文部科学省、不確実性評価とLICAの連携について、平成12年度環境基本計画推進調査費LCA応用施策に関する検討調査「物質・材料の研究開発および選択におけるLCAの導入に関する調査」調査報告書、135〜138(2001.3)


4.2 不確実性評価とLCIAの連携について

 LCIA(ライフサイクルインパクト評価)は、いまだ発展途上の技術とされる。特に統一指標を得るためのウェイティングは、様々な手法が提案されている段階であり、企業内利用に限っても使用が躊躇される場合が多い。
 しかし、例えば企業で製品を設計する際に実施される「製品アセスメント」のような用途では、現状のLCIAレベルでも十分応用が可能と考えられ、そういった用途のための「現状において統一見解のとれたLCIA手法」確立が望まれている。

4.2.1 不確実性評価のLCIAへの利用
 「統一見解の取れたLCIA手法」には、不確実性評価の考え方を含む必要がある。LCIAに含まれる様々な不確実性を評価することで、LCA全体の不確実性を見積もる必要があるためである。
 不確実性を評価しておくことで、環境科学領域の研究が進むにつれてLCIA等に必要な知見の信頼性が向上しても、そのことがLCA、あるいはLCIAの評価手法そのものの変更を要しない利点がある。すなわち、LCIAの不確実性を、「手法」と「データ・仮定」に分離し、「データ・仮定」の曖昧さを「手法」の中で消化できるようにしておくことで、学術的な継続的研究が必要な「データ・仮定」領域の曖昧さに影響されない「手法」の確立が可能となる。

4.2.2 LCIA(バリュエイション)の不確実性評価への利用
 一方、LCIAを必要としないLCI(ライフサイクルインベントリ)を実施する上でも不確実性の評価は重要である。LCIを実施する時間を効果的に短縮するために、曖昧さが結果に大きな影響を与えるデータや仮定を抽出する必要等があるためだ1〜3)。複数の環境負荷物質を扱う場合、LCIの不確実性評価を実施するためにはLCIの結果を一つの指標にまとめる必要がある。LCIの簡略化が主要な目的の場合、便宜的に全てのデータを単純に足し合わせたものを使うことも可能である。しかし、LCIAを使った統合指標を用いる方が(たとえ、かなり不確実なLCIAであっても)より望ましい。ただし、LCIAとして取り上げる項目の欠如は、評価を不可能にする。できるだけ多くの項目を取り扱うことのできるLCIAを構築・利用する必要がある。

4.2.3手法連携の例:無洗米と普通米の比較
 科学技術振興事業団、安井チームで検討している無洗米と普通米の比較に、LCIAおよび不確実性分析を適用した事例を紹介する。なお、当LCAはいまだ検討中であるため、数値の正確さは保証しかねることをご承知おき願いたい。
 表1に積上方式で求めたLCIの結果を、表2に産業連関方式で求めたLCIの結果をそれぞれ示す。水質汚濁物質排出量は手法間であまり差がないが、二酸化炭素排出量、固形廃棄物量等でけた違いの差が認められる。

表1 精米1kgあたりの普通米と無洗米のLCI結果(積上方式)


表2 精米1kgあたりの普通米と無洗米のLCI結果(産業連関方式)


 LCIのやり直しが必要がどうかを、不確実性分析で検討した結果を図1(積上方式)、図2(産業連関方式)に示す。LCIの結果をいくつかのインパクト手法(永田、EPS、エコインディケータ95等)で統合したLCIAの結果について、モンテカルロ手法を用いてデータの曖昧さの結果に対する影響を調べた。それぞれのインパクト係数は、日本全体の排出量で正規化した後で、インパクト手法ごとのパラメータ変数を導入して各環境負荷ごとに加重平均した(淡水消費に関するインパクトは考慮していない:淡水消費の影響は21世紀の環境問題の中でも最も重要な課題の一つと考えられるため今後検討していく必要があると考えられる)。各インパクト手法ごとに導入したパラメータ変数に関する不確実性を評価することで、インパクト手法の違いによる影響を加味することができる。各データ(インパクト係数、およびインパクト手法ごとに設定したパラメータを含む)は、各データの上限値・下限値から確率密度関数が対数正規分布になるように乱数を発生させる関数で置き換えた(上限値以上、あるいは下限以下の発生確率が5%以下になるように設定)。乱数発生回数は1万回とした。なお、インパクト係数やその他のデータの曖昧さは、明確に判明しているものを除いて上限値をデータの3倍とした。手法に関する詳細は、文末の文献2〜3)を参照願いたい。


図1 モンテカルロ手法を利用した無洗米と普通米の結果のばらつき
(日本全体の環境負荷に対して、精米1kgが与える影響:積上方式)



図2 モンテカルロ手法を利用した無洗米と普通米の結果のばらつき
(日本全体の環境負荷に対して、精米1kgが与える影響:産業連関方式)


 図1、2から、データの曖昧さにかかわらず、無洗米が普通米に比べて環境に良い可能性が強く示唆される。また、表3にそれぞれのデータの感度、およびばらつき影響度(確率的感度に相当)の抜粋を示す。結果に与える影響が大きい曖昧さは、水質汚濁物質に関する項目とインパクトにかかわる項目である事が分かる。効果的なLCIを実施するために、表3に示すばらつき影響度の大きな要素から見直しを実施した。
 表3に示すような不確実性分析は、LCIAの実施なくして行うことはできない。一方、本事例の仮定の範囲内であるならインパクト係数の曖昧さは、「無洗米が普通米にくらべて環境負荷が小さい」との結論に対して影響しないことが図1、図2からわかる。以上から、LCIAと不確実性分析は互いに補佐しあう関係にあることが理解できるだろう。

表3 無洗米と普通米のLCA実施に関する感度・ばらつき影響度(抜粋)

4.2.4今後の課題
 LCIやLCIAは、不確実性評価を実施することで実用性の観点からほぼ技術的に確立したと考えてよいと思われる。また、LCIAを利用した不確実性分析を実施することでLCIは著しく簡単かつ正確に実施することが可能である。さらに今回は触れなかったが、(カットオフのような)特定のプロセス、フロー、環境負荷項目の排除をLCIにおいて実施すると、正確な不確実性分析が不可能になるため極力さける必要がある(そのために産業連関分析が有効と考える)。さらに、LCIで使用するデータは精度よりも代表性を十分に考慮することが不確実性分析の観点から望ましい(この点からも産業連関分析の活用が望まれる)。
 今後の課題は、LCI、LCIA、不確実性分析を単独の技術として別々に進歩させるのではなく、互いに連携をもたせて技術開発すること、およびLCA実施に必要なデータが比較的曖昧であっても「曖昧さをコントロールしつつ実用に耐えうる結果をだすことは現時点で十分可能である」ことを広く社会に浸透させることと考える。

(科学技術振興事業団 伊藤健司 執筆)

参考資料:

  1. LCA実務入門編集委員会編、「LCA実務入門」、産業環境管理協会(1998)
  2. 伊藤健司、複写機のLCAにおける不確実性評価、平成11年度環境基本計画推進調査費LCA応用施策に関する検討調査「物質・材料の研究開発および選択におけるLCAの導入に関する調査」報告書、64(2000)
  3. 伊藤健司、複写機のLCAにおける不確実性評価手法、日本エネルギー学会誌に投稿中

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