ホワイトデーの日
3月14日。 009はいそいそと、ドイツへ向かった。理由ははっきりしている。2月14日に恋人(自称)の004 に無理矢理・・・・いやいや快くチョコレートを作ってもらったことへの(自己申告)お返しをする為で あった。 いやにうきうきとご機嫌で飛行機の席に座っている009は、かなり目立っておりスチワーデスの方々 に話題を提供していたことを知っている。それでもドイツへ向かう道すがら、004に会えるという事 が009なりに嬉しかったのである。抜き打ちで行くので、004がお迎えに来てくれるということは ないにしろ・・・・・。 「え?いない?」 004の家に行く前に、一応004が勤めている会社に行ってみた。009のことを良く知っている会 社の人が彼を見つけて声を掛けてきてくれた。 「やあ、ジョー君。元気かね?」 「はい、お蔭様で!」 「アルベルトに会いにきたのか?大変だな、日本からわざわざ。」 「いいえ、ちっとも大変じゃないですよ。アルに会えるのは嬉しいですから。」 「ははは、こんなに懐いてもらってアルベルトの奴も幸せだな!」 何もしらない彼は、無邪気にそう言い放った。きっと004が知ったら、卒倒するか激怒するか2つに 1つなんだろうなあと他人事のように009は思った。が、それをあえて口にはださなかった。理由な んてない、ただ面倒くさかっただけだ。 「アルはどこかへ行ってるんですか?」 さり気なく、抜かりなく009は尋ねた。 「ああ、2時間くらい前に出発したらしいよ。」 「そうですか、アルは何処へ行ったんですか?」 そう訊くと、彼は困ったような顔をした。 「知らないんだよ、ドコかは・・・・。すまんな、俺も出発後に来たもんだから。」 「いいえ。」 そう答えてニッコリ笑う。009は自分の武器を良く知っている。こうやって笑えば、大抵良い印象し か残らない。そうすると、情報収集の時にそれがモノをいう。009の本性を知っているのは、仲間だ けだ。 「そうだ、泊まる所はあるのか?良かったら、家にでも来るかい?」 「あ、いいえ。大丈夫ですから・・・・。それじゃ。」 009は早々と会話を断ち切って、手を上げた。そして立ち去る。その後姿を見ながら、彼は呟いた。 「アルベルトの奴、なんで行き先は内緒にしてなきゃならないんだか・・・?」 009は会社を出た後、公園へやってきた。ベンチに座ってボンヤリする。曇った日が多いドイツでは 珍しいくらい綺麗な青空。暫く空を見上げた後、009は鞄からなにやら取り出した。何か機械のボタ ンを押す。・・・・溜息をついてその機械をしまい、新たに違う機械を取り出す。同じようにボタンを 押して、暫く凝視した後009は立ち上がった。 にやり、と笑って。そして公園を後にした。 004ことアルベルト・ハインリヒさん(40年前には確かに30歳)はご機嫌です。何故なら上手く0 09の魔の手から逃れられたからです。イベントに大変疎い004であったが、イベントごとに009 に引っ張り回され苦労を背負い込んできた。そんな004に同情したのだろう、バレンタインが済んで から009がいない日に003がこう言ってきたのだった。 「ねえ、アルベルト知ってる?」 「知らない。」 「・・・・・・・・。」 「分かった、俺が悪かった。」 「もう、ジョーが移ってきてるわよ?まあいいわ、3月14日は家にいない方が良いわよ。」 「?なんで?」 「3月14日ってなんの日か知ってる?」 「いいや、なんかヤバイ日なのか?」 「日本ではね、バレンタインでチョコレートをもらった人にお返しをする日なのよ。」 「・・・・・・それは・・・・つまり・・・・。」 「そうよきっと”お礼”と称して009が貴方の所へ押しかけると思うわ。・・・そうなると、分かっ  ているわね?」 003の問いかけにブルブルと震えながら、頷いた。それは大変なことに巻き込まれるに決まっている。 「有難う、フランソワーズ。助かったよ。」 微笑んでお礼を言う004に、003は心なしか頬を染めて嬉しそうに頷いた。 「だって、私は貴方の味方だもの。」 その優しい言葉は、004の心に染みたものだった。 というわけで、004は無理にでもその日に出発する長距離の仕事を入れておいて、仲間にも009が 来ても言うなと口止めをした。出発する前に丹念に自分のトラックを検査したところ、小さな小さな発 信機を発見。取り除こうとして失敗し、壊してしまったがまあ良しとしよう。そしてハイウェイを通ら ず、田舎道をわざわざ選んで走行。これで009が自分を見つけることは出来ないはずだ。そう思うと なんだか鼻歌をハミングしてしまっても無理もなかろう。・・・つまりそれだけご機嫌だったのだ。 ところが・・・・。 バンッ 「!?」 突然、助手席のドアが開いた。振り向く間もなく、ドアは開いた時と同じように唐突に閉まった。横を 見ると、赤い見覚えのある服を着ている”誰か”が座っている。”誰か”は004に向かって笑った。 その途端、004の運転しているトラックはうわ〜んと大きく右に振った。 「おっと、危ないなあ。」 とっさに”誰か”がハンドルを掴んで元に戻す。しかし004はそれどころではなかった。 「ジ・ジ・ジ・ジョー!?」 「なあに?時報みたいに呼ばないでよ?」 「そりゃチ・チ・チ・ポーンだっ!!」 そう怒鳴った時点で009のペースに嵌ってしまっているのだが、004は会話の突っ込み体質である らしくいちいち反応を返してしまう。牛が興奮しそうな真っ赤な防護服を着た009が、腕を頭に組ん でうーんと呑気に伸びをする。 「久し振りだね、アルv」 「・・・・あ、ああ・・・・・そーだな・・・・・。」 「何暗い声出してるの?最愛の恋人がわざわざ会いに来たんだから、もっと喜んで良いんだよ。」 「・・・・・・・・・・・・・・わ・・・・・・。」 「そうそう、その調子!」 心なしか、フロントガラスから見える天気も下り坂になったようだ。 「ジョーお前、神聖なる俺の仕事場になにしに来たんだ?」 「ん?だって今日3月14日だもん、チョコレートのお返しをしに来たんだよ。」 「やっぱり・・・。何を・・・・返してくれるって?」 004が訊くと、009はよくぞ訊いてくれましたといわんばかりに笑った。 「マシュマロ。」 「はあ!?」 「だって基本的にはマシュマロらしいからさ。」 「意外とマニュアル君なんだな、お前。」 変なところで感心する004に、009は人差指を立ててチチチと振る。 「何事も基本からさ!大丈夫、ちゃんと素敵なイベントも用意してあるから心配しなくて良いよ。」 「その素敵なイベントとやらが、嫌なんだがな。」 「そう?僕は好きだよ、アルが色っぽくなるしさ。」 「や〜〜〜〜かましいいいいいいいい!!!」 004の運転するトラックが、今度はぐおーんと左に大きく振れた。 「わお、アルったら安全運転しなきゃダメだよ。意外と運転荒いね。」 「お前にだきゃー言われたくねーよ・・・・。」 そこまで言ってから、004は009が手ぶらなのに気が付いた。 「お前手ぶらか?」 「うん。だって荷物を持ったまま加速装置を使ったら、燃えちゃうもん。」 「じゃ、どこに置いて来たんだ。」 「アルの部屋。」 「はあ!?鍵掛かってんだぞ、俺の部屋!?」 「あー心配いらないよ、ちゃんと合鍵を作ってあるから。」 009はしれっと言ってのけた。004は思わず横を向いて、009を凝視する。眉間にトレードマー クとなりつつある縦皺が刻まれた。 「こんの犯罪者め・・・・。まあ、良い。鍵が開いてなかったら、窓を蹴破って入って来る奴だからな  お前わ。」 「良く分かってるじゃんか、さっすが僕のアルだね!」 「お前のモノになった覚えはねーよ。」 「照れちゃって、か〜わいいv」 そんな頭を抱えたくなるような会話を展開しながら、トラックはひたすら走って行く。 「俺の質問に答えろよ、ジョー。」 004は運転をしながら、言う。009はあっさりと、頷く。 「なあに?答えられることなら、何でも答えるよ!」 「なんで、俺の居場所がわかったんだ?」 「ああ、そのこと。」 009は、相変わらずニコニコ笑って004に向いた。 「内緒。」 「!何でも答えるってゆーのは、嘘っぱちかい!」 「答えられることなら、って言ったはずだよ?」 「何じゃそりゃ。俺の今後の人生が係っているんだからな、正直に答えろ。」 009は少し、考えるような仕草をした。004も端から見れば、怖い顔をして考え込むような仕草を している。・・・・・・・・・・無言の戦い(?)が続いた。 「おいジョー?」 「はいはい、分かったよ。白状しましょう、ホワイトデーだしね。」 「ホワイトデーは関係無いぞ。」 「アルの身体ん中にあるんだよ。」 「何が。」 「発信機。」 シーン トラックの運転席は、さっきよりも深い深い沈黙に包まれた。009はにこにこ笑ったまま、004は 驚愕の表情のまま、前を見ている。 段々004の顔に冷や汗が現れて、その数が増えていく。 「なああんだってえええええ!!!」 004の絶叫が響いた。うっかり近くに幼稚園児がいたら、思わず泣き出しそうな勢いだった。009 は004の反応が分かっているらしく、ちゃっかり耳を塞いでいた。 「そんなに大きな声だして驚かなくっても良いじゃんか、大げさだなあアルは。」 「いくら大声出したって、大げさじゃないぞ貴様!一体いつの間にそんなモン付けたんだ!!」 半泣き状態になりながら、004は叫んだ。対する009はしれっとしたまんまだった。 「この前にメンテナンスした時にさ。」 「博士にはなんて言いやがったよ!」 「んー?004はトラブルに巻き込まれやすい体質だから、ちゃんと居場所を確認できるものを付けた  方が良いって。博士はモチロン大賛成してくれたよ。」 「おのれ、人を幼児みたいな扱いしやがって・・・・。」 「でも、今回こんな事で役に立つとは思わなかったなあ♪」 「嘘付けよ・・・・最初っからそのつもりだったな。」 「ううん、ぜーんぜんvvv」 確信犯以外には思えない表情をしながら、言葉ではいけしゃあしゃあと否定してみせる。一体全体、0 09をこんな性格にしてしまったのは誰なんだろう、と004は潤んだ視界の中で思う。彼を育てたと いう神父さまなのだろうか?しかしこんな怖い性格の神父さまに説教されても、全然有難みがないだろ う。・・・・いやきっと猫を30匹程被って、神父さまをだまくらかしていたんだ。絶対そうだ、と0 04の妄想はどんどん膨らんで行った。そんな004に009は分かっているのかいないのか、悪戯っ ぽく笑ってこう宣言なさったのだった。 「ま、とにかくアルに追いついたからさ。このまま一緒に乗っていくよ。交代もしてあげる。」 「はあ!?お前、国際免許持っているのか?」 「無免許だよ。」 「じゃあダメ。俺は捕まりたくない。」 「免許なくったってドルフィン号を華麗に操れるんだもん、問題ないよ。」 「戦闘艦とトラックを一緒にするな、馬鹿たれ。それよか常識としての問題だ。」 「むうう〜〜〜ケチィ〜〜〜〜。」 「ケチで結構。」 「退屈なんだもん、アル遊んでよ!」 「運転しながら遊んだら、大事故を発生させるわ!俺はこれで食っているんだから、邪魔すんな。」 「僕の所へ、お嫁に来れば良いだけじゃん。」 「嫁の問題はさておいて、無収入の輩と一緒に住む気はない。」 「照れなくっても良いよ?」 「どこをどーしたら照れてると判断できるのかが分からん。正に不思議発見だ。」 「世界は不思議だらけだからねえ。」 「お前のことを言っとんだ。世界まで言葉の範囲を広げるな。」 まさしく、他人が見たら漫才コーナー設立かと思うような会話が展開していく。009はどうだか知ら ないが、004にまったくギャグを言っているつもりが無いのもどーだろう? 戦い(仕事)終って、日が暮れて(何度も)。 004はよろよろとトラックを降りた。助手席から009が元気良く飛び出してくる。服は変わってい た。輸送先に着くまでに、004がなけなしのポケットマネーをはたいて009に服を買ったのだった。 いくらなんでも、あの防護服でうろうろされたらたまらないからだ。 「おやお帰り、アルベルト!おやあ、ジョー君も一緒かい?」 009が会ったとは違う会社の人が、お気楽に声を掛けてくれる。004は答える気もならないらしく 疲れた様に笑って片手を上げてひらひらと振ってみせる。対する009はにっこり笑って、お辞儀をし た。 「そーなんです、アルに誘われて一緒に行ってきたんです!」 嘘をあからさまにほざいて009が答える。004の顔色がますます悪くなったが、会社の人は気が付 かないようだ。 「はっはっは、本当に仲が良いね!仲良きことは、美しきこと哉。」 うんうんと何故かドイツ人のくせに、日本の言葉を呟いて彼は去って行った。それを元気良く手を振っ て009は見送り、004はコソコソと逃げようとしてあっさり捕まる。 「ドコ行くの、アル?」 「えーと、いやその・・・・・。」 「帰ろうよ!ちょっと何日か経っちゃったけど、ホワイトデーのお返しをしなくちゃね!」 「それに対して、俺に拒否権は・・・・。」 「ないよ。じゃあ、か〜えろvvv」 「ううううう・・・・・・。」 009は力強く、004を引きずってスキップをしながら(004の)家へと帰って行く。丁度、夕方に 帰ってきてしまったので、夕陽が美しく対照的な2人を照らしていた。 ・・・・・・・ハピー・ホワイトデイ。
★実は、最初こう考えていました。「ホワイトデーだから、背景は白で字も白v」と。しかし、すぐに気が  つきました。「しまった、それでは反転させないとな〜んにも読めないわ!!」と。バカですな、私。も  う内容については、コメントのしようがないですね。いつものまんま、てな感じで。どーしてこうワンパ  ターンな話しか書けないですかのう?004の体内の発信機ですが、ショートショートでの盗聴器とカメ  ラとは別物とお考え下さい。じゃないと、流石に004が可哀想・・・。 戻る