコンセンサス会議(14人前後の公募市民が情報を受け取って吟味→専門家パネルに質問→市民のみで提言作成)のような会議体を設定し、議論を通していわゆる「コンセンサス」を地道に蓄積していくことが現時点では最も有用だと考えられる。

3. 市民への定量的データ公開について
定量的な情報を一般市民に公開しても理解されない、あるいは受け入れられないのではないかとの懸念がよく指摘されるが、一般市民に対してLCAデータを公開し、その時の反応を調べた報告[1])がある。
定量的な情報として「普通米と無洗米」のLCI比較を用いた(無洗米が普通比べて環境負荷が小さい)。ある技術展で一般市民をランダムに二つのグループに分け、一方のグループ(「LCI」グループとする)に「水消費量、エネルギー消費量、固形廃棄物量などの9項目について、それぞれ精米1kgあたりの消費量・排出量を表に示し、「主要な環境負荷項目は無洗米の方が小さい」と解説した。他方のグループ(「総合」グループとする)には、「環境の観点から両者の最も大きな違いは水質汚濁物質の排出である・・(中略)・・無洗米は研ぎ汁(日本全体の排出量の数%を占める)がまったくでないため水質汚濁物質排出に著しい効果がある」といった解説とともに、日本国民一日一人あたりのBOD排出量割合の内訳を図を示した。説明文量は、共に読み上げ時間で40秒代とほぼ同じに設定した。
情報を提示する前に、「無洗米と普通米のどちらを選択するか」を10点満点で評価させ、また情報を提示した後にも同一設問に対して10点満点で評価させる。情報を提示してから回答が終了するまでの時間を計測し、また情報の提示前後で回答が変化した割合を調査した。
情報の読み上げ時間に対する回答時間の割合が0.7未満の回答を「速い」とし、逆に0.7以上の回答を「遅い」とした。LCIグループと総合グループのそれぞれについて、回答時間の遅速の割合を調べた結果を表 3−1に示す。

表 3−1 「LCI」、「総合」テーマ別の注目状況 (%)

LCI情報に対して回答が遅い人が52%、総合情報に対して回答が遅い人が32%となり、有意な差でLCI情報を提示したほうが総合情報を提示するよりも回答が遅くなることがわかった。LCI情報が総合情報よりも注目されたことを示すと考えられる。
次に、各情報ごとに回答の変化率を調べた結果を表 3−2に示す。LCIと総合の情報を提示することで、意見が61/62%程度とほとんど同じだったが、表 3−1の回答時間の遅速ごとにクロス集計表分析を行った。

表 3−2 テーマ別、時間別の意見変更状況 (%)

総合情報の場合は回答の遅速によって意見変更の割合が64/60%とあまり変化しないが、LCI情報の場合は回答の遅速によって76%/58%と有意な差があることがわかった。LCI情報に注目した人は、注目しなかった人に比べて意見を変更しやすくなると言える。つまりLCI情報に注目する人は総合的な情報より訴求効果が強く、注目しない人には総合的な情報よりも訴求効果が弱いことになる。
従来、定量的な情報は一般市民には理解されないのではないかとの見解があったが、全ての市民が同一反応を示すとは限らず、特定のグループについてはLCAなどの定量的な情報が一般的な情報よりも訴求効果が大きくなることを示唆している。一般市民に情報を公開する場合は、両方を併記することが望ましいだろう。

4. まとめ
環境影響を評価する場合は、複数の手法について1)何が可能で、何が難しいのかを明確にし、2)利用が難しい部分を避けて手法の単純さを最大限利用することが重要であり、また3)環境の評価をする際には一つの指標だけではなくいくつかの評価手法を相補的・多面的に利用することが望ましい。
 更に、4)環境負荷項目(データ区分)間の重み付けなどを決めるための社会的合意形成手法を早期に確立させ、5)決定事例の公開と議論の蓄積を図ることが望まれる。

第二章 LCAを用いた評価尺度に関して
 本章では環境影響評価手法の一つであるLCAを中心に環境影響の評価手法について考察する。第一節はISO-14040シリーズのまとめ、第二節はLCAの実施の目的や範囲を明確化などの事前準備について、第三節はインベントリについて、第四節はインパクトアセスメントに関して、第五節は不確実性分析に関して考察する。第六節はLCA手法全般についてふれる。
LCAを構成する様々な要素は互いに密接に関連していて本来なら不可分だが、便宜的に分割して考察を加えている。したがって場合によっては他節の内容が混在し、内容が重複することがあるがその旨理解していただきたい。

1. ISO-14040sのまとめ
LCAに関する考察を進めるうえで、ISO-14040シリーズの規格は参考になる部分が多い。ISO-14040 )、同14041 )、同14043 )について簡単にまとめた後、次節以降でこれら規格を補足するか、あるいはこれら規則に考慮されていない部分を中心に考察する。ちなみに、ISO14042は引用しなかった。
(中略)

2. LCA実施の目的や範囲設定について
従来LCAは、製品のLCA概略を知ることやLCAそのものを検討する「LCA研究」や「研究・啓蒙活動資料」を作成するために実施されることが多かった。これらの場合はLCA実施時間短縮や結果の正確さはそれほど必要とならず、LCAの目的や範囲設定にあまりこだわる必要が無い。
しかし今後は製品設計時における改善点の抽出や、商品として上市する前に実施する製品アセスメントの一環として利用が進んでいくことが考えられる。さらに、消費者への情報公開の一環として、あるいは部材を調達する際に取引先の選別を行うグリーン調達の一環としても利用されるだろう。また、将来的には自治体や国レベルの政策決定のための重要な判断ツールとなる可能性もある。
 重要な目的であるほど結果の信頼性、実施時間の短縮などのLCA実施要件が厳しくなり、目的と範囲設定の明確化が必要になる。

表 2−1 LCAの目的と、最も重要な実施・品質要件(例)

LCAの目的

特徴

最も重要な実施・品質要件

対処例

名義尺度的評点(製品アセスメン、タイプVラベルど)

半定量的用途

再現性、原単位・手法の透明性、LCA実施時間の短縮

カットオフなどを利用した簡便化、オーソライズされた原単位・手法

シミュレーショ(改善点の抽出など)

実施する前に結果・結論が全く不明

システムの全体像の把握、シンプルな調査、適切な技術的有効範囲設定

プレLCAの実施、産業連関方式原単位の利用(必ずしも高精度不要)

意思決定(グリーン調達、設計・プロセス改善など)

LCA実施者と意思決定者が異なる

目的・用途の適切な設定、結論の曖昧性の把握、代表性の確保

適切な実施手順(LCA開始時の意思統一)、産業連関方式の利用、不確実性分析の利用

政策決定、環境ラベル、比較広告など

社会影響大

目的・用途の中立性、用いたデータ・手法の透明性

クリティカルレビュー(報告書作成)、不確実性分析の利用

2.1 LCAの目的と範囲設定
LCAは、目的次第で実施方法や結果の利用の仕方が変わる。議論を進めるためには、どのようなLCAの目的に対しての議論なのかを明確にする必要がある。ISOは比較の有無や利用形態によって対処法を大別しているが、理解を深めるために表 2−1に示すように目的を細分化し、それぞれに最も重視する実施・品質要件および対処例をまとめた。
実施・品質要件を全てを満足ることは第一章に述べたように難しく、場合によっては他を犠牲にしてでも重要視しなければならない「実施・品質要件」がある。

製品アセスメントやタイプVのような用途(名義尺度的な評点化)の場合、恣意的に結果が変わらず、LCA評価実施期間がなるべく短いことが望まれる。
不明瞭な部分をなるべく避け、LCA算出者によらずに常に同じ結果を得るような再現性や透明性を重視する。使用するデータの高い精度や緻密な仮説を要求することは、透明性の観点からむしろ逆効果になることがある。例えば、製品アセスメントは設計者の環境配慮を継続的に向上させることを目的に実施されるが、全機種と比べてどの程度よくなったかがわかればよく、LCA結果の絶対値の正しさよりも実施の簡便さが求められる。実施すること自体に意味があるタイプVラベルなども、材料の重量から一義的に製造段階を推計するような非常に簡単な算出方法を用いる方が結果検証の観点から都合が良い。
評点化の場合は、結論を得るまでの期間が早ければ早いほど良い。実施時間の短縮(2.1.2で詳細に検討)はどのような目的でも重要だが、時間の経過と共に改善する余地(設計変更できる自由度)が減少するため、ある程度のデータ精度は犠牲にしてでも時間短縮を必要とする。
評点化の場合は、名義尺度的な用途であると割り切ることがポイントとなる。なるべく単純に実施(不明瞭部分はゼロデータとするなど)し、オーソライズされた原単位を用い、システム境界、データ品質、配分手順、カットオフ基準などのLCA実施に必要な諸条件を予め明文化しておくことが望ましい。

LCAの大きな用途の一つが、LCAを用いた環境負荷のシミュレーションである。環境負荷がどのステージから発生しているのかを特定することや、設計変更やプロセス変更が全体に対してどの程度影響があるのか(したがってその変更が効果が大きいのか小さいのか)を評価することを目的とする。実際には存在しない設計変更・プロセス改善に対してLCA行うため、どのようなデータ区分(CO2、固形廃棄物など)に注目すべきか、あるはどのようなバウンダリを考慮すればよいかなどLCAを算出するための諸条件を当初から設定できない。なるべくシンプルな「プレLCA」を何度か繰り返しつつ全体像を明確化する。
必要なデータ品質要件は、技術的有効範囲、代表性(標本適性)、時間的有効範囲、地理的有効範囲である。全く新規なシステムと旧来システムを比較する場合、旧来システムは技術的な蓄積あるために環境シミュレーション上有利になる。このような技術的有効範囲を考慮していないLCA事例が散見されるが、「将来的な技術的蓄積を仮定した新規システム」も同時に評価するが望まれる。シミュレーションの場合は、個々のデータ精度よりも代表性を初めとするその他の品質要件が必要となるため、産業連関方式の原単位を用いることが望まれる。

なんらかの意思決定にLCAを使う場合、目的・用途の適切な設定、結論の曖昧さの把握、代表性の確保などが必要である。
意思決定者はLCAに関する知識に乏しいため、適切なコミュニケーションを怠ると、LCAを誤った用途に利用したりLCAの曖昧さを(意図するか否かにかかわらず)悪用する可能性がある。LCA実施初期にできるだけ適切に処置する必要がある。2.1.1で詳細に考察する。
意思決定者は、多くの曖昧な情報から日々意思決定を行なっている。LCAの結論の曖昧さがどの程度かを的確に伝えることは、LCAの結論と同程度に重要である。特に意思決定する上で結論が反転する可能性がどの程度かを把握しておくことが望ましい。そのためには、不確実性分析(5.3で詳細に考察する)とライフサイクルコスト(LCC:一生の間に発生したコストを積算する手法)を利用すると良い。LCCの結果をLCAと同時に提出することで、意思決定者の理解を深めることができる。
用いるデータは、精度よりも代表性を始めとするデータ品質要件が重要である。安易なカットオフを避け、産業連関方式の原単位を用いると良い(3.1.2参照)。

政策決定や環境ラベルの基準策定、および比較広告などにLCAを用いる場合は、利害関係者による圧力によってLCAの前提・算出仮定・結果・結論などがゆがめられる可能性が大きい。
現状ではISOで言及される詳細な報告書およびクリティカルレビューの実施といった間接的な検討以上に有効な対処方法が無い。現状のLCA監査はシステム監査の要素が強く、データ、結果、結論の信頼性を直接的に保障できない。監査時間が長いため、比較的短期間に結論が必要な場合は役に立たない。技術的課題への対処方法の合意が得られるまでは、このような分野への摘要を避けることが望ましい。

2.1.1 目的・用途の適切な設定
 意識決定などにLCAを利用する場合、複数の利害関係者が存在することがある。便宜的にLCA算出者、意思決定者、現場担当者とわけて図 2−1に示す。LCAの曖昧さをコミュニケーションすることが難しいため、LCA実施初期に適切な処置が望まれる。


図 2−1 意思決定にかかわるLCA算出者、意思決定者、現場担当者のワークフロー

LCAを実施する上で合意が必要なのが、1)「LCAを実施しても有意義な結果が得られるとは限らない」こと、2)LCAは手順が非常に煩雑で調査にある程度の期間を必要とすること、3)LCAはいわゆる「万能」ではないこと、4)結果に曖昧さがあるため小さな差を過大評価しないことことなどだが、不完全さを強調しすぎてLCA実施のモチベーションを下げないように注意が必要である。
意思決定者は都合がよい結論を導き出すように圧力をかけることが往々にしてある。比較的初期の段階でプレLCAの結果を提示することで意思決定者の真の狙いを見極め、場合によっては「現状のLCAの技術レベルでは結論は出ない」として中断する道を残しておく。結論を外部公表しない場合でも、不用意な結果の操作はLCAに対する不信感を生み、その後のLCA実施に多大な影響を与える。
現場担当者へ調査を依頼する際のポイントは、調査の孫受け、ひ孫受けへの対処である。調査の意図を明確に伝えることと、再調査を行う可能性があることを伝え、できれば意思決定者から何らかのサポートする旨をできるだけ初期に取り付けておくことが望ましい。

 LCA実施上におけるコミュニケーション例を図 2−1に沿って説明する。1)まず最初に意思決定者から調査依頼を受けたら、2)LCA実施の目的/用途/調査範囲(簡単なフロー図の作成)/調査する環境負荷項目(データ区分)/機能単位などを仮設定するための会議を開催する。被調査対象者(現場担当者)の代表にも同席を依頼する。会議では、図 2−1のワークフローに基づいてLCAを進めること、被調査対象者(現場担当者)の一人あるいは数人に対して調査に同意してもらうこと(意思決定者からのサポートを取り付けること)、LCAを実施しても結論が得られない可能性があることと、プレ調査をしてみて調査が目的に対して妥当かどうかを判断し、LCAを継続実施しない場合があることなどを伝える。また、データの精度が必要であるほど、結論を得るまでの期間がより多く必要になることを説明し、どの程度の調査を行うのかの落とし所を探る。
目的や機能単位等を判断してLCAを実施することが妥当であると判断できれば、3)調査開始を意思決定者に連絡し、4)被調査対象者(現場担当者)のサポート(調査任命など)を依頼し、5)調査手順設定や詳細なフロー図作成を行う。6)調査は、その意図を明確化するために、調査依頼の文書化、回答の文書化(再調査などに利用することがある)に努める。依頼文書と回答文書はナンバリングして保管する。調査協力者とのやり取りで、例えばこのデータは古いとか、特定の理由で曖昧さがあるとかいった重要な情報が含まれる場合があるため、電子メールなどを使ってできるだけ文書化することが望ましい。調査の際には、調査値の信頼区間の把握を依頼する。数学的に厳密なデータは無くても、最大どの程度か、最小どの程度かといったことは把握していることが多い。経済的なインプット/アウトプットも同時に調査し、できればLCCも算出する。プロセスやインプットアウトプットの脱漏ミスを発見しやすく、また調査協力者とコミュニケーションが計りやすくなる。調査が進むにつれて、調査方法の変更や、フロー図の変更が必要になるが、当初の目的などと照らし合わせ、場合によっては再調査を行う。
結果がまとまったら7)中間報告をし、8)結論案の調整を行なう。結論案を補強するために、個々のデータや仮定の感度を算出し、感度が大きなデータあるいはプロセスの調整(プロセス分割あるいは再調査)を行う。目的を変更することで、データ欠如などの問題に対処できることもある。9)結論に関して意思決定者と調整し、報告書を作成してLCAを完了する。
LCAデータを公表する際に、結果/結論を報告書を読む人が誤解しない表現にする等の適切な処置が必要である。そのために感度分析・不確実性分析結果を公表し、いくつかの重要な要素については結論が不利になるように仮設定した時にどの程度結果が変動するかを示すことが望ましい。

2.1.2 LCA実施時間の短縮と結果の正確さ
LCAの目的によっては、LCA実施時間の制約や結果の正確さが必要となる。「LCA実施時間の短縮」と「結果の正確さ」はいわゆるトレードオフの関係にある。両者の要求度の違いでLCAの目的を分類した概念図を図 2−2に示す。


図 2−2 実施時間短縮の要求度と正確さ要求度の強弱でLCA目的を分類した概念図

LCAの中で最も手間がかかる要素の一つは、算出の誤りや不適切な部分を修正する過程である。LCAの目的、調査範囲、およびプロセスの変更に伴なう手直しの手間も大きい。LCAの算出の過程は「プログラミング」とよく似ているが、プログラム修正過程(デバッグ過程)と同様な対処方法が必要となる。
1) LCAを算出するための市販のソフトはブラックボックス部分があるため、LCA算出に不慣れな段階で利用すると誤りなどに気づきにくくなる。できるだけ一般の表計算ソフトなどを利用することが望ましい。
2) 「算出に必要な定数部分」と「定数から導かれる変数の部分」に分離することが望ましい。LCAの計算は常に「定数部分」から参照(リンク)する形にすれば、定数が変更されることによって変数部分が自動的に変更される。本来変数であるべき部分を手計算などで定数扱いにしてしまうと、変数に含まれる定数部分の変更時にすべての定数扱い部分を変更する必要が生じる。手間がかかるだけでなくミスを誘発する原因となる。
3) 定数部分は、単位、定数の簡単な説明を併記する。感度分析用に定数の最大値および最小値を併記できるようにしておくことが望ましい。
4) データを聞き取り調査する場合、「値が大きく振れるとしたら、どの程度大きくなるか(最大値)、またどの程度小さくなるか(最小値)」を一緒に調査することが望ましい。データの成り立ちに関する理解が深まり、間接的にデータの信頼性が向上する。最大値、最小値は不確実性分析でも利用する(5.3参考)。
5) 算出の過程で疑問が生じた場合は、メモを付記したり、データにマーキング(テキストを赤色に換えるなど)して後で識別できるようにする。感度分析の結果、解決が望ましい疑問点を抽出する場合に使用する。
6) LCA算出に必要な定数や仮定は、感度分析を行って重要度を決定し、重要な要素から詳細に検討する。感度分析については後述する(5.1参照)。
7) LCAと同時にライフサイクルコストを調査することが望ましい。経済コストは直感的に把握しやすいため、プロセスや入出力の脱漏や異常値を発見しやすい。LCA結果とLCC結果の比較(プロセス比較、ステージ比較など)から誤りを発見することもある。

2.2 プレLCAの実施
 LCAの目的が評点化(表 2−1参照)以外の場合は、LCAを実施する前に実施に必要な多くの仮定を準備することはできない。どのステージにどのような環境負荷があるのか、インプット/アウトプット量はどの程度か、LCAを実施する上での障害や課題はなにかといったLCA概略を調べること、すなわち「プレLCA」を実施することが必要になる。
 多くのLCA事例を見ると、いくつかの環境負荷項目(データ区分)間に相関が認められる。CO2排出量はエネルギ消費に伴って排出されることが多く、CO2排出量とエネルギ消費量は強い相関がある。CO2、NOx、SOx排出量も同様の理由により比較的相関があると考えられ、CO2排出量をエネルギー、NOx、SOxの代表的な指標と考えることは可能である。ただし、多量に特定排出物が出るプロセスが少なくとも主系列に存在する場合はその限りでない(例えば非鉄金属精練は主要なSOx排出源)。
 あらゆる経済活動にはエネルギ消費(CO2排出)が考えられる為、他の環境負荷項目、例えば水圏排出物及び固形廃棄物とCO2排出量とに弱い相関があると考えられないことはない。しかし、オゾン層破壊物質等のごく微量で大きな環境負荷を与え、かつ排出源が限られている環境負荷項目は、CO2排出量とほとんど相関がない。特に、これらを排出するプロセスが主系列等にある場合は、CO2排出量等だけで全てを代表することは難しい。
 プレLCAで考慮する環境負荷項目は、CO2排出量(またはエネルギー消費量)、固形廃棄物量をメインにし、その他の環境負荷項目も重大だと思われる範囲で調査する。想定外の¥に関しても、排出や消費が多いと予想されるプロセスの概算を指摘しておくことで間接的に重大な環境負荷が無いことの傍証になりうる。

調査範囲はできるだけ広く取り、データの確かさよりも代表性を重視する。調査は無駄にならないようにできるだけ簡単にし、信頼性が高い積み上げ方式原単位がなければ産業連関方式原単位を用いる。
日本国内のLCAに関しては、産業連関方式原単位を用いてカットオフを極力避ければ、調査範囲の設定はあまり問題にならないと考えれられる。LCAの全体像を把握することが目的なので、インパクトアセスメントや不確実性分析は、とりあえず実施しなくてもよいだろう。

機能単位の設定は調査方法や算出方式に影響するため、できるだけLCA実施初期に決定することが望ましい。プレLCAの目的の一つは、どのような機能単位を用いればLCAの目的に適合するかを決定することにある。
例えば、複写機のLCAを考えると複写機一台の環境負荷は用紙の影響が最も大きい。一方、紙に複写することが複写機の用途だと考えると、複写一枚当たりの環境負荷を考えることもできる。その場合は複写機に両面機能があるか無いかの比較などができなくなり、環境負荷の少ない複写機を開発する立場からすると望ましくない。どのような機能単位が望ましいかはLCAの目的に依存する。

2.3 範囲設定が不適切なケーススタディー
1990年前後に、布おむつと紙おむつに関する複数のLCA結果が公開された。エネルギー消費、水使用、水圏排出、大気圏排出、固形廃棄物の5項目について検討されたが、例えばエネルギー消費量は10倍以上の開きがある(図 2−3参照)ことがわかった[5])。


図 2−3 エネルギー消費量比(布オムツ/紙おむつ)(文献5から抜粋)

結果が異なる主な理由は調査範囲の設定の違いである。Bastは洗剤生産工程、洗濯工程、発電工程のみを考慮し、LentzはBastの検討に包装材料を加え、FranklinはLentzの検討に原油精製、コットン製造、化学物質製造、下水処理などを加えている。

日本における布オムツと紙おむつのLCA比較(試算)を行なった。検討の結果、Franklinの検討に幾つかのプロセスを追加した。調査範囲を図 2−4に示す。主な追加部分は、洗濯に使用する水の上水処理過程と幼児の尿の廃水処理である。欧米とは算出の仮定が幾つか異なる(例えば欧米では布おむつの洗濯にお湯を使うなど)ため、日本のケースと単純には比較できないが、現段階では両者の差は誤差範囲内と考えられ、「紙オムツと布オムツはどちらが良いとははっきりいえない」との結論になった。


図 2−4 布オムツと紙おむつのLCA比較のための調査範囲

表 2−2 布オムツのLCE結果(幼児2年間:試算結果)

プロセス

Mcal

割合(%)

累積(%)

備考

洗剤製造

洗濯(電力)

販売

布おむつ製造

洗濯下水処理

上水処理

尿下水処理

15

199

202

89

53

177

10

2

27

27

12

7

24

1

2

29

56

68

75

99

100

 

Bast

Lentz

 

Franklin

745

100

表 2−2に布おむつの各プロセスごとのライフサイクルエネルギ(LCE)を示す。Bast、Lentz、およびFranklinの各調査が考慮していた範囲を、日本のエネルギ計算結果を元に大雑把に概算すると、Bastで約3割、Lentzで約6割、Franklinで約8割となる。調査範囲設定がLCAの結果に多大な影響を与えうることが理解できる

3. インベントリについて
3.1 LCIの簡易化と調査範囲の設定
インベントリにおいて考察が必要な要素の一つが、「LCAを簡易に実施し、かつ曖昧さを加味しながら有用な情報を得ること」である。そのためには、LCA実施の目的や調査範囲を調整するなどの事前準備を入念に行うこと、適切なバックグラウンドデータを利用すること、感度分析や不確実性分析を利用して曖昧さをコントロールすることなどが必要になる。
表 3−1にインベントリを簡易に実施する観点から調査範囲(バウンダリ)の種類をまとめた。調査範囲とは、LCAの目的を達成するために考慮する範囲の事で、ライフサイクルステージの設定(breadthの設定:資源採掘→素材製造→部品製造→製品製造→販売・輸送→使用→廃棄・リサイクルの各ステージのうち何を考慮するかの設定)、主系列からの深度の設定(depthの設定)、資本設備/労働力等を考慮するか否か等がある。
 バウンダリは、考えられる範囲で最も広く取ることが望ましい。環境負荷が大きいプロセスの見落としを防ぐためだが、一方、バウンダリを広くとるほど考慮すべきプロセス数が指数級数的に増大するため、現実的にはある範囲で制限しなければならない。

表 3−1 制限を加える調査範囲の種類と摘要例

制限を加える調査範囲

理想的な摘要例

実際の適応例

1)

ライフサイクルの一部のステージ (breadth設定)

資源採掘→素材製造→部品製造→製品製造→販売・輸送→使用→廃棄・リサイクル考慮

輸入以前のステージは考慮しない

2)

主系列からの深度 (depth設定)

深度5前後までを考慮(感度分析で深度数を決定)

固形廃棄物、水圏排出物質は主系列のみ考慮

3)

寄与度の低いプロセス

環境負荷寄与度が0.1%程度以上を考慮(感度分析で割合を決定)

エネルギ消費量が全体の1%以下のプロセスは考慮しない(カットオフ)

4)

資本設備製造、労働力など

製造設備の製造〜廃棄の影響や、労働力に関する環境影響を考慮

資本設備、労働力は考慮しない

3.1.1 ライフサイクルの一部のステージを制限
LCAを実施する際に、一部のライフサイクルステージをカットすることがしばしばある。顕著な例では、最も環境影響があると考えられるステージだけを考慮する「ボトルネックLCA」や、製品・プロセスの改善効果を調べる際に共通するライフステージを省略する方法である。
ライフサイクルステージをカットした場合は、除外したステージからの、あるいは除外したステージへの環境負荷の波及効果がわからないことが課題となる。そもそも全てのステージを考慮しない場合は、「ライフサイクル」を「アセスメント」していないため、LCAとは言わないとの意見もある 。
 産業連関方式の原単位は、輸入以前のステージを考慮していない場合が多い。ゴム、アルミニウム、上質紙などは、日本における負荷よりも海外における環境負荷が大きいため、感度分析などを実施して影響を把握しておくことが望ましい。
 共通するライフステージをカットして複数のオプション間の環境負荷を比較する場合、環境負荷の比には意味が無いので注意する。

3.1.2 主系列からの深度を制限(depth設定)
 米国環境保護庁(EPA)が作成したインベントリガイドライン[6])は、固形石鹸を例として、バウンダリ制限例を紹介している。石鹸を製造する為に直接必要な水酸化ナトリウムの投入(主系列と定義する)に対して、水酸化ナトリウムを製造する為に必要な炭酸ナトリウム(主系列から深度2のレベルと定義する)は考慮するが、炭酸ナトリウムを製造するために必要な塩化アンモニウム(同深度3と定義する)以降の波及効果は考慮しないといったような方法で、これを「ワンステップ後退ルール」と命名している。この場合、発生する誤差は、データの精度を考えれば無視できるとしている。
特にLCAが企業内部で利用する場合、当該企業が環境負荷低減措置をとり得ない(責任が他企業にある)範囲まで考えることに意味が無いのではないかとの考え方から、EPAと同様な処置をすることがよく見受けられる。

考慮している深度が結果にどれだけ影響しているかを吉岡ら[7])、本藤ら[8])が調べている。吉岡ら(表 2−1参照)によると、乗用車一生産単位(100万円単位)あたりのCO2排出量は、波及効果も含めて3,241kg-Cである(1885年産業連関分析による)。生産現場で直接消費されたエネルギによるCO2排出量は105kg-C(全体の3%)。乗用車を生産するために必要な素材生産までのCO2排出量は累計383kg-C(同12%)。素材を生産するための中間財までは累計576kgとなる(同18%)。ここまでを積み上げ方式で計算すると仮定すると、440X440=193,600個のプロセスの計算が必要となるが、仮に440x440プロセスを考慮してもCO2排出全体の18%しかカバーしていない。

表 3−2 乗用車100万円あたりのCO2排出量波及効果(吉岡ら7)

深度

kg-C

累計(%)

1

105

3

2

383

12

3

576

18

3,241

100

乗用車のように非常に多くの産業に波及する製品の場合は深度を非常に深くとる必要があり、産業連関分析と同等の作業を積み上げ方式で実施することは事実上不可能となる。このため、なんからの簡易手法の導入が必要になるが、不適切な簡易手法の導入は不確かな結果を生む。

LCAを実施する目的が表 2−1の評点化以外の場合は、複雑な製品あるいは部品などに対して積み上げ方式の原単位を安易に用いないほうが良い。少なくともバックグラウンドデータは、産業連関方式を利用することが望ましい。
 積み上げ方式でLCAを実施した場合は、結果/結論の公表時にどの段階まで深度を考慮したのかを明記し(例えば、生物系燃焼を考慮していない、不可逆的森林伐採の効果は見ていない等)、後日検討が可能なようにしておくこと等が望まれる。

3.1.3 寄与度の低いプロセスを制限
 調査範囲の幅あるいは深度を一律に制限する方法は、特定のステージの比較的深いプロセスに大きな影響がある場合はあまり効果的でない。そこであるプロセスの負荷(指標)が一定の閾値以下の場合は、それ以降(以前)およびそれ以下のプロセスをカットする方法がある。
先に示したEPAガイドラインは「1%ルール」を紹介している。物質質量(あるいはコスト)を環境負荷量を推定する指標として用い、物質質量(コスト)が全システムの1%以下の場合はそれ以降(以前)をカットするというルールである。ISOでも、重量やエネルギを指標としてカットオフ基準を設定することを推奨している。
 この方法の課題は、1)1%以下を除外することで発生する誤差総量が不明なこと、2)環境負荷を推測するための指標の適切さが不明なことである。そのため、産業連関方式等による「プレLCA」を利用し、上記質量のかわりに産業連関方式原単位を用いることが望ましい。CO2排出量が少ない一方で環境負荷が大きいプロセスも存在しうるが、物質質量を指標とした場合に比べれば、格段の精度向上が期待できる。

従来の欧米で実施されたLCAは、素材が数点〜数十点程度の非常に単純な製品を対象としていることが多かった。そのため、カットオフを利用してもそのことによる誤差があまり発生しなかったと考えられる。しかし、深度の項目で言及したように、再現性が重要な要素となる目的(表 2−1の評点化)以外はカットオフを実施することに意味が無い(曖昧さを避けるために曖昧な部分を削除するやり方は致命的な誤りになりかねない)。システム境界を明確に表現するよりも、結果の信頼性を向上させることに重きがある場合は、考慮したすべてのプロセスを算出に加えるべきと考える。

3.1.4 資本設備製造等の特定の要素の未考慮
 従来のLCA事例は、資本設備の製造−廃棄時の環境負荷を考慮していないことが多い。例えば、固形石鹸を裁断する設備を考えると、裁断設備の製造時のインプット、アウトプットは、「この機械で製造される膨大な固形石鹸の量を考えると微量だ6)」との考え方がある。また、電力発電の場合、生産設備の建設に伴って排出するCO2排出量は、生産活動での発生量に比較して小さい [9])との報告もある。
 しかし、例えばプラスチックの再生設備のように、「生産量が比較的少ない場合は生産設備の環境負荷を考慮した方が望ましい[10])」との事例報告もあることから、なるべく考慮することが望ましい。考慮しない場合は、産業連関方式などを用いて感度分析等を行ない、LCAの結論に影響しない事を確かめておくことが望ましい。

 労働力をLCAで考慮すべきか否かは、現在のところ統一した見解は得られていない。ただ、労働者の通勤や、残業による事業所電力の消費等、およびその労働が存在しなければ発生しなかっただろう環境負荷要因もいくつか挙げることができるため、全く考慮しないことには問題があると考えられる。
エネルギやCO2排出量は比較的影響が小さいと考えられる10)が、水質汚濁物質などの影響が大きくなることが予想されるため、考慮しないのであれば労働力がLCA全体の結果に影響していないことを確認しておくことが望ましい。

3.1.5 インベントリ調査範囲が不適切なケース
エリックらはワークステーション・パソコンのLCAに関する報告を比較検討し、製造のステージの結果に著しい違いがあることを指摘している [11])。MCC[12])によって1993年に報告されたワークステーションの場合、製造するのに要するエネルギは8300MJであった。一方、宮本ら[13])が1998に報告したディスクトップパソコンの場合、同1097MJだった。アトランティックコンサルティングとIPU[14])によって1998年に報告されたデスクトップパソコンの場合、同3630MJだった。
エリックらは、エネルギ消費が異なる理由の一つとして半導体の算出方法の違いを上げている。例えば宮本らの場合は、チップの製造エネルギを国全体における半導体セクターのエネルギ消費量を総生産個数で割り、これとコンピュータ一台中のデバイス個数をかけることによって求めている。その結果、導体製造のエネルギは73MJ/個となる。一方、MCCの場合はパソコンの半導体に使われる面積から算出し、1030MJ/個となった。エリックらは、ダイオードのような小さいが数多く使われる半導体と数個程度しか使われない高度な集積回路を区別せず個数按分していることなどから、宮本らの計算が過小評価の可能性があるとしている。按分方法のちがいによって説明できる部分は1000MJ/7000MJ分だけであり他の部分は不明であるとしている。
比較的複雑な工程を経て作られる部品に対して、部品の最終組立工程で発生するフロー部分のみを考慮する積み上げ事例がよく見受けられる。上記の半導体を例に取ると、半導体セクターより以前の工程(ウエハ・薬品製造など)が省かれており、また半導体セクターのストック部分は考慮されていない。按分方法の違いよりも、安易なカットオフによって考慮する調査範囲が異なっていることが大きな差を生んだ原因だと考えられる。

3.2 原単位に関する考察
 インベントリ分析を行う上で様々な原単位を利用するが、原単位が持つ特徴や曖昧さを理解しておく必要がある。
電力の原単位は、最もよく検討されている原単位の一つだが、代表的なデータ品質要件である1) 時間的有効範囲(データ収集期間等)、2) 地理的有効範囲(国単位等)、3) データ源による違いを見る。

3.2.1 地理的有効範囲について
 電力のCO2排出原単位の国別の違いをOECD[15])、本藤ら[16])が推計している。報告の一部を図 3−1に引用するが、1)発電所から排出される直接分だけが計上、2)発電燃料の生産や輸送に伴う排出は計上していない、3)ストック部分を考慮していない、4)発電方式が各国で異なることなどから最大10倍近い差がある(原子力発電のウラン濃縮などや、発電設備建築・廃棄の影響をすべて加味すればその差は小さくなると思われる)。
電力原単位に見るように、国家レベルの違いはインフラの違いを大きく反映するため、各国ごとに主要な原単位を組替える必要があることが理解できる。


図 3−1 国別の電力生産に関するCO2排出原単位

3.2.2 時間的有効範囲について
日本における電力のCO2排出原単位は、毎年発電構成比率が変動していることなどから年度によって大きく変化する。一般電力事業者のCO2排出原単位の推移を図 3−2に示す(国内施行令排出係数一覧[17])から引用)。10年で約二割の違いがある。
出展が複数の原単位を利用する場合は、算出時期をできるだけそろえることが望ましいことが理解できる。


図 3−2 一般電気事業者からの電力排出原単位

3.2.3 文献・算出方式による違い
原単位は文献によって比較的大きな違いが認められる。日本国内の電力に関するCO2排出原単位を文献の発表の年月で便宜的にプロットしたものを図 3−3に示す。ちなみに産業連関方式は算出の根拠となった産業連関表の年度でプロットした。産業連関方式原単位に限定すれば、約二割程度のばらつきが認められるが、積み上げ方式の場合は約2倍のばらつきが認められる。


図 3−3 国内電力のCO2排出原単位(文献別)

電力の固形廃棄物量原単位は、CO2排出量ほど検討されていないが、幾つかの文献の値を表 3−3にまとめた。国内某DBの値は、大気中に排出している固形物総量であるため、厳密な意味での固形廃棄物量ではない。この文献を引用している別の国内非公開DBは、固形廃棄物原単位として更に一桁小さな値を提示しているが、大気圏排出物を固形廃棄物量だと取り違えているのではないかと思われる。国内T電力会社は、原子力発電の割合が多いため、比較的固形廃棄物量が小さくなるものと考えられる。

表 3−3 国内電力の固形廃棄物原単位(文献別)

文献

(g/kWh)

国内某DB*

0.01

国内T電力会社

0.3

石炭灰から試算

2

欧州某ソフト

2

国内某産連

14

*参考値:大気固形排出物質



電力の固形廃棄物は石炭灰由来が多いと推測される。石炭灰の発生量は99年で760万トンあり、そのうち2割が埋め立てられている[18])ことから、99年の年間電力量(798,975x106kWh:全国の一般電気事業者供給電力量(需要端)17)から試算すると、1.9g/kWhとなる。この値は欧州某ソフトの値と比較的近かった。国内某産業連関方式原単位は、汚泥の水分が含まれた状態でカウントしている可能性があるため、値が大きめに出ている可能性がある。
固形廃棄物は2〜4桁オーダーの違いがあったが、一般的にエネルギー、CO2以外の環境負荷項目(データ区分)は固形廃棄物と同様に桁オーダーの違いが認められる。積み上げ方式原単位の文献値のばらつきは、算出法が記載されていないことが多いため原因特定が難しい。

3.2.4 積み上げ方式の原単位について
積み上げ方式原単位は文献による値のばらつきが大きいが、複数の文献から原単位を引用して比較検討することでばらつきの程度を把握し[19])、さらに不確実性分析に利用することが望まれる。
現在、ソフトウェア/文献などで公表されている積み上げ方式原単位は、主なエネルギ系と主要素材が中心であり、項目数もあまり多くない。水関係の原単位は特に不足している。
LCAを普及させるためには、公的なデータベース構築が最も重要だとされた時期があるが、LCAの目的として評点化(表 2−1)を想定していたためと考えられる。
今後のデータベースは、信頼性をいかに確保するかが重要になる。それぞれの原単位について、3.2.1〜3.2.3で示したような複数の原単位郡を用意し、それぞれどのようの算出されたのかを文献等の形で参照できるようにすることが望ましい。

3.2.5 産業連関方式の原単位について
 日本の産業連関表は、各省庁共同で国内産業間の取引き量(金額ベース)を5年ごとに調査編纂しているもので、経済計画の策定や経済の分析、予測等に利用されている。この産業連関表を各種の産業統計(例えば、「石油等消費構造統計表」)と組み合わせることで、環境負荷物質排出量の「原単位」(単位金額あるいは単位質量あたりの資源消費量/環境排出物量)を算出することができる。エネルギー消費量、またはCO2排出量などは、国内消費量または排出量が統計値が明確なため、産業連関方式原単位の代表性が高くなる。
また、全ての(合法的な)産業を網羅しているために、国内産業の全てのライフステージ、および無限の深さを考慮することが可能である。産業連関方式原単位は、現状において最も信頼おけるデータベースの一つと考えられる。

原単位を算出する上で(あるいは使用するうえで)考慮すべき項目を箇条書きにする。
1) 現状発表されているいくつかの原単位群は、互いに前提が異なっていたり、場合によっては前提が誤っていると思われるものがあるが、すべての原単位が同一前提で処理されているために、問題点を発見しやすいメリットがある。
2) 全ての産業の原単位を同一方式/同一データから算出していているため、比較を目的とするLCAの場合は、算出上の問題が相殺されやすい。
3) 産業分類が400〜500と少ないことから、産業分類によっては丸め誤差が発生する場合がある。ただし考慮する原単位数が増大すると、互いに丸め誤差を相殺しあうために誤差が小さくなる場合がある。誤差相殺の効果は、突出したプロセスが無いことと、原単位の代表性が確保されている場合に特に効果的に働く(5.3参照)。
4) 海外で生産される財は、環境負荷の統計が得にくいために、現状ではほとんど考慮されていない[20])。産業連関方式では海外生産された財を、あたかも国内で生産したかのように処理することも可能だが、その場合もアルミ金属精錬、天然ゴム等の国内に産業がほとんど無い材料は、過小評価される危険性がある[21])。重要な輸入財に関して海外のLCIを求めることができれば、輸入財単位量当たりに割つけて擬似的排出源として処理することが可能である。
5) 各種統計に共通していることだが、産業連関表の統計誤差の程度が明らかにされていないため、誤差分析が難しい。

3.2.6 方式によらず共通する事柄について
積み上げ方式、および産業連関方式に共通して考慮すべき項目を箇条書きにする。
1) エネルギー消費項目に原子力発電用のウランを入れていないケースがある。
2) CO2排出源は、化石燃料起源、生物系燃料起源、セメント等化学物質製造起源、廃棄物(一般、産業、農業廃棄物)焼却起源、不可逆的森林伐採起源、森林成長/植林起源(マイナス効果)等が指摘されている[22])が、従来は算出者によって対応がまちまちであったために原単位が大きく食い違うこともしばしばあった。CO2排出量を始めとする温暖化効果ガスに関しては京都議定書に絡んで非常に詳細な条件が提示されている17)ため、今後は少なくとも温暖化ガスに関しては比較的精度の高い原単位が提供されてくるものと考えられる。なお、その他の枯渇性資源、または環境負荷物質に関しては、いまだ排出源に関するコンセンサスが無い。
3) 一般に、特定のプロセスから排出した環境負荷総量と、実際に環境に排出した量とは異なる。例えば固形廃棄物は、様々な段階で減量(脱水、焼却など)、あるいは再資源化処理が加えられるため、実際の埋立量はかなり小さくなる。大気汚染物質は、脱硫装置あるいは脱硝装置を経て大気中に排出される。水質汚濁物質は浄化装置や下水処理を経て環境に排出される。どの段階の排出量を対象としているかで原単位が異なる。
4) 固形廃棄物は乾固状態か含水状態かを区別する必要がある。含水状態の汚泥が最終処分される場合も、水分を除去してカウントすることが望ましい。
5) 淡水消費は、浄化した水量をノーカウントとするかどうか、基準となる汚濁水準はどうするかなどで扱いがことなる。
6) すでに社会システムに取り組まれている鉄、紙等の各種リサイクルの影響に関する調査・研究が望まれる。

日本は産業連関方式に関する研究が世界的に見ても進んでおり、利用することのメリットが大きい。積み上げ方式、産業連関方式にこだわらず、複数の原単位を相補的に利用することが望ましい。

3.2.7 原単位の選択が不適切なケース
電線・ケーブルにおける塩化ビニル代替に関するLCAが報告されている[23])。エマテテリア化した電線・ケーブルであるEM電線・ケーブルは、ハロゲン、鉛等を含まず、焼却・廃棄時にハロゲン系のガス等の発生がないかもしくは非常に少ない材料を使用した電線・ケーブルを指しており、軟質ポリ塩化ビニル混和物の代替として耐熱ポリエチレン混和物を使用している(表 3−4)。

表 3−4 ケーブルの構成材料

構成材料

ケーブル種類

600V CVT

600V EM-CET

導体

軟鋼線(JIS C 3102)

絶縁体

架橋ポリエチレン

シース

塩化ビニル混和物

耐燃ポリエチレン混和物



 塩化ビニル代替におけるインベントリ分析を実施し、環境影響評価を試みた。インベントリ分析をするために、これまで得られている各素材に関するインベントリデータの最大値と最小値を用い(表 3−5)、シース被覆工程における誤差分析を実施した。
 その結果、図 3−4に示すように、それぞれの最大値、標準値、最小値同士を比較すると、エコマテリアル化した電線・ケーブルの方がCO2排出量は少ないことがわかる。ただし、最大値と最小値を同時に比較すると、逆転するケースも存在しているが、全般的にはエコマテリアル電線・ケーブルは「環境配慮型ケーブルであるといって差し支えないと考えられる」と結論づけている。

表 3−5は誤差分析の前提を示すものだが、プラスチック材料の原単位が同一の文献から引用されていない。例えば、国内におけるプラスチック積み上げ方式で最も信頼性が高いと考えられるプラスチック処理促進協会の資料bにはPVCだけではなくLDPEのデータも併記されている。

表 3−5 誤差分析に使用したインベントリデータ

ケーブル種類

素材

原単位

出典

 

600V CVT

 

PVCレジン

最大

1.71123

資料a

最小

1.286

資料b

炭酸カルシウム

最大*

0.151154

資料c

最小

0.0838466

資料c

 

600V EM-CET

 

LDPE

最大

1.239

資料d

標準

1.00371

資料e

最小

0.603

資料f

共通

カーボンブラック

最大*

3.12316

資料c

最小

1.196

資料g

*印:標準値としているデータと同じ
a.シーエムシー「'94日米化学品の価格とコスト」1994
b.石油化学製品の LCIデータ調査報告,プラスチック処理促進協会,1999
[24]
c.素材メーカでの製造条件より、Nire-LCAで算出
d.基礎素材のエネルギ調査報告,()化学経済研究所,1993
e.'94日米化学品の価格とコスト(NIRE-LCA)
f.ライフサイクルインベントリ分析の手引き まとめその1
g.LCA実務入門,CD1-17,1990産業連関表,p.1


図 3−4 600VのCVTとEM-CETのCO2排出量比較

表 3−6に三文献から、LDPEとPVCの製造原単位を引用した(参考までに他のプラスチックの原単位も併記する)。プラスチック処理促進協会24)の原単位はLDPEとPVCがほぼ同じ1.43程度になっているが、ヨーロッパプラスチック製造者協会[25])、および資源環境技術研究所[26])のCO2排出原単位はPVCがLDPEの2倍前後になっている。
同一文献にデータがあるにもかかわらずそれを引用していないことや、複数の異なった文献からデータを引用して都合の良いデータを使用していることは、恣意的なデータ操作が行われた可能性が指摘できる。


表 3−6 主なプラスチックのCO2排出原単位(製造、CO2-bound)

 

出展

LDPE

PVC

HDPE

PP

PS

S法

E法

B法

製造の
原単位

プラスチック処理促進協会

1.42

1.43

1.23

1.38

1.76

ヨーロッパプラスチック製造者協会

1.25

1.75

2.74

1.91

0.94

1.10

1.80

資源環境技術研究所

1.20

2.61

1.26

1.30

2.61

CO2-bound

3.14

1.41

3.14

3.14

3.38

合計

プラスチック処理促進協会

4.56

2.84

4.37

4.52

5.14

ヨーロッパプラスチック製造者協会

4.39

3.16

4.15

3.32

4.08

4.24

5.18

資源環境技術研究所

4.34

4.02

4.41

4.45

5.99

平均

4.43

3.47

4.29

4.40

5.44

S法:サスペンジョン法、E法:エマルジョン法、B法:バルク重合法

 

 

 

 

また、このケースの場合は、プラスチックの製造原単位だけではなく、プラスチック廃棄も考慮する必要もある。仮に各プラスチックを焼却すると仮定すると、プラスチックの炭素含有量から理論的にCO2排出量が算出できる(表 3−6の「CO2-bound」)。製造の原単位とCO2-boundを合計した値を表 3−6の下段に示すが、平均CO2排出量は、LDPEが4.43kg-CO2/kg、PVCが3.37kg-CO2/kgとなり、PVCが二割程度小さい。
無論、焼却すれば塩素分が大気中に放出されるため、製造・焼却時のCO2排出量の大小だけでPVCがLDPEよりも環境負荷が小さいとはいえない。ただし、電線の塩ビは部分的にリサイクルされており、また原油の枯渇制資源消費の評価がCO2-boundに反映されているとの考えもできる。
 以上から、上記LCI報告は、考え方や原単位の選択によって結果が逆転するケースがあり、少なくとも「環境配慮型ケーブルであるといって差し支えない」との結論はふさわしくないと考えられる。

本事例から学べることは、
1) データ品質を維持するために、原単位はなるべく同一文献から引用する必要がある。
2) プラスチックなどは、製造原単位だけを考慮するのではなく、廃棄(あるいは原油消費)原単位も同時に加味する。
3) プラスチックの種類を変更することによるCO2排出量の相違は比較的大きくないため、素材変更の影響だけに注目してLCAを実施しても有意な結果が得られない可能性がある。
4) 本事例のエコ電線は、ハロゲンと鉛成分を含まないことが主な主張であって、必ずしもエコ電線のCO2排出量が従来電線よりも小さくなる必要は無いと考えられる。結果にバイアスがかかるような目的でLCAを実施すべきでなかったと考えられる。

4. インパクトアセスメントに関する考察
インパクトアセスメント手法(LCIA手法)は、多くの分野が今だ研究の対象であり、特にカテゴリー間の重み付けに関しては、様々な手法が提案され、事例蓄積している段階である。
各カテゴリー間の重み付けが曖昧であっても、LCAの実施上あまり問題がないケースがいくつかある。例えば、
1) 継続的な環境改善の為にLCAを使うのであれば(例えば製品アセスメントの一環として利用する場合など)、経済の分野で実際に用いられている方法が参考になる。例えば景気を判断をする為の「一致指数」は、現在11個の要素から構成されている。それらは重み付けして一つの数字にせず、「11個の指数中で好転している割合」で判断されている。毎月発表される指数の「好転の割合」の推移で、実際の景気動向を判断すると同様に、いくつかの環境負荷項目の「好転の割合」の推移から環境改善動向をつかむことができる。
2) 各環境負荷カテゴリー間に、ある程度の相関があることを考え合わせると、全ての環境負荷項目が改善する「画期的相違」を目指すことは可能である。主要な環境負荷項目が互いに相反する結果を示した場合は、「少なくとも画期的な違いはなく、現状のLCAからは結論がでない」と考えることもできる。
3) 複数の重み付け係数(統合化係数)を用いてLCIAの結果をそれぞれ産出し、重み付け係数の違いが結果に与える影響を加味して判断することも可能である。例えば10通りの重み付け係数を使って、A、Bの2つのオプションを比較した場合、AがBよりも環境負荷が小さいとの結果が得られた重み付け係数が8個、逆にBが小さいと得られた結果が2個あったとすれば、前者がより正しいと考えることができる。
本節では、後者の2)、あるいは3)立場から、現状のLCIA手法の技術レベルの中で、LCAを如何に実施するかについての考察を述べる。

(中略)

4.6 まとめ
LCIAの重み付け係数(統合化係数)の曖昧さを、複数の重み付け係数を用いることで比較検討した。
「時間消費法」を用いてLCIA重み付け係数を設定した。一般市民を含めた91名のアンケート回答をクラスタ分析して7つのグループに分けた。それぞれのグループごとに重み付け係数(TCM-1〜7)を算出することで、何を重要と考えるかの違いがLCIA結果にどのように影響するかを考察した。
 算出した8種類の重み付け係数および従来の6種類の重み付け係数のそれぞれを用いて容器間比較のLCIAを算出したところ、相互に非常に相関の強い結果が得られた。本ケースの場合は、 (1)主要なインベントリ項目間に強い相関があること、(2)従来のLCAの曖昧さを増大させていた「重金属&発ガン性物質汚染」、「オゾン層破壊物質」、「資源消費」を除いて検討したことから、LCIAの重み付け係数の違い/曖昧さがあまり影響しなかったと考えられる。
LCAは時間的、空間的要素を省略することで環境負荷の概略を簡潔かつ定量的に表現する手法である。必要以上に科学的であることにこだわるべきではなく、「単純明快さ」と「理解を深めるような情報の提示」が重要である。より本質的な議論および技術開発が望まれる。

5. 不確実性分析に関する考察
日本事務機械工業会は、複写機のLCA事例を通して、LCAを意志決定に利用する場合のいくつかの課題解決を試みてきた。主な課題は、インベントリデータ収集の省力化手法開発に関すること、および曖昧なデータ・仮定から有用な結論を得ることが果たして可能かどうかを見極めることである。
複写機の部品点数は通常数千〜数万点ある。そのため、単純に一点一点を積み上げ方式で調査することは不可能に近い。何らかの簡易化・省力化を導入すれば、結果の信頼性の欠如をいかに評価するかが重要になる。
上記課題について不確実性評価手法を用いて検討し、いくつかの有益な結論を得るに至った。「感度分析」は、個々のデータ・仮定がLCAの結果に与える影響の大きさを分析する手法で、結果に大きな影響を与えるデータ・仮定を抽出することを通して省力化に利用できた。「不確実性分析」は、LCA結果を比較主張等に利用する場合の不確実性を評価する手法で、データ・仮定の曖昧さを加味した結論を得るために利用できた。
 複写機のLCAは繰り返し実施したが、「最も初期」10)、「初期」 33)、「中期」 34)のLCA結果に対して適用した不確実性評価手法および検討結果を紹介する。
なお対象とした複写機は、1996年に国内販売されたアナログ普通紙複写機(30枚/分)の平均的な仮想機種一台で、最大用紙サイズがA3、オプション・アクセサリ等(ソーター、ドキュメントフィーダ、複写機専用台類)を考慮しない製品本体を対象とした。製品の機能はA4用紙のみを片面、あるいは両面印刷する場合を想定した。また、全ての部品は国内で調達し、使用、廃棄・リサイクルも国内で実施すると仮定した。積み上げ方式と産業連関方式を利用したが、本節ではCO2排出量に絞って検討した。

(中略)

5.6 まとめ
感度およびばらつき影響度を用いてインベントリ分析を効果的に進めることがでることを示した。また、モンテカルロ法を用いることで同一製品のステージ間、あるいは2つの製品間の比較に統計的な考察を加えることができることを示した。
意志決定などにLCAを利用する場合は、インベントリの省力化やインベントリ/インパクトの曖昧さの極小化は重要な課題となる。しかし、不適切な省力化は曖昧さを増大させ、逆にすべてのデータ(仮定)の曖昧さをゼロに近づけようとすれば膨大な時間・コストが必要となる。「曖昧さをコントロールしつつ早くかつ有用な情報を得ること」が重要であり、その意味において、不確実性評価手法は、LCAを活用するための中核の技術であると考える。

6. LCA手法に関するまとめ
 二章ではLCAを用いた環境指標について考察した。ISOはLCAの基礎的なレベルを向上させるのに役立った。目的と調査範囲の設定の的確さと、産業連関方式原単位、感度分析、モンテカルロ法などの手法を組み合わせることでLCAは実用的なレベルにまで達したと考えられる。
 LCAの結果は、LCAを構成する源データ(根拠がはっきりし、かつ互いに独立なデータ)の多項式として表現される。結果への感度が大きい源データ(仮定)がほとんど無い場合は、それらの曖昧さは互いに相殺しあう(5.2参照)。LCAを構成する仮定あるいは源データ(根拠がはっきりし、かつ互いに独立なデータ)が数百以上ある場合、源データの品質要件として精度よりも代表性が比較的重要になる。
現時点でLCAが適応しにくい分野もある。環境負荷項目(データ区分)間のトレードオフ、あるいはあまり大きくない改善効果を見分けることには適していない。すでに各種の改善が進んでいる材料の選択にLCAを使うことは難しく、将来的にも期待できないだろう。LCAが効果的に活用できる分野は、画期的な改革が必要とされている分野であり、我々に最も必要でありかつ関心がある分野と一致している。


図 6−1 LCA実施フローのイメージ

LCAの実施フローの概略を図 6−1示す。目的と範囲の設定はフローの最初に位置するが、実際はLCA実施中常に整合性が取れているかをチェックし、整合性がとれなければ修正を適時行う。LCAのフロー図は、膨大なLCA計算を行う上での羅針盤の役目を果たす。何に注目し、何を注目しないのか、なにがどのプロセスにどのように影響するのかを考えるために常に修正しつつ手元においておく必要がある。
 データ収集は、システム全体をみながらできるだけ簡略に実施する。少なくとも最初の段階ではどのプロセスが全体に影響しているかがわからないので、調査が無駄にならないように労力の配分に注意し、感度分析を行ってどのプロセスが重要かを把握してから本格調査に取り掛かる。調査データは膨大になるため、ケアレスミスを防ぐ仕組みをできる限り導入する。原単位は産業連関方式の原単位を利用し、全体に与える影響が大きい場合、あるいは主系列に相当する場合はプロセスを分割するか、あるいは積み上げ方式の原単位に置き換える。
 収集したデータをもとにLCIを算出し、必要ならばインパクトアセスメントを実施し、暫定的な結果を得る。暫定結果が「LCAの目的と範囲設定」に合致するか、あるいは主要なプロセスに曖昧さがある場合は、再調査を行う。
 再調査は、感度分析を行って結果に与える影響が大きな要素を優先する。データやプロセスの感度が著しく大きい場合は、プロセスを分割するなどの処理を行う。
 再調査が終了すれば、暫定結果は「LCAの結果」となる。LCAの結果がどの程度正しいかをモンテカルロ法などの不確実性分析を行って調べる。結果の曖昧さを考慮してLCAの目的に合致すればLCAは終了するが、合致しなければ感度分析を行って効果的に曖昧さを減少させるように努める。
 不確実性分析、感度分析を行うことを前提とすれば、プレLCAはできるだけ単純に実施するのが望ましい。ただしデータの代表性はある程度確保する必要がある。
 また、不確実性分析、感度分析を受けた再調査を十分に行ったにもかかわらず、有意な結果が得られない場合は、「現時点では有意な結果はえられない」とする。

 今後は、LCI、LCIA、曖昧さを含めた不確実性分析をそれぞれ単独の技術として別々に進歩させるのではなく、互いに連携をもたせて技術開発すること、およびLCA実施に必要なデータや概念が比較的曖昧であっても「曖昧さをコントロールしつつ実用に耐えうる結果をだすことは現時点で十分可能である」ことを広く社会に浸透させることが重要になると考えられる。

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