レースパニック番外 帰国編その2
009と004の乗った飛行機が、ついに日本へ到着した。ロビーにはつい先日恋人宣言をしたF1レ
ーサーハリケーンジョーを待ち構える報道陣と、ファンの女の子達でごった返していた。そんな様子に
003は溜息をついた。だから、スグに日本へ来いと誘ったというのに。律儀な004はそこを動かな
かった。こんな騒動になって、004がますます混乱し、あまつさえ苦悩を深くするのがわかっていた
ので、004の首に縄でも付けて日本へ引っ張ってくれば良かったと003は後悔する。そんな彼女を
ファンの女の子達が見つけてヒソヒソと何か話している。聞こうと思えば聞こえるが、わざわざ自分の
悪口を聞くことはあるまい。昔、009と一緒にギルモア邸で住んでいた時、恋人と間違えられて報道
されてしまったことがある。どこで住所を調べるのか、カミソリ入りの素敵な封筒や「死ね」と書かれ
た華麗なメッセージカードを嫌というほど頂いたものだ。この時は009が違うと発表したのだが、な
かなか騒動は収まらなかった。如何に戦場を駆け巡ってきたツワモノの003とて、この時ばかりはう
っかりうつ病になりかけたものである。しかし今回恋人であると009が認めてしまったのである。報
道陣はどうにかなっても、ファンの女の子達の怒りは果てしない。003は004を来たと同時に自分
の方へ引っ張って、救出するつもりだ。あの004が009と腕を組んで歩いてくる確立は一応ゼロに
近い・・・・ハズだ。009がなんらかの対策を立てていない場合は。
”負けないわよ、ジョー?アルベルトは私が守ってみせるわ!”
あたりを火事にせんばかりに燃える003であった。
「あっ、出てきた!!!」
誰かが叫ぶ。003はすかさず透視を開始する。普段はうっとしい能力だが、こういう時は大変便利だ。
スキップをせんばかりの009と、項垂れてトボトボと歩く004が見えた。003の予想通り、彼ら
は腕を組んではいなかった。これならロビーに出てきたスキに004を掻っ攫うことが出来そうだ。
出てきた瞬間、003は渾身の力をもって004の腕を掴んで引っ張った。驚いた004が003の方
によろめく。が・・・・・・。
ガシィ!
004は、今度は反対の方向によろめいた。
「!?」
そして003は見た。009がしっかりと004の反対の腕を抱えているさまを。003を見てニヤリ
と本性丸出しの笑みを見せる。
”やっぱり来たね、フラン。でもアルは渡さないよ?”
脳内通信で勝ち誇ったように言ってくる。
”ジョ〜〜〜〜〜〜(怒)”
003は009を睨みつけたが、知らん顔をして009は004をグイッと引っ張った。途端に黄色い
悲鳴が聞こえる。
「きゃーーーーーー!!!!ジョーーーーーーー!!!」
「すてきぃーーーーーー!!!!」
「○×△▼◇ーーーーーー!!!」
余りの大声に、003はつい腕を離して耳を覆ってしまった。
「ああっ、しまったわ!」
時既に遅し。009は何がなにやら良く分かっていない004をひきづって、歩いていく。フラッシュ
がたかれ、ファンの子達の悲鳴のボルテージもどんどん上がっていった。報道陣が彼らの歩みに沿って
マイクを向けてくる。
「ハリケーンジョー、その人がアルベルト氏ですね?えっと恋人の・・・。」
「はい、そうですよ。」
009はケロリとして、嬉しそうに答える。
「ちょっとそのことで聞きたいことがあるんですが・・・。」
流石に言いにくそうにレポーターが言う。
「良いですよ。ナンでしょう?」
皆には見えないように、009は逃げようとした004の首の後ろにチョップをかまし、ぐったりした
004を上手いこと支えた。
「なんで、アルベルト氏を恋人として受け入れたんですか?」
「ほえ?」
009は久し振りに、本気で目を丸くした。
「いえ、アルベルト氏が交際を申し込んだと関係筋から聞いたのですが・・・?」
「誰です?その関係筋な人って。」
「ちょっとそれは言えないんですが。」
「報道の自由ってズルイですね〜。ボクのプライベートは明かすのに、自分達は秘密主義ですか?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「まあ、良いですよ。アルが交際を申し込んだんじゃありません。ボクが申し込んだんですよ。お間違
えなきよう。」
「エェッ!?」
009の告白に、ロビー全体がざわざわと騒ぎだした。004は相変わらず、気を失っている。だが、
この際それが幸せだったようだ。
「この大馬鹿者〜〜〜〜!!!!!!」
泣き叫ばんばかりの004の声が、ジョー宅に響きわたる。あれから、004が正気を取り戻したのは
車の中だった。どうやら、空港内に車を預けていたらしい。
「あれ?ジョー?・・・・・・俺、どうしてたんだっけ・・・?」
ぼんやりと聞いてくる004に、009はあっさりと答えた。
「アルったら、突然気を失うんだもん。びっくりしたよ。」
「・・・・・つーか、お前にチョップをかまされたような記憶がするが・・・。」
「ふ〜ん、そう。」
ニコニコと笑いながら、009はお気楽に相槌をうっている。004は、溜息をついた。
「・・・・そういえば、フランソワーズが来てたな。彼女どうした?」
「マスコミに囲まれちゃっただろう?あそこでフランを見失ったらしいんだ。フランもあんまりマスコ
ミに姿を現さないからね。」
見失ったのは嘘である。それどころか、しっかり003を出し抜く為にマスコミの囲いを利用したのだ。
1度マスコミにヒドイ目に合わされて以来、003はそういう場所に顔を出したがらない。だから、わ
ざわざマスコミの質問に答えたのである。質問の内容にちょっぴし驚いたが、003を出し抜いてまん
まと逃げおおせた。
009の家は断崖絶壁の上にある。1人暮らしで、滅多に帰ってこない家だというのに、009の家は
でかかった。その理由を訊くと
「お金は使わないとね。結構、税金でがっぽりもっていかれちゃうんだ。だったら、使った方が良いだ
ろう?最低限の貯金はちゃんとしてるよ。」
と返ってきた。結構、こういう所は抜け目がない。
「アルの部屋はここね。」
2階の南向きという絶好の場所に、ドイツから運び込まれた004の家財道具がキチンと配置されてい
る。しかし、1つだけ足りない物があった。
「ジョー、俺のベットは?」
知らずに地雷を踏んでいる、004であった。009は、嬉しそうにニヤリと爽やかとは到底言えない
笑顔を向けてくる。
「こっちだよ」
そう言って、案内されたのはやっぱり009の寝室だった。どど〜んとダブルベットが置いてある。
004は、秋風が胸を通り過ぎるのを感じた。
「あの・・・ジョー・・・これってやっぱり俺も此処で寝ろってことなのか・・・・?」
躊躇いがちに言われた問いに009は答えた。あっさりと、迷いもなく。
「うん。」
「・・・・・・拒否権は・・・?」
「ないよ。」
取り付くしまもない、とはこういうことなのだろうと004は思う。
「はやく、子供を産んでもらわないとね♪」
「・・・・俺が産めるとでも思ってるのか?」
「産まぬなら、産ませてみせよう、元気な子。」
「豊臣秀吉が聞いたら、怒るぞ。五・七・五の芸術に悪いと思わんのか、オノレは!?」
「古の芸術も、時代と共に進化するのさv」
「進化の方向も、お前が絡んだ途端間違った方向に爆走してるじゃないか!」
「それもまた、う・ん・め・いv」
パチンとウインクを1つ寄越してきた。ファンの女の子なら失神ものかもしれないが、004には効か
ない。効くはずがないのだ、009の本性を知っている004には。
「さ〜て、お腹すいたなあ。アル、何か作ってよ。」
「何で俺が!?」
思わず怒鳴り返す004に、009は微笑む。
「別に、僕が作っても良いけど?」
なにやら意味ありげに吐き出される台詞に、004は忘れていたことを思い出した。レースでは作る必
要もないので、忘れていたのだが009は料理オンチなのだ。
「そ・・・・・そうだった・・・・。うっかり忘れてた。」
「でしょ?」
「とはいえ、材料はないんじゃないか?」
「あ、張々湖に頼んでおいたから、冷蔵庫とかに何か入ってるはずだよ。」
「・・・・・いつの話だ・・・。」
「きっと昨日だと思う。いつもお願いしてるから。でも今回は材料だけお願いしちゃったからな〜。」
とてとてと台所に向かう009の後を、とぼとぼと歩く004が続く。
結論から言えば、004は料理をしなくて済んだ。流石006、温めればすぐ食事が出来るように料理
が冷蔵庫に入っていたからだ。食事を終えて、食器洗浄器を動かしてから何気なく置いてあったスポー
ツ新聞に004は気が付いた。
「?」
そこには、でかでかとこう記してあった。
”ハリケーンジョーから交際を申し込んだ!ホ○は彼の方か?受けたアルベルト氏か?”
ピキン
「あれ、どうしたのアル?」
ちょっと姿を消していた009が、ひょっこりと現れた。その呑気な姿に、004はプチーンと何か大
切なものが切れた音が聞こえたような気がした。
「この大馬鹿者〜〜〜〜!!!!!!」
泣き叫ばんばかりの004の声が、ジョー宅に響きわたる。009はちゃっかり耳を塞いでいた。
「びっくりしたなあ〜、急に大声出さないでよ?」
「出さずにおれるかっ!なにまた言ってんだよ!?お前俺をどこまで世間様からドロップアウトさせれ
ば気が済むんだ!」
「真実はちゃ〜んと知らせておかないとね。」
「ええい!いけしゃあしゃあと!!!」
009はまるでタックルをするように、004に抱きついた。そしてぷーっと頬を膨らませ、上目使い
で004を睨む。
「だあ〜ってさ〜、心外じゃんか?このナイスガイ(死語)な僕がなんで押し倒されなきゃいけないの?」
表情は大変可愛らしいが、すっぽんのようにへばりつく009を004は振り払えないでいた。わたわ
た、もこもことただただ逃げようとしたが、悉く失敗する。
「18のガキに押し倒されていると言われた、30の俺の立場はどーなるんだっ!」
「だって、アルは魅力的だもん。だけど押し倒して良いのは僕だけなの。」
「全然、魅力的じゃねーよ!それにそんな特権俺は認めてないぞ!」
あわあわと更に暴れる004に”困ったな”というような顔をして009は突然004を抱き上げた。
「ぎゃー!降ろせ〜〜〜!!!」
姫様抱っこをされて、冷静でおれる男がいるわけがない。004もぎゃおぎゃおと騒ぎ立てたのだが、
004が009に勝てるわけがないので無駄に終ってしまう。
とてとてと009が向かう先・・・それは(やっぱり)寝室だった。
「降ろせって!ジョー!!」
ますます慌てて怒鳴る004を009はぽーんとベットの上に降ろす。
「降ろしたよv」
「もーちょっと丁寧に降ろさんか!って・・・・・圧し掛かってくるな〜!!」
最大の危機が訪れようとしていたのであった。
「俺は、疲れてるんだ〜!眠いんだから、邪魔するな!」
ものの数時間前まで飛行機に乗っていたのだ。・・・長時間。いくらサイボーグといっても疲れるもの
は疲れる。004にしてみれば、元気な009の方が不思議だ。
「ん〜?だってこういう時の為に、飛行機の中で睡眠をとってたんだもん。」
飄々として、答えてくる009。ここで、なんとか上手い言い訳を言うことができれば、004もいら
ぬ苦労をしなくて済むのだが、こういう時に詰ってしまい言葉が出てこない。009もそれが分かって
いるからこそ、こういう手を使ってくる。分かっていても、対抗手段が見付からない004であった。
「?」
何か、違和感を覚えて004は目を覚ました。何気なく009が寝ている方を向くと・・・。
「・・・・・・・何してんだ・・・・お前・・・・(怒り)」
009はニコリと笑って、手にしているデジタルカメラを見せる。
「おはようアルvこの前買ったばかりだからさ!アルの寝顔を撮ってたんだよ!」
「・・・・・寝顔なら、掛け布団を此処まで(と腰を指す)剥ぎ取るんだ・・・?」
「まあ、上半身に顔がついているわけだし・・・。」
「わけわからんぞ、お前・・・。」
004の額に縦皺が刻まれている。それに耳を貸さず、009は自分のPCにデジタルカメラのメモリ
ーを入れようとしていた。
「んで・・・・・。俺の寝顔なんか本当にどーする気なんだ?」
重ねて問う。009はしれっとした顔をして、004の方を向く。
「今度、ボクのHPを作ろうと思ってさ。ちょっともったいないけど、アルの寝顔の写真をアップしよ
うってね!あ、上半身付きだけど。」
「俺の上半身は顔のオマケか、貴様・・・。・・・・・って、今のをアップするって!?」
「うん。」
004は朝1番、血の気が引いていき、再び頭に登ってくるのを感じた。
「そんなことさせるか〜!!!(怒)そのメモリーを渡せーーーーーー!!!!」
「や〜だよ〜だv」
ドタバタと朝っぱらから、大騒動が勃発している。彼らの日本での生活はこうして始まったのであった。
☆はい、お終いで〜す。掲示板で番外編をと言って(書いて)頂いたので、調子に乗って書いてしまいま
した。どうでしょうか、こんなもので(苦笑)009の作るHPって覗いてみたいような、みたくない
ような・・・。きっと”ボクのアルベルト”なんてコンテンツがあるんですよ(爆笑)004が見たら
卒倒するような事とか写真とか載ってて・・・。もちろん、隠しページで。ははははは・・・・・。
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