豆腐 |
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さっきC先生によばれて、文芸春秋の7月号の論文を見せていただきました。「環境ビジネス、本物と偽者を見分ける」との題名で芝浦工業大学の武田先生の書いたものなんですけれど、先生はこの論文に対してかなり異論がありそうでした。 |
人参 |
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どれ。ちょっとみせて・・・
うーん。なるほど。これはC先生が怒るのも無理はないかもしれないな。 |
egg |
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どういうことが書かれているの? |
人参 |
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順に列記すると
- 透水性コンクリート、生分解性プラスチック、ハイブリットカー、太陽電池、再生利用路盤材、ペットボトル再生商品などの環境配慮商品が多く出回っているが、どれも環境に良いとはいえない。
- そろそろ環境によいという基準を明らかにする必要がある。判断基準は「大量生産、大量消費の言い訳として作られていないか」「コスト的に見合っているか」である。
- 太陽電池やハイブリットカーはコスト的に見合わず、部分的な環境のよさに目がくらみ、ライフサイクルでの考察が足らない。「木を見て森を見ず」の状態になっている。
- 家電リサイクル法は意味がない。
- 再利用できるのは、鉄、銅といった金属類だけ。
- 国や自治体、環境商品を売る業者は、何をもって「環境によい」と主張するのか基準を明示すべきだ。
といったところかな。 |
egg |
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面白そうじゃない?C先生は何が気に入らないのかしら。 |
人参 |
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今までの武田先生の議論を見聞きするに、武田先生は実はちゃんとしたデータをもって議論しているわけではないようなんだ。「コストと環境負荷は比例する」「コスト的に黒字にならないものは環境的にもよくない」という根拠でもってすべてを語っているところがある。それはある意味で本質をついていると思われるんだけれども、それですべてを語ることはできない。 |
豆腐 |
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最近、公共事業の問題点が指摘されてますよね。美術館をつくったり巨大な橋をつくったりする公共事業は、建設時の雇用創出にだけ目がいっていて、運用で黒字になるかどうかはあまり考えられていないようです。「明日の飯代もままならぬ」時代ならいざ知らず、現代では財政赤字の負の効果の方が大きいと言われています。
環境にかかわる政策も同じように、ライフサイクルで見てみると「実は環境に良くない環境事業があるのではないか」と考えられるようになってきたようです。武田先生の意見はそういった観点から支持されているのではないでしょうか。 |
人参 |
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いや、実をいうと、現在の「環境にやさしい活動」、あるいは「環境にやさしい製品」というものは、それを作るために必要な資材、あるいは消費するエネルギーなどをどんどんさかのぼって環境負荷を積算してやると、じつはそれほど環境に良くないことがあるのは事実なんだ。コストが発生するということは、そこに何がしかの環境負荷が発生するので、積算された環境負荷を擬似的に表す指標としてコストを使うというのはまんざら悪くない考えなんだ。ただ、それはあくまで擬似的な指標であって、環境に良いか悪いかの指標として使うにはちょっと工夫がいる。それは、
- 環境対応コストに含まれる人件費の割合は結構大きいが、人から発生する環境負荷は比較的小さい。だから、「コスト的にペイするなら、環境によい」と言えるかもしれないが、「コスト的にペイしないから環境に悪い」とはかぎらない。特に、回収作業や手分解が含まれるようなケースは要注意。
- コストの差が数倍、あるいは数十倍ちがうものを比較して環境負荷がうんぬんと推測することは可能だが、数割程度の差では環境負荷がどうのこうのとは言い難い。
- 製品のライフサイクル全体の環境負荷がすべてコストに反映されていない可能性がある。単なるコストではなく、LCCを考慮すべき。
LCCについては、前回T先生に教わったよね。例えば、上下水道は、我々市民が支払っているお金だけでは運営されていないので、こういった場合には、注意が必要になる・・・ |
豆腐 |
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それに、C先生と武田先生は、そもそも議論している範囲が違うんです。「バウンダリ」が違うってやつですね。C先生だって、リサイクルすると環境負荷が大きくなるケースがあることぐらいはちゃんと知っているようですが、それにもかかわらず、リサイクルすべきといっているのは、次のような理由があるからのようです。
- コストの上昇によって生産構造が変化するという経済原理が、環境政策の時間軸とは合わない可能性があるため、コストですべてを考えるのは好ましくない。
- 長年切磋琢磨してきた生産技術と、やっと始まったリサイクル技術を現時点で比較することがそもそもおかしい。余裕があるうちにリサイクルをはじめることで技術蓄積を図るという政治的な意味合いも考える必要がある。
- リサイクルをおこなうことで、雇用創出の効果がある。
経済政策と環境政策が合わないというのは、たびたび指摘されています。例えば、パラジウムなどの希少資源が良い例ですが、そのうちに枯渇するとわかっていても、ぎりぎりまで価格が上昇しない傾向があります。それに、そもそも地球温暖化のように、その兆候があらわれた時にはもう打つ手がないような問題が環境問題の場合には非常に多いですね。諫早湾のような生物資源が人類の生存に必要不可欠だったとわかった時に、干拓事業に必要なコストが急上昇してもなんの意味もありません。アダムスミスの「見えざる神の手」は環境政策に関しては有効とはかぎらないんです。 |
egg |
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雇用創出の効果があるというのは、どういうこと? |
人参 |
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この点については、僕もC先生の言っている意見が良くわからないんだ。ただ、僕なりに解釈すると・・・
現在の社会構造は、環境の観点からどう考えても持続可能とはいえない。いずれ大きな社会変革が必要になるはずだよね。その時には、大量の雇用が失われる可能性があるけれど、その衝撃を和らげるクッション材としてリサイクル事業というのは有効かも知れないんだ。つまり、持続可能な社会に変わるために、すべての物価が上昇するハイパーインフレがおこる可能性が大きいんだが、そうなると所得の再分配がうまくいかずに社会不安が急速に高まる可能性がある。それを、和らげるために、あらかじめリサイクル事業を立ち上げて、受け皿を用意しておくということかもしれない・・・ |
egg |
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それって考えすぎじゃない?人参君の悲観癖には付き合いきれないわね。まあ、だいたい、武田先生とC先生がなにを言っているのかはわかったけれど・・・。 |
豆腐 |
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人参君の考えはちょっと極端ですが、あたっている部分もあると思います。従来型の産業は、経済活動を活性化しようとすれば、先の武田先生の論理よろしく環境負荷がどんどん増えてしまいます。このような動脈産業に対して、リサイクル産業などの静脈産業を立ち上げることで、経済活動を活性化させても環境負荷が増加しにくい社会構造になります。さらに、静脈産業で開発された技術を動脈産業にフィードバックすることで、新しい製品技術領域が創造されることになりますから、従来型の企業の存続も可能となります。従来型産業のソフト化と同時進行することで、結果的に産業構造が劇的に変化する割に雇用の確保が可能になると考えられます。 |
egg |
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なるほど、環境問題っていろいろ考えないといけないのね。武田先生の言っていることも一理あるけれども、ちょっと理論に深みがたらないということか・・・ |
人参 |
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何度も登場するほどの内容がないのに、マスコミが取り上げ続けているというのが問題かもしれない。環境に関する論説の「本物と偽者を見分ける」ことができないマスコミは淘汰されるしかないということを認識すべきだ。もっと勉強して私達の知的欲求を満たすような記事を載せるようにしないと、彼ら自身の雇用がなくなる可能性もある。
というのが今回の結論かな・・・
ところでエコちゃんはどうしたんだ? |
egg |
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T先生の所へ勉強に行っているらしけれど。
T先生の「Tプロジェクト」も淘汰されないようにがんばらないとね・・・ハハハ |