不動産所得

不動産所得の意義
不動産所得とは、不動産等(不動産の上に存する権利、船舶又は航空機を含む)の貸し付けによる所得をいいます。ただし、事業所得又は譲渡所得に該当するものは除かれます。
不動産所得と事業所得の区分
@ 不動産貸付業は、不動産所得となりますが、不動産の販売、仲介、斡旋による所得は事業所得となります。
A 月極め駐車場は不動産所得となりますが、時間極め駐車場は事業所得又は雑所得となります。
B 従業員宿舎の使用料収入は事業付随収入ですので、事業所得となります。
C ビルの屋上や側面の看板使用料は不動産所得になりますが、店舗内部の場合には事業付随収入として、事業所得となります。
不動産所得と譲渡所得の区分
権利金収入は、通常不動産所得となりますが、建物等の所有を目的とする借地権の設定に係る権利金収入で、かつ権利金の額が土地の価額の2分の1を超える場合には、その権利金収入は、譲渡所得となります。
不動産所得の金額
不動産所得の金額は、その年中の不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額となります。なお、青色申告者は、さらに青色申告特別控除額を控除した金額となります。
不動産所得の金額 = 総収入金額 − 必要経費 − 青色申告特別控除額
課税方法
不動産所得の金額は、他の所得と総合して総所得金額を構成し、超過累進税率により総合課税されます。なお、臨時的な不動産所得については、一定の要件を満たす場合には、平均課税による税額計算の特例が認められています。
収入計上時期
収入金額の収入計上時期は、収入日基準を原則とします。なお、敷金や保証金など返還不要部分がある場合には、返還不要が確定した日に収入計上します。
係争等があった場合
明渡し請求などの係争が発生している場合には、和解があるまでは収入計上しません。和解等があった日に明渡し請求期間に係る賃貸料を計上します。
不動産所得の必要経費
不動産所得に係る必要経費には、固定資産税、修繕費、損害保険料、減価償却費、借入金の利子、管理人給与などがあります。
借入金の利子
業務開始後の期間に係るものを必要経費に算入します。なお、業務開始前の期間に係るものは、取得価額に算入します。
不動産取得税/登録免許税/上棟式の費用
業務用資産に係る不動産取得税や登録免許税は必要経費に算入されます。なお、上棟式の費用は取得価額に算入します。
非業務用資産に係る不動産取得税等
居住用の住宅など非業務用資産にかかる不動産取得税や登録免許税は取得価額に算入されます。
立退き料
立退き料は、次の区分に応じ以下のように取り扱います。
【原則的取扱い】
不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入します。
【土地建物等の取得に際し支出する立退き料】
土地建物等の取得価額に算入します。
【土地建物等を譲渡するために支出する立退き料】
譲渡所得に係る譲渡費用となります。
取り壊し費用
取り壊し費用は、次の区分に応じ以下のように取り扱います。
【原則的取扱い】
不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入します。
【取得した土地の上に建っていた建物の取り壊し費用】
土地の取得価額に算入します。
【土地を譲渡するために建物を取り壊した場合の取り壊し費用】
譲渡所得に係る譲渡費用となります。
優良賃貸住宅等の割増償却
アパートなどを新築して住宅として賃貸した場合などに、特定優良賃貸住宅、都心共同住宅など一定の条件に該当するときは、賃貸の用に供した日以後5年以内の割増償却の特例が受けられます。
*割増率や適用期間については改正されますので国税庁のホームページなどでご確認ください。
申告要件
割増償却の適用を受けるには、確定申告書に所定事項を記載し、「優良賃貸住宅等の割増償却に関する明細書」を添付する必要があります。
適用除外
この割増償却の特例は、事業用資産の買換え等他の措置法の特例の適用を受けた場合には、適用を受けることはできません。
損益通算の留意点
不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額は、原則として損益通算の適用があります。なお、その年において控除しきれない部分の金額は、申告を要件に3年間の繰越控除の適用があります。
【損益通算の適用がない場合】
@ 不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合において、その損失の金額のうちに必要経費に算入した土地を取得するための負債の利子の額があるときは、その損失額のうち、その負債の利子の額に相当する金額は、損益通算の対象とはなりません。
A 保養を目的とする別荘など生活に通常必要でない資産を一時的に貸し付けたことなどにより、その資産に係る所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合には、その損失の金額は、損益通算の適用はありません。
資産損失額の取扱い
不動産所得の計算上、事業的規模の場合と事業的規模以外の場合とでは、資産損失についての税務上の取扱いが異なります。
【事業的規模の場合】
固定資産を取り壊したことなどにより生じた資産損失額は、その損失発生年分の不動産所得の計算上、必要経費に算入します。
【事業的規模以外の場合】
資産損失額は、その損失発生年分の不動産所得の金額(この規定適用前の金額)を限度として、必要経費に算入します。
損失額の計算
損失額=損失発生直前の未償却残額−損失発生直後の時価−廃材価額−保険金等の額
取り壊し費用の取扱い
取壊し費用、立退き料、後片付け費用などは通常経費として必要経費に算入されますので、資産損失には含まれません。
現状回復費の計算
資産損失に伴い原状回復費を支出した場合には、原状回復費から資本的支出部分を除いた金額を必要経費に算入します。
必要経費算入額=原状回復費−資産損失の基礎価額(*)
*資産損失の基礎価額(資本的支出部分)=損失発生直前の未償却残額−損失発生直後の時価
資産損失に伴い資本的支出があった場合の減価償却費の計算
家屋の一部損壊等により期中に資本的支出をした場合の減価償却費の計算については、@損壊部分 A被害を受けずに残った部分 B新たに資本的支出をした部分にそれぞれ分けて計算します。
@ 損壊部分
損壊部分の取得価額(*)を基礎として計算した年償却費×年初から損失発生日までの月数/12
*損壊部分の取得価額=取得価額×資産損失の基礎価額/損失発生直前の未償却残額
A 被害を受けずに残った部分
(取得価額−損壊部分の取得価額)を基礎として計算した年償却費
B 新たに資本的支出をした部分
資本的支出をした部分を基礎として計算した年償却費×業務の用に供した日から年末までの月数/12
C @+A+B=その年分の減価償却費
債権の回収不能の取扱い
不動産所得の計算上、事業的規模の場合と事業的規模以外の場合とでは、債権の回収不能額についての税務上の取扱いが異なります。
【事業的規模の場合】
債権の回収不能額は、その損失発生年分の不動産所得の計算上、必要経費に算入します。
【事業的規模以外の場合】
債権の回収不能額は、その回収不能額に係る不動産所得の計算上なかったものとみなされます。したがって、その損失が確定申告後に生じた場合には、損失が生じた日から2ヶ月以内に更正の請求をする必要があります。
青色事業専従者給与等
不動産所得の計算上、事業的規模の場合と事業的規模以外の場合とでは、青色事業専従者給与等についての税務上の取扱いが異なります。
【事業的規模の場合】
青色事業専従者給与の必要経費算入又は事業専従者控除額のみなし必要経費額の特例が認められています。
⇒同一生計親族が事業から受ける対価
【事業的規模以外の場合】
事業的規模以外の不動産所得については、これらの特例は認められていません。
青色申告特別控除額
不動産所得の計算上、事業的規模の場合と事業的規模以外の場合とでは、青色申告特別控除についての税務上の取扱いが異なります。
【事業的規模の場合】
青色申告特別控除については最高65万円となります。
【事業的規模以外の場合】
青色申告特別控除については最高10万円となります。
事業的規模と事業的規模以外の区分
不動産の貸付けを事業として行っている場合であってもその所得は不動産所得とされますが、不動産の貸付けを事業的規模で行っている場合と事業的規模以外で行っている場合では、資産損失、貸倒引当金、青色申告特別控除額、専従者給与等の税務上の取扱いが異なります。事業的規模であるかどうかの判定は、一般的に貸室等については10室以上、貸家については5棟以上が事業的規模とされています。