無洗米と普通米のLCA
Case Study of Life Cycle Assessment of Wash-Free Rice & Rice-to-wash

○伊藤 健司(1)、坂村 博康(2)、安井 至(2)
Kenjy ITOH, Katsuhito NAKAZAWA, Hiroyasu SAKAMURA, Itaru YASUI
(1)科学技術振興事業団(CREST,JST); (2)東京大学生産技術研究所(IIS,Univ.Tokyo)

1.はじめに
本LCAの目的は、科学技術振興事業団、戦略的基礎研究推進事業「社会的受容性獲得のための情報伝達技術の開発」における意識調査の基礎的データ収集のためであり、「無洗米は普通米よりも環境負荷が小さい」とのLCIデータを示すことに用いる。
 インベントリ分析は、積上げ方式および産業連関方式のそれぞれ複数の原単位を収集し、相補的に比較検討して用いた。インパクト評価は、不確実性分析を実施することなどを目的とし、複数の重み付け係数の平均値を用いて実施した。不確実性分析は、感度分析法1)とモンテカルロ法1)を用いて実施した。感度分析は、インベントリ分析、インパクト分析を実施するうえで、注目すべきデータあるいは仮定を抽出することを目的とした。モンテカルロ法は、LCA結果を比較し、データや仮定の曖昧さがLCAの結論を導くためにどの程度曖昧さを与えるかについて検討することを目的とした。

2.結果と考察
図1、図2に無洗米と普通米のそれぞれのプロセスフローを示す。以下は、図のハッチング部分に着目したメインシナリオについて述べる(無洗米が若干不利)。

    

インベントリ結果:主要なLCI項目で、無洗米の方が普通米にくらべて消費量/排出量が小さかった。産業連関方式と積上げ方式で最も大きく異なる点は、下水道に関する項目だった。産業連関方式のインベントリ結果では、エネルギー消費量、二酸化炭素排出量および、固形廃棄物の約9割が下水道処理から排出されている。インパクト結果:結果を図3に示す。普通米の場合は、積上げ方式では淡水、BOD、CODの影響が大きいが、産業連関方式ではこれらにくわえてCO2、SOx等の影響が大きいことがわかる。なお、これらの結果は、普通米のとぎ汁の家庭内処理(庭に撒く等)の割合が18%程度(全国平均推定値:市場調査結果)の場合であり、仮に全量を家庭内処理する場合は、無洗米よりも普通米の方が環境負荷が小さくなることを確認している。

積上げ方式、産業連関方式の両方式で普通米と無洗米のLCIA結果の差をそれぞれ求め、これらを便宜的に加算した値に対して感度分析を実施した結果を表1に示す。「ばらつき影響度」は、(感度の絶対値)と(データのばらつき:S値:上限値と要素値の差、下限値と要素値の差のどちらか大きい値)の積とした。今回のLCAには約235個のデータを用いたが、結果のばらつきの約8割が、47個(全体の2割)の寄与度の大きなデータから発生していることがわかる。

モンテカルロ法(LCAに用いた全てのデータ(仮定)を強制的にランダムに変動させて結果のばらつきを求め、その結果の分布から結論の曖昧さを確かめる手法:全てのデータについて、上限以上and/or下限以下が5%になるように対数正規分布を当てはめる)で積上げ方式のLCIAの曖昧さを調べた結果を図4に示す。結果の曖昧さは普通米と無洗米のLCIA結果の差の分布で判断する必要があるが、普通米が無洗米よりもLCIA(環境負荷)が大きい確率は95%以上だった。他のシナリオでも同様の結果が得られた。

 なお、プレクリティカルレビューとして、初期の結果をWeb上に一般公開し2)、寄せられた意見をもとに再調整することも試みた(本報告は寄せられた意見を反映している)。

3.結論
無洗米と普通米のLCAを実施した結果、普通米のとぎ汁の家庭内処理割合が18%程度である場合は、データや仮定の曖昧さによらず、無洗米の方が普通米に対して環境負荷が小さいと考えられる。

参考文献
1)伊藤健司、複写機のLCAにおける不確実性評価、平成11年度環境基本計画推進調査費LCA応用施策に関する検討調査報告書(科学技術庁)、64〜71(2000)
2)http://www1.ttcn.ne.jp/~kankyo/lab/t1.htm

[キーワード:無洗米、とぎ汁、LCA、ライフサイクル影響評価、不確実性分析、CREST]

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