☆レースパニック☆


唖然。
呆然。
人は本当に驚いた時、言葉を失うというが本当だなと実感した。しかも自分の部屋で起こった出来事で
ここまで驚愕できることもない、と妙に冷めた自分がいる。



004はやっと一仕事終えて、疲れ果てて帰ってきた。間単に食事を取って、たっぷり睡眠をとろうと
思いながら。さすがにサイボ−グとはいえ、長時間運転していると疲れるものだ。身体が元気でも、脳
が元気ではなくなるからだ。

アパートに戻って、鍵を開け扉を開ける。そして目に映ったのは・・・。
な〜んにもない空間だった。否、自分の所有物のみが無くなったガランとした部屋。思わず持っていた
鞄をドサリと落とす。あとは、ただただ馬鹿みたいにポカンと口を空けて突っ立っていることしか出き
ない。だが思考はぐるぐるとまわる。盗っ人かとも思ったが、いくらなんでもゴミ箱まで盗む輩はいな
いだろう。004は意外と戦場では突発的な出来事に強いのだが、日常の突発的出来事には非常〜に弱かった。



・・・・・・・どのくらい、そうしていただろうか。疲労と驚愕で麻痺した脳ではわからなかった。
「あvアル、帰ってきたのかい?」
突然の背後からの、のーてんきな声にビクリと肩を動かして、慌てて後ろを振り向く。
「お帰りvアル♪」
その声の持ち主は・・・・・
「ジョー・・・・・。」
004のかけがえのない”仲間”である、009・・・島村ジョーであった。ニコニコと笑顔全開で立
っている。だが、こっそり(と自分では思っている)パニックをおこしている004は次の言葉が思い浮
かばなかった。死人のような顔をして振り返っている004と、すさまじく輝く笑顔全開の009の光
景はハッキリ言って、アンバランスどころかバランスは崩れ去った後のような感じである。
次の言葉を待っていたのだろうか、なかなか第二声を発しない004に待ちくたびれたという様子で(実
際には1分も経っていない)009が004の後ろから、部屋の中を覗き込む。
「で、どーしたのさ。元気ないよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
自分の部屋から、持ち物が何もかも無くなってしまった状況で元気な奴がいたら教えて欲しいと思う。
そう思いながら、言葉が上手くでてこない。反応の鈍い004を009は首を傾げて見ていたが、
スルッと004の前に身体を滑らす。
「アル、ここの鍵持ってる?」
当たり前だ。今この部屋のドアを開けたのだから。そんな反撃も脳内でぼんやりとあるのだが、言葉に
することがやっぱりできない。そんな004を009は不思議そうに眺めていたが、鍵の場所に気がつ
いたらしく(左手に握りしめていた)そこから鍵を取る。
「?おい・・・?」
鍵を取られたことで、意識が少し浮上してきた。それでも、後に続く言葉が見つからない。009はそ
んな004の足元に転がる鞄を左手で持ち上げる。
「アル、荷物はこれだけ?」
「え・・?あ、ああそうだが・・・・」
「ふーん。じゃ、行こうか?」
そう言って009は004の腕を右手でむんずと掴む。鍵はポケットにさっさとしまっていた。
「え?何処へ?」
我ながら間の抜けた声だ、と思いながら009に尋ねる。だが009は
「良いから、良いから♪」
とだけ言ってぐいぐいと腕を引っ張る。009の”良いから”が自分にとってどれだけ”良くない事”
だったか、思い出すのも拒否権を発動させる程だ。それなのに、何故か何回でも”良いから”作戦に
引っかかってしまう。自分が間抜けなのか、009が上手なのやら。そんなことを思いながら、まだ
先ほどのショックから立ち直ってなかったので009に引っ張られるまま、よろよろと廊下を進んで行った。


009に連れていかれたのは、世話になっているこのアパートの大家さんの部屋の前だった。
「???」
困惑して009を見るが、009は平然としてそのドアをノックする。するとすぐに大家さんが顔を
出した。
「こんにちわ、大家さん。」
004が口を開けるより早く、009が挨拶をした。大家さんはにっこりとして言った。
「こんにちわ、アルベルトさん、ジョー君。」
「鍵をお返しにきました。」
009はそう言って、鍵をポケットから出して大家さんに渡す。
「!?お、おい00・・ジョー!?」
本日2回目の驚愕に見舞われながら、009と大家さんを見渡す。と、突然大家さんが004の両手を
自分の両手で握りしめた。
「!?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
明らかに009の視線が険を帯びたが、不可抗力だ。大家さんは大らかな人なので、009の視線には
気付いていないようだが。
「アルベルトさん、あんたがいなくなると寂しくなるけど(家賃収入が)まあ、なんかあったらまたおいで。」
「へ!?」
大家さんの言葉ははっきり言って、青天の霹靂であった。別にこの部屋を引き払うつもりなど、自分に
はない。これから、大いにその部屋で睡眠をとるつもりだったのだから。そんな004の様子に気付か
ないほどやっぱり大らかな、大家さんは言葉を続ける。
「新しい仕事は大変だろうけど、ジョー君がいるから大丈夫だろう。がんばって!」
「????????????」
驚愕を通りこして、大混乱に落ち込む。するとジト目でそのやりとりを見ていた009がさりげなく
二人の間に入り込み、大家さんの手を外させる。
「ええ、有難うございます。アルベルトも張り切っていますので。」
何故か009が返事をする。いつの間に、こんなに仲良くなっていたのか・・・と思ったが、自分が
留守の時ちゃっかりと大家さんに鍵を開けてもらい、自分の部屋で寛いでいた009だ。その時に、
仲良くなったに違いない。大混乱になりながら、そんなことを思う。
「じゃ、僕達はこれで・・・。アル、大家さんに挨拶ぐらいしなよ。」
パン、と背中を叩かれる。
「あ、ああ。お世話・・・・・になりました・・・・・。」
思わず、挨拶をしてしまう。大家さんはニコニコ笑って頷いた。
「ああ、元気でね。アルベルトさん。」
「それでは・・・・、さようなら。」
そう言って009は道路に停めてあった彼の自動車の助手席に004を押し込み、自分も運転席に乗る。
走り去る自動車を、呑気な大家さんはいつまでも手を振っていた。


「どーいうことなんだ!?」
車に乗ってからの004の第一声は、あたりまえだが疑問であった。009は運転をしながら、キョトン
としている。どうやら004からのブーイングが意外だったらしい。
「009!?なんなんだお前は!何考えている?」
「アルのこと♪」
即答。
がっくりと004はシートに沈む。前にも同じ質問をして、同じ答えをもらい、同じように沈んだ思い出が
走馬灯のように過ぎる。
「いや・・・質問が唐突すぎたな。」
そう言いながら、俺の方が大人なのだから冷静にならなければ、と思う。実際は009の方が、誰から
見ても冷静だったのだが。
「お前、なんで此処にいるんだ?」
冷静に、そう思った割に質問の間が抜けているのだが004は気付かない。だが009はあっさりと答える。
「アルを迎えにきたんだよ。」
BG団が暴れているなら、009が自分を迎えにきても不思議はない。なんといっても主戦力同士なのだ。
しかし、今はおとなしい。
「??????」
又しても疑問符を飛ばして考え込んでしまった004に009が、考えもしないことを言った。
「アルはね、これから僕のチームで働いてもらうことになったんだ。」
「へー俺が・・・・・・って、ちょっと待て。」
「うん、待つよ。なあに?」
「なあにじゃない、何で俺がおまえさんのチームにはいらにゃならんのだ?」
009は・・・・どういう手順を踏んだかわからないが”走り屋さん-----つまりはレーサー”をして1年
中、世界を文字通り走りまわっている。それは良いのだが、何故そこに自分が登場するか理解できない。
「それに、俺は俺でキチンと仕事を持っているんだ。そんなことできん。」
「ああ、それは大丈夫。」
009がすぐに答えてきた。
「チャンと辞表出してきてあげたから。」
「誰が?」
「僕が。」
「誰の?」
「アルの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
相変わらず009はニコニコ笑っている。
「いつ出したんだ、そんなもん。」
「さっき。アルが帰った後にね。社長さんは残念がっていたけど、快く受け取ってくれたよ。」
「辞表って、最低でも1ヶ月前には出さないといけないんだが・・・・・・。」
「ふーん、そう。でも大丈夫だったから、心配しないで良いよ。」
頭を思わず抱える004に、009はあっけらかんと言い放つ。
「まあ、こういう時の為にアルの周りの人の顔見知りになっておいたわけだし。」
「なんかこー、人として間違った荒波を進んでいる気がするが・・・・。」
「気のせいだよ。」
ずっぱり。
言い切る009に004は呻く。
「言っとくが、俺はレース用の車の事なんか知らないぞ(私もです)」
反撃のつもりで、そう言う。しかし相手は009だ。
「へーきへーき。トラックだって同じ車じゃん。」
「基本は同じかもしれないが、ぜんぜん違うぞ・・・・・・。」
モゴモゴと言い募るが、ハタと気が付く。
「あ!じゃあ俺の部屋をかたしたのは・・・・!」
「ああ、僕。」
平然と答えてくる。さっき004があれだけパニックに陥っていたのを知っているくせに。
「・・・・・・・・・・・・・・この確信犯め・・・。」
004が低音で呻く。
「まあ、細かいところも荒いところも気にせずにいこうよ。」
「どっちも気にするわ!」
「さーて、そろそろ僕のチームの宿泊所に着くよ。」
「話を聞けって!」
「聞いてるよ。アルもすぐ納得して楽しく働けるようになるからノープロブレム♪」
「それは聞いてるって言わない!」
009は車を停めて、エンジンを切る。そして004に向かってニッコリと破顔した。
「!?」
004は思わず身構える。
「じゃあ、これからスタッフの連中とスポンサー達に挨拶に行こう。」
「はあ!?」
本日3回目の驚愕が訪れた。あまりのことに硬直した004を相変わらず009はニコニコと笑って眺めて
いる。
「い・・いや・・・・俺は良い。」
なんとか立ち直って言う。しかし、そんな事で009は揺るがない。
「遠慮しなくて良いんだよ?ほら、行こう。」
シートベルトを外して車から出ようとする。
「お、俺は行かないぞ!絶対!行かないんだからな!」
ゼーハーと肩で息をして、叫ぶ。009は一瞬キョトンとするが、ニヤリと笑う。
「あのさ、アル。」
「な・なんだよ。」
「そっとバックミラー覗いてみてよ。」
「?」
そっと覗くと後ろの木の陰で誰かが潜んでいる。手にはカメラを持っているようだ。
「誰だ?あれ・・・・。」
思わず呟く。
「ゴシップ記者だよ。ああやってシャッターチャンスをこっそり狙ってるんだ。」
「ほーう、お前人気者なんだな。」
「別にそういうわけじゃないけど。」
「んで、あれがどうしたって?」
「ん、もしアルが一緒にスポンサー達とかに会ってくれなかったら・・・・。」
ゾクリ、嫌な予感が背中を走る。
「ここで、あいつに見えるように”ちゅー”しちゃうぞv」
「へっ!?」
天使のような悪魔の笑顔とはこのことかも、と004は思った。少し冷静に考えれば、そんなシーンを
撮られて困るのは有名な(多分)009の方だろうとわかるのだが、混乱の渦から脱出できない004は
気が付かない。うかうかと脅迫されてしまう。
「どーする?会いに行く?それとも”ちゅー”にする?まあ、僕はどっちでもいいけど?」
「うう・・・。」
変に004に考える暇を与えずに、009は畳み掛ける。ついでにズイッと顔を近づける。ついに004は
折れた。ハッキリ言って仕事も失くした(009のせいで)今、此処で働かせてもらえるならある意味OK
かもしれないと思ったからだ。
「・・・・・・わかった・・・。会いにいくよ、それでいいんだな?」
やけくそも入っている。もう、どーにでもなれ状態であった。
「うん!OKOK!じゃあ行こうか!」
009にしてみればしてやったり、である。004の気が変わらないうちに、そそくさと車を降りて助手席
のドアを開けて、仲良く肩を並べて建物の中に入って行った。


さてさて、これからどーなるやら。



続く

★私の中の94が凝縮されたよーな話です。強いですね009!でもちゃんと004が自分のこと嫌っ てないとわかっているのです。じ、実はあんまり(というか全然)レーサーの世界のことは知りません。 だから、変なところがあっても有明コロシアムのような広い心で笑って許して下さい。 戻る