オレとメイド3
唐突だが、アルベルトさんは慣れた。
なにがって、ジョーのいる生活にである。「あれ」から1ヶ月も経ってしまったのだから。もう慣れた
ので、人々の注目を浴びることもない。そう周りも慣れてしまったのである。人間、慣れは早いものだ
とアルベルトさんはしみじみと思った。ジョーの格好も、そのジョーを率いているアルベルトさんも、
普通になってしまったのであった。
但し、なにやら良く分からないのだがアルベルトさんはジョーに”安眠の為のお手伝い”とやらを度々
されるようになった。翌日は痛い身体を引きずって、会社に行くこともしばしばだ。これは何度ジョー
に言っても、直らない。それには、閉口していた。
そんなこんなで1ヶ月。
アルベルトさんは、ふと思いついて隣で野菜を切っているジョーに訊いてみた。
「ジョー?」
「はい?」
「お前は、メンテナンスなんかはいらないのか?」
何を言い出すんだか、そんな感じでジョーはアルベルトさんを見る。アルベルトさんの所に来て1ヶ月。
ジョーは目に見えて、感情が複雑化してきた。そして、アルベルトさんが根気強く教えた為、家事全般
を難なくこなせるようになった。まあ、此処までくるまでに涙々の話がいーーーーーーっぱいあるのだ
が、アルベルトさんが思い出したくない為(かなりの犠牲を被った)に、それは謎のままである。
ま、それはそれで置いておこう。
「セルフメンテナンスをしてますから・・・・・。でも、そうですね・・・そろそろ一旦帰って来いと
は言われてるんですが。」
「そっか・・・。なら帰ったらどうだ?」
アルベルトさんは、あくまで他意無くいったのだがジョーには青天の霹靂だったようだ。驚いたように
アルベルトさんを凝視する。
「?なんだ?」
「アル、僕はクビですか?」
「へえ!?」
「これは解雇通告なんですか?」
「え、そんなことないぞ?いきなりどうした?」
ジョーの余りの反応に、アルベルトさんは驚いた。余談だが、ジョーはいつの間にやら、アルベルトさ
んを”アル”と呼ぶようになった。別にアルベルトさんが教えたわけではないのだが・・・・・。
さてさて、ジョーは後ろに稲妻を背負い、あまつさえ背景が真っ暗になった。
「わっ!?停電か!?」
「違います。僕のショックを表現してみました。」
「変なトコ器用だよな、お前は。」
「有難うございます。」
「・・・・誉めたつもりは、ないんだがなあ〜?」
「そうなんですか?」
まるでお笑い芸人のコントのように、間抜けな会話が展開される。但し、本人達は大真面目に会話をし
ているつもりなのであった。こんな会話を繰り返した結果、アルベルトさんは会社で”おもしろい人”
と親しみを持たれるようになった。アルベルトさんは、どこら辺がギャグなのか分からないのが致命的。
「ま、別に今更クビになんてしないよ。グレート兄貴が返せ〜って言うんなら、話は別だけどな。」
アルベルトさんに言われて、ジョーはう〜んと唸った。
「・・・・・分かりました、アルがそう言うんなら研究所にコンタクトを取って、メンテナンスを受け
てきます。」
だけど、とジョーは真剣な顔でアルベルトさんに言った。
「アル、僕がいない間は周囲に気をつけて下さいね。」
「・・・・・?」
首を傾げるアルベルトさんに、ジョーはちゅっとキスをした。
「本当の、本当に気をつけて下さい。」
「〜〜〜〜〜〜(赤)。分かった、事故に合わないように気をつけるよ・・・。」
ジョーは研究所に帰って行った。アルベルトさんは、久し振りに1人暮しに戻った。
「・・・・・意外と、ジョーがいないと寂しいもんだな・・・・。」
アルベルトさんは一人ごちた。
朝。
いつもの通り、アルベルトさんは会社に行く為に支度をしていた。
「おいジョー、行くぞ。」
当たり前のように声を掛けて、振り返った。当然、そこにジョーはいない。何となく、立ち尽くしてか
ら、ぼっと赤くなった。こんなミス、グレートや弟に見せたくない。あわあわと1人で意味無く慌てて
アルベルトさんは、家を飛び出した。駅に向かう、いつもの変わりない道。そこをとてとてと歩いて行
く。あんなにジョーに”周囲に気をつけろ”と言われたというのに、アルベルトさんはぼけーっとして
歩いていた。
と・・・・・・・
突然、ビルの間から手が伸びてきてアルベルトさんの腕を掴んだ。
「!?」
驚いて振りほどこうとすると、新たに手が伸びてきてアルベルトさんを力任せにビルの間に引っ張りこ
んだ。5〜6人程人間が、そこには立っていた。アルベルトさんは、伊達に富豪の息子をやっていたわ
けではない。自分を羽交い絞めにしようとする奴に、鉄拳を食らわした。護身術は、3兄弟全員が習っ
ている。後ろを塞ぐ奴を蹴り飛ばして、鞄を襲いかかろうとする連中に思いっきり投げつけた。退路が
確保できたので、一気に道に出ようとした。その時・・・・。
ぱんっ
何かが弾けるような音がして、脇腹に激痛が走る。溜まらず、アルベルトさんは蹲った。振り向くと、
銃を片手に立っている奴が見えた。
がっ
後頭部を一撃されて、アルベルトさんは意識を失った・・・・・。
ぴくん。
「どうしたんじゃ、ジョー?」
メンテナンス中に、何かに反応を示したジョーにギルモア博士は優しく問いかけた。ジョーは閉じてい
た目をスーッと開け、瞬きを何度か繰り返す。そして、コードだらけの身体を起こそうとした。
「駄目じゃ!まだメンテナンスの途中じゃからの、動いてはいかん!」
博士が叱責するが、ジョーはきかなかった。ぶちぶちと音をたてて、コードを引っこ抜いていく。
「アル・・・・・・・。」
ぽつんと呟く。そしてゆらりと立ち上がった。
「戦闘用の服を出して下さい、博士。アルに異常が起こりました。」
「なんじゃと!?」
「あれだけ”気をつけて”と言ったのに・・・・・。」
ジョーは下を向いて、拳を握った。
「早くして下さい、僕はアルを助けに行きます。」
「しかし、まだメンテナンスが・・・・・。」
渋る博士を見限って、ジョーは戦闘服のある棚に歩いていきながら、どこかへコンタクトを取っている
らしい。
「ジョーです。」
相手が出たらしく、ジョーは着替えながらそう言った。
「--------------------------------。」
「はい、そうです。申し訳ありません。こんなに早く事態が起こるとは思いませんでした。」
「--------------------------------。」
「・・・・・有難うございます。・・・・・はい、はい。」
「--------------------------------。」
「一応、フランに連絡を入れてもらえませんか?」
「-------------------------------。」
「感謝します。僕はこれからアルを救出しに行って来ます。」
「------------------------------。」
「大丈夫です。」
「----------------------------。」
「はい、おまかせ下さい。」
コンタクトが終ったらしく、ジョーは真っ赤な戦闘服に着替え終わった。
「ジョー?」
「行って来ます、博士。」
博士は複雑そうな顔をして、頷いた。
「大丈夫じゃ、例え壊されてもわしが必ず直してやるでな。」
ドアノブに手を掛けていたジョーが驚いたように、振り返った。そのまま、にっこりと笑う。
「お願いします、博士。メンテナンス中だったので、何だか上手く機能しないみたいですので・・。」
ひらひらと手を振って、ジョーは外に飛び出した。
「・・・・・・アルッ・・!!!!」
彼の居場所は、大まかには分かっている。ジョーの生体反応センサーが彼に反応している。
「待ってて、必ず僕が助けてあげるから・・・っ!!だから・・・呼んで!僕を呼んで下さい!」
アルベルトさんに、意識はまだ戻ってはいなかった。
その周りには”あの時”の連中が立っている。
1人は拳銃を、手の中で遊ばせている。
アルベルトさんを撃った、拳銃。
他の1人は、何所かに携帯電話で電話を掛けている。
その口調から、あまり良い要件を話しているわけでもなさそうだ。
他の連中は、手持ちぶたさ気味に周りをうろうろしたり、アルベルトさんの顔を覗き込んだり。
此処がどこかは分からない。
時は進む。
ゆっくりと、しかし確実に。
アルベルトさんが、覚醒の時を迎えようとしていた。
身じろぎをして、アルベルトさんが目を覚ました。
ゆっくりと、頭を上げる。
「よう、起きたか?気分はどうだい?」
リーダー格と思われる男が、アルベルトさんに話しかけた。
続く
☆すみませ〜ん、終りませんでした。いきなりこんな展開、びっくりされました?まあ、次で完結です。
そこで、全てのネタばらしをします。あんまり難しい話じゃないんですが・・・。私のしょぼい頭じ
ゃこんな程度しか書けないんですけどね〜。ハードボイルを書ける人を尊敬しますよ本当に。次回は
アルベルトさんの弟も出てきます。まあ、大体想像つくと思いますが。
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