☆レースパニック4☆

ダダダダダダダダダダ・・・・・・
どこかで、音がする。004は夢うつつでその音を聞いていた。まるで、誰かが全力疾走しているような
音。その音はピタリと自分の部屋の前で止まった(004はこの頃、個室をもらっていた)。ただし、ズッ
テーンという何かがひっくり返ったような音もしていたが。続いて聞こえてきたのは、ドアを叩く音だった。
ダンダンダンダンダン!
休暇1日目だったし、疲れていたので004はその音を無視することに決めて、布団の中に潜り込んだ。と
ころが、音をたてている主も諦めるつもりは無いらしく、いつまでもドアを叩いている。ついに004は音
を上げた。
「なんなんだよ、もう。人が気持ちよく眠っていたのに・・・。」
かなり不機嫌になりながら、004はドアを開けた。


「アルベルトさーん!大変、大変なんですよー!」
音をたてていた人物は、1回相部屋になったことのある相沢真吾だった。手に新聞を握り締めて、とても慌て
ている。
「ああ、こんな朝早くにすみません!でもでも、本当に大変なんですー!」
「朝早いんだから、そんなに廊下で怒鳴るなよ。」
「そんなに、冷静になっている場合じゃないんですよ!」
「いや、だから・・・。」
言いかける004に、真吾はズイッと手にしていた新聞を渡した。それは、大概どこの国にでもあるゴ
シップ新聞だった。普通の新聞とは違って、ハデハデな色がついている。
「・・・・・・女優、アンジェリーナが離婚?」
1面には確かに、そう書いてあった。
「見るトコ違うっすよ!そこじゃないんですー!」
真吾は、004の手から新聞を取り上げると震える指で、捲っていく。
「はい!ここっすよ!」
004は何が何だかわからない内に、その記事の見出しを読んだ。
「日本のF1レーサー島村ジョーに恋人発覚。」
見出しには、そう書いてある。004は首を傾げた。
「おかしいな、俺はそんなこと1つもあいつから聞いてないぞ?」
すると、真吾がイライラしたように言う。
「見出し以外の記事も、見て下さいよお!」
「?」
何をそんなに慌てて、しかも苛立っているのか・・・004は胡散臭そうに真吾を見ると、記事を読み
だした。
「えーなになに?お相手は、島村ジョーのマネージャーのアルベルト・ハインリヒ(30)・・・・。」
ピキン
周囲の空気が、一気に凍った。
「なに〜〜〜〜〜〜!俺かあ!?」
004は、さっきまでの眠気も冷静さもどこへやら、絶叫した。新聞には御丁寧にも、朝一緒にジョギ
ングしている写真が掲載されていた。
「か・・・関係者の話によると、2人は島村ジョーがレーサーになる前からのお付き合いで・・・・。」
真吾が震える声で読み上げる。一応、間違ってはいない。いないのだが。
「誰だよ!この関係者ってのは!」
そう怒鳴りながら、脳裏に浮かんだのは自分と仲の悪いチーフだった。だが、004はすぐに首を振っ
た。確かに自分にも大打撃を与えられるが、肝心の009にまで影響を及ぼすようなことは絶対しないだ
ろう。チーフは突然大きな顔をして、009の隣にいる004を快く思っていないだけで、009にはも
ういじらしい程の献身ぶりだったからだ。反対に、この記事を見たら004のところに怒鳴り込んで来る
だろう。
「悪い、真吾。これ借りるな!」
新聞を握りしめながら、004はそう叫ぶと廊下を猛ダッシュしだした。
「アルベルトさん!記事は本当・・・・って足速いなあ・・・。」
004はもう真吾の視界から消えていた。


004が向かった先・・・・それは009の部屋だった。
「ジョー!おい、ジョー!起きろ!起きてくれええ!!」
ダンダンダンダンダン!
ドアが壊れるかと思われる程の勢いで、004は必死でドアを叩く。
「何だよ、アル。こんなに朝早くに・・・・。」
まだ眠っていたらしい、009は眠たそうな顔をしてドアから顔を出した。004は009を押しのける
かのようにして、部屋に入る。何とか、心を落ち着けようとして、004は009に背中を向けたまま、
深呼吸をする。そんな004に何を思ったのか、009が後ろから抱きしめてきた。
「なーんだ、こーいうお誘い?」
「断じて違う!って、変なトコに手ぇ突っ込むな!」
「浴衣って、結構手突っ込むトコあるよねえ。」
余談だが、2日目から004はハトヤ仕様の浴衣(笑)を着ている。そうでないと、009に何をされる
かトント分からないからだ。そうじゃなくても、まあ色々あるのだが・・・。
「そーいうモンじゃない!これ見てみろよ!」
バサッと004は009の顔の位置を想定して、新聞をぶつける。009は名残惜しそうに新聞を手に取る
と、記事を読み出した。
「・・・・・・で、これがどうかしたの?」
慌てる様子もなく、009は004に尋ねる。
「どうかしたって、お前コレ1大事だぞ!こんなスキャンダル発表されて、イメージダウンも良いところだ!」
すっかりマネージャーとしての自覚が出ているのか、004は呑気な009に怒り心頭だ。
「ん、でもこれ当たってるじゃんか。」
「馬鹿ったれ!当たってるから良いってもんじゃないだろう!ああ、監督と麗香サンに相談した方が早そう
だ・・・・そうか、そうすりゃ良かったんだ・・・。」
ブツブツと004は呟いて、早速監督の部屋に行こうとしたが009に止められる。
「まだ寝てるよ?もうちょっとしてから行った方が良いって。」
「いや、しかし・・・対策立てとかないと。」
「まあ、いーからいーから♪」
ズルズルと放心状態の004を、ベットに引きずって行く。
「ちょっと待てえ!朝っぱらから何しやがるんだあああ!」
004の叫びは、誰にも聞こえなかった。


009とともに、監督の所を訪れるとすでに情報は伝わっていたらしく、監督と麗香さんがもう話をし
ていた。
「すまんね、アルベルト君。せっかくの休日だっていうのに。」
監督は本当にすまなそうに、004に頭を下げた。麗香さんもまた然り。
「ゴシップ新聞だから、そうそう大騒ぎすることもないとは思うんだけど、マスコミ対策は一応しておか
なきゃね。」
麗香さんは困ったように、溜息をついた。
「で、聞きたいの。この記事って本当なの?」
「嘘です。」
004はキッパリと即答した。009は考え込むような顔をしていて、無言。
「ジョー、貴方はどうなの?」
「ん〜〜〜、親しいってトコは合ってるしジョギングしてんのも本当だしねえ。」
「ええーい、そんなミクロな問題じゃなくて、見出しの是非を訊いてるんだろ?」
004が立ち上がって、怒鳴る。まあまあと監督と麗香さんに止められる。
とりあえず、マスコミが騒ぐようならジョーに1言2言答えてもらうことになった。反応があんまりな
かった時は、ノーコメントでいこうとなった。009は、何故か返事ぐらいしかしない。自分に対して
のスキャンダル(?)だというのに、反応は鈍かった。
「結構ね、こういうことに興味がないみたいなのよ、あの子。他人にどう見られても良いやって感じな
のよ?いつもね。フォローに走り回る私達の身にもなってって言ったこともあったわ。」
009の反応の鈍さに、首を傾げる004に麗香さんは苦笑しながら、そう教えてくれた。

「このドイツ人ー!」
009と共に、監督の部屋を出て廊下を歩いていると、そう罵倒する声が響いた。嫌な予感がして振り向く
と、チーフが怒り心頭といった顔をして突撃して来た。
ガシイ!
004の胸倉を掴み上げ、凄い形相で睨む。
「貴様、最初っから”こういうつもり”で来たんだな!?ジョーの顔に泥を塗る為だけに!」
しかし、元々004も気が強い方だ。負けずに睨みつけて、怒鳴った。
「馬鹿言え!”こういうつもり”で来たんなら、自分を巻き込まずに相手はお前ぐらいにしとくわ!」
009がゲッと小さな声で言っていたが、頭に血が上っている2人は気が付かない。
「いい加減、アルから手を離してよ。」
009がおっとりとした声で、間に入ってきた。チーフは少し気まずそうな顔をして、004の胸倉から
手を離した。他人用のおとなしそうな顔をして、009は済まなそうにチーフに言う。
「チーフが僕のために怒ってくれるのは、凄く有り難いんだけど、アルのせいじゃないんだよ。」
「しかし・・・ジョー・・・。」
「僕もうっかりしていたんだ。アルとは本当に昔からの付き合いで、つい嬉しくなってジョギングとかに
引っ張って行かなかったら、こんなことにはならなかった・・・。」
自分と他人に対して、こんなに態度が違うのかと004は心の中で叫んだ。心なしか、目を潤ませて下
を向く009に、チーフは明らかに動揺してきた。
「い、いや・・・。スミマセン。俺もちょっと動揺していたもんだから・・・。」
声もトーンダウンして、チーフはそれでも004を1回睨みつけると今走ってきた廊下を戻って行った。
「・・・・行った?」
009が顔を上げる。さっきまで潤んでいた目はもう元に戻っていた。顔つきも、さっきと同じように
ケロッとした表情に戻っている。
「・・・お前、グレート追い抜いてトップの役者になれるぞ・・・」
「顔が良いから?」
「いーや、演技力があるからだ。」
「そーかな?」
「そーだよ。」
平行線を爆走する会話を展開しつつ(いつものことだが)、004はそういえばと首をひねる。
「この”関係者”って誰なんだろうな?」
「記者のでっちあげじゃないの?」
「そのわりには、凄く細かい所まで書いてあるぞ。あんまり考えたくないがな・・・・。」
「まあねえ、スタッフの人達は皆良い人ばかりだしねえ。」
009のその言葉に、004はポカンと口を開けて009の顔をマジマジと見つめた。
「?なに?」
流石の009もその視線が意外だったのか、首を傾げてしまった。
「お前が素直に他人を誉めるトコなんて、初めて聞いたぞ・・・。」
「・・・・・どーいう人間に見えてるんだい、僕のこと。」
心なしか、009の目が三白眼に見える。そこで止めておけば良いのに、004は馬鹿正直に答えた。
「天上天下唯我独尊。」
「ドイツ人なのに、アルってそういう言葉がどーして出てこれるんだろうね。不思議だなあ。」
「・・・・・・・不思議がりながら、俺をどこに引っ張って行くつもりなんだ?お前は。」
「そーんなの、お約束のトコだよね!」
バタバタバタバタ
009の”お約束のトコ”とは、彼の部屋に決まっている。冗談じゃない、さっきもピーでパーでポー
な状況に陥っていたのだ。004は必死で暴れだした。しかし、何回も004を抵抗付で引っ張って行く
ことがある009である。あっさりと押さえ込んで、部屋に引っ張り込んでしまう。
「お前なあ!こんな時に、俺達が一緒の部屋にいたら、更に疑われるだろーが。」
「一応(約束できないけど)何もしないよ。アルは今部屋に帰らない方が良いって。」
「何故に。」
「きっと、他のスタッフの人達が部屋に来るよ?さっきのチーフみたいな感じで。アル、怒られたいわけ?」
「いや、怒られたくないぞ。」
「でしょう?それにね、多分これから電話が鳴るよ。」
「なんで分かるんだよ?」
「国家秘密。」
「ヤな響きだな。誰からだ?」
「僕が思うに、2人かかってくるよ。」
「そーか?」
「そ−なんだよ。そー思ってくれて良いよ。」
009の言葉が終らないうちに・・・・
リーンリーンリーン
電話が鳴った。004は思わずビクッとして、部屋の電話を見る。009がパッと受話器を取って、話
だす。それを004はボーッとして見ていたのだが・・・。
「ハイ、アルへの電話だよ。」
009がニッコリと笑って、004に受話器を差し出した。

続く


☆やっと、題名にある”パニック”が出せました。この話の004が1番苦労症ではないかと思いました。 それにしても、書いている自分でも”ハトヤ”仕様の浴衣はないだろうとは思っているんですが、浴衣 に萌vになっているのでまあ良いか。でも、季節を特定しているわけではないのですが、夏は良いけど 冬は寒いですよねえ(苦笑) さて、問題です(笑)009が言っていた電話をかけてくる2人は誰でしょう?・・・バレバレですけど。 戻る