緊縛の住居表示
「こうやって縛っておきませんとね」
鉄条線で縛られた住居表示を物珍しげに見ていた僕に、その老人は唐突に語り出した。
「こいつぁ、一寸目を離した隙に逃げ出しちまうんですよ。そうしますとね、ここいら辺りの人たちが住所不定になっちまいましてね、みんな困っちまうんですよ。だからこうして縛ってやって、あたしが見回っているんです」
なるほど、と妙に感心している僕の脇を、その老人はとっとと歩るき去ってしまった。
感心はしたものの、「誰が誰を縛っているのか」いまひとつすっきりしない昼下がりの出来事だった。