LULLABY

目の前に見えたのは、遥かなる地球。 母なる大地。 青き海。 そして、彼の人が生きている星。 帰りたかったよ・・・・・ 言葉は虚しく、響くこともなかった。 帰ろうとする彼らを、地球は拒絶した。 熱くなる体。 冷めていく心。 最期に思った。 君は、僕の為に笑ってくれるのかな・・・・?
       ふと目を覚ます。そこは見慣れた白い天井だった。何回か、瞬きをする。009は考える力もなく、呆        然として天井を見つめた。段々意識がはっきりしてくる。        がばっ        009は飛び起きた。自分の手を見る。確かに焼け焦げていたはずの手は、見慣れた色をしていた。手        術の時に着る、白い服を着ていることに今更ながら気が付く。        「僕は・・・・・・。生きているのか・・・・?」        呟いて、ふと横を見た。        「アル・・・・?」        そこには、004が座っていた。愛しい彼の存在を感知できないくらい、自分の意識は白濁していたら        しい。004はポカンと目を丸くし、口を開けて009を凝視している。それは009も同じこと。お        互いにポカンと呆けた顔をして、固まっていた。        先に動いたのは、009だった。        「アル・・・・・・。アルなんだね?本当に・・・君なんだ・・・・。」        009はそう言って、004に触れようとして手を伸ばした。        がしい        だが、004がいきなり009が伸ばしてきた腕を掴む。表情は変わらないままで。        「っ、痛っ・・・!な、何?」        余りの怪力に、009が思わず呻いた。長くも無く、短くも無い付き合いの中でこんな馬鹿力で、掴ま        れたことは無かった。        しかし驚愕は次の瞬間に起こった。        004が、009に抱きついてきたのだ。まるで、縋りつくように。        ”えっ?えっ?ええーっ?”        009は焦った。今まで、こんな風に抱きつかれたことも無かった。いつも、照れて自分から行動を起        こさない004が、自分から009に抱きついている。        「アル・・・?」        戸惑いながら、009は一旦004を自分から離そうとした。ところが004はビクンと震えて、しが        みついてくる。        「アル?どうしたの・・・・?」        優しく尋ねてみるが、004は首をふるふると横に振って、ますます離れない。009は004の腕を        外すのを諦めて、それまでぶらんとさせていた腕を004の背中に回した。009は自分を抱き締める        004の身体を抱き締めながら、目を閉じた。        ”あったかい・・・・・。”        004から伝わってくるのは、懐かしい暖かさ。いつの間にか、自分に馴染んでいた004の体温と存        在。009は、改めて自分が生きている事を実感した。死んでいたら、こうやって004に抱き締めて        もらえることも、抱き締めてやることも出来なかった。1回は自分の死を覚悟をした。それは紛れも無        い本音だった。だが、こうやっていると生きていたことに感謝する。        009がそんな事を考えていた時、004が動いた。009が見ると、004の顔がすぐ近くにあった。        004はそのまま、009の顔に自分の顔を近づけた・・・・・・。        「済まない・・・・いきなり・・・その・・・。」        004が真っ赤になった顔を俯かせて、009に謝っていた。009は苦笑した。気持ちは分からない        でもない。自分が004の立場になったら、同じことをしただろうから。        「良いんだよ、ちょっと驚いたけどね。アルから抱き締めてもらえるなんて、役得だったな。」        「馬鹿っ!!」        少し茶目っ気を出して、言った言葉に004が怒鳴り返してきた。がたん、と立ち上がって009を睨        みつけている。        「ア、アル!?」        呆気に取られた009の呼びかけに、004は音も荒々しく椅子に座り直した。        「お前な・・・・。俺がどんな思いで今までいたと思っているんだ!!!」        だん、とベットの端を右手で叩く。        「もう、帰ってこないと分かった時に、どんなに自分を呪ったかわからないんだぞ。002みたいに飛         べない俺は、何もできなかった。ビーナですら、助けてやれなかったんだぞ?こんな・・・」        004は、右手を自分の目の前に上げた。        「こんな、武装だらけの身体になったって、何も出来なかったんだ。力が足りなくて、助けられないな         らまだ救いはあった。だが、力があるのに助けられない方がよっぽど辛いことなんだ・・・・・。」        激高した後、004の声は段々小さくなっていった。力なく首を横に振る。        「・・・・悪い。」        「なんで謝るの?今のは、僕が悪いんだろ。アルの気持ちも分からずに・・・・。」        004は溜息をついて俯き、両手を組んだ。肌の色と鋼の色でできた009が好きなコントラスト。肩        を落として、再び首を横に振った。        「単なる、八つ当たりだ。俺もまだまだ未熟だよ。」        「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」        004は顔を上げて、苦笑する。それは見慣れた表情。些細な日常が、大きな意味を持って009の前        に現われる。009は、今004がしているのと同じように両手を組んだ。        「僕はね。」        一旦言葉を切った。004が不思議そうな顔をして、009を見る。        「僕はね、アルに生きていて欲しかった。」        「!」        「001によって魔神像の中に送られたことがわかった時に、これで僕が例え死んだとしてもアルは生         きてくれるんだって思ったよ。」        「・・・・・・・・・・。」        「まあ、助かった今だから思うんだけど、刹那的な思いだよね。でもね助けられなかったていう思いは         僕も君に対してあったんだよ。」        「いつ?」        「ビーナが撃たれた時。結局僕は、あのボグートを倒せなかった。加速できない君の為に、僕がやらな         きゃって思ったのにね。」        「ジョー・・・・・。」        「君がビーナの側に立っているのを見るのが、辛かった。これ以上、悲しんで欲しくなかったんだ。」        「だから・・・・・死のうと?」        「死ぬ気はなかったんだ。本当にね。だけど宇宙に出てしまったって聞いた時、もう駄目なんだって思         った。・・・・・正直ね、アルは悲しむのかな?って思った。」        「なに、馬鹿な事言ってるんだ。当たり前だろう、仲間が・・・・。」        004の言葉を009は、遮った。        「仲間じゃなくって!」        「はっ!?」        「単なる仲間じゃなくて・・・・その・・・・大切な人として・・・・・・・・。」        009が何を言いたいのか思い当たったらしく、004は赤くなった。一つ、咳払いをした。        「あのな、ジョー。俺は・・・・・・・。」        「?」        009は004を真剣に見る。004は顔は赤いながら、真っ直ぐと009を見た。        「俺にとって、ジョーはかけがえのない仲間だよ。」        「それは・・・。」        「他の仲間とは全く違う意味の・・・・な・・・。薄情かもしれないが、他の連中だったらあんなに憔         悴感に捕らわれることもなかった。お前だったからこそ、自己嫌悪に陥ったんだ。」        「アル・・・・・。」        それは、ある意味の告白だった。009は盛んに004に”好き”と言ってきたが、004からはそうい        う言葉がきたことはなかったのだ。それが、大分遠回りとはいえ004がそういう発言をしてくれてい        る。奇跡に近い事柄だった。009は004に手を伸ばした。その手を、004が握ってきた。        「ジョー・・・・・生きていてくれて・・・・・本当に・・・良かった・・・・。」        009の手を、慈しむように004は両手で包んだ。どちらともなく、近づいていった・・・・。        「もう一体、なにしてたの?2人共?」        003が呆れたように、”2人”に言った。言われた2人は、何も言えずただ俯くだけだった。        「ジョーの目が覚めたら、色々しなきゃいけないことがあるんだから、すぐに知らせてねって言ったで         しょう?アルベルト?」        「・・・・・・・・・・済まない、フランソワーズ。」        真っ赤な顔をして、009の隣のベットの上で俯いたまま004が謝ってくる。009が困ったような顔        をして、003の方を向く。        「ごめん、フランソワーズ。僕が無理を言ったんだよ、アルが悪いわけじゃないんだ。」        「・・・・・まあ、そうよね。きっとジョーが仕掛けたんでしょう?」        003は彼等の関係を知っている。それは当たり前なのかもしれない、彼女の情報収集力は並ではない        のだから。        「そ・・・。」        そうなんだ、と言おうとした009の言葉を遮るように004が言った。        「俺から”仕掛けたんだ”。ジョーは悪くない。」        「へっ!?」        003が見事に間抜けな声を出した。それはそうだろう、004がこんな発言をするなんて晴天の霹靂        だ。009もポカンと口を開けて、004を見つめていた。004は頭をぽりぽりと掻いた。        「ふ、ふ〜ん、そうなの・・・。だからジョーがハメを外して、アルベルトを動けなくなるまでにしち         ゃったわけね。」        003が、ほうと溜息をついた。009が助かってから、004は彼の側にぴったりと寄り添って離れ        ようとはしなかった。ただただ、009の顔をじっと見つめているだけ。そんな004の姿に心を痛め        ていたのは事実だが、今はもうあきれ果てるしかない。しかも、003が009の目覚めに気が付いて        慌てて部屋に飛び込んでみれば・・・・・。もう本当に馬鹿じゃないかしら、と003は本気で思った。        ”まあ、でも・・・・。”        004に笑顔が戻った、それで良しとしましょうかと003は結論に達する。        「大人しく、寝ているのよ2人共?ジョー?いくらアルベルトからアプローチを受けたからって、もう         駄目よ。貴方の身体のシステムリズムも少しずれちゃったんだからね!」        釘を刺して、003は部屋を出て行った。        「・・・・・ごめん、アル・・・。」        しょんぼりと謝る009に、004は笑った。        「気にするな。・・・・俺もお前に触れたかったんだから・・・・。」        「ん。・・・・ね、アル?」        「ん?」        「そっちのベットに行って良い?」        「フランソワーズが怒るぞ?」        「アルの側にいたいだけだってば・・・何もしないから。」        「良いぞ、来いよジョー。」        お許しが出たので、009はいそいそと004のベットに潜り込む。そのまま、2人で何となく笑みが        零れた。        お互いの心音が、子守唄になって静かにお互いの身体に響いていく。        とくん、とくん、とくん・・・・・・・・        003が再び部屋にやってきた時、009と004はぴったりと寄り添ったまま熟睡していた。
生きていて、本当に良かった。こうして君が僕の為に笑ってくれたから。 生きていてくれて、本当に良かった。こうして君の為に笑えることができたから。 おかえり ただいま

       ☆4001を踏んで下さった十重さまのキリリク小説です。「94で積極的な4」ということだったん         ですが、どうでしょうか十重さま?個人的に004が積極的になるのは、やっぱり感情の爆発がある         時じゃないかなあと思いまして。誘い受けは大玉砕でした、書けませんでしたよ〜(苦)一応、004         の台詞とかで表してみたんですけど・・・・・・。         小説はこけてしまいましたがキリリク、真に有難うございました!ヘタレですみません・・・。        戻る