オレとメイド2

       唐突だが、アルベルトさんは閉口している。
       原因はハッキリしている。グレート兄さんから、強引に押し付けられた”介護用半アンドロイド”であ
       る自称島村ジョーであった。家の中をぐっちゃぐちゃにされた挙句、亀の子束子で身体も痛めた。そん
       な欝28歩手前の週末を過ごしたアルベルトさんは、張り切って朝の出勤時間を迎えた。


       「だーかーらー(怒)お前は家で待っていれば良いんだよ!」
       「嫌です、僕の仕事はマスターの世話をすることですから、当然一緒に行きます!」
       不毛な会話。朝はそれでなくとも時間の過ぎるのが早い。こんなことで時間を割くわけには行かない。
       とうとう、アルベルトさんは折れた。
       「・・・・・分かった。」
       ぱあっとジョーの顔が嬉しそうに歪む。
       「ただし!!」
       びっとジョーの前に人差し指を向ける。
       「5メートル!離れて歩け!!良いな。」
       ジョーは一瞬キョトンとしたが、すぐにニッコリ笑って答えた。
       「はーいvわっかりましたマスター!5メートルですね!」
       何故か敬礼のポーズをとって答える。がっくりと肩を落とし、アルベルトさんは鞄を持った。


       駅に行って、電車に乗る。上手く撒いたつもりだったが、ジョーはきっちり5メートル離れた位置でつ
       いてきていた。ジロジロと困惑した人々の視線がジョーに集中する。しかし当の本人は何処吹く風で、
       平然としていた。
       目的地の駅に着いて、電車を降りる。そしてアルベルトさんは気が付いた。人々の困惑した視線が、自
       分に集中していることに。
       「?」
       首を傾げるが、分からない。と、ひょっとしたらジョーが自分のすぐ後についてきているのではないか
       と思いつく。くるりと後ろを向くと、5メートル後ろにジョーがニコニコと笑いながら立っている。気
       のせいか、そう思いなおしたがそれでも視線を感じる。
       再び、振り向く。やっぱりジョーは5メートル後ろで立っていた。訳が分からず首を捻っていたアルベ
       ルトさんは、ふと横のガラスのショーウィンドーを見た。
       ・・・・・視線が集まるのが分かった。ジョーはぴったりと真後ろについて、歩いていたのだ。ショー
       ウィンドーを見ながら振り向くと、ジョーがぱっと消えた。後ろを見ると、5メートル後ろに・・・・。
       成る程、視線が集まるわけだ。スーツ姿のええ年をした男が、メイド姿の少年を従えて歩いていたので
       ある。変態の烙印を押されたのも同然だ。
       アルベルトさんは、猛ダッシュをした。それこそ猪のような勢いで、会社に飛び込んだ。ゼーハーと息
       を荒げているアルベルトさんに、さっとタオルが出される。ギクリとして恐る恐る横を見ると、ジョー
       がニッコリ笑ってタオルを差し出していた。
       「お疲れ様です、マスターvはい、どうぞ。」
       がっくりとアルベルトさんは、肩を落とした。
       「・・・・・・・・どうも・・・・・。」


       ざわざわざわ・・・・・。
       人々の困惑した視線が、またしてもアルベルトさんに集中する。
       「おはようございます、部長。」
       「あ、ああ・・・・。おはよう・・・・アルベルト君・・・・。」
       アルベルトさんは、むっつりとした顔をして席にどっかりと座った。その隣には、当然のような顔をし
       てジョーが立っている。庶務の女の子が、奇異なものを見るような顔をしてひそひそと話しているのが
       わかった。
       「あの〜、アルベルトさん?」
       恐る恐る遠慮がちに声を掛けられる。顔を上げると、今年の新人であるピュンマが、やはり困惑しきっ
       た顔をして話しかけてきた。と・・・・・。
       「マスターに、勝手に話しかけないで下さい。どなたですか?」
       「マ・マスター!?」
       ジョーがズィッと間に入ってきた。アルベルトさんは慌てる。
       「馬鹿!マスターって呼ぶな!一応お前は”機密”なんだぞ・・・・。」
       最後は小声で囁く。ジョーはきょん、と目を丸くしてアルベルトさんを見た。
       「じゃあ、なんと呼べば良いんですか?」
       「アルベルトで良いから。・・・会社では。」
       「・・・・・分かりました・・・・・・・・。」
       めでたく話が纏まったので、改めてピュンマを揃って見た。
       「えと・・・・・・。」
       「マ・・・アルベルトへの発言は、僕を通してからにして下さい。」
       「はあ!?何言ってんだ、ジョー?」
       「アルベルトは黙っていて下さい。・・・・・どなたですか?」
       ジョーに座った目で警戒心丸出しで睨まれ、ピュンマは少しひるんだ。
       「おい、ジョー。こいつは・・・・・。」
       「どーなーたーでーすーかー?」
       「お、俺はピュンマと言います・・・・。ええと、アルベルトさんの後輩で・・・・。」
       「ぴゅんま・・・・・・・・。アルベルトの後輩・・・・・。登録完了しました。どうぞ、発言を許可
        します。」
       「おい!ええと、すまんなピュンマ。ちょっとわけ有りでな・・・・・。」
       アルベルトさんの、しどろもどろなフォローにピュンマはこれまた曖昧に頷くと、そそくさと自分の席
       に帰っていった。周りを見れば、部長を始めとする職場の仲間が目を丸くして今のやり取りを聞いてい
       たらしい。アルベルトさんは、頭を抱えた。
       ”俺、此処を首になるかも・・・・・・。”


       ある場所で、アルベルトさんは足を止めた。当然、ジョーもピタと止まった。暫く、立ち尽くす。
       「おいジョー。」
       「はい、アルベルト。」
       「外で待ってろ。」
       「嫌です。」
       「いや、お前が此処にいると出るもんも出なくなるから・・・・・。」
       「・・・・・・排泄物が、ですか?」
       そう、此処はおトイレ。誰だって、こーいう所でじーっと見られれば、心許ない。アルベルトさんは困
       惑しきって、ジョーを振り向いた。相変わらず、ジョーはにっこにこである。
       「わかってんなら、話は早い。頼むから、出て行ってくれ。」
       「嫌です。」
       「そこの廊下で待っていてくれれば、良いからっ!」
       頑固なジョーに、アルベルトさんも必死で言い募る。此処で折れれば、個室の場合すら入ってこられる
       可能性が出てくるのだ。ジョーは困ったように、眉を顰めて首を傾げた。
       「・・・・・・・・・・分かりました。」
       「!」
       「僕は、外で待っていますから、早く出てきて下さい。」
       そう言って、すたすたと外に出て行く。アルベルトさんは首を捻ったが、まあ良いかと納得をした。


       廊下に出てから、ジョーは目を細めた。
       「・・・・・・・はい、ジョーです。」
       何かに、答えているようだ。
       「-------------------------------------------。」
       「・・・・・・・はい、今のところは・・・・・・。」
       「-------------------------------------------。」
       「はい、分かっています。」
       「-------------------------------------------。」
       「はい・・・・・はい。了解しました。・・・・・・・・はい、おまかせ下さい。」
       此処で、会話が終ったようだ。
       アルベルトさんが出てきた時には、いつものように笑顔を浮かべてジョーは立っていた。
       「今、誰かと喋っていたのか?」
       「いいえ、何故です?」
       「なんか、誰かが話す声が聞こえてきたからさ・・・。」
       「廊下って、色々な人が色々喋ってますからね。」
       「そうか・・・・・。そういえばそうだな。」
       アルベルトさんは、納得して歩き出した。ジョーは、一瞬切なそうな表情をして目を細めた後、その後
       ろからついていった。


       お昼休み。
       アルベルトさんは、離れようとしないジョーを引きずって行きつけの店に行った。そこはなんともない
       小さな食堂。
       「お前の他に、同じ奴はいるのか?」
       その言葉に、昼食をがっついていたジョーはアルベルトさんの方に目を向けた。口に一杯頬張ったまま
       喋ろうとする。
       「ああああ、良いから!飲み込んでから、喋れ!」
       こっくりと頷き、ジョーはごっくんと飲み込んだらしい。
       「大体、20体くらいが”製造”されたんですが、何とか起動したのは僕とフランソワーズだけです。」
       「へ!?誰だって?」
       「製造マテリアルナンバー003。通称フランソワーズ・アルヌールです。」
       「・・・・・女性型?」
       「はい。」
       アルベルトさんは、ほうと一つ溜息をついた。
       「どーかしましたか?」
       「なんで、俺の所にそのフランソワーズとやらが来なかったんだろう・・・。そうすれば、此処まで奇
        異な目で見られなかっただろうに。」
       ジョーは、きょぴたんと首を傾げた。そう、せめて女性型であれば例えメイド服を着てても此処まで注
       目を浴びなかっただろう。まあ、それにしても注目はされるだろうが・・・・・。そこでふとアルベル
       トさんは気が付いた。
       「そのフランソワーズってのも、どこかに派遣されているのか?」
       「はい。どこだかは、知りませんけど。」
       「ふ〜ん・・・・・。」
       そう唸ってから、アルベルトさんは時計を見た。そろそろ会社に戻らなければならない時間になってい
       る。アルベルトさんが立ち上がると、ジョーも慌てたように立ち上がった。見ると、口の周りが汚れて
       いる。アルベルトさんは、テーブルの紙ナプキンを1枚取るとジョーの口の周りを拭った。
       「お前ね、こんなに汚してたら駄目だろ?ちゃんと拭け。」
       目を丸くしていたジョーが嬉しそうに笑った。


       その夜。
       また変なものを食べされられると困るので、外食をして戻ってきた。風呂に入ろうとすると、又しても
       ジョーが亀の子束子を握って近寄ってきた。
       「だ〜!!入って来るなって言わなかったか、俺わ!!」
       「言いました。」
       「なら。」
       「でも受け付けません。ちゃんとお世話しないと・・・・・。」
       「この歳になって、お世話なんぞされなくても良いんだ。頼むから、その亀の子束子は止めてくれ。」
       ジョーは手の亀の子束子を見つめて、はて?とばかりに首を傾げた。
       「人間は、身体を擦って汚れを取るのでしょう?その点、コレは優秀なものですよ。鍋の汚れすら取れ
        るんですから。」
       「・・・・・・・俺は、鍋じゃない。」
       「ご不満ですか?」
       「不満だから、こうして異議を唱えているんだろーが。」
       「じゃあ、一緒に入るのは良いですよね。」
       「まあ、そのくらいは・・・・。って、今なんつった?」
       「じゃ、コレは使いませんから早く入りましょう。マスター風邪を引きますよ?」
       ぐいぐいと人間ではあり得ない怪力に押され、アルベルトさんは風呂場に押し込められた。


       そして、ある日の夜。
       アルベルトさんは、何だか眠れなかった。もぞもぞとジョーを起こさないように、気を使いながら寝返
       りをうつ。と・・・・・。
       「マスター?眠れませんか?」
       ジョーがぱっちりと目を開いて、アルベルトさんを見ていた。
       「起きてたのか?」
       「・・・・・・・・・・・・・・。」
       何故かジョーは答えなかった。ちょっと考える仕草をして、いきなりアルベルトさんの上に圧し掛かっ
       た。
       「ほえええ!?」
       アルベルトさんは仰天した。やっぱり、半分機械が詰っているので普通の人間より重い。
       「な・な・なんだあ!?」
       間抜けな声を出してくるアルベルトさんに、ジョーはにっこりと笑った。
       「こういう時には、疲れるのが1番らしいですから♪」
       そう言って、とっととアルベルトさんのパジャマを脱がす。
       「ちょっと待てえ!何だか、不毛だぞ!!」
       叫ぶアルベルトさんに、ジョーは澄まして答えた。
       「不毛かどうかは分かりませんが、安らかな眠りの為にお手伝いします!」


       ぐったりと、安眠に程遠い状態で目を回したアルベルトのパジャマを着せ直すと、ジョーは周りを見回
       した。その目はやはり暗闇の中で爛々と輝いていた。



       ☆ちょおっと、話が雑すぎるかしら・・・と思いつつ続くです。ごめんなさい。多分あと2回で終るは         ずですので、お付き合い頂けると嬉しいんですけど・・・。でも94っぽくないですかね、49ぽい         かなあ〜とも思ってみたり。でも94です、っつーかそれしか書けない不器用さんですからね・・・。         ピュンマが出てきましたが、多分もう出てこないでしょうなあ。次回はちょっとした事件が起こりま         す。その事件が、1回で書き切れれば次回完結。書ききれなければ、あと1回増えます。        戻る