バースデイ2004

       004は、心地よく寝ていた。うつ伏せになって寝ているのは単なるクセなのだが、003等によく窒
       息しないと感心されている。まあ、うつらうつらと正に夢見心地。
       ズシ
       そんな感じで、急に腰の辺りが重くなった。
       「・・・・・んん?」
       流石に違和感を感じるが、まだまだ眠気が勝っている。それに我慢できないような重さではなかったの
       で、004は無視をして眠ることにした。後で思えば、この時に起きていたらまた違う展開になったか
       もしれないが、この時はそんなことは気にならなかった。



       いい加減、腰が痛くて004は目を覚ました。なにか重い物でも乗らせているように、ギシギシいって
       いる。
       「?」
       004はサイボーグである。従って俗に言う筋肉痛とは無縁の存在だ。しかし今、腰に感じる感覚とい
       うか痛みは正に昔経験した筋肉痛であった。
       「ようやく目が覚めた?」
       聞き慣れた、あっけらかんとした声が背後からかかる。
       「!」
       いるはずのない人物の声。004はまるで海老のよーに跳ね起きた。004の腰にいたらしい誰かがコ
       ロリと床に落ちる。痛む腰を擦りつつ、004は床にちょこんと座って呑気に自分に手を振っている人
       物を睨みつけた。
       「もーう、朝は低血圧だったけかな?」
       「・・・・・・・ジョー、貴様いつの間に?」
       寝起きということもあるのだろうが、凄みのある004の問いかけに当たり前のように流している00
       9であった。ぴょこんと立ち上がって、すたすたと004の側による。004が身構えているのも構わ
       ず、ぽんと肩に手を置いてニッコリと笑う。
       「おはよー、アルv」
       「・・・・・・・・・・。」
       「おはようのちゅーは?」
       「・・・・・・・・・・。」
       「ねえ、いつもみたいにしてよ。」
       「・・・・・・・・・・。」
       「ねえ?」
       「・・・・・いつもしとらんぞ、馬鹿者。」
       「もーう、つれないんだから。でもソコも良いんだよねえ♪」
       相手にするのも馬鹿らしい。004はそう結論つけて、立ち上がった。おや、という顔をする009を
       無視してコンロに向かう。やかんに水を入れて、コンロにかけ火を点ける。それからゴソゴソとマグカ
       ップを取り出そうとした時だった。
       「あ、僕もうここでコーヒー飲んだから良いよ。」
       ぴた
       004の動きが止まった。固まったまま、首だけをのろのろと009に向ける。
       「ここで・・・?」
       「うん、ここで。」
       いけしゃあしゃあと答えてくる。思わず頭を抱えたくなる004であった。
       「いつ?」
       004の問いかけに、んーと上を向いて考えるような仕草をしてから答えてくる。
       「ええとね、アルの部屋にピッキングして入ったのが・・・午前2時だったから・・・。」
       「お前、ピッキングは立派な犯罪だぞ?」
       「うん、僕立派だから。」
       「何故に後半を無視する。」
       「(聞いてない)それから、やかんに火をかけてお湯を沸かして飲んだから・・・ま2時半ぐらいまでの
        間かな。」
       009の返事にますます頭を抱えたくなり、本当に抱えて蹲ってしまう004。
       「なんでそんな派手なことされてたのに、気が付かないんだ俺は(涙)。」
       「アル、お湯沸いてるよ?」
       009の指摘になんとか立ち上がって、火を消し肩を落とす。その後姿は、哀れそのものだった。
       「アルってば良く寝てたね。」
       「お前が強襲してくるって知ってたら、絶対寝なかったけどな。」
       「ああ、心待ちにしてくれるんだもんね。」
       「してない。」
       即座にいつもの通りに否定するが、いつものよーにざざーっと太平洋にでも流されてしまう。
       「あんまり良く寝てて、退屈だったからアルの上に乗ってみたんだv」
       「・・・・・・・・・・いつから?」
       「午前3時ごろからかな?」
       あっけらかんと答えてくる009を睨みながら時計を見ると、午前7時であった。つまり009はなに
       が面白いか知らないが、4時間も004の上に乗っかっていたことになる。004の腰イタも納得でき
       るというものだ。
       「貴様・・・・人の上に4時間も乗っかってたのか?」
       凄みのある声もなんのその、009はうん、とにこやかに答えてきた。
       「寝顔が見れなかったのは残念だけど。まあそれはまた後でたっぷり見るつもりだし。」
       さらっと空恐ろしいことを言って、にぱと笑う。
       「・・・・・・・んで、なにしにきたんだ?」
       気を取り直してコーヒーを淹れながら、009に尋ねる。いつもの事なので、いつまでも落ち込んでも
       いられない。004は早々と気にしないことにした。そりゃ少しは気になるが、そんなことでは009
       の相手などしていられない。するとごそごそと音がして、009は何かを背負ったようだった。
       「?」
       「今日は僕の誕生日なんだよv」
       カチリ
       なにかのスイッチを入れる音がするので振り向くと・・・・009は花を背負っていた。しかも花の周
       りでは電球が眩しく光っている。思わず硬直する004を尻目に、009は左手を胸に当て右手を斜め
       前に突き出している。トレビア〜ンという効果音が付きそうな光景だった。
       「だからわざわざ来たんだv心置きなく僕の誕生日を祝ってくれて良いから。」
       「・・・・・・それ、どーしたんだ?」
       「ジェットに作ってもらった。」
       「ま、まぁあいつも変なトコ器用だからな。」
       「最初は渋ってたんだけど、アメリカで密かにある女の子と宜しくやってたねーフランソワーズの前で
        とっても仲良さそうだったよって報告しようって言ったら、快く作ってくれたよ。」
       「・・・・・・・そりゃ普通は脅迫という、犯罪行為だぞ。」
       004の脳裏には、言わないで〜と009に頼み込む002の姿が良く想像できた。可哀想な002。
       ある事件での必要性からの行為だったことを知っているので、004はちょっと同情した。003もも
       ちろん事件のことは知っているが、そこまでは知らないのだろう。009が種に持ってきたところを見
       ると。トコトン運がない男なのかもしれない、と文字通り花を背負ってピカピカと電球の光にも嬉しげ
       にまだポーズをとっている009を見つめる004であった。ズズッとコーヒーを一口飲む。その頃に
       は009もポーズを取るのを飽きたらしく、ヤレヤレなぞと言って背負っていたやつを降ろした。そし
       て椅子に座って両手で頬杖をつき、004をニコニコと見つめる。
       「?なんだ?」
       「ケーキ買って、アルv」
       「ケーキだぁ?」
       「うん。誕生日にはケーキはつきものでしょ?」
       「・・・・・・・お前、いくつだよ?」
       「んーーーー永遠の18歳。」
       「今日、誕生日・・・とかほざいとらんかったか?」
       「(外見上は)歳とらないんだしさvいいじゃんか、僕ずっと孤児院で過ごしたから誕生日にケーキを買
        ってもらうことなんてなかったし。」
       そう言いながら、微妙に上目遣いで004を見る。そう、犬がなにかをおねだりするような目。004
       はそんな目に弱かった。もちろん、009は全て分かっていてやっている。自分からの強制ではなく、
       004から自発的にしてもらうことに価値があるのだから。
       案の定、004は溜息をもらして少し困ったような顔をして笑った。
       「しょーがねーなー、あんまり高いモンにすんなよ?」
       自分の財布と頭の中で交渉した後、004は現実的な事を言った。


       端から見たらどーいう風に映るのだろう?
       004は009と大通りを歩いていた。ずんずん歩く自分の横をぴょんぴょん飛び跳ねているかのよう
       な足取りの009がいる。
       (仲の良い兄弟・・・・とでも見えるのかな)
       004には実際兄弟はいなかった。しかし弟というには、009は侮れん性格をしている。腹黒さんが
       弟な人生なんて嫌だなー、とか思ったりもする。
       「あ!」
       009が突然004の腕を引っ張った。サイボーグの馬鹿力で。
       「やめんか、服が破れる。」
       「それもまたセクシーかも。」
       「なんか言ったか?」
       じろり、と睨む004に009は全然違うことを口にした。
       「スパゲティアイス食べたい!!」
       目の前にはカフェテラス。
       「・・・・好きだねえ、お前。」
       「だって、日本のアイスに比べれば濃厚な味がして美味しいんだよ。大好きさ!ドイツじゃ僕みたい
        な男が食べてたって変に思われないもんね!」
       「そうかぁ?俺は日本のアイスの方がさっぱりしていて好きだけどな。」
       「ま、ないものねだりに近いのかもね。アル、食べていこうよ!」
       ぐいぐいと引っ張られて、よろけているうちにあっという間にカフェの中に入っていた。スパゲティア
       イスとは、ドイツ名物のアイスだ。その名の通り、スパゲティ状のバニラアイスの上にイチゴソース等
       をかけたもの。因みにドイツのアイスはイタリアからもたらされたそうなので、ジェラートを想像して
       みるといいかもしれない。・・・・・ドイツに行ったことないですが(笑)
       「スパゲティアイス2つ!」
       「俺はコーヒーで良い!」
       嬉々として注文する009の言葉を遮るように、慌てて004は叫んだ。004は甘いものはあまり好
       きではないのだった。前にうっかり009と一緒に食べてみたが、全部は食べられなかった。もったい
       ないと大後悔した004であった。
       胸焼けがしそうなスパゲティアイスを食す009を眺めながら、004はしみじみと思う。こうやって
       嬉々としてアイスを頬張る009は割りと可愛い。そのまんまでいてくれたらなぁ・・と。ま、現実は
       甘くはなかったが。
       「じゃ、ケーキ買いに行こう。」
       「ゲッお前、まだ食うのか?」
       「当たり前じゃん。アイスは突発的な事項。ケーキを買いに行くのが冒険の目的だろ?」
       「いつの間に冒険モノになったんだ・・・。」
       「僕が日本を発った日から。」
       「俺への強襲もその一環かい。」
       「うんv」
       「あっさり言いやがって・・・。」
       そんなことを言いながら、目当ての店に着く。
       カラン
       ドアを開けて入ってみれば、そこはいわゆるケーキ屋さんである。ドイツ人は案外甘党であるらしい(実
       話)色とりどりのケーキが並んでいる。009は目を輝かせてショーケースに貼りついた。
       「おい、ホールは御免だぞ。」
       一応、そう声を掛けると心外そうな視線が返ってくる。別に金がない為じゃない。前せがまれるまま1
       ホール買ったことがあったのだが、やはり食べ切れなくて往生してしまったからだ。009は直にこの
       甘みに飽きてしまって、あっさり2ピース食べただけであとは食べなかった。残った(004にしてみ
       れば)膨大な量のケーキを何とか食べたり、近所に配ってみたりして奔走した苦い思い出があるからだ
       った。しかし009はやはりそのこと自体は悪い、と思っていたらしい。ぷぅと一応は膨れてはみたも
       のの
       「分かったよーだ。」
       と言って、ショーケースに向き直った。


       結局009は甘ったるいと分かるチョコレートケーキを1ピース、付き合いで余り甘みのないチーズケ
       ーキを1ピース買った。部屋に戻ってから、004は間抜けにも大事なことを忘れていた事に気が付い
       た。
       「あ・・・・プレゼント買ってないか。」
       その台詞に009はピョコンと反応したが、いらないよとばかりに手を振った。
       「いいよー、は。」
       「・・・・・・今は?」
       「うん。ま、あとで貰うけど。」
       にんまりと笑う天使の微笑みに、思わず後ずさる004。嫌な予感がした。
       「そんなに身構えないでvそれはあとあとv」
       「・・・・・そうか、あとか。」
       ニコニコと笑う009に、004は引きつった笑いを浮かべながら”あと”をどうやって切り抜けるか
       を真剣に考え出したことは言うまでもない。


・・・・・それが成功したかどうだかは・・・・・・
ひみつだ。

       ★1週間遅れでの、009誕生日話でした。スパゲティアイスはドイツの名物だそーで。酒飲みな人種         だから、甘いのは苦手かと思っていたら男女共に甘いの大好きだそうな。ふーむ、知りませんでした。         ポテトとビールの国だとばかり・・・・。いやに009がテンション高くて、書いてて笑ってしまい         ました。いいぞ少年、誕生日が嬉しいなんてそのくらいまでだからね(笑)         あ、あと切り抜けられたかどうかは・・・・・相手が009ですからね、ふふふ・・・・。        戻る