A Surprise Attack
静寂な時が流れていた。
002はギルモア邸の居間にあるソファで、熱心にゲーム雑誌を読んでいた。その隣には008が難し
そうな本を黙々と読んでいる。
静寂な時。
しかし静寂の時は、必ず破られる運命なのだ。今回もそれに漏れなかった。
ドバターーーーン!!!
凄まじい音と共に、玄関のドアが開かれる。002と008が何事かとドアを見ると、そこにいたのは
肩をいからせて怒りに燃えた表情で立ち尽くしている004であった。ポカンと見る2人の視線をもの
ともせず、004はガッシガッシと廊下に繋がるドアに向かって歩き出した。その姿に、002がポツ
リと言う。
「・・・・アルベルト・・・・いきなり尻尾ができてるなんて・・・・。」
確かに、尻尾があるんではなかろーかというような場所から、何かが伸びていた。しかも、大きい。0
04は疲れたような顔をして、002を睨みつけた。
「これが尻尾にみえるのか、お前は!?」
「うん。」
「(怒)よーく見ろ!!!!」
よーく見ると、そこに存在していたのは・・・・・・・
「なにやってんだ、ジョー?」
「言うことはそれだけか!?」
ますます怒りを露にする004を余所に、002は004の腰にへばりついて引きづられている009
に話しかける。
「どーしたんだ、一体?」
009はむくりと顔を上げて、ふくれっつらをした。
「だーーーってさああ、アルったら僕のお願い訊いてくんないんだもん。」
「お願い?」
「訊くか、そんなお願い!!!・・・・・・いい加減に離れろ!!!」
身体を揺する004から、意外と淡白に009はコロリと離れた。そしてひょい、と何事も無かったか
のよーに立ち上がる。
「いいじゃんか、減るモンじゃあるまいしぃ。」
「お前は俺の神経を擦り減らしてるっていう、自覚はあるのか?」
「ないよ。」
「話にならん。」
004は、ずかずかと歩き出した。その後を009がひょこひょことついていく。そして何故か、00
4は居間のソファの周りをぐるぐると歩いている。当然、009もソファの周りをぐるぐると歩いてい
る。ソファに座った2人は、対応に困ってしまった。
「なんだか、ち○くろサ○ボの椰子の木の気持ちが分かるような気がするな・・・・。」
002が呟いた。
「ああ、差別の話だからっていう理由で発禁になった話な(実話)。」
008が答えてくる。
「俺さーサン○が知恵で虎をひっかけて倒すって話だったから、大好きだったんだよね。」
「つーか、ジェットの場合はその虎のバターで作ったっていうホットケーキの方が気になったんじゃな
いのか?」
「わー、何でわかんだよ!?流石ピュンマ大先生だな。・・・・でも虎がバターになる根拠がいまだに
わかんないんだけど。」
「奇遇だな、俺も分かんないよ。」
008が淡々と答えてきた。目が据わっているように見えるのは、きっと気のせいであろう。
「なにやってるの、アルベルト、ジョー?」
唐突に003が紅茶セットを持ってひょこ、と現れた。
「なにやっているように見えるか?フランソワーズ?」
歩く速度を速めながら、004が尋ねる。当然009も歩く速度を速めていく。
「そうねえ、鬼ごっこかしらね。ま、良いわ別に。ジェット、ピュンマおやつにしましょう。」
あっさりと答えて、003はトコトコとテーブルに近づいてトレイを置いた。
「ジョーもアルベルトも、一時休戦ってことでおやつにしましょ?」
「・・・・・・戦ってた覚えはないがな。」
苦情を言いながらも、004は009と仲良く隣同士で座った。恐るべしフランソワーズ、と002と
008は思った。009と004の痴話喧嘩(こういうと004は怒るが真実だろう)にも、悟りを開い
て平気になってきた自分達ではあるが、こんな風にあっさりと割り入ってきて停戦させることが出来る
のは003だけだ。004は003には甘いし、009は003とは結構気が合うらしいので意外と0
03の言う事をきく。今も大人しく002と008の座っているソファのお向かいにちょ〜ん、と座っ
ている。
そして、しばらく皆黙って紅茶を啜っていた。時々クッキーを摘みながら。
「で、今回はナニが原因で争っているんだい君達?」
008が静かに訊いてくる。004はムスッとした顔をして答えなかった。しかし009は身を乗り出
して、話し出す。
「別に無理言ってたわけじゃないよ。」
「で、ナニ言ったんだ?」
ギロリと004は002を睨みつけた。
「アルから僕にちゅーして、ってお願いしただけだよ。」
ブーッっと009以外は啜っていた紅茶を吹き出した。
「馬ッ鹿野郎、ストレートに言う奴があるかああああ!!!」
004は顔を真っ赤にして怒鳴った。
「別にいーんじゃねえ、アルベルトからジョーにちゅーしたって。」
002のお呑気な台詞に、004はギリリと歯軋りをした。
「テメー・・・他人事だと思いやがって・・・・。」
「だって俺、フランソワーズに自分からできるもん。」
「お前らは良いよ、そりゃあな!でも、俺は嫌なんだ!!!」
「減るもんじゃないって、散々言ったんだけどねえ。」
「それ以上のコトさせといて、ナニが減るもんじゃないだ!!」
「いいじゃん、たまにはさあ。可愛い僕にアルからちゅーしてくれたってさ。」
「するかっっ!!」
なにやら不毛な痴話喧嘩(痴話喧嘩なんて不毛なものだが)に突入しかけている彼らに、002はホソ、
と言った。
「じゃあアルベルト、俺とちゅーしてみっか?」
ガツン!
凄まじいまでの音と共に、002は眉間に009が紅茶を飲んでいたはずの(何故か)マグカップがヒッ
トしていた。
トス
そして、右頭にトレイ(しかも縦)が突き刺さっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
当たり前だが、002はそのまま左後ろに倒れた。床に激突する前に、008が慣れた仕草で支える。
さすがサイボーグメンバーのお兄さん的存在だ。そのまま、ゆっくりとソファに寝かしてパタパタと手
で顔を扇いでいる。
驚いた004が慌てて周囲を見ると、トレイを投げた御本人である003は澄ました顔をして紅茶を優
雅な手付きで飲んでいる。009は、これまた何事も無かったよーにお皿に盛られたクッキーに手を伸
ばしていた。
「駄目じゃない、ジョー。コップが割れちゃったじゃないの?」
にこやかに003が009に言った。
「あっは、ごめんねフランソワーズ♪」
こちらも負けず劣らず、爽やかな笑顔で答える。
「でもさあ、こーいう事になると思ったからこそ僕だけマグカップだったんじゃないの?」
「そうよ、私のお気に入りのカップが砕けたら嫌だもの。」
「おい。」
004が声を掛けると、2人は嬉しそうに004に向いた。
「なあに?僕のアルv」
「なあに、アルベルトvv」
双子かこいつら、と004は思う。生まれた場所も性別も、あまつさえ生まれた時代すら違うのに00
9と003は妙に共通点がある。今も声を揃えて、しかも同じ言葉を(少し違うが)発して同じように目
を輝かせて、自分を見てる。うっと004は怯んだ。しかし不憫な(たとえ墓穴を掘ったのが002であ
ったとしても)002の為に、引くわけにはいかない。
「ジョー、マグカップは人の眉間にぶつけるものではないだろう?」
「わーい、アルが僕の方に先に声を掛けてくれた〜vvv」
喜ぶ009と、拳を握って本気で悔しがっている003。
「いーから、人の話を聞けって!」
「はーいv」
「だから、眉間に限らず人にマグカップをぶつけたら駄目だろう?今回はジェットだったから良かった
が、他の奴だったら大変なことになっていたんたぞ。」
004の言っていることは半分正しいのだが、半分更に002を不憫にしていることを004はわかっ
ていないようだった。個人的には005も大丈夫だと思うのだが・・・・・。
「はーい。」
「反省しなさい。」
「ほーいv」
ニコニコと反省の欠片もなく、お気楽な返事をしている009をあっさりと見捨てて004は003に
向き直った。
「フランソワーズもだな、仮にも彼氏なんだからトレイを刺すのは止めなさい。」
「だって、浮気発言だったからつい・・・ねえv」
「浮気もへったくれも、そんな器用な真似ができる奴じゃないだろう?」
「うん・・・・。でも大丈夫よ、ジェット変に丈夫だから。こんなことじゃ死なないわ。何より、私を
置いて死ぬわけないもの。」
「その前に、死ぬかも知れん事はしちゃだめだろ。万が一ってことがあるからな。」
「分かったわ、後で謝っておく。」
「そーしなさい。」
一通り苦言が終ったので、004は一息ついた。と、反省をまったくしていない009がひょこ、と顔
を出した。
「なんだ、ジョー。」
「お小言、終った?」
「お小言じゃなくて、苦言!」
「苦言、終った?」
「・・・・ああ・・・まあ・・・な・・・。」
「ほんじゃあ!」
いきなり009は004を肩に担ぎ上げた。当然004は慌てる。
「なにすんだ、おまへわ〜〜〜!!!!!」
それに対して009は澄ました顔をして、答えた。
「ん〜〜〜アルがちゅーしてくんないからさ、その代わりのものをさせて貰おうと思って。」
「なんで、そーなるー!!!おーろーーーせぇぇーーーー!!!」
こういう時、誰も009を止めない。いや003は止められるだろうが、今回は何故か止めなかった。
止める者のないまま、わーきゃおと騒ぐ004を担ぎ上げた009は居間のドアを開けて、廊下に出て
行く。パタンとドアが閉まって、004の声が小さくなった。
「ジェット、大丈夫そう?」
003が初めて心配そうに訊いてくる。008は心配ない、と手をひらひらと答えた。
「でもなんかあったら心配だから、一応メンテナンスしてみようか?」
「ええ、そうするわ。」
遠くで、004が撃ったらしいマシンガンの音が聞こえてきた。すぐその音は消え、本当に小さく00
4と009の声が聞こえた後、009の部屋のドアが閉まったらしくシーンと静かになった。
「御愁傷さま。」
008がぽつ、と呟いた。
そして、ある日のこと。いきなりBGの基地が見つかったというので、00ナンバー達は殲滅させるべ
く張り切って向かった。
当然、仕切るのは004である。
「良いか、基地に潜入するメンバーは003,007、008だ。008は彼らの指示を任す。」
「OK分かったわ。」
「008、ちゃんと指示をだしてくれたまえ。」
「ああ、ちゃんと従ってくれな。」
「それから陽動の為に、右側の方から攻撃するメンバーは005,006,002だ。なるべく派手に
頼む。」
「分かった。」
「まかせてアル。」
「OK」
「それから・・・・・。」
004はちらりと009を見る。
「009と俺で正面から当る。主戦力をぶつけた方が相手はこちらに気を取られるし、多分どんな攻撃
にも臨機応変にできるしな。・・・・・質問はあるか?」
004の問いに、メンバー全員首を横に振る。
「じゃあ、作戦開始だ!」
唐突だが、残骸の上に004は立っていた。少し下の所に009が立っている。この基地はさして重要
でもないらしく、危惧した程の兵力はなかった。全ての戦力はこちらに集中したらしいのだが、004
はもとより最強の009がいるのである。あっさりと全滅してしまった。あとは潜入組が基地の爆破を
する為の細工をするのを待つだけとなったのであった。
「ねえアル?」
「なんだ?」
「ご褒美、欲しいなv」
「なんで?」
「僕、頑張って敵を滅殺したんだから、そのご褒美ー!」
駄々っ子のように言う009をちらりと見やって、004はちょっとかがんだ。
「?」
流石に009の目が丸くなる。そのまま、004の顔が近づいてきて・・・・(心なしか強張っている)
ちゅ
唇に触れた慣れ親しんでいる暖かさは、少しの間をおいて静かに離れた。009は目を丸くしたまま、
右手を自分の口に持っていく。
「え、え、・・・・・・ええっ〜〜〜〜!!!アル!?」
珍しくうろたえる009を見て、004はニヤリと笑った。
「なんだ、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をして。どーした坊や?」
「だ、だって・・・・・・。」
「お前が欲しいと言ったんだから、極稀にご褒美とやらをやったんだぞ?」
009を出し抜けたことが嬉しいのか、004はご機嫌だった。しかしここは一応戦場である。005
達の様子も気になる。踵を返した004は、右腕をクンと引かれる。振り返れば、やっぱり目を丸くし
たままの009が右腕を抱きこんでいた。
「なんだよ、離せ。」
「も、一回。」
「は!?」
「もう一回、ちゅーして?」
「なに言ってんだ、さっき極稀にって言ったろ?そんなにやってたら、ありがたみが薄れる。」
「薄れないから。」
「断固拒否。」
「夢をもう一度!」
「夢で会ってこい!馬鹿ったれ!!!!!」
004の怒号が、静かになった戦場に響き渡った・・・・・。
「何やってんだか、あいつら。」
瓦礫の上で、004にへばりついている009を見て002は溜息と共に呟いた。005も006も同
意であったらしく、同じように溜息をついた。そこへ008達、基地潜入組が現れた。
「002!」
「おう003。怪我はないか?」
「ええ、おかげ様でね。」
早速ラブラブモードに入りかける002と003を見ながら、008と007は目を丸くして瓦礫の上
の彼らを指差した。005と006は無言で頷き、008と007も無言で頷き返した。
「は〜〜〜〜な〜〜〜〜せぇぇぇ〜〜〜〜!!!!!」
爆発が近づいているこの基地に、004の悲鳴が虚しくこだました。
ってゆーか、早く逃げなさいって!
★ええと、キリ番ということでいつもお世話になっている印口さまのリクエストにお答えさせて頂いた
ものでございます。お題は「004からちょっとかがんで009にちゅーをする」というものでした。
確かに004からちゅーをしているんですが、このロマンの欠片もない話はなんなんでしょう。もう
一回、と強請られて拒否したのは004が恥ずかしかったからです。でも自分からちゅーをするタイ
ミングを伺っていたのでした。この基地攻略で009と2人で正面から当る、と言ったのはそういう
ことだったりもして(笑)
・・・・こんなんですみません、印口さま。
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