神。
神とは・・・・。
神とはなんだ?


「俺は神だ!」
「神でなければ、この姿はなんだ!?」
「俺は・・・・俺は神だ!!」


ついこの間会った少年の絶望に染まった、叫び。
それは、絶叫。
分かり合えないまま、少年は神殿と共に沈んでいった。

009は、ぼんやりと浜辺で海を見ていた。ミュートスサイボーグとの戦いが終わってから、1週間程
経っている。彼らを飲み込んだ海は、いつもと変わらない顔を見せていた。
波が寄せてはかえす、その繰り返し。
戦いが勝者と敗者の互いの心になにも残すことはないということはない。現に一応勝者となった自分達にだって、
大きな傷を残している。特に003の落ち込みはひどく、パンという幼子が残していったボロボロの
ハンカチを握り締めて人知れず泣いているのを、仲間全員が知っていた。だが、誰も何も言うことが出来ず
1人2人と国へ帰って行った。

「アルか・・・。」
背後からの気配に、先に口を開く。
「なんで、俺だってわかるかな。お前は。」
少し拗ねたような声。思わず、クスリと笑った。
「わかるよ、アルは僕にとって1番大事な人だもの。」
「そーいうことは、フランソワーズにでも言ってやれ。」
呆れたように言う。さらにクスクス笑いながら、振り向くと004が立っていた。
「心外だなあ、本気なのに。」
そう言うと、埒があかないとばかりに肩をすくめる。
「で、何見てんだ?」
「え・・・・わからない?海を見てたんだ。」
コツンと拳が胸に当てられる。
「んなこたあ、わかってる。俺が言ってんのは、現実に見ているものじゃない。海を通して、何見てんだ
って聞いてんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
黙り込んでしまうと、004がニヤリと笑う。
「当ててやろうか?・・・・・・・・ミュートスの連中のことだろう。」
ズバリと言ってくる。誤魔化してもしょうがないので、素直に頷いた。ヤッパリな、と言わんばかりの
顔をする。
「お前は、あの時の戦いに対しての踏ん切りはついたのか?」
「う・・・・うん。まあね。」
当たり障りのない答えを言うと、004は顔を顰めた。
「?なに・・・・?」
不思議に思って尋ねると、ハアと大きな溜息が出される。
「ジョーお前な、言いたいことはチャンと言え。そうやって言いたいことを呑みこむのは、お前の悪い癖だぞ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「別に俺にまで気を使って、我慢することはない。ただでさえフランソワーズが落ち込んでるんだから
自分は平気な顔をしていようっていうのは、なしだぜ。」
「・・・・・・。」
そんなに完璧に誤魔化せるとは思っていない、そこまで仲間達は鈍くない。それでも、平気な顔をしていたかった。
皆、表面上は冷静だったからだ。でもここまでバレていたというのも不本意だが。
「アルはさあ、ミュートス達をどう思っているわけ?」
「んー?そうだな、俺の本当に個人的な意見だが・・・・・あいつ等の罪・・・というか失敗は、自分の
頭で考えることをしなかったことだ。」
「それ、どういうこと?」
「お前は神だ、と言われれば神だと言い、戦争を止めろと言われれば止めに行く。俺達と戦えと言われれば
戦いに来る。なにも、自分の頭で考えていない。」
「でも、それは彼らには過去の記憶がなかったからで・・・」
「まあな。それはあると思う。どんな過去であれ、過去・・・もしくは記憶っていうのは、そいつを定義
づける大切なファクターだからな。そこまで責めるのは、可哀想かも知れん。でも、だからこそあいつ等の
結末は、自分の意思で選択したことだから俺はそれを尊重したいと思う。」
「でも、死ぬことはないと思うんだ・・・。だって死んだら全部終わりになってしまうじゃないか。」
「確かに。でも死はいつかは誰にでも訪れる。お前が気に病むことはないし・・・。」
「ないし?」
「俺は、あいつ等をただ可哀想とか、哀れだとかは思いたくない。そんな簡単な感情で終わりにしたくない。」
そこまで言って004は、海を見つめた。銀色の髪に夕日の光が映りこんでいる。
”綺麗だな”
掛け値なしに009はそう思う。本人に言うと、嫌そうに顔を歪めるのに決まっているが。そのまま、しばらく
2人して海を見ていた。


「アルのミュートスへの考え方はわかったよ。僕の考え方は甘いのかな?」
ポソッと呟くと004がこちらを向いた。004の瞳の中に自分の顔が映っている。なんだか、不思議な気がした。
「別に、俺と同じ考えである必要はないぞ。だが、どんな奴とでもわかり合えるわけじゃないってことは憶えていて
損はないと思う。」
「そっか。」
「もっとはっきり言えば、俺達はあいつ等の気持ちを本当にはわかってないんだ。あいつ等の本当の気持ちは、
あいつ等にしかわからない。理解した、と言っても理解した”つもり”になっているだけだ。」
「そんなもんかな・・・?」
「そんなモンさ。」
「じゃあさ、ついでに答えてよ。」
「ん?なんだ?」
「アルにとって神様ってなんだと思う?」
「神・・・か・・・。」
004はちょっと小首を傾げたが、はっきりと言った。
「俺は、神とは良い行いに報いず、悪い行いには罰しない。それが神だと思う。」
「え?」
呆けた顔をした009を見て004は皮肉気に笑う。
「じゃあ、ジョーお前にとっての神とはなんだ?」
反対に尋ねられて、今度は009が首を傾げる番だった。
「んー、僕は教会で育ったから。僕を育ててくれた神父様は”神様はいつでも見守っています。だから、悪い事は
しないように”って言ってた。」
「良い人に育ててもらったんだな。」
「うん。」
即答してくる009に004は柔らかく笑った。
「ま、普通はそうだな。だが、良い行いとは神の意に沿うことで、悪い行いは神に背くこととも取れる。実際に神が
俺達にそういう意味で干渉してくるなら、それはもう神ではない。」
「神じゃなかったら、なんなんだ?」
尋ねる009にあっさりと004は答えた。
「独裁者さ。」
「ヒットラーのような?」
うっかり、言ってしまってから009はしまったと思う。解釈の仕方によっては、ドイツ人の彼に対してものすごい
皮肉を言っているようにとれる。わたわたと焦る009を見ながら、004は続ける。
「だから神だから戦争を止める、というあいつ等の主張は余計なお節介だったんだ。平和に終わりがあるように、
戦争にも必ず終わりがある。」
「そう?」
「なら、100年以上続いた戦争ってあるか?ないだろう。それに人が始めた戦争は、人が終わらせなければ意味が
ない。人間達より大きな力で戦争を終わらせてしまえば、皆戦争が始まってもあいつ等がなんとかしてしまうと思って
終わらせる為の努力をしなくなる。」
「うーん、何だか実感がわかないな。」
さっきより首を傾げる009の頭にポンと右手を置いて、004は苦笑する。
「まあ、俺の個人的な意見さ。神とは人が生きてく為の秩序であり、ルールなんだと思っている。お前がそんなに悩む
ことはない。お前はお前でいつかきっと答えを出せる時がくるさ。焦ることはない。じっくり自分の頭で考えな。」
ポンポンと優しい調子で、頭を叩かれる。009はわざと拗ねてみせた。
「ちぇっ、子供扱いして。」
ハハハとおかしそうに004が笑った。

「ジョー、アルベルト!」
003の声がした。2人してそちらを見ると、003が嬉しそうに走って来る。
「もう、2人共こんなところにいたの?」
笑顔のまま、悪戯っぽく2人を睨む。
「ごめん、フランソワーズ。」
「どうしたんだ?」
「もーう、どうしたもこうしたもないわよ。ご飯ができたから呼びにきたの。」
「もう、そんな時間か。悪かった。」
003に謝って004はポケットに両手をつっこんで歩き出した。その後を003が追う。
「今日のメニューはなんだい?」
「ジョーもアルベルトも好きだから、頑張って和風にしてみたの。」
「へえー、そいつぁ楽しみだ。」
004と003の何気ない会話を耳に入れながら、009はボウッとそこに立っていた。そして何気なしに思う。
003はミュートス達に、自分の境遇を重ねていたからあんなにも悲しがっていたのかもしれない。
004はミュートス達に、自分の境遇を重ねていたからあんなにも怒っていたのかもしれない。
なら、自分は・・・・・・?

ふと004が足を止め、009を振り返る。
「どうした、ジョー?行くぞ?」
003も不思議そうに振り返っている。009はとっさに笑った。
「なんでもない、行くよ。」
そう言って再び歩き出した004と003の背中に向かって走っていった。


「俺は神だ!」
「神でなければ、この姿はなんだ!?」
「俺は・・・・俺は神だ!!」


ついこの間会った少年の絶望に染まった、叫び。
それは、絶叫。
分かり合えないまま、少年は神殿と共に沈んでいった。


誰か教えてくれ。
神。
神とは・・・・。
神とはなんだ?

★くっらーい!なんだか004に私が乗り移っていたようです。神という存在は本当に曖昧で難しいです。
解釈1つで良くも悪くもなりますから。独裁者云々は昔ビートたけしが言っていたことです。聞いたとき
は目から鱗がズッパリ取れた気がしました。あとは、私の考え方です。背景はミュートス達が還ってい
った、海を使ってみました。
”神”についての、皆さんの考えはどうですか?
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