2001年の環境科学会で面白い発表を見つけました。米ぬかを下水処理時に添加すると、活性汚泥(汚水処理する生物)を活性化し、結果として排水中のBOD、CODを下げる効果があるというものです。
「無洗米と普通米のLCA比較」においては、「米の研ぎ汁が環境負荷がある」といった前提のもとに計算されていますが、その仮定が揺らぐ可能性があります。
以下に著者の許可を得て全文を掲載します(図は除く)。
(私のコメントは最後に・・・)
活性汚泥処理における米ぬか添加の効果について
Effect of Rice Bran in Activated Sludge Process
◯足立昌子、岡野登志夫(神戸薬大・衛生化学)
Atsuko ADACHI and Toshio OKANO ( Kobe Pharmaceutical University,Department
of Hygienic Sciences )
1. はじめに
米ぬかは玄米から精白米にする工程で排出されてくる外皮の粉砕物で、廃棄物同様のものであり、もともと自然体に近いものなので、環境への影響も少ないと思われる。我々は、米ぬかの有効利用を目的に研究を行っている。今回、活性汚泥処理に米ぬかの添加を試みた。活性汚泥による処理は、汚水中の有機物を酸素の存在のもとに、生物化学的に酸化分解して浄化する方法で、処理効率が高く、処理コストも低廉であることから、各種工場や下水処理場に広く普及している。処理の効率化をはかるため、通常、曝気槽に微生物活性化物質や栄養剤が添加されたりしている。我々は米ぬかがこれらの代替品になれば安価で望ましいと考え、実際に活性汚泥処理槽に米ぬかを添加する実験をし、その影響について検討したので、その結果について報告する。
2. 実験方法
実験の概要をTable 1 に示した。処理施設はモヤシを作る食品工場で排水量は1日に約90
m3、曝気槽容量は54m3、沈澱槽容量は27m3である。米ぬかは、1999年12月7日から添加を開始し、1月までは1週間に1度、2月からは1カ月に1度の割合いで、1回につき2kg添加した。水質の各測定項目とその測定法は、処理水についてはpH、SS、COD、BOD、全窒素並びに全リンをJIS工場排水試験に従い測定した。活性汚泥の試験としてSV30、MLSS、SVIを測定した。SV30はシリンダー試験法で測定し、MLSSは、ガラス繊維ろ紙を用いるろ過法で測定した。また。SVIは、SV30とMLSSの値から算出した。
3. 結果及び考察
pH並びにSSは、米ぬか添加による影響はみられなかった。また、全窒素並びに全リンも米ぬかの添加による影響は見られなかった。COD、BODは共に米ぬか添加後、値の減少が認められた(Fig.
1)。汚泥の沈降性を示すSVI の値は50〜150であることが好ましく、バルキング状態では200以上になる。米ぬか添加後SV30及びSVIの値は次第に減少しており、活性汚泥の沈降性が良くなっている(Fig.
2)。MLSSの値は米ぬか添加後上昇し、好気性微生物の量が増えていることを示している。Table
2にpH、SS、全窒素、全リン、COD並びにBODの項目について、米ぬか添加前後の測定値に差があるかどうか、有意差検定を行った。CODは添加前の平均が16.7
mg/Lであるのに対し添加後は12.3 mg/Lとなった。BODは添加前の3.8 mg/Lに対して添加後1.7
mg/Lとなり、この2項目に、有意差がみられた。その他の項目では、有意差は見られなかった。
4. まとめ
キーワード:米ぬか、COD、BOD、活性汚泥処理、SVI
<私のコメント>
処理水90m3/日に対して、米ぬかの添加量が一ヶ月一回、2kgですから、量的にはかなり少ないといえます(一日一人あたりの雑排水量は170L(し尿水洗は50L:考慮せず)で、米一合から4.5gのぬかが排出するとし、一日一人2合食べるとすれば、1800m3あたり116kg:家庭からの雑排水の2%程度)。この論文の結果から、単純に「米の研ぎ汁を排出しても問題なし」とすることはできません。
ただ、下水処理において米の研ぎ汁が有効であるといった意見を他でも聞いたことがあり、下水処理に関しては考慮対象外とした方がよいかもしれません。研ぎ汁の濃度の検討は今後の研究を待つことになるかと思います。
普通米の環境負荷(下図参照)は、私の試算では約6割が直接河川放出に伴うもの(日本全体の下水道+合併浄化槽普及率が69%であるため)、約3割が下水処理に伴うもの、約1割が上水処理に伴うものでした。無洗米処理に必要な電力と消耗材をあわせるとちょうど上水処理と同程度の負荷になりますので、研ぎ汁の排出がまったく影響ないとすると、無洗米と普通米の環境負荷はほぼ同程度ということになります。
普通米の環境負荷(横軸は日本全体の一年間の環境負荷全量に対する割合)
以上のようなことは、LCAの限界のひとつを示しています。本来、環境負荷は「時と場所」に依存しているはずです。人口が密集しない場所で、生物活性が高い夏季に米の研ぎ汁を排出することが本当に負荷があるかどうかといったことは、通常のLCAでは考慮しません。
また例えば水質汚濁物質の場合、ある濃度以下であれば問題がないといった「閾値(いきち)」の問題も考慮しません。同様に、ある量の環境負荷物を排出する際に、一時に全量を排出するのか、それとも長年にわたって少しづつ排出するのかといったことも問いません。
LCAは、この程度の評価手法にすぎないのです。一部のLCA研究者はこれらを考慮するLCAを提案していますが、私はそれには反対です。LCAは、ただでさえ不確実性が高く、手間がかかるのですから、そんなことを追求するよりも、「たかがLCAでしかないんだ」と認識しつつ、それでも役に立つところにだけ使えばよいのだ!!と考えます。
ただ、こういったLCAの限界の話をすると、「LCAは使えない」と思い込まれてしまうことがよくあります。LCAは、「複雑怪奇で捕らえどころのない環境問題」を曲がりなりにも定量的してくれる非常にありがたい手法だということはよく認識していただきたいと思います。「たかがLCA、されどLCA」を認識することがLCA活用の重要なコツのひとつだと思います。
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