夏祭りに行こう!〜浴衣を着てvと可愛く頼む〜
「とはいうものの・・・・。」
009は、004の部屋の前で唸った。きっと浴衣を着慣れない自分たちの事、着るのに手間取るに違
いないと思い予定していた時間より少し早めに起こしに来たのだった。
「今日は、いつもと違って緊張しっぱなしだなあ。」
ぼやいて苦笑する。端から見れば、浴衣着てお祭りに行こうなんて誘いはこんなに躊躇しているのも不
思議だろうなあと思う。実際003がそんな感じで今日1日、009を見ていたのだから。お祭りは、
009にとって数少ない楽しい思い出だった。・・・・・まあ色々とあったものの。自分の中で特殊な
ものなのだ、それへ誘うというものは案外緊張する。断られたら、ショックだから。
「まあ良いや、さっきもダメ元でやったら大丈夫だったんだからきっと今度も大丈夫!」
大げさに気合を入れて、009はドアをノックした。
「アル、起きてるかい?」
ドアを開けて、部屋を覗き込む。やたら整然と片付けられた部屋の中、膨らみを帯びているベットに目
をやる。この部屋の主は、まだ眠っているようだった。つかつかとベットに近づき、顔を覗き込もうと
する。癖なのかうつ伏せで寝ている004の顔は、あまり009からは見えない。見えるのは閉じられ
た目蓋だけ。窒息しないのかと思うが、そういう経験はないらしい。変なところが器用だと009は思
っている。
「アル、アル起きてよ・・・・・・。」
ゆさゆさと手で身体を揺らす。009の視界の中で、睫毛が震えてゆっくりと開かれていく。004は
ボーッとした顔で、むっくりと起き上がった。ぽりぽりと頭を掻く。
「ジョー・・・・?もう出かけるのか?」
気だるそうな声を出して、004は009の方を向いた。しかしまだ頭がはっきりしないのか、009
を見る目線はハッキリとしない。009は、1つ深呼吸をした。004が怪訝な顔で、それを見る。
「あのさ、フランソワーズがね浴衣を借りてきてくれたんだよ。」
「ユカタ?」
「うん。昔は知らないけど、こういう夏に着る着物の簡易版みたいなものなんだ。」
「へえ・・・・・それで?」
此処まで話したら、いくら寝起きのボケた頭であっても話の行き先は分かるものなのに、004はあえ
て009に結論を言わせようとしているのが分かった。その証拠に、その瞳がまるで009を試すかの
ように見ている。
「浴衣着て、お祭り行こうよ!だから、着る時間だけ早く起こしたんだv」
009はそう言って、可愛くお願いを口にした。
「ねえ、そうしようよv」
ダメ押しとばかりに、ベターッと004に引っ付く。
「お前が俺に着て欲しいのか?それともフランソワーズに悪いから着て欲しいのか?」
「僕が着て欲しいんだよ・・・・・何言ってるの?」
即答してくる009に、気を良くしたのだろう。ニヤリと004は笑って、ベットから降りた。
「そっか、じゃあ折角だから着るかな。フランソワーズにも悪いし。」
「フランソワーズは関係無いってば!」
「はいはい、分かったよ。」
「あーなにその言い方!ぞんざいだよ〜〜〜!!」
「ほれ、早く着ださないと時間掛かるんだろ?」
「もう、聞いてるの?・・・・・・待ってよ!」
とっとと部屋を出て行く004の後を、009は慌てて追いかけて行った。
予想通り、浴衣を着るのは大騒動になってしまった。まず、日本人たる009が着方を知っているもの
と思い込んでいたフランス人とドイツ人が、期待を裏切られ痛い沈黙が流れていった。
「僕は1言も着方を知ってるなんて、言ってないよ?」
と頼りにしていた日本人からあっさりと言われて、特にフランス人の003がへこんだ。曰く
て、近所の人は簡単よ〜って言っていたから・・・・・・・。」
しかし3人の目の前に広がる浴衣は幻ではない。着ないとレンタル料がもったいない、という意見の一
致をみて彼らはあーでもないこーでもないと、必死で着ていく。余りの大騒動を見かねたギルモア博士
が、インターネットで浴衣の着方を探し当てプリントアウトしてくれたので、なんとか様になった。そ
れでも、004は動きにくいと言って裾を捲り上げて003から非難を、009からは色っぽいという
コメントを頂いて止めてしまった。
「だってアルベルトの生足なんて、もったいなくて他の人には見せられないわ。」
と003は言った。
「確かにね〜、僕にだけ見せてくれれば良いんだよv」
と009が言った。
「月並みだが、寝言は寝てから言え。1人言なら、1人で言え。俺を巻き込むな。」
と004は反撃した。
「でも・・・・結構暑いわね、浴衣って。」
「だろうねえ、見た目には涼しそうなんだけどさ・・・・。意外と暑いんだよ。」
「暑いんなら、もうちょっと胸元を開けたらどうだフランソワーズ。」
冗談で言っているのかと003と009は思ったのであったが、当の本人は真面目な顔をしている。変
な処で真面目な004の思考回路に溜息をつく。
「あ、なんで溜息をつくんだ?俺は本気で言ったんだぞ。」
「だから・・・・。」
「困るのよねえ・・・・。」
「こりゃヒルダさんも、結構苦労したんだろうね。」
「何だか、目に浮かぶようだわ・・・・。」
「・・・・・・何気に思いっきり馬鹿にしていないか?」
途端に機嫌が冷えていく004を、慌ててフォローする。そんなこんなで、出発時間はあっという間に
きた。それにしても009には気になることがあった。
・・・・・なにゆえ003の浴衣まであるのか・・・と
さてさて出発時間、やっぱり003がレンタルしてきた草履に足を通す。
「なんか・・・・変な感じだな。」
004は履きにくいらしく、下を見て眉を寄せている。靴を履き慣れた彼にとっては、親指と他の指が
離れている鼻緒がどーにもこーにも落ち着かないらしい。
「まあねえ・・・今は日本人だって何かのきっかけがないと、履かないからさあ。」
「しかも下が薄っぺらいのか、ゴツゴツするぞ・・・・・・。」
「まあ今日1日だけの我慢だってば。もし足が痛くなったら、僕がお嫁さん抱っこして帰ってあげるか
ら♪」
「激しく拒絶。それなら普通の靴を履く。」
「似合わないってば!笑われるよ?」
「お前に嫁さん抱っこされる方が、よほど恥だ。」
「もう、照れ屋さんなんだから・・・・・・。」
「照れてない。そういうのは照れとは言わん。」
「じゃあどう言うの?」
「背筋が寒くなるって言うんだ。」
「へええ、良かったねえv浴衣は暑いからんさ!」
「あのう・・・・・。」
会話に(珍しく)遠慮がちに声をかけてきたのは、003だった。3人の中では、白地に綺麗な花が描か
れた華やかな浴衣を着込んだ003は、かなり可愛かった。
「どうした、フランソワーズ?」
いつも003に甘い004が、優しく声をかけた。003が、嬉しそうに笑った。
「あのね・・・私も一緒に連れて行って欲しいの。」
どこか後ろめたそうに、003は言った。
003と一緒に行く
悪いけど、ご遠慮申し上げる。