事業所得

事業所得の意義
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業から生ずる所得をいいます。ただし、不動産貸付業及び山林所得又は譲渡所得に該当するものは除かれます。
事業所得とはならないもの
@ 事業用資金に係る預貯金の利子 利子所得
A 事業に関連して取得した株式等の配当 配当所得
B 不動産の貸付による所得 不動産所得
C 林業から生ずる所得 山林所得
D 事業用固定資産の譲渡による所得 譲渡所得
E 所得税の還付加算金 雑所得
事業付随収入となるもの
@ 従業員に対する貸付金の利子
A 作業くずや空き箱などの収入
B 従業員宿舎の使用料による収入
C 雇用調整給付金や定年延長奨励金などの収入
D 買掛金の債務免除益
E 開店祝いや創業記念などのご祝儀による収入など
事業所得の金額
事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額となります。なお、青色申告者は、さらに青色申告特別控除額を控除した金額となります。
事業所得の金額 = 総収入金額 − 必要経費 − 青色申告特別控除額
課税方法
事業所得の金額は、他の所得と総合して総所得金額を構成し、超過累進税率により総合課税されます。なお、変動所得及び臨時所得については、一定の要件を満たす場合には、平均課税による税額計算の特例が認められています。
収入金額の通則
その年分の事業所得の金額の計算上、総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とされます。
必要経費の通則
その年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、事業所得の総収入金額に係る売上原価その他その総収入金額を得るために直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これら所得を生ずべき業務について生じた費用の額とされます。
【海外渡航費】
事業の遂行上必要な部分が必要経費に算入され、観光部分については、必要経費不算入となります。
必要経費算入額=往復の旅費+(旅費総額−往復の旅費)×事業のために要した日数/旅行の全日数
【短期前払い費用】
1年以内の短期前払い費用は、支払い年分の必要経費に算入できます。
【消耗品費】
取得年分の必要経費に算入されます。
【保険料】
掛捨て保険料部分は必要経費に算入され、積立保険料部分は保険積立金などの科目をもって資産計上します。
【必要経費に算入される租税公課】
固定資産税、登録免許税、不動産取得税、自動車税、事業所税、事業税など申告や賦課決定により納付額が確定した時に必要経費に算入します。
【商店会費】
支出年分の必要経費となりますので、未払計上はできません。
【業務上必要とされる技術研修費用】
業務上直接必要とされる技術を習得するための費用(例えば運転免許など)の費用は、必要経費に算入できます。
収入金額の別段の定め
所得税では、金銭以外のものや経済的な利益をもって収入する場合には、その経済的利益の価額等についても収入計上しなければならないと定められています。
たな卸資産の家事消費
たな卸資産を家事消費した場合には、原則として通常の販売価額を収入金額に計上します。ただし、取得価額又は通常の販売価額の70%相当額とのいずれか多い金額を収入金額に計上する特例も認められています。
たな卸資産の贈与
たな卸資産を贈与した場合には、原則として通常の販売価額を収入金額に計上します。ただし、取得価額又は通常の販売価額の70%相当額とのいずれか多い金額を収入金額に計上する特例も認められています。
【贈与費用の取扱い】
@ 国等に対して贈与した場合には、その贈与費用は特定寄付金として寄付金控除の対象となります。
A 取引先等に対して贈与した場合には、事業上の経費として必要経費に算入します。
B 友人などに対して贈与した場合には、その贈与費用は家事費となります。
たな卸資産の低額譲渡
たな卸資産を低額譲渡した場合には、実質的に贈与した部分の金額を収入金額に計上します。なお、低額譲渡とは、通常の販売価額の70%未満の対価による譲渡をいいます。
【原則】
総収入金額算入額=通常の販売価額−譲渡対価
【特例】
総収入金額算入額=通常の販売価額×70%−譲渡対価
*バーゲンセールなどによる低額譲渡は、広告宣伝活動のために行われるものであるため、低額譲渡の適用はありません。
必要経費の別段の定め
事業所得の金額の計算については、通則とは別に必要経費算入に関する規定を特別に設けています。
必要経費不算入となる家事関連費等
【家事関連費】
家事上の経費及び家事関連費は、原則として必要経費に算入することはできません。ただし、家事関連費のうち業務の遂行上必要なことが明らかにされる部分の金額については、必要経費算入が認められています。
【所得税】
所得税は、人税であるため必要経費不算入となります。ただし、確定申告税額の延納に係る利子税は必要経費算入となります。
【国税に係る付帯税】
延滞税、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、重加算税、印紙税法に規定する過怠税は、必要経費不算入となります。
付帯税が課される場合
延滞税 納付すべき税金を納期限までに納付しなかった場合
利子税 延納の適用を受けた場合
過少申告加算税 過少申告をした場合
無申告加算税 確定申告をすべき者が申告をしなかった場合
不納付加算税 源泉徴収税額を納期限までに納付しなかった場合
重加算税 事実の隠蔽など重大な不正行為をした場合
過怠税 印紙税を納付しなかった場合
【道府県民税及び市町村民税(都民税及び特別区民税を含む)】
道府県民税は、所得から負担すべき費用となるため必要経費不算入となります。
【地方税法の規定による付帯税】
地方税に係る延滞金、過少申告加算金、不申告加算金、重加算金は、必要経費不算入となります。
【罰金等】
罰金、科料、過料は、罰則として科されるものであるため必要経費不算入となります。
罰金等が課される場合
罰金 犯罪者に対して課されます
科料 軽犯罪者に対して課されます
過料 交通反則金など行政上の反則者に対して課されます
【損害賠償金】
事業所得を生ずべき業務の遂行上支出した損害賠償金は、家事上の経費及び家事関連費に該当するものを除き、債務確定年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入します。ただし、無免許運転やスピード違反など事業主に重大な過失があった場合などに支出する損害賠償金については、必要経費不算入となります。
売上原価の計算
所得税では、実地棚卸高をもって年末棚たな高の評価額とします。そのため、たな卸減耗損などたな卸資産について生じた損失の金額は、売上原価に自動的に算入されます。
売上原価=年初たな卸高+当年仕入高−年末実地たな卸高
【評価方法】
たな卸資産の評価方法は、個別法、先入先出法など任意に選択することができます。この場合には、確定申告期限までに評価方法の届出が必要になります。なお、評価方法を選定しなかった場合には、法定評価方法である最終仕入れ原価法により評価します。
【処分見込価額による評価】
たな卸資産の取得価額は、原則として購入代価に付随費用を加算した額をもって取得価額としますが、一定の事実が生じた場合には、年末の処分見込価額をもって取得価額とすることができます。
@ たな卸資産が災害等により著しく損傷した場合
A 季節はずれの商品となったためにたな卸資産が陳腐化した場合
B 破損、型崩れ、品質変化により通常の値段で販売できなくなった場合
減価償却費の計算
建物(平成10年4月1日以後取得のも)については定額法、建物以外の固定資産については、定額法又は定率法等により減価償却します。
【償却方法の選定と届出】
減価償却方法を選定しようとする場合には、確定申告期限までに資産の区分ごとに償却方法を選定し、届出書を提出しなければなりません。なお、償却方法を届出しなかった場合には、法定償却方法(定額法等)により償却します。
【取得価額】
減価償却資産の取得価額は、購入代金に購入手数料等の付随費用を加算した額をもって取得価額とします。
@平成19年3月31日までに取得した資産
【旧定額法による減価償却の計算】
年償却費=取得価額×0.9×旧定額法償却率×その年中の業務供用月数/12
【旧定率法による減価償却の計算】
年償却費=年初未償却残額×旧定率法償却率×その年中の業務供用月数/12
*原則として有形固定資産は、取得価額の95%が償却可能限度額です。償却可能限度額まで償却した年分の翌年以後5年間で簿価1円まで均等償却できます。
A平成19年4月1日以降取得した資産
償却可能限度額及び残存価額を廃止し、1円まで償却できるようになりました。
【定額法による減価償却の計算】
年償却費=取得価額×(新)定額法償却率×その年中の業務供用月数/12
【定率法による減価償却の計算】
年償却費=年初未償却残額×(新)定率法償却率×その年中の業務供用月数/12
*算出した償却額が取得価額に保証率を掛けた金額に満たなくなる年以後は、改定償却率を乗じて計算します。
【少額減価償却資産】
使用期間が1年未満であるもの又は取得価額が10万円未満であるものは、取得価額相当額を業務供用年分の必要経費に算入します。
*平成18年4月1日から平成20年3月31日までに取得した30万円未満の少額減価償却資産については、合計額が300万円を超える部分に係る資産を除外した上で必要経費に算入されます。
例)28万円の資産を11個購入すると合計額は308万円となります。この場合は8万円が除かれるのではなく28万円が除かれて280万円が必要経費となります。
【一括償却資産】
取得価額が10万円以上20万円未満のものについては、次のいずれかの方法により計算を行うことができます。
@ 通常の減価償却資産と同様に償却する方法
A 3年間で均等償却する方法(必要経費算入額=取得価額×1/3)
*Aの場合には、月数按分はしません。
【償却方法の変更】
償却方法を変更しようとする場合には、変更しようとする年の3月15日までに変更の申請書を提出する必要があります。
【償却方法を変更した場合の計算】
@ 定額法から定率法への変更
年償却費=年初未償却残額×定率法償却率
A 定率法から定額法への変更
年償却費=(年初未償却残額−取得価額×10%)×定額法償却率(*)
*法定耐用年数又は未経過年数(2年未満は2年)に応じた定額法償却率
【資本的支出と修繕費】
原則として、固定資産の価値を高める部分の金額(用途変更による模様替えなど)は、資本的支出とされ、通常の維持・修繕のための費用は、修繕費とされます。
【資本的支出の実務的取扱い】
資本的支出と修繕費は、実務的に区分することが難しいため次の特例が定められています。
@ 少額支出の特例
修繕費等の費用が20万円未満のもの等については、修繕費として必要経費に算入できます。
A 区分不明の場合の特例
支出金額が60万円未満のもの等については、修繕費として必要経費に算入できます。
【中古資産の耐用年数】
中古資産の取得価額は、購入価額に改良費等の資本的支出額を加算した額となります。一般的な耐用年数の計算方法は、以下のようになります。
(法定耐用年数−経過年数)+経過年数×0.2
*1年未満の端数切捨て、2年未満は2年とする
なお、改良費等の資本的支出が取得価額の50%以上となるときは、上記とは別な計算方法により耐用年数を見積ります。
【中小企業者の機械等の特別償却】
青色申告である中小企業者が、平成16年3月31日までに新品の機械装置で取得価額が160万円以上のものを取得した場合には、取得価額に対して30%の特別償却が認められています(措法10の6)。
商法上の繰延資産の償却
開業費など商法上の繰延資産については、5年以内の均等償却又は支出した年において全額を必要経費に算入することができます。なお、税法独自の繰延資産については、商法上の繰延資産とは別に償却方法が定められています。
業務と事業の関係
業務とは、営利を目的として継続的に行う行為をいい、業務を大規模で行っている場合を事業といいます。原則として事業から生ずる所得は事業所得となり、事業的規模以外の業務から生ずる所得は雑所得となります。ただし、不動産所得の場合には、不労所得であるとする考え方から事業的規模であっても事業的規模以外であっても不動産所得とされます。

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