6.有限の生態学2001.2.11
栗原康「有限の生態系」(岩波書店)は、私が強い影響を受けた本のひとつです。この本は初版が1975年ですが、われわれ人類が生きていく上で必要な知恵がまさに科学的な実験の結果としていくつも指摘されているところがおもしろいと思っています。
以下では簡単に内容をおさらいします。例によって4人に議論をお願いします。

豆腐 生物が共に生きていくいわゆるエコロジー的な思想を「共生」と言うんですが、この本は、三つの「共生」の形態を実際に「実験」した結果をまとめたものなんです。順番に説明します。

「共貧のシステム」は、外界から遮断されたフラスコの中で複数の生物が自給自足するミクロコズム。生物の栄枯盛衰のドラマが繰り広げられる。まさに栄えては滅び、栄えては滅び、しかし各々の生物は種として全滅するわけではなく均衡の取れた共生のシステムに繰り入れられていく。全体が安定化するのは長い時間が必要だが、いったん安定になると他の二システムよりも外部刺激に対する耐性能力が高い。

「共栄のシステム」は、牛の胃袋の中で繰り広げられる微生物群と牛との驚くべき共生のシステム。牛が大量に草を食べることができるのも、胃袋の中の微生物群が草を食べる連鎖システムを構築しているため。微生物が出した廃棄物は牛の胃壁から吸収され、胃の中で増殖した微生物は別の胃で牛に消化される。

「緊張のシステム」は、極度に制御・管理された宇宙基地のシステム。非常に効率が高く、無駄が最も少なくできるが、長期間もたせようとすると制御が非常に難しい。また安定性がもっとも低く、いったんどこかが崩れると全滅してしまうような「生か死かの厳しいシステム」になる。「無駄がないこと」や「種の多様性を無視すること」でシステムが不安定化することが示されている。
egg 三つで世界システムの大部分をカバーするんじゃないか・・・と書いてあるわね。
豆腐 古い人間社会は「共貧のシステム」で、そこから現代の「共栄のシステム」に移行してきたといえます。しかし、地球の有限性が影響し始めた現代以降は、共栄のシステムは存続しえず、「緊張のシステム」に向かうか、「共貧のシステム」に戻るかしかないのではと最後に結んでいます。
egg ここに示された結果は、哲学的な考察へと広がる可能性を秘めているわね。
人参 宇宙基地の「緊張のシステム」の考察から、「科学技術が発展しても環境問題をすべてを解決することはできない」ことが言えるかもしれないね。
egg たいていの人は、環境問題は技術的な問題で、科学技術が進歩すれば解決すると思っているわよ。
人参 それはまたいつか議論しよう。

続きなんだけど、フラスコの中のような「共貧のシステム」におけるキーポイントは、「リサイクルシステム」と「一見すると無駄な空間」と「生物の多様性」だね。
egg リサイクルはわかるけれど、無駄な空間ってなに?・・・それと「生物の多様性」は?・・・
人参 一見すると無駄な空間というのは、簡単に言えば資源をストックしておく機能があったり何らかの緩衝領域になっているということ。無駄が大事だって話は、普段でもよく聞く話だよね。
生物の多様性を説明するのはちょっと難しい。簡単に言えばたくさんの種類の生物がいれば、互いに関係しあうことで全体として刺激に強くなるってことなんだけど。例えば、・・・

最近話題になっている諫早湾の海苔が色おちしている問題も、干潟をつぶしてしまうことで多様性がなくなって発生しているんじゃないかなと思っているんだ。おそらく直接の原因は、例えば川の水が入ってこなくなったからとか、病気が流行ったからとかだろうけれど、いままでおこらなかったことが急に起こるようになった本当の理由は、多様性がなくなったことで、ちょっとした外乱によって生態系全体が影響を受けやすくなったからだと思うんだ。でも、それをきっちりと解明することはおそらく不可能だろうね。
egg ほんと、あの問題は頭にくるわよね。私なんか直感で締め切ったからだってすぐにわかったのに、政府は何をやっているのかしらね。さっさとあけないと大変なことになるんじゃないかしら。
豆腐 国で働いている人だって、一生懸命やっているんだと思います。
egg そうかしら。
でもすごいわよね。この本は1994年に20年ぶりに再発行されているみたいね。私も読んでみようかしら。
ところで、エコちゃんはどう思う?
エコ ・・・

興味をもたれた方は実際に読んでみることをお勧めします。特に技術系で環境に関心がある方は是非どうぞ。
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