新婚行進曲・・・・夜
アルベルトの夜
「あいや、久しぶりアルネー。いらっしゃいアルベルト。」
そんな明るい声で迎えてくれたのは、”張々湖飯店”の親父である張々湖であった。片手を上げて、答
えるアルベルトの周りをキョロキョロと見回す。
「あれえ〜、今日はジョーはどうしたね。」
「ああ、今日は合コンだって言うからさ。1人でメシってのもなんだし、食べにきたんだ。」
「ふ〜ん、そうかね。残念ね、彼は良く食べるから。」
「儲かるのに・・・か?」
アルベルトの言葉に張々湖は笑った。だが、厨房から彼を呼ぶ声がして慌てて走っていく。此処張々湖飯
店は「安い、上手い」と評判の中華料理屋だ。アルベルトは結構昔からの常連で、ジョーも喜ぶことか
らちょこちょこ来ていた。適当に座って、ボンヤリする。
”もうちょっと旦那を信じてやったらどうなんだい?”
昼に同僚のグレートに言われた事が、頭でグルグルと回る。別にジョーを信じていないわけじゃない。
・・・・・ジョーを嫌いなわけじゃない。それはハッキリしている。だが、ジョーの言う”好き”と自
分の考える”好き”が同じとは限らない。今日、1人だというのは都合が良い。こんなグルグル状態の
自分なんか見せられない。ふと、顔を上げると・・・・・そこには張々湖の顔のドアップがあった。
「うわあああああ!!!」
思わず絶叫するアルベルトに張々湖は顔を顰めた。
「なんね、失礼な。ホイ。」
そう言ってドンと机に炒飯と餃子を置く。
「?俺まだ注文してないぞ?」
「アルベルトはいつもこの注文ある。先回りしただけアルよ。」
そういえば、確かにそうだと思い当たりアルベルトは食べ始める。だが張々湖はどういうわけか、アル
ベルトの前の席に座った。
「?何だよ。忙しいんだろ?」
「もうピークは過ぎてるアルよ。気にしない。」
食べるのを再開したアルベルトをじっと見つめる。
「・・・で、本当に何があったね?」
「・・・・なんでそんなこと訊くんだよ。何もない。」
「アルベルトは嘘が下手あるからねえ。ジョー関係あるね?」
ブーッ
図星を指されて、アルベルトは思い切りよく炒飯を吹く。昼間に続いて2回目だ。だがグレートと違っ
て張々湖はサッと避けた。
「な・な・何で?グレートといい、張々湖まで!」
わたわたと慌てるアルベルトに、うんうんと張々湖は頷く。
「まあ、話してみてね。良いアドバイスが出来るかもしれないある。」
確かに、1人でモンモンとしてても始まらない。張々湖の口が固いのは、昔から変わらないので、ちょくち
ょく相談に乗ってもらったこともある。そう思って、思い切って昼のことを話した。
「ふーん、わてはその同僚に賛成アル。ジョーは良い子だし、アルベルトが好きで好きでたまらないっ
ていうのは端から見ていて良くわかるある。」
やっぱり、と思う。周囲はジョーの想いに応えて結婚した自分に驚いたものの、1歩引いている自分に
対しては批判的だ。お前らも12歳年下の奴と結婚してみろ!と言いたくなる。
黙っていながら、不満を顔中に表しているアルベルトに張々湖は溜息をついた。
「アルベルトは、ジョーの為に1歩引いているって言うけど、わてから見たら離婚ということになった
時に自分が傷つかないように1歩引いている様に映るあるよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「自分の気持ちがハッキリしないなら、いつもと違うことしてみれば良いあるよ。意外な発見がある時
があるアル。」
「・・・・・例えば?」
「今夜、自分から誘ってみるとか。」
「えっ・・・・俺が・・・・誘うっ!?」
「そうある。何を誘うのかは分かってるアルね・」
バアアアアアアと見事にアルベルトの顔が真っ赤になる。赤くなりすぎて、湯気が出ていそうな勢いだ。
「・・・・・出来ないぞ。そんなこと。」
「そこを”大人”なんだから頑張るあるよ。それかいつもより積極的になってみるとか。」
「・・・餃子・・・食べちまったが・・・?」
「安心するね!ニンニク抜きよ!」
「そー言われても・・・。あいつ、今日合コンだって言ってたから酔ってるぞ。」
「だから、好都合アル。酔っ払って何も憶えていない可能性が大きいから。」
自分にとって、最後の逃げである”ジョー酔っ払い”発言はあっという間に意見の進展に使われてしま
った。
「頑張るアルよ。結果はちゃ〜んと訊くからねえ?」
そう言い残して張々湖は、アッサリと席を立った。アルベルトは、何だかおかしな方向になってしまっ
たことに、相談するんじゃなかったと頭を抱えた。
ジョーの夜
「かんぱ〜い。」
合コンは、少々の開始時間が遅れたが無事に始まった。メンバーはジョー、フラン、ジェットの他に、
ジョー達の入っているサークルの顔見知りだった。ジョーが始めてこういう場面に顔を出したので、ジ
ェットはもちろん女の子達が大いに喜んだ。反対に男の子達は、高嶺の花であるフランと気さくに話せ
るということで喜んでいた。キチンと最初こそ男女に分かれて座っていたのだが、すぐに入り乱れてし
まった。そういう時になった時、フランはジョーの隣に座るつもりだったのだが(もちろんフォローの為)
おもしろがったジェットに止められて、役目が果たせなくなってしまった。
反対にジョーは最初からあまり気乗りがしなかったので、適当に飲んで適当に相手の話に耳を傾けてい
たのだが、気が付けばフランを除く女の子達に囲まれていた。はっきり言って驚く。
「ねえねえ、島村君っていっつもすーぐ帰っちゃうけど何してるの?」
奥様に早く会いたいから帰っている、とは言えない(ヒミツだから)
「今、1人暮らししてるって本当?料理できるんだ〜。」
奥様と2人暮らしだから、その情報は間違っている。しかし、ジェットにそう言ってしまったので仕方
ないのだろう(ヒミツだし)
「彼女とかいるの?」
彼女どころか奥様がいる、とはやっぱり言えなかった(ヒミツなわけで)
「そーいえばフランが彼女だって聞いたことあるわ。」
その台詞にいち早く反応したのは当のフランだった。
「それは嘘よ。ただの幼馴染なんだから。」
「とか言いながら、結構引っ付いちゃうことって多いらしいぜ?」
よせば良いのに、男の子の1人がそう発言してフランに睨まれる。ハハハとジェットが絶妙のタイミング
で間に入ってきた。
「俺とジョーやフランの付き合いは中学からだけど、そんな素振りは1回もなかったぜ?」
当たり前だとジョーとフランは心の中で叫んだ。その頃既にジョーの心の中にはアルベルトがいたし、
フランは、実は淡い淡い恋心をアルベルトに持っていたからだった。言ってみれば、2人の間にアルベ
ルトが入っていたのだ、本人に自覚がなかったが。2人が黙ってしまったのを、女の子が勘違いしたの
かジョーに擦り寄ってきた。
「ふ〜ん、じゃああたしと付き合ってみない?島村君。」
「はっ!?」
晴天の霹靂のような気持ちで、ジョーは言った。すかさずフランがフォローに入った。
「だ、ダメよ!絶対にダメ!」
女の子はキョトンとしてフランを見る。
「なんで?フランは別に島村君の彼女ってわけじゃないでしょう?何でそんなに反対するのよう。」
ひどく当たり前のことを言われて、フランはグッと言葉に詰った。
”ああ、ジョーがもう結婚してるって言えればっっ!!”
だが、学生時代にはあんまり言わない方が良いというアルベルトの言葉にも納得している為に、それ以上
言えなかった。ハッと気付くとジェットが不思議そうな顔をしてフランを見ている。思わずエルボーを
放ってしまう。ぐへえとか言ってジェットがもんどりうって倒れた。
「あ、ご、ごめんなさいジェット!大丈夫?」
「お・・おう、大丈夫だ。」
返事はしたが、ジェットが目を回しているのは明らかだった。
その間にジョーは大ピンチに陥っていた。真実が言えない為に訪れた危機。女の子達は口々にジョーに
積極的に迫っていた。ジョーははっきり言って恋愛事には疎かった。というか、アルベルト1直線だった
為、無意識にお付き合いを申し込む子を避けるのが上手かった。あとで、フランに散々叱られたものだ
ったが(乙女心が分かってないと言われた。)
散々、周りから迫られて頼みの綱でもあったフランのフォローも期待できない。必死で断っていたのだ
が、飲み会に在りがちな妙な高テンションに飲み込まれてしまった女の子達は纏わりついて離れない。
他の男の子は面白くないような顔をして、それを見ている。ジェットは面白がっているだけだ。
ついに・・・・ジョーは切れた。ブチンと頭の中で何かが切れたのだ。
「あのっ!僕!結婚してるんで!!!」
叫んだ時、フランが”あ〜あ”という顔をして頭を抱えたのが見えた。
シ・・・・・・・ン・・・・・・
さっきまでの高テンションはどこへやら、水を打ったように静かになった。
「なあんだってええ!俺ちっとも知らなかったぞ!」
最初に立ち直って(除フラン)叫んだのはジェットだった。ジョーは苦笑いをする。
「ごめん・・・・。ちょっと言えなくって・・・。」
アルベルトに言われたこともあるが、ジェットに話さなかった理由はあと1つある。それは・・・ジェ
ットの理想のタイプというか好みのタイプにアルベルトがピッタリと当てはまっていたからだ。たとえ
親友であっても、ライバルが増えるのは好ましくなかった。
「待って、ジェット。ジョーは周りからまだ学生なんだから、そんなに言わなくても良いって言われて
いたの。」
フランがすかさずフォローする。ジェットはそう言われて納得していないという顔をしたが、とりあえ
ず黙った。ジョーはジェットに手を合わせてもう1回言った。
「ごめん・・・ジェット。」
「ね、ねえ、島村君の奥さんってどんな人?」
気まずくなった雰囲気をなんとかしようと、女の子の1人が尋ねた。
「え・・・・僕より12歳年上で・・・。」
「ええーっ!?それじゃあ今・・・・えーと・・・30歳ってこと?」
「え、うん。そうだけど。」
「いやーん、島村君年増好みなのお!?」
「い、いや別に・・・。」
よくある理由を思い出す。”たまたま”好きになった人が12歳も年上だっただけだ。ただし、アルベ
ルト以外の奴はノーサンキューだが。
「でも、相手の人も良く12歳も年下と結婚する気になったわね。」
「そおねえ、島村君には悪いけど私だったら結婚しないなあ。」
女の子の台詞にドキリとしながら、ジョーは訊いた。
「どういうこと?」
「だって、浮気とかされそうだし・・・。旦那と同い年の子が相手だったら、きっとそっちの方が綺麗
だもんね。」
「若さには勝てないものねえ。」
「・・・・・・そういうもんなの?」
ジョーの言葉に彼女達は”まあねえ”とコメントを遣した。
「で、話が逸れちゃったけど、島村君の奥さんって美人なの?」
訊いた女の子は、社交辞令のつもりだった。こういう質問に対して、普通こう答えるだろう。”いいや”と。
「うん。」
しかし、ジョー馬鹿正直に答えた。心なしか顔が赤くなっている。呑んだ酒の所為でもなさそうだ。
「写真とかないの〜?私、島村君の奥さん見たいな♪」
「あ、私も私も。」
「俺も〜。」
口々に言われたのだが、ジョーは黙って首を横に振った。
「なんだよ!俺には見せてくれたっていいじゃないか!」
今迄、黙っていたジェットが突然割り込んできた。だがジョーは溜息をつく。
「持ってきてなんてないよ。ジェットだって学校に彼女の写真とか持ってきたことないだろ?」
「お前・・・・俺がフリーだと知って言ってるな?」
「そんなつもりで言ったんじゃあないよ。」
「じゃあ、どーいうつもりだよ?」
ジェットはよっぽどジョーが自分に黙って結婚したことにいぢけているらしい。いつも以上に絡むジェ
ットと、またしても正面から馬鹿正直に相手をするジョーにフランは疲労を覚えた。
”ごめんなさい、アル兄さん。・・・・・バレちゃった・・・。”
新婚行進曲・・・エピローグに続く
☆毎度毎度、お疲れ様です。今回程、悩んだ回はありません(今現在)どーやったらアルベルトが1歩前
進してくれるのかと、頭を抱えてしまいました。その割りに、こういうお粗末な話になっているのが、
残念。次で一旦お終いです。ちょーっと、本当にちょーっとだけアダルターな話になるかな・・・?
でも書いたことないし・・・自信ないなあ。
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