009のお誕生日
”それ”は爽やかな5月の上旬にやってきた。
<やあ、アル元気かい?早速だけど5/16は僕の誕生日なんだ。無論、覚えているよね?というわけ
でドイツから日本に来て。ちゃ〜んと飛行機も予約しておいたからさ!航空券、同封しとくからね。
もし、来なかったら・・・・・・。うふふ・・・。>
004は見なきゃ良かった、と後悔するが後悔先立たずという諺通りのハメに陥る。しかも、行かなか
ったらどーいう目に遭うのかもハッキリ書いていないのも恐ろしい。しかし本音を言えば、忘れていた
のだ。009の誕生日を。我ながら、薄情かな〜?と苦笑する。自分の時は、あれだけの事をしてもら
ったというのに・・・・。
幸い、1週間程の休みが取れた。普段真面目に働いていた為、皆快く許してくれたのだった。日頃の行
いは大切だと痛感する004であった。
そんなこんなで、009の指定した飛行機にめでたく搭乗できたのだった。これで、少なくとも009
に正体不明な目に遭わされずに済みそうだ。ほっと一安心する004。
そして飛行機は004を心待ちにしている009の元へ、004を運んで行くのであった。
通関を越えると、004は目を見張った。成田空港に着いた004は、京急に乗って行こうと思ってい
たのである。それがお出迎えのロビーで、盛んに両手を振っている人物がいる。あまつさえ、飛び跳ね
てまでいるのである。誰だ?能天気な奴がいたもんだ、と目を向けた004は硬直した。ところが手を
振っているご本人は、周囲の目もなんのその。ご機嫌でブルンブルンと振り回している。あまつさえ
「ア〜〜〜〜ル〜〜〜〜〜〜vvvvv」
ご指名が入る。すると、周囲の視線が一斉に004に集まった。硬直したまんま、視線を浴びている0
04に009がぱっぱと寄って来て。
「来てくれたんだね!嬉しいよ!!!」
そのままの勢いで、004に抱きついた。きゃーvとかいう黄色い声が、辺りに木霊する。慌てたのは
モチロン004である。
「ば、馬鹿!!何すんだ!!離れろよ、おい!!」
鞄を持っているので、片手で009を引き剥がそうと奮戦してみる。しかし、いつものように009は
すっぽん並みに離れない。ひょっとしたら004が引き剥がそうとする度に、ますますしがみ付くとい
う習性が009のプログラムに発生しているのかもしれない。家の中など、見る人が限定されている時
は最初から諦めて009が抱きつくのに任せるようになった004ではあったが、流石にこんな公衆の
面前でやられるのは堪らない。じたじたと公衆の視線に晒されながら、引っぺがそうとする。周囲の人
がわくわくそわそわしながら見ているのがわかる。彼らも目的を達成するまでヒマなのだ、ようするに。
そんなヒマな時に、可愛らしい少年がぴょんこぴょんこと跳ね回りハンサムな青年に抱きつくなどとい
うイベントが発生すれば、注目してしまうのは想像に難くない。しかも今日の出来事として、友人や家
族に話されることは必須である。そんな004の葛藤も分からないのか(分かってて無視している可能
性が高い)009は、ゴロゴロと喉を鳴らしそうな勢いであった。
「やっぱり来てくれたんだね、嬉しいよ僕!」
(あんな脅迫まがいの手紙を寄越されたら、当たり前だ)
本音を心の奥深くで呟いた後、004はまあなとか言いながら009を引きずって歩き出した。と、よ
うやく009が004から離れて手を出す。
「?」
「鞄、持つよ。貸して?」
「いや、良いよ。重いしな。」
「良いの、僕が持ちたいの!貸して。」
そう言われれば、渡した方が早い。別に、まずいものを入れているわけでもないので004は009に
鞄を手渡した。嬉しそうに、004の鞄を受け取った009は確かに重いね、と言いながら004を促
してロビーを出て行った。
009愛用の車に乗り込む。外は良いお天気だ。絶好のドライブ日和ともいえる。
「別に、わざわざ迎えに来てくれなくって良かったのに。」
「いいじゃない、今日はお天気も良いしさ。ドライブしようよ。」
「ギルモア邸まで、か?」
「此処から結構距離があるからさ、ドライブになるんじゃないの?」
「まあ、そうだな。」
道路はスカスカにすいていた。頬どころか、おでこ全開させられる風が心地よく流れていく。009を
ちらりと見たが、彼の前髪はビクともしていなかった。正に世界不思議発見。
「爽やかな良い季節だな・・・・。」
「そーでしょう?正に爽やかな僕が生まれるに相応しい季節だよね!」
「・・・・・・・・誰が・・・爽やか?」
「僕。」
「・・・・・・・・・・・・・・まあ・・・・・上っ面は・・・・そう・・・か?」
「なに、悩んでるの?」
009にジト目で見られた004は、咄嗟に嘘をついた。
「別に。」
それよりちゃんと前見て運転しろよ、と言い募れば009はふうんと言って前を向いた。
「そういえばギルモア博士やフランソワーズは元気か?」
「ああもー元気元気。フランソワーズは最近張々湖のお店で、バイトしてるよ。」
「張々湖の店って、たしかチャイナ服が制服だったよな?あれ嫌がってなかったか?」
「それがねー、どーも心の何かに触れたらしくってお気に入りなんだよ。もう上機嫌で着てってるよ。」
「ふーん、まあでもフランソワーズなら似合うだろ?」
「まあね。」
「ジェットが見たら、デレ〜と顔を崩して見てそうだな。」
「おや、分かる?まんざらでもない顔して、見てたよ。あ、でもすぐ出かけちゃったけど。」
「何処へ?」
「張々湖のお店。変な虫が付いたら困るってさ。心配性だよねえ、フランソワーズなら変な奴に襲われ
たって返り討ちにするのにさ。」
「・・・・・・・あったのか、そういうこと?」
「あー酔っ払いがね。フランソワーズのお尻に触ろうとしたんだって。」
「それで?」
「触ろうとした手をフランソワーズが取って、一本背負い。」
「成る程ね。さすが。」
「でしょ?でも心配だったみたいだよ、ジェット。まあ僕もアルがそういう目にあったら、心配だよね。
気持ちは分かるけど。」
「ジェットの気持ちもわからんでもないが。普通30の男の尻を触ろうとする輩はいないと思うぞ。」
「そんなの分かんないよ。僕、触りたいもん。」
「あのなあ、いきなりすっとぼけた事言うなよ?つーか触らんで宜しい。」
「なんで〜?良いじゃん。減るもんじゃないのに・・・・・。」
そんな端から見たら、頭を抱えそうな会話を真面目に(004は)展開させながら車はひたすら走って行
った。
ギルモア邸に着くと、そこは無人だった。いつもは寝ている001すらいない。
「ジョー皆は?」
きょろきょろしながら004が訊くと、009はよいしょよいしょと鞄を運びながら答えた。
「んーギルモア博士は、アメリカで講演があるらしいから今日の午後の便で向かったよ。フランソワー
ズはモチロン着いて行くだろう?」
「・・・・アメリカじゃあ確かにな。」
「でしょう?んでイワンは張々湖が面倒を見てくれるらしいから。」
「つーことは・・・やっぱり?」
どことなく恐る恐る尋ねてくる004に、009はにぱっと笑って当たり前のように答えてくる。
「そうv暫く僕とアルの2人っきりv」
その時、004は009の笑顔の中に悪魔を見たという・・・・・。
さてさて本日のメインイベント、009のお誕生会が004と当の本人の2人だけで華々しく開催され
ることとなった。006,007の両人は、009が言うには誘ったが断られたらしい。まあ店がある
のと同時に、どちらも人生経験豊富な方々である。うっかりうんと言ってしまえば、後々どんな災厄が
自分に訪れるか分からないのを熟読したのであろう。004としてみれば、余計なことは考えずに来い
と言いたかったが、大人なので我慢した。
心配した料理は、ギルモア博士が奮発してくれたらしく某有名ホテルのデリバリーだった。もちろんケ
ーキも、一緒だった。高かったろうにと004が言うと
「僕もそう言ったんだけどね。僕はアルと2人きりなら別にほっか○か亭でも良いってさ。」
「いくらなんでも誕生日に○っかほか亭はないだろう?」
「博士もそう言ってた。・・・・・チビクロの事もあったからね、気にしたんだろう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・お前は?」
静かな004の問いかけに、009は少し寂しそうな笑顔を見せた。
「大丈夫。やっぱりさ、流石に落ち込んだけどこのままじゃ駄目だろうと思って。アルにとってのヒル
ダさんと同じだよ。」
「?」
「いつまでも悲しい思い出として残しておくのは、可哀想だと思うんだ。悲しい思い出になる為に出会
ったわけじゃないもの。罪やら償いに結びつけて満足しているのは、生き残った方だものね。」
珍しく、神妙な顔付きをして009はそう言った。
「だから、楽しい思い出とすり替えたんだよ。出会えて良かったって、あちらはどう思っているのかわ
からないけど・・・・。」
「そっか、腹黒だけどこういう時は強いなお前は・・・。」
「腹黒は余計だよ。僕、純情君だもん。アルがそれは1番分かってるでしょ?」
「いや、1番分かってないと思うが?」
「もーやだなあv分かってるって僕は♪アルの事は僕が1番良く知ってるもん!」
いやに自信たっぷりに言ってくる009に、004は異議を唱えたかったがある意味核心を突いている
ので止めた。ヒルダの事も、他のメンバーに言われると何となくカチンとくるものがあったのだが、0
09に言われるとそんな事はない。それはどちらも、それまでの人生で1番大切な人を失ったからかも
しれない・・・。そこまで考えて、せっかくの009の誕生日に暗い思考になってしまったことに苦笑
する。
「なにぼんやりしてるの、アル?準備できたから、始めようよパーティーv」
009にそう言われて、004は笑って009の方に近寄った。
「2人だけっていうのが、何だか間抜けだけどな。」
そう言うと、009はパチンとウインクをしてくる。
「平気平気!!アルがいてくれればそれでOK!」
いそいそと、キャンドルに火を点してから電気を消す。
「んじゃ、誕生日の歌の出番だね!」
「諸人をこぞらすなよ?」
004のからかった台詞に、ぷうと膨れる。
「大丈夫だよ、ちゃんとフランソワーズに歌って貰ったからさあ!」
「そーか、そりゃー良かったな。」
「アルが歌ってくれるんじゃないの?」
「はあ!?何でオレが!?」
「だってさあ、自分の誕生日に自分で歌を捧げるって変じゃない?」
「この前言わなかったか?恥ずかしくって歌えないって。」
「同じ歳のお父さんとかは、ちゃんと歌うってよ?」
「俺はお父さんじゃない。」
「まあ、子供が生まれたらお母さんだしね。」
「誰がだっ!?」
不毛の会話の最中も、炎はどんどんキャンドルの蝋を溶かし、ケーキにぽてんと落っことしている。時
間がないので、009は仕方なく歌を諦めたようだった。
「んじゃ消すよ。すううううううう(吸い込む)ふううううううううう!!(吐き出す)」
009の人を超えた肺活量に裏づけされた息は、あっという間にキャンドルの火を消し去った。004
がぱちぱちと手を叩いてくれたのが分かった。
「ほれ、ご所望のプレゼントだ。」
004はそう言って、009に渡したのはドイツワインだった。
「わ〜い、有難うアルvすっごい嬉しいよ!」
「喜んで貰えて何よりだ。」
「あれ、ちゃんと冷たいね?このワイン。」
「此処に帰ってきてから、すぐに冷蔵庫に入れたからな。やっぱり少し冷たい方が美味しいからさ。」
「流石、本場の人だねえ。」
009が感心したように言うと、004は苦笑してそりゃ本場の人はフランソワーズだろ、と返した。
キチンと用意してあるグラスに、早速ワインを注ぐ。赤い色が綺麗だった。
「じゃ、カンパ〜イv」
「乾杯。」
カチンと合わせて、009がワインを飲むのを004はニヤニヤ笑いながら見ていた。ちょっと飲んで
から、009がビックリしたようにグラスから口を離す。
「なにこれ!?すっごく甘いよ?」
「そりゃそーだ、Beerenauslese(ベーレンアウスレーゼ)だからな。ドイツワインの中でも極めて甘い
部類だから。・・・・・お子様にはぴったりだろ?」
004が可笑しそうにコメントを出してくる。009は、自分がリクエストを出した時から企んでいた
なと気がついた。珍しく確信犯だったらしい。とても嬉しそうに自分を見ている004に対して、こん
ちくしょうとは思うものの、結構美味しいのでまあ良いやと納得する。
「おや気に入ったのか?」
「うん、まあね。どーせお子様だもん僕、アルは大人だろうけど美味しく飲んでよ。」
「ははは、そう怒るなって。けど良いワインだからな?奮発したんだぞ。」
「そりゃ分かるよ、前にアルに連れて行ってもらったレストランで飲んだやつよりも美味しい・・・っ
ていうか、上品な味がするもの。」
「へえ、奮発したかいがあったよな。結構味が分かるじゃないか。」
「えへへ〜まあね。」
得意げに笑う009に促されて、004は初めてグラスに口をつけた。
004は後悔していた。というか、フォローを入れてくれる人が誰もいない為、大ピンチに陥っていた。
「ア〜〜〜〜〜〜〜ル〜〜〜〜〜〜vvv」
元凶が、上機嫌でぴっとりと引っ付いてくる。・・・・・009ははっきりと、酔っ払っていた。00
9は本来、酒に弱い方ではないのだが強くもない。しかしワインというのは口当たりが良い為に、どん
どん飲んでしまいがちである。と、いうわけで009は004が気がついた時には、結構大きなワイン
を1本殆ど飲んでしまったのであった。アルコール中毒の危険性は無いのだが、生身の脳にはダイレク
トにアルコールが滲みこんだらしい。もう、近年来見ないへろんへろんになった009がそこにいた。
しかも明るい絡み酒であるらしく、ゲラゲラ笑いながらバンバンと背中を叩いてみたり、こちらが窒息
しそうなくらいギユウウウウウウウと抱き締められたりとさっきから大変な目にあっているのである。
酔っ払いに逆らうのは、無駄であり無謀であるということを良く知っている004は黙って耐えに耐え
ている。
と、自分にしがみ付いてきた009が大人しくなった。見ると呑気にすうすうと寝息をたてている。や
っと落ちたか、と004は安堵溜息をつく。
「まったく、これはガブガブ飲むモンじゃないんだぞ?そーいう所がお子ちゃまなんだよな。」
そう呟いてから、ふと気がつく。
「まあ、大人でもガブガブ飲む奴はいるわな・・・。」
例えば、仲間になる前の007。今はなるべく飲まないように、自らを戒めているらしい。
「毎日、1杯だけなら・・・と思うんだが、これをやっちまうとまたアル中に逆戻りしちまう。」
そう言って苦笑していた顔を思い出す。今は006が、キチンと監視しているので大丈夫らしいが。ま
あパーティーの時とかには飲んではいるものの。
「しょーがねえなあ、誕生日プレゼントの一貫としてサービスしてやるか。」
誰に言うことも無く、そう呟いてよいしょと009を肩に担ぎ上げた。正直、サービスからは程遠い運
び方だとは思うものの、姫様抱っこなんぞ野郎に対してしたくない004だった。
「よっこらっしょっと。」
いやにジジ臭い台詞と共に、004は009をベットに降ろした。もちろん此処は009の部屋である。
009は仄かに赤い顔をして(珍しく)グッスリ眠っている。腹黒を如実に表すあの瞳が閉じていると、
本当に素直な良い子ちゃん風な表情であった。
不思議な縁だな、と004は思う。自分は本来の時間にいたならば、とっくに孫ができていても可笑し
くない年齢だ。そう、普通であれば出会わなかった存在。国も時間も違うというのに、対等の立場で話
せるという奇跡。・・・但し、そりゃもう色々な目に遭ってはいるのだが。・・・・色々とね。
色んな意味で溜息をついた後、004は食べ散らかしてある居間の料理を片付けようと009の側を離
れようとした。004は意外と綺麗好きである。原作やアニメの彼の部屋の異様なまでの片付いている
場面が、そのことを雄弁に物語っている。普通、男の1人暮しはもっと汚い様になっているのだ。
・・・・・話が逸れた。
クン
何かに引かれたような気がして、004は振り返った。そこには熟睡している009の姿。良く見ると
004のシャツの端っこを、ムンズと掴んでいる。
「おいおい、何お子ちゃまみたいなことをしてるんだ?」
思わず笑いを含んだ声で言うが、もちろん返答はない。なんとなく引き剥がすのも気の毒だし、かとい
って居間の惨状はほおってはおけないし・・・。004は迷った。が。
「悪いな、ジョー。俺は今日ぐらいぐっすり1人で眠りたいんだ。」
そう言って、スルリとシャツを脱ぐ。そして、居間に帰って行った。
・・・どーせ009が正気でいた場合は、ベットに引っ張り込まれるんだから。
「あー良く寝たぁ。アル、おはよう。」
「おそようだ。もう世間様は昼食を食う時間だぞ?」
「んなこと言ったって・・・・。やっぱ寝不足だったからかなあ。」
「なにやってんだ、お前は。自分の身体の管理ぐらいしっかりやれって。ほれ味噌汁が二日酔いに良い
らしいからな。飲め。」
「わあvアルの手作り?」
「俺以外、誰が作るってんだ?まあ良い、ところでジョーお前何ともないのか?」
004に二日酔いかどうか問われて、009はう〜んと首を捻った。
「うん、頭は痛くないよ。ちょっとぼーっとするだけ。良いワインだったからかな?」
009の答えに004が、ホッとした。
「あれ、心配してくれた?」
「まあな、俺のワインが原因で起き上がれんとか言われたら嫌だから。」
「もう起き上がってるもん、もう大丈夫だよ。」
そう答えて、009がズズッと味噌汁を啜る。
「あ、美味しい。お豆腐とわかめは調理実習にも良く使われる組合せだねv」
「へえ、そうなのか。冷蔵庫にあったのを、適当にぶちこんだだけだ。」
そう言いながら、004は昼食(昨日の残り)を食べだした。大皿に盛ったので、009が適当に箸を伸
ばして来る。と、そんな009に004はズイと綺麗にラッピングされた細長い箱を渡す。
「なあに、これ?」
「まあいいから開けてみろ。」
「はあいv」
がさごそと包みを開けて、蓋をとるとそこにあったのはいかにも004らしいシンプルなペーパーナイ
フだった。銀色の刃が004を連想させたが、本人は分かっているかどうか謎だ。
「わあ、格好良い。くれるの?」
「まあな、そっちがプレゼントの本命だったんだが。主役がぐーすか寝ちまうから渡しそびれた。」
意地悪い笑みを浮かべて、004は言う。対する009は、御満悦である。良く切れそう、と少々物騒
なことを言いながらペーパーナイフをかざしてみたりしていた。
「それやったんだから、いきなり肉切包丁で手紙を開けたりするんじゃないぞ?」
「あ、知ってた?」
「知らいでか、馬鹿タレ。初めて見たときは、恐怖で心臓が止まったぞ?」
「そう?そんな変なことかなあ?・・・・でもくれるんなら包丁でも良かったのに。ドイツは刃物が有
名だもんねえ。」
「人の国を危なそうに言うな、失敬な。それに料理オンチのお前に包丁なんぞ持たせたら、俺や仲間の
味覚がピンチだぞ。大体、台所侵入禁止なんだろう。」
「だって、練習しないと腕が上がらないよ?」
「その練習の成果で、俺が何回三途の川を渡りきろうとしたか覚えてんのか?船の船頭さんに”また来
たんですか?大変ですねえ”と同情されたんだぞ!こんな体験、俺だってしたかねーよ。」
「ああ、三途の川の船頭さんね。でも渡りきる前に、呼び戻したでしょ。まあ大体、起きないと此処で
しちゃうよ(何を?)って言ったら飛び起きてたけど。」
「当たり前だ、俺の人生最大級の危機に呑気に寝られるか。・・・・・ああ、もう良いからソレしまっ
てちゃんと飯を食え!」
「はあいv」
思いの他元気そうな009に、004は密かに安堵の息をついた。アルコールが作用するのは、脳にだ
けだとは分かっていたものの、身体に不調が出た場合にギルモア博士も003もいないこの状況では困
ってしまうからだ。まさか普通の医者に連れて行くわけにはいかないし。
「あ、そうだアル?」
「ん?なんだ?」
「本日はちゃあんと正気保っているから、一緒に寝ようねv」
そんな009の、あからさまで能天気な台詞に004は。
思いっきり椅子から転げ落ちた。
★長くなってしまいました、トホホ。「そういえば009って5/16が誕生日じゃん!」と思い立っ
たのがGW後半でした。すぐには良いネタが思い浮かばず、ちょっと苦戦しました。センスがないの
で何を贈ったらいいのか、分からなかったものですからねえ。男の1人暮しの部屋はきったない、と
いうのは偏見ですかね。004の部屋を見た時、余りに片付いていたのに驚いた覚えがあったもので。
作品にでてくる「Beerenauslese」のワインですが、コレが名前ではありません念の為。ワインの種類
です。でも飲んだことがないんですけどね。甘いデザートワイン大好きです。味覚は立派に子供ですか
らねえ(笑)
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