オレとメイド
唐突だが、アルベルトさん(30)は1人暮しである。
彼の父親は、何気なく始めた事業が大当たりして1代で巨万の富を得た。そのぐらいかというと、世界
の長者番付に載ってしまう程。ところが、両親はふつーの家庭に育ち、ふつーに生活してきた為、長年
の癖が抜けなかった。税金対策として建てた馬鹿みたいにでっかい屋敷の、これまたでっかい食堂の片
隅に家族5人が座れる小さなテーブルを出して、和気あいあいと食事(しかも母親の手作り)をしていた
りする。
アルベルトさんは3人兄弟の真ん中。父親の事業は長男が継いで、上手く経営している。末っ子はまだ
学生の身でありながら、小さな会社を営んでいる。こちらも上手くいっているようだった。
さて、肝心のアルベルトさんといえば・・・・会社の経営等に興味を持たず、かといってグループ内の
会社に行く気もなかった。そこで、全然関係の無い小さな会社に就職。1人暮しを慎ましくしている。
そんなある日のこと。
土日お休みのアルベルトさんは、土曜日の午前中爆睡していた。何故か、上半身素っ裸で。部屋は2L
DKのとあるアパートの3階にある。もっと良い部屋を借りただどうだ?と言う家族に対して
「俺の給料じゃあ、これぐらいが精一杯だよ。それに、あんまり広い部屋好きじゃないし・・・。」
と答えている。実際、ちょっと家賃はお高め。それでも、周りの落ち着いた雰囲気が好きなので離れる
気はない。
ピンポーン
ベルが鳴った。宅急便でもなさそうなので、無視して寝ている事にする。アルベルトさんは、結構アバ
ウトな人だった。
ピンポンピンポンピンポン
何か高速連射でもしているのかというベルの音が響く。流石にアルベルトさんも、身を起こした。
どんどんどん
こんどは、力いっぱいドアを叩いている音が響く。しょうがないのでアルベルトさんは、ベットから降
りてドアに向かった。
「なんだよ、人の貴重な睡眠時間を削りやがって・・・・。」
ぶつくさ言いながら玄関へ歩いていく。
ばりーん
何かを引きちぎる音がして、部屋が揺れた。
「!?」
玄関に到着したアルベルトさんが見たものとは・・・・・。
はいCMです。
・・・・・・・・嘘です、ごめんなさい。
ドアを捨てている誰かだった。
「誰だ!?人ん家の玄関ひっぺがしやがって・・・!」
その人物が振り返った。濃い茶色の髪をした(髪型は変だったが)・・・・一応少年なのだろう・・・・
だった。何故かメイドの服を着ている。
「こんにちわ、初めましてv」
そう言って、ペコリとお辞儀をした。アルベルトさんは考えた。
”なんだ、このあからさまに怪しい奴は。しかもメイド服なんて着てやがる。少年・・・だよな?おか
しいなあ、俺こんな女装が趣味の奴とは知り合った覚えがないし・・・・”
「こんなところで話もなんですから、上がらせてもらいますね。」
「え!?・・・・・おい待てって!」
アルベルトさんの苦悩も知らず、メイド服の少年はずかずかと上がり込んだ。慌ててアルベルトさんが
後を追う。ようやく捕まえて、訊く。
「基本的な質問なんだが・・・・。」
「はいな。」
「誰だ?お前さん。」
少年は、芝居がかった大げさなお辞儀をする。・・・・誰かに似ている姿。
「僕は製造マテリアルナンバー009。通称島村ジョーと呼ばれています。」
「・・・・製造マテリアル?」
「はい、マスター。これから僕は此処でマスターの世話をするように言われてきました。」
「・・・マスター!?俺が?」
「宜しくお願いします!」
にっこりと少年は笑った。
「お前は、アンドロイドなのか?」
「半分は。もう半分は有機物で作られています。バイオロイドでもあります。」
そこまで聞けば充分だった。アルベルトさんは、電話に飛びついた。
トゥルルルルル・・・・・・ガチャ
「は〜い、グレートです。」
「あ、グレート兄貴か!?」
「おお、誰かと思えば愛しい我が弟その1ではないか。元気かい?」
「元気は元気だ。つーか、兄貴だろ!?この変な格好の奴寄越したの!!」
「おや、もう着いたのか。流石我が財団が誇る研究所が開発した素材だ。ジョーの事だろう?」
呑気で、何処か全てを見通しているような口調に腹がたつ。
「いきなり玄関のドアを壊されたわ!大家さんにどう言って説明すれば良いんだよ!」
「まあ、落ち着けって。愛しい弟その1よ。」
「・・・・・その言い方止めろって言わなかったか?俺わ。」
「まあまあ。ジョーはな、うちのビッグプロジェクトの成果なんだぞ。」
「・・・・・女装がか・・・?」
「話の腰を折るな。良いか、これからは高齢社会だ。介護を必要とする高齢者が増える一方で、介護す
る若者は減っている。」
「ああ。」
「そこで、そういう方々の身の回りの世話をする存在として生み出されたのがジョーだ。だが、まだプ
ロトタイプだもんだから、経験値が足りんのだよ。」
「・・・・・・大体想像ついたけど、それで?」
「それで、レベルアップも兼ねて1人暮しのお前の世話をしてみようかと思ってね。」
「そーいうことは、何で先に言わないんだ?」
「ごっめ〜ん、忘れてた〜。」
からからと電話の向こうで笑う声がする。アルベルトさんは、受話器を叩き付けた。ぜーはーと肩で息
するアルベルトさんを、不思議そうに少年-----ジョーは見つめていた。
「マスター?お話、終ったんですか?」
きょとんと黒い瞳が、子犬のように見つめてくる。アルベルトさんは、こういう目に弱かった。
「・・・まあ・・な・・・。」
「じゃあ、僕さっそくお世話しますね!」
「じゃあ、手始めに掃除します!」
バリーン
大切にしていた植木鉢が割れた。
「てへへ、失敗失敗vじゃあ今度はお洗濯します!」
ゴオオオオオオ
お気に入りのカシミアのセーターが縮んだ。
「ええと、またまた失敗vじゃあアイロンかけます!」
ジュウウウウウ
ワイシャツにアイロンの形のこげができた。
青くなるアルベルトさんを余所に、くるくるとジョーは働いている。止めるアルベルトさんを振り切っ
て、今度は料理をしていた。
「マッスター♪今度は上手くいきました!」
テーブルに出されたのは、大きい土鍋だった。その中で、何かが煮えたぎっている。
「ジャーン!」
自信満々に蓋を開けられる。
”・・・・・なんだ、このおもしろい汁は。”
アルベルトさんは絶句した。一目で冷蔵庫の中のものを適当に突っ込んだことがよくわかる汁だった。
ハムなどは、セロファンが巻かれたままで突っ込まれている。
「冷めないうちにどうぞ〜♪」
嬉しそうに言ってくる。アルベルトさんは覚悟を決めて、一口その汁を啜った。
おええええええええ
アルベルトさんはその日、トイレとお友達になった。
げっそりとしながら、取り合えずシャワーを浴びる。そこへ・・・
「お背中流しま〜すv」
とジョーが入ってきた。しかも見れば、手には亀の子束子が握られている。
「い、いや、いいから!流さなくていいから〜!!!」
後ずさるアルベルトさんをしっかと捕まえて、ジョーはにっこりと笑った。
ぎゃあああああああ
アルベルトさんの悲鳴が響き渡った。
背中に焼け付くような痛みを感じながら、アルベルトさんは電話を掛けた。
トゥルルルル・・・・・ガチャ
「グレート兄貴!?」
「ただ今、我輩は最愛のソフィーちゃんと愛娘ローザちゃんとデート中である。失敬。」
ガチャ・・・・プーップーップーッ
留守電の台詞が空しく響く。アルベルトさんは、又しても受話器を叩きつけた。
”あんのクソ兄貴!こういうことになるって分かってたから、こいつを俺の所に寄越したな(怒)”
振り向くと、ジョーがにこにこと笑ってこちらを見ている。
「俺はもう寝る。お前は何処で寝るんだ?」
ちょっと間抜けな質問をしてしまった。アルベルトさんは1人暮しである。ソファは1人掛けのものし
かない。
「僕は此処で、立っています。」
そう言ってジョーはアルベルトさんの枕元に立った。
「え!?寝なくても良いのか?」
「いえ、立ったままでも寝れますのでお構いなく。」
「そ、そうか・・・・?じゃあ電気消すぞ?」
「はい、お休みなさいマスター。」
「ああ・・・お休み。」
電気を消して、アルベルトさんは布団に潜り込んだ。だが、枕元に誰かが立っているのは正直落ち着か
ない。嫌でもその気配を感じてしまう。どーにもこーにも寝られず、アルベルトさんは布団から頭をひ
ょい、と出した。
「どうしましたマスター?眠れませんか?」
「ああ、ちょっとな・・・。おいジョー。」
「はい。」
「しょうがない、此処に入れ。」
アルベルトさんは、布団をめくってジョーを見た。ジョーはキョトンと目を見張る。
「早く入れって。寒いんだから。」
「はあ・・・。」
曖昧に頷いて、ジョーがアルベルトさんの隣に滑り込む。1人用のベットに流石に2人はきついが、ま
あ良しとしよう。アルベルトさんは、そう思った。見ると、ジョーはアルベルトさんにぴったりとしが
みついて目を閉じていた。なんとなく昔を思い出し、しんみりとするアルベルトさんだった。
今は生意気だが、昔は泣き虫だった弟を夜こうやって寝かしつけたものだ。寝れない、とベソをかいて
自分の所にやってきた弟は、添い寝してやるとどこが寝れないんだと疑問に思うくらいすぐ寝てしまっ
たものである。ふう、と知らずに溜息が出た。
”これから、1つづつ教えていかなきゃなんねーのかなあ。グレートの兄貴め、ロクな教育せずに俺の
所に寄越しやがって。・・・・・面倒くさい・・・。”
今度会ったら、タダじゃおかないぞとアルベルトさんは決心した。とはいえ、忙しい長男とは中々会え
ないのだが。
もぞもぞとジョーが更に自分に引っ付いてくる。なんとなく不思議な感じでアルベルトさんは、ジョー
を見つめた。外見や、伝わってくる体温吐息等は普通の人間と変わりない。それでも半分は機械、もう
半分は人工の生身。信じられなかった。
”一種のサイボーグってとこか。それにしてもなあ・・・・・。”
そんな事を考えながら、アルベルトさんは眠りに落ちていった。
だから知らない。
アルベルトが完全に眠りに入った途端、ジョーが目を開いたのを。
ジョーは暗闇でもわかるくらい、黒い目を爛々と輝かせていた・・・・・・。
続く
☆久し振りのパラレルです。本当は、これを考えた時立場は逆だったんですよ。タイトルも「ボクとメ
イド」だったし・・・。そうすると、ちょっと洒落にならないかしら〜と思ってこういう風にしてみ
ました。パラレルだから009の性格が大人し目です。腹黒さんならもう、アダルトな世界に行って
るでしょうねえ。良かった良かった♪009が着ているメイド服、これは脱衣可能ではあります。従
って、お背中を流す時は脱いでます。服が濡れちゃったら、こうやって004にお布団の中に入れて
もらえなかったでしょうしねえ・・・・・。それにしても、恥ずかしいものを書き始めてしまいまし
たよ・・・・・・・。
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