YELLOW ROSE1

       
       009が仕事を終えて、家に帰って来た。ふと見ると、玄関の前に誰かがしゃがみこんでいた。
       「?」
       改めて見ると、どうやら子供のようだ。ますます疑問を胸に抱きつつ、009は近寄った。009の姿
       に気が付いたのか、その子供が顔を上げて009を見る。
       銀色の髪に、青い瞳。・・・・誰かに良く似ている。しかし、その人物は自分よりも年上であるはずだ。
       目の前の子供は、どう見ても5〜6歳ぐらい。ポカンと呆けたように子供を凝視していた009をじっと
       見つめていた少年は、オズオズと口を開いた。
       「・・・・・此処は、どこなの?」
       「へ!?」
       「お兄ちゃん、誰なの?」
       言いながら、みるみるうちに少年の目から涙が溢れ出した。そのまま、泣きじゃくりだす。009にし
       ても、状況が良く分からない。しかし、玄関口で泣かれては堪らない。
       「と、とにかく、家へ入ろう。・・・・おいで。」
       鍵を開けながら少年に手を差し出すと、素直に握ってくる。相変わらず泣いてはいたが。少年を家に招
       き入れながら、この子を見た時の同居人の反応が恐ろしいかもしれない、と思った。


       キッチンの椅子に座らせて、ホットミルクを出してやる。それを飲んでいる間に、少年は落ち着いたよ
       うであった。
       「君、名前は何て言うの?」
       009の問いかけに、少年は口を尖らせた。
       「相手の名前を聞く前に、自分の名前を言うのがマナーじゃないの?」
       苦笑。
       「・・・・わかった、悪かったよ。僕は島村ジョーというんだ。君は?」
       「アルベルト・ハインリヒ。」
       もしかしたら、そうかもしれない・・・・そう思っていたことは間違いじゃなかったと悟る瞬間だった。
       「どうして、此処にいたわけ?」
       009の質問に、ちびアルは(こう呼ぶことに決めた)マグカップを両手で持ったまま、首を傾げる。
       「良くわからないんだ・・・。何だか、突然目の前が真っ白になっちゃって・・・。気が付いたら此処
       に立ってた。お兄ちゃん、何か知ってるの?」
       縋るような目で009を見つめる。しかし、009とて何も知らない。・・・・まあ、同居人の小さい
       頃を見てみたいと思ったことはあるにせよ。
       「ごめんね、良くわからないや。そういうことはなあ・・・。」
       ちびアルは下を向いた。
       「僕・・・・どうなっちゃうんだろ・・・。帰れるのかな・・・?」
       「!だ、大丈夫だよ。僕とア・・・いや同居人がきっと何とかしてみせるから。」
       ”冗談じゃない!”この”アルに元の世界に戻ってもらわないと”今”のアルが消えちゃうかもしれな
       いじゃないか!”
       心の中で叫ぶ。それだけはカンベンして欲しいところであり、譲れないところでもある。
       「ホント?約束だよ?」
       「ああ!約束だ!」
       009は自分の利害をも視野に入れて、力強く答えた。だがちびアルにとっては頼もしく映ったようだ。
       初めて、嬉しそうに笑った。


       「ただいま。」
       ドアの開く音がして、同居人の声がする。ひょっこりキッチンに現れた同居人・・・・004を捕まえ
       て頬にキスをする。
       「おかえりv」
       にっこり笑う009に、004は頬に手を当てて真っ赤になりながらもむくれた。
       「何、むくれてんの。先に帰って来た方が、後に帰ってきた方にキスするんだって決めてあるだろ?」
       「お前が勝手に決めたんじゃないか!それに、客が来てるっぽいのにそーゆーことするか!」
       そう言いながら、004は椅子にちょこんと座っている客人を見て・・・・・固まった。
       「な・・・・・な・・・・・・・・・なんで・・・!?」
       004の呆けた声に、009も苦笑を禁じえない。それはそうだろう、なんたって”昔”の自分がそこ
       に座っているのだ。だがちびアルの方は、004のその反応が気に入らなかったらしい。ぷーっと頬を
       膨らませて、そっぽを向いてしまった。
       「ま、それは又説明するからさ・・・。アル、晩御飯作ってよ。3人分ね。」
       いけしゃあしゃあと言う009を、ボンヤリした目線で見てから004はフラフラと鞄を置いて、晩御
       飯を作り出した。009に作らせると、すさまじい物を作成した挙句に完食することを強要するので、
       004が作っている。004曰く、あんなのを食べさせられるぐらいなら、自分で作った方が何倍もマ
       シだ、ということらしい。
       「・・・・・まるで、親子な3人だね〜。」
       009ののーてんきな声に、004とちびアルが同時に答えた。
       「「なんだ、そりゃ。。」」
       流石は同一人物。反応も、言葉も一緒であった。


       晩御飯を食べてから、ちびアルはソファでうとうとと眠りだした。よっぽど疲れてしまったらしい。0
       09がとりあえず自分の部屋のベットに寝かせた。そして自分はというと・・・・。
       「何で俺んとこ来るんだ・・・」
       「だって、僕のベットはちびアルに貸してあげちゃったんだもん。良いじゃんか。」
       「嘘付け、毎晩来るクセに・・・・・。」
       「うん、アルだって待ってるんだろ?」
       「待っとらん。」
       「まったまたあv・・・・・・・・・・・・・・・・・ところでちびアルのことだけど。」
       009は突然真顔になって、切り出した。
       「明日、土曜日だろ?ギルモア博士のところへ連れていこうと思ってるんだけど、アルはどう思う?」
       「それしかないよなあ・・・。やっぱり。」
       「やっぱり、あの子の時間に帰してやらないとね。アルが消えちゃうのは、勘弁して欲しいよ。」
       「・・・・・別に俺は消えたって・・・。」
       「駄目だよ!!!アルが消えたら、僕も消える!」
       009の剣幕に004がキョトンとする。対する009は、いつもの余裕ぶっこいてる顔ではなく凄み
       すら滲ませた悲痛な顔をしていた。
       「おい・・・・ジョー・・・・。」
       「絶対、絶対駄目だよ!アルが消えるなんて許さないからね!」
       009は004に抱きついた。仕方なく004は009の背中をトントンと叩く。慰めるように。
       「・・・・わかった、自分からはそういうことはしないから・・・・。離せよ。」
       009は、意外とあっけなく手を外した。苦笑しながら、004から少し離れる。
       「ごめん、ちょっと取り乱しちゃった。”消える”っていう言葉を聞いたら、なんか神父様を思い出し
       ちゃってね・・・。そうだよね、可愛い僕を置いて消えるなんてしないよねえ。」
       「おいおい、自分から可愛いって言うか。」
       「だ〜って本当のことだもん♪」
       そう言って笑った009は、いつも通りのちょっと腹黒さを見せる顔だった。004はほっとする。0
       09が004に顔を近づけて来た。009の意図が分かった004は、おとなしく目を閉じる。
       しかし・・・・・・。
       「お兄ちゃん?お兄ちゃん。どこ?」
       ちびアルがベソをかきながら、廊下を歩いている。009は1つ溜息をついて、004から離れた。
       「残念。ちょっと行ってくるよ。」
       そう言って、ドアに向かう。その背中に004が声を掛ける。
       「多分、目が覚めたら1人だったから怖くなったんだろ・・・。昔は・・・泣き虫だったからな。」
       「ハハッ、僕と同じだね。」
       「だから、一緒に寝てやってくれ。・・・・・でも、手出すなよ?」
       009は、一瞬キョトンとしたがスグに笑い出した。
       「何?アル、妬いてくれてんの?」
       「馬鹿ったれ。俺は、倫理とか常識とか道徳の立場から言ってんだ。・・・ほら、早く行ってやれ。」
       「わかった。じゃあね、お休みアル。”今日”のはまた今度♪」
       「はよ行け。」
       じゃあ、と009はひらひらと手を振って出て行った。廊下で009と”昔”の自分との声がする。や
       がてそれは、遠くなり・・・・・静かになった。004はふう、と溜息を付く。一体、何がどうなって
       いるのかさっぱり分からない。ぼんやりしながら、無意識に004は009が消えていったドアを見つ
       めた。

------------サビシイ-------------
       突然、心に浮かんだのはそんな感情だった。そう思ってから、004はハッと正気付いた。        「なんなんだよ・・・。別にそんなことない。」        慌てて、誰にというわけでもなく弁明する。        「そーだよ、いっつもジョーが俺のところに潜り込んでくるから、1人で寝たいってそう思っていたじゃ        ないか・・・。それが叶ったんだから、今は幸せなんだよ。」        1人言をブツブツと言いながら、004は目を閉じる。隣に誰もいない、という状況にチクンと胸が痛ん        だが、無視をして寝ることにした。        ピンポーン        次の日、さっそく009と004はちびアルを連れて、ギルモア邸を訪れた。ギルモア博士はここで、        003と001と一緒に暮らしている。今は、暇だからといって002が居候しているはずだ。        「はーい。」        玄関を開けたのは003だった。その後ろに002が立っている。いつもの通り、004が挨拶をする。        「やあ、フランソワーズ、ジェット。・・・・・・・どうした?」        2人の目は009が抱っこしているちびアルに釘付になっている。やがて、ボソッと003が呆けたよ        うに呟いた。        「アルベルト・・・・・何時の間に産んだの・・・?」        「一体、どーやって産んだんだ・・・?」        2人の呟きに、004の目が吊り上る。        「産んどらん。」        「だって・・・どう見たって、この子貴方に似てるわよ?」        「いやだからな・・・・。」        004が弁明をしようとするのを遮って、009が話し出す。        「残念ながら、アルが産んでくれたわけではないんだ。ちょっと、この子のことで相談に・・・ね・?」        それを聞いて003があからさまに、落胆した表情を見せる。        「なんだ・・・。ジョーのことだから前人未踏な”何か”をして、アルベルトに産んでもらったと思っ        たのに・・・・。残念・・・。」        「何故。」        004の突っ込みに、003は答えなかった。        「子供なら、お前らの方が産まれる可能性が断然高いだろ!?」        焦れて、004が更に突っ込みを入れる。途端に003が”ぽう”と赤くなった。        「そりゃあ・・・そうだけど・・・。やーだ、アルベルトったら・・・・。ねえ・・・ジェット?」        対する002も赤くなっている。        「まあ・・・なあ・・・・。」        ぽりぽりと頭をかく。そのまま、玄関で2人のラブラブモード(笑)に突入しまい、彼等は無駄な時        間を順調に過ごすことに成功した。        ラブラブモード(笑)がやっと収まってから、応接間でギルモア博士が来るのを待った。博士は、部屋に        入った途端、目を丸くする。        「アルベルト・・・・何時の間に産んだんじゃ?」        「産んでません。」        004がすぐに否定した。すると、博士は残念そうに言った。        「なんじゃ、わしのサイボーグ技術も捨てたもんじゃないと思ったというのに。」        「・・・・・博士、何が目的でサイボーグを作ったんですか?」        ジト目で睨んでくる004に、博士はわははと笑って誤魔化した。        「と、いうわけなんだ。」        009の台詞に、002,003と博士はキョトンとし、004は頭を抱える。ちびアルは009に丸        め込まれて、耳栓をつけていた為に会話が聞こえない。        「あのさあ・・ジョー。」        「なに?わかったかいジェット。」        「悪いけど全然わからん。」        「・・・・・・・頭悪いね、君は。」        ずぱっと言ってくる009に、思わず怒りも露に立ち上がった002であったが、003に止められて        渋々座り直す。        「悪いけど、私にも博士にもわからないわよ。「と、いうわけなんだ」だけじゃあねえ・・・。」        「俺が、簡単に説明するよ・・・。」        004は、そう言って話し出した。        「このチビい俺が何の因果かタイムワープして来た。以上!」        本当に簡単だった。        「わかりやすいわ〜。流石アルベルトね!」        「本当じゃのう!」        「俺もそう思う!」        パチパチパチと3人に拍手をされて、004がむっとした表情を見せる。その表情に、博士が慌ててき        りだした。        「そーいう摩訶不思議なことは、イワンに頼むしかないのう。」        「やっぱり、そうですか・・・。で、イワンは?」        004の問いに3人は困った様に、お互いの顔を見る。        「?どうした?」        「実は・・・・・・。」        003が言いにくそうに呟く。        「ん?」        「さっき・・・・本当にさっき、眠ってしまったのよ。」        「なんだってえええええ!!!!!!」        004は叫んで、思わず立ち上がった。そのまま、部屋を飛び出して001が眠っている部屋に直行す        る。        果たして・・・・・・。        001は本当に眠っていた。004が必死に呼びかけるが、ビクともしない。        「どうだった?アル、イワン起きてたかい?」        ちびアルを置いてきたらしい009がひょっこりと顔を出す。004は無言で首を横に振った。俯きな        がら。その後姿は本当にしょぼくれていて、可哀想なくらいだった。009が背後から、004をそっ        と抱きしめて囁く。        「15日。イワンが起きるまで15日だから、それまでは僕らで面倒見ようよ。」        004は”うん”と頷く。009は(珍しく)抱きしめる以上のことはしなかった。それにちょっと物足        りなさを感じてから、004はハッと気付く。        ”別に何かして欲しいわけじゃないぞ!!!!何思ってるんだ!!!俺は!!!”        心の中で叫んでから、顔を赤くしたり青くしたりする004を009がじっと見つめていた。
       ★本当は1本にするつもりだったのですが、なんだかちょっと長くなりそうなので前後編くらいにしよ        うと思います。ちびアルは最初10歳を想定していたのですが、ちょっと泣き虫が入っているのでこの        年齢にしました。ああ、でも本当に23が自分の中で定着してしまったらしく、この組合せでの登場が        増えてきましたよ。あはは、でも本命は94ですから!        戻る