新婚行進曲・・・・・昼
ジョーの昼
昼休み、大学のカフェテラスでジョーはランチを食べていた。流石に、昼だけは弁当を作っていられな
いのでこうしてランチを食べていることが多い。
「ハイ、ジョー。」
ジョーが顔を上げて、相手の顔を見てニッコリ笑った。
「やあ、フラン。」
ジョーの前にランチのトレイを持って現れたのは、金髪に翠瞳の美少女だった。名をフランソワーズ・
アルヌールという。ジョーの育った教会の近所に住んでいる彼女は、良く教会の子供達と遊んだものだ。
つまり、ジョーの幼馴染である。
「1人?此処良いかしら。」
「良いよ、どうぞ。」
座ってから、彼女は早速とばかりに話し出した。
「アル兄さんは、元気なの?」
「アル?うん、元気だよ。」
「そう、良かったわ。」
アルベルトの事を、フランは”アル兄さん”と呼ぶ。元々、彼女には年の離れた兄がいたのだが、就職
して遠くに行ってしまっていた。だからフランはアルベルトに懐いてこう呼んでいる。アルベルトも懐
かれて、まんざらでもないらしい。結構、可愛がっている。
「そういえばフラン、今日の合コン知ってるかい?」
「ええ、知ってるわ。ジェットにお願いだから出てくれって言われたから行くつもりよ。それがどうし
たの?」
「うん、6時半だったっけ?」
ガコン!
ジョーは自分になにが起こったのか、良く分からなかった。目の前が真っ暗になり、顔が痛い。おまけ
に”ホウワァッ”とか言ってしまった。ようやく、フランによって顔をランチの皿に叩きつけられたと理解
する。
「な・・・いきなり何するんだよ!?」
「喧しいわ!この妻帯者!」
フランの怒号にカフェテラスの中が、シンと1瞬静まった。ジョーは慌てて顔を上げると、フランの口
を塞ぐ。
「シーッ。アルに頼まれただろ?僕が結婚してることって言っちゃダメだって。」
そう言うと、フランは不満タラタラ状態になりながらも、了解して黙った。そう、ジョーとアルベルト
が結婚している事は大学の中では内緒事なのだ。フランは2人の関係を知っている数少ない人物だった。
ジョーはハンカチを出して、顔を拭く。ケチャップがついていた。
「だって仕方がないんだよ。ずっと断ってきたんだけど、とうとうジェットに捕まっちゃってさ・・・。
メンツが集まらないんだってさ。」
「私にもそう言ってたわ、ジョーはこの頃付き合い悪いって。そう、自分から進んで行くわけじゃない
のね?」
コックリと力強くジョーは首を縦に振った。
「当たり前だろ?僕がこの状況を手に入れるために、どのくらい苦労して来たかフランだって知ってる
だろ?」
「ま、そりゃあねえ。」
「それを自分から壊す真似はしないよ、いくらなんでも。」
「わかったわ、ごめんなさい。アル兄さんがいるのに、浮気する気かと思ったのよ。」
「?なんでさ?」
鈍い幼馴染の少年に、フランは溜息をついた。ジョーはさんざんアルベルトは自分に寄せられる好意に
疎いと言っていたが、フランから言わせてもらえればジョーも疎い。事実、大学に入ってからジョーと
話した後は、必ずと言って良いほど友人に囲まれジョーの事を聞かれる。
「私、アタックしちゃおうかなーv」
というお嬢さんも多い。もう結婚してることはナイショなので、黙って笑っているけれど。ジョーが来
るとなると、多分女の子もすんなり来るんだろう。ジョーとフランを恋人だと勘違いしている人もいる
らしいが、お互いが恋愛感情を持つには距離が近すぎた。それに、ジョーがアルベルトを想って一生懸
命だったことを誰よりも近くで見てきた。ジョーは隠しているつもりだったらしいが、フランにはバレ
バレであった。だから、ジョーを応援してきたのだ、今まで。
「あーあ、瘤できちゃってるよー」
ジョーの声にハッと我に返る。確かにおでこが赤くなっていた。
「ごめんなさい、アル兄さんの為にジョーが女の子にモテないようにって思って”わざ”としたの。」
「うっそつけー、それ今考えついた理由だろう?」
「ふふふ、バレバレ?」
2人で顔を見合わせて笑う。
「よっ、お2人さん。此処いいかい?」
明るい声が掛かった。
「やあ、ジェット。遅いね。」
「ちーっとばかし、寝坊しちまってさあ。参っちゃったよ。」
「あらあら、いつものことじゃない?」
「わー、キツイなあフランは。」
ジェットはそう言って頭を掻いた。ジェット・リンクはジョーの高校時代からの親友だ。ちょっと人よ
り鼻が高く、オレンジ気味の赤い髪が特徴の明るい青年だ。そう、ジョーにはまだ”少年”という言葉
がピッタリだが、面倒見が良くリーダー格のジェットは同い年だが”青年”という言葉がピッタリと当
てはまる。ジェットはジョーの正面にトレイを置いて座った。
「そうそう、今日の合コンよろしくな、2人共。」
嬉々として言う。
「え・・・・あ・ああ。うん。」
「何だよジョー、歯切れ悪いなあ。」
「そうかな?そんなことないと思うけど・・・。」
「いーや、この頃お前付き合い悪いぞ。サークルだって終ったらサッサと帰っちまうしさ。」
「まあ、ちょっとあってね。」
「何だよ、ちょっとって。」
「えーと・・・。」
ジョーは答えに詰る。早く家に帰りたいのはアルベルトが待っているからだ。とは言えなかった。親友
であるジェットにも結婚した事を言っていなかったからだ。そんなジョーにフランが助け舟を出す。
「ね、ねえジェット。今日どのくらいの人数が来るの?」
ジェットはあっさりと話し相手をジョーからフランに変えた。
「んー全員で10人ぐらいかな?ジョーが来るって言ったら女の子が、フランが来るっていったら野郎
がすーぐ集まったよ。」
フランがキョトンとする。
「?何で私が行くだけで、人が集まるのよ?」
ジョーとジェットは、本気で不思議がっているフランを見て顔を見合わせ、同時に溜息をついた。フラン
は電子工学を専攻する才色兼備の存在だ。当然男子にはもちろん、サッパリした性格から女子にも人気
がある。本人は自覚がないようだが・・・・。
「?なんなの?2人して溜息ついて・・・・?変なの。」
フランはジョーとジェットを見て、首を傾げた。
アルベルトの昼
会社にいる時、昼御飯の時間だけが楽しみだ、と言った奴がいたっけな。仕事をしながら、そんな事を
考える。と、その時肩をポンと叩かれた。
「よう、アルベルト君。一緒に食事でも行かんかね。」
顔を上げると、そこにいたのはグレート・ブリテン営業部長だった。歳が15も離れた同期である。
自分が入社した年に転職組として入社してきた人で、性格は明るく、お調子者だがどこか人を惹きつけ
る魅力をもっていた。
「ああ、良いですよ。何処にいきますか?」
そう答えるとグレートはチッチッチッと指を揺らしてニヤリと笑う。
「いつもの店では、いかんかね?」
「OKです。」
アルベルトは机の上を片付けると、立ち上がった。
「で、新婚生活はどうかね?」
ブーッ
グレートのあけすけな問いに、アルベルトは思わず味噌汁を吹いてしまった。ギャッとか言ってグレー
トが身を引く。
「イギリス紳士に味噌汁を吹くとは、失礼じゃないかね?アルベルト君?」
「い、いきなり変なことを聞くからだっ。」
顔を真っ赤にしてアルベルトは言う。対するグレートは涼しい顔だ。
「何を言う?新婚さんに新婚生活を尋ねるのは別に不思議じゃないだろう?」
しれっと言ってのける。しかも振り付。ダメだ、口では勝てない。新たに思うアルベルトであった。
「別に・・・・これといって変わったことはないが・・・。」
「まあ、我輩としては驚いたんだがね。君が12歳も年下の旦那をもらうとは。」
「・・・・・色々あったんだ。」
「そりゃそうだろうさ。結婚なんて、色々なきゃできないもんさ。しかし良く決心したな。」
「まあ・・・な。」
弱々しく答える。18歳になったからといって、いきなりプロポーズしに現れたジョー。説得するつも
りが逆に説得されて、あれよあれよという間にウエディング・ベルが鳴ってしまっていた。
「で、君は何を思っていたんだい?」
「は?」
「結婚してからは、どこか虚ろな状態に見えていてな。そうか、言い方が悪いか。」
ズーッと味噌汁を啜ってグレートは?マークを飛ばすアルベルトに尋ねた。
「お前さん、何を思ってOKしたんだい?我輩の見方が間違ってなければ、君は説得されたからってそ
う素直にOKせんだろう、ましてや相手は18歳だしな。何を納得してOKした?」
グレートは人の心の感情を読むのが上手い。だが、滅多に首をつっこむことはしてこない。それだけ、
自分がジョーに抱いている迷いが顕著なのだろう。そういえば、時々ジョーは不安そうな瞳をしてすが
りついてくる。彼にも、自分の迷いがばれているのだろうか。
「・・・・あいつは、まだ18歳だ。上手くいかなくて、離婚することになっても、まだまだ人生をや
り直せる。そう思った・・・・・。」
「・・・・・・なるほどねえ、そんな暗いこと考えて結婚したのか、お前さん。」
ハアアとグレートから盛大な溜息が漏れた。どうりで、公表したがらないわけだ。離婚を前提にしてい
たらしい、と少し情けなくなった。
「なんで、破局するって決め付けるかね。」
「いや、歳が離れすぎているし・・・。」
「やれやれ、旦那も可哀想だな。必死で射止めた奥さんが、えらく後ろ向きだなんて。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
「どういう子が旦那なのか、会ったことがないから何とも言えんが、そんなにいい加減な子とは思えな
いな。」
「・・・・・・・・そりゃあ・・まあ。」
18歳にしては、孤児だったこともあるのだろうがしっかりしている方だとアルベルトも思う。でも、
自分が1歩ジョーに歩み寄るのを迷っている。ジョーは”大好き”と言うが、それがいつまで続くかわ
からないのが怖いのかもしれない。
「ま、もうちょっと旦那を信じてやるんだね、アルベルト?」
下を向いて考え込んでしまった、自分の気持ちに不器用な同僚にグレートはそう言った。アルベルトと
てジョーという人物が好きなはずなのだ・・・・でなけりゃ結婚なんてしない・・・。
新婚行進曲・・・・・夜に続く
★お疲れさまでした。今回は昼御飯にひっかけて色々な人が登場です。朝ではジョーの不安を書いた(つ
もり)ので、今度はアルベルトさんの迷いをグレートさんにひっかけてもらいました。うーん、もっとお気楽
な話だったのに、何故にこんなにゴチャゴチャするかなー(泣)きっと皆さんの予想を悪い意味で裏切って
いるんでしょうね・・・・スミマセン。宜しかったらまた、見て下さい。
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