ヒ ト リ ゴ ト

第81話 リニューアル
第82話 高知から高地へ
第83話 中部電力
第84話 京都の恋
第85話 ツクツクボウシ

第81話 リニューアル

函館駅から路面電車に乗り競馬場前で降りた

まだ8時前というのに、入場券売り場には多くの列がつくられていた
『指定席は完売しました』とのアナウンスも流れている

私は回数券を持参していたので正門前に直接並び
そして、とある方の計らいで3階の指定席フロアーに入場出来るように手配もして頂いていたので
ただ、開門を待つだけであった


リニューアルされ、2年ぶりにオープンされた競馬場前は
刻一刻とファンが集まり、あふれんばかりの人で賑わってきた

あとで知ったが徹夜組もいたそうな


9時の予定を早め、8時50分に開門するとのアナウンスが流れ
総工費約120億円をかけて新装し、2年ぶりに開かれるゲートを今や遅しと待っていた

その開門時間前、場内から怪しいイカの被り物をした集団が現れた
どうやらオープニングセレモニーにてテープカットをするそうだ
木下勇二函館競馬場長、タレントでJRAのCMに出演するの大泉洋
横山典など6人の騎手によるテープカットが目の前で行われ
その後、新しい香りの漂う場内へと導かれた

足早に正面のエスカレーターを上り、3階まで向かった


新スタンドは2008年に着工し今年5月に完成
地上5階建てで自由席や津軽海峡を見渡せる有料指定席などがある

JRA初のパドック観覧席や疾走する競走馬の躍動感をじかに味わえる芝生席もあり
コンセプトの「人と馬との距離が近い競馬場」を実現させた
サラブレッドをガラス越しに見られるパドックのほか
日本で唯一、海を眺めながら観覧できる席があるのが特徴だ

その紹介通りの光景を目のあたりにし
緑のペンキで塗られたかのような鮮やかな芝コースを私の選んだ馬が一番でゴールを通過する姿が
目を閉じると、まぶたの中にくっきりと浮んできた


しかし現実は甘くなかった
1,2,3レースとダートコースでのレース、選んだ馬も来やしない

芝に変わった4レースのサラ二歳新馬戦、その頃やっと気づいた
いくら競馬場が新しくなっても、私の馬券の買い方をリニューアルしなければ勝てない事に

食事をとって気分転換しようとレストランを探したが
まさかこの来場者数を想定してなかったのか、どの店にも長蛇の列
一度、外に出てかなり離れた場所にあるコンビニに向かい缶ビールと軽食を購入し
再度、勝利の女神を待ってみた



最後の缶ビールが生温くなる頃、私の気持ちは冷めてきた





函館競馬場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く


第82話 高知から高地へ

高知龍馬空港からレンタカーを借り競輪場に入った
市内を流れる鏡川沿いにある競輪場はナビの手助け無くともたどり着ける便利な場所にある
地下の駐車場の入り口付近には、既に停めるスペースも無いほどの
多くの車で埋まっていた

今日は、金曜だぜ!高知県民は仕事をしているのか?

自分の事を棚上げしての心配はあと回しとする事にして
まず、ひとつ上の階の一階に上がり、勝負の世界に入った


おおごとたまげた!
この後のスケジュールが詰まっちゅうがやき
短時間の戦いの為、久々の大人買いをしちゅうが
自転車が走るコースがどこをさなぐしたち見つからん
発走時間も近づいちゅうし、めぇったもんだ!


じつはこの城壁は2階から上が観覧できる造りになっていた
発走間際に気付き、ひとつ上の階に急いで上がった
しかし・・・
間一髪、間に合わなかった

レースが観れなかったかって?
違う!
私の選んだ選手が一着に間に合わなかった

時間の無い時は、勝負に出てはいけない
そんな警告を自分に発し、その場を後にした


その後、今夜の宿の越知町に泊まり
面河峡経由で西日本で1番高い山の石鎚山をぬけ本土に逃げ帰った


高知の競輪で発券した警告も
高地の桂林で発見した渓谷も
深く心に刻まれた





高知競輪場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く


第83話 中部電力

『2、000円だがゃ〜』

どうやら、先ほど終わったレースの配当が安くてのつぶやきのようだ

レース結果も気になるが
腰が痛いし、空腹で考える気力すら無い
タバコも吸いたい


始発の電車で自宅を出発し
東京駅、沼津駅、浜松駅、豊橋駅と乗り継ぎ
名古屋駅の名鉄バスセンター3階15番のりば
13:10発のバスになんとか間に合った

これが競輪場に向かう無料送迎バスの最終だそうだ

7時間をゆうに越える長旅となった



実は、近々”青春18切符”を使っての旅を計画している
それは
4回分を使って北陸、関西、近畿、中国地区を回る予定だ
5日綴りの余る一日分の切符を有効期限内に消化する目的で
今回、名古屋への日帰りプランを実行した


とにかく疲れた



レースを予想をする気力も起きない状況の中
とりあえず
やっと間に合った8Rの投票券を購入した
ワイド投票券なら高配当は期待出来ないが、3着までに2選手入れば良いので当てるのも簡単だろう



一本120円のクシカツと400円のビールを自分へのご褒美とした
大量の褒美で観戦している中
そのワイド券すらも外れ


次のレースで帰ることを決意した


もちろん7時間以上もかけて来場し
たった2レースで帰る事に迷いを感じ無い訳でもない

先日、訪問した
東京電力管内のとある競輪場では
場内の大モニター画面が節電の為に消されていたが
久々に眺めた大モニターでのレース放映
さすが、中部電力
帰る事への後ろ髪も引かれた



そもそも計画自体に無理があった




中村公園駅まで歩いての十数分
豊臣秀吉生誕の地を記念するため建造された豊国神社の鳥居に
いつか
預けた金を取り返しに来る事を約束した


人間に与えられた時間は一日24時間と平等である
その、限られた時間の中で
鉄道関係者を除く一般人は
一日15時間も電車に乗ってはいけない

ひとつの悟りに気付いた


東京駅まで向かう際、東海道線の小田原駅過ぎて国府津駅を通過するころには
すでに意識は薄れていた



まだ残り4日分の”青春18切符”が手元にある
これから先も・・・

『どえりゃぁ事になるがゃ〜』





名古屋競輪場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く

第84話 京都の恋

東京駅から名古屋駅まで深夜バスを使い
そこから青春18切符で京都に向かった
京都駅からJR東海道本線の向日町駅

駅前から阪急バス9時40分発の朝一番の無料送迎バスにて競輪場に着いた

実に自宅を出てから、12時間近くの長旅であった


正門をくぐると正面に時計台がある

その台には大きな文字で”おこしやす”と書かれ
その下の池には数多くの赤い魚がおよいでいた
これが鯉なら京都のコイ?!!

なぜか
ベンチャーズ作詞作曲、渚ゆう子が歌った
かつての名曲”京都の恋”を思い出した

♪風の噂を信じて〜今日からは〜♪
♪あなたと別れ〜傷ついて〜旅に出かけて来たの〜♪
♪わたしの心に〜鐘が鳴る〜♪

ま、赤い魚にはヒゲが無いので鯉ではなさそうだし
そんな事はどうでも良い、早くしないと第1レースの♪鐘が鳴る♪



急ぎ足で向かったバンク
その走路内にはテニスコートが2面と100m直線、200mトラックが設置されている
”向日町競輪場走路内運動施設”と呼ぶらしい

場内全体、長い歴史の幾多の激戦で
かなり傷んでいた



ひときわ珍しい案内版をみつけた

『チケット制による酒類販売のお知らせ』
配布場所:東門北側に設置の「酒類購入チケット窓口」
配布枚数:1人1枚限り(他人への譲渡はできません)
購入方法:売店で「酒類購入チケット」を提示して下さい

飲むのは公認、ただし飲み過ぎるなと言う事か・・・

しかし私は心配ない
今回の旅、リュックの中に持参した秘密兵器がある
500mlが6缶入る”クーラー袋”だ

酒類は売るほどある


京都の人たちのお人柄か、静かにレース観戦をしているヒトが多く
中には大声をあげた方もいらしたが「3番も4番も”どあほぅ〜”」っと
つい
優しい罵声に笑みがこぼれた



ところで、戦績はどうだったか?って



だれしも忘れたい事がある




まだ、早い時間であったが
時計台の”おこしやす”の文字に向かって”ほなさいなら”と挨拶をして
次の戦地に向かう事にした


ふりかえると
12時間近くもかけて来た京都で、寺院仏閣を一ヶ所も観光せずに終わってた





京都向日町競輪場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く

第85話 ツクツクボウシ

最近、夜は弱いが朝はめっぽう強い
宿を早めに出て、朝7時前に福井駅に着いた


駅から40〜50mほど先に京福バスの乗り場がある
その5番乗り場から競輪場行きの無料送迎バスが出ている
時刻表をみると10時30分が始発

いくらなんでも駅前で3時間以上も時間をつぶせない
何気に周りをみわたすと福井中央郵便局が近くにあった
軍資金も心細かったので何時になればおろせるのか確認に行った

さ、さすが!福井中央郵便局!
ATMがなんと7時から利用できるではないか
さっそく軍資金を調達した

旅に出るのに、財布にゆとりは持ってないのか?って
いや、昨日まではあった



駅に戻り観光地図をみると競輪場まで歩けない距離でもない
空は秋晴れ、うろこ雲がくっきり現れていた
今日はおそらく、目からウロコ状態の展開になるだろう

競輪場までの散歩に踏切った


中央大通りを進み九十九橋を渡ると足羽川沿いの遊歩道を見つけた
春は見事だろう、歩道は桜の木に覆われていた

「ミーン、ミーン」「ツクツクボーシ」「ツクツクボーシ」
いつもなら、うっとうしく感じるセミの声だが
今朝は、私に語りかけているように聞こえた

セミ語直訳@
「民々」「着付帽子」

セミ語直訳A
「民々」「着く付く帽子」

セミ語直訳B
「ねえねえ聞いて」「着内に着き、高配当が付く帽子の色はなんだろね」

つまり、今から行く競輪場での買い目の話題なのだ

「いや、わからん!」と答えておいた



足羽川の土手でビールを飲みながら、その開門を待った


食事は場内でと言わんばかり立ち並ぶ食堂
雪国対策だろうか売り場とスタンドを遮断する分厚いビニールのれん
1階で金網越しに観れる場所は無く観戦場所は2階席以上


バンクは鮮やかな緑の芝で彩られていた
予想以上に自然と調和した競輪場で、あっという間に時が過ぎた


激戦の跡か、3〜4コーナーの走路に傷がついているので
その補修費の足しにして欲しいと、多めに預け
最終レースまで無料送迎バスが出ないので、帰りも遊歩道を歩き駅に向かった


そこには何匹かの歩道に落ちたセミが
私と同じく震えていた





福井競輪場ご関連者様、お世話になり有難うございました

この旅、まだまだ続く