【翼よ！あれが巴里の灯だ】
製作年　１９５７年、米
監督　　ビリー・ワイルダー
出演　　ジェームズ・スチュワート
【あらすじ】
　１９１９年、ニューヨーク～パリ間無着陸飛行を最初に成し遂げたものに賞金２万５０００ドルのオーティグ賞が設けられ、多くのものが挑戦したが誰も成功していなかった。セントルイスの郵便飛行士チャールズ・リンドバーグ（ジェームズ・スチュワート）は挑戦の決意を固めて町の名士から資金を募ると、飛行機を手に入れるためニューヨークの航空会社に赴くが、無名のリンドバーグが操縦する事に難色を示し拒絶される。失意のリンドバーグは、後援者の紹介でサンディエゴのライアン社を訪れると社長は快く航空機の製作を引き受けてくれた。完成した飛行機は”スピリット・オブ・セントルイス”と名付けられ地元に戻るが、他の挑戦者が行方不明とラジオが報じており後援者らはこの冒険は無謀なのではと心配する。しかし、リンドバーグは果敢にも１９２７年５月２０日、ニューヨークのルーズベルト飛行場からパリに向けて飛び立った。
　離陸の時に車輪が電線に引っかかるアクシデントや前日からほとんど眠っていないため睡魔に襲われたりしたが、大圏コースをたどる飛行機は、いよいよカナダの東海岸から大西洋に飛び出した。途中、上空の寒気のため機体が凍り始め失速しかけたが何とか持ち直した。しかし、疲れたリンドバーグは睡魔に襲われ危うく墜落しそうになる。鏡の反射光で我に返り危機を脱出すると、アイルランドらしき陸地が見えてきた。英仏海峡を渡りいよいよパリに近づくが、突然エンジンが停止する。リンドバーグはあわてて燃料パイプを開き難を逃れた。ル・ブールジェ飛行場に到着すると祝福する大観衆が飛行機めがけて押し寄せてきた。
【解説】
　リンドバーグの同名回想録の映画化で、大西洋横断無着陸飛行成功３０周年記念として製作された。　監督のビリー・ワイルダーは、ドイツで脚本家として活躍していたがナチスが台頭してくるとユダヤ系だったためアメリカへの出国を余儀なくされた。渡米時はろくに英語も出来なかったが、共同脚本家として頭角を表して監督業にも乗り出し、「失われた週末」（４５年）ではアカデミー賞主要４部門に輝いた。「深夜の告白」（４４年）、「サンセット大通り」（５０年）などのシリアスものから「お熱いのがお好き」（５９年）、「アパートの鍵貸します」（６０年）などのラブ・ロマンスまで多彩なジャンルで傑作を生みだした名匠である。本作品が公開された年には、オードリー・ヘップバーン主演の「昼下がりの情事」（５７年）、マレーネ・ディートリッヒ主演の「情婦」（５７年）と３本も手掛けておりワイルダー監督は大忙しの年だった。
　リンドバーグ役のジェームズ・スチュワートは、国宝級と讃えられた名優だが、長身でパイロットの免許を持っておりリンドバーグを演ずるには打ってつけの俳優だった。「スミス都へ行く」（３９年）、「フィラデルフィア物語」（４０年）などの主演でトップスターになっていたが、第二次世界大戦が始まると陸軍航空隊に志願し、Ｂ－２４爆撃機でのドイツ空爆に２０回も出撃している。終戦時には大佐にまで昇進しており、戦後も予備役ながら准将となりハリウッドスターとしては初の将軍となっている。
　現在スミソニアン博物館に展示されている”スピリット・オブ・セントルイス”ことライアンＮＹＰ－１は、５人乗りの軽旅客機をベースに長距離飛行用に設計製作された。燃料消費による重心の移動を避けるため操縦席の前に燃料タンクを設置したため前方視界が利かず、映画に出てくるようにペリスコープで前方をのぞくようになっていた。重量軽減は徹底しており、副操縦士は乗せず無線機やパラシュートも積まなかった。オーティグ賞の条件には別に単独での飛行とは限定されていなかったので、リンドバーグの成し遂げた快挙に人々が熱狂したのも無理ないことだった。
　ニュヨークを飛び立ち飛行距離５８０９㎞、飛行時間３３時間２９分の後パリに降り立った時には、無名の郵便飛行士は英雄へと変貌していた。彼の帰国のためにクーリッジ大統領はわざわざ巡洋艦まで差し向けている。ニューヨークで行われた凱旋パレードでは１８００トンもの紙吹雪が舞いこの記録は未だに破られていない。
　１９３１年（昭和６年）リンドバーグは夫人と共に水上機で日本を訪れ、空の英雄を一目見ようと宿泊先の沿道には３０万人もの群衆が押し掛けた。しかし、翌年愛息を誘拐事件で失う不幸に見舞われている（「オリエント急行殺人事件」を参照）。戦後は親ナチス派で参戦反対運動の急先鋒だったため非難されもしたが、空軍や航空会社などの顧問を務め、１９７４年に亡くなっている。
町工場然としていたライアン社は現在でもテレダイン・ライアン社として存続しており、お家芸といってよい長時間飛行が可能な無人偵察機グローバルホークの製造を行っている。