【ライトスタッフ】
製作年 1983年、米
監督  フィリップ・カウフマン
出演  サム・シェパード デニス・クエイド エド・ハリス スコット・グレン
【あらすじ】
エドワーズ空軍基地では超音速突破の実験が行われていたが、音速の壁を前に犠牲になるテストパイロットも少なくなく、そこには悪魔が住んでいると恐れられていた。その難関にチャック・イエーガー(サム・シェパード)は果敢に挑み、史上初の音速の突破に成功する。これ以後も実験は続けられゴードン・クーパー(デニス・クエイド)ら空軍の選り抜きパイロットも参加するが、1957年10月4日、ソ連がスプートニク人工衛星を打ち上げ、有人宇宙飛行も目指していることが明らかになった。アメリカも急きょ宇宙飛行士を養成し対抗する事となり空海軍のパイロットから人選が始まった。適性検査の結果、クーパーやジョン・グレン(エド・ハリス)、アラン・シェパード(スコット・グレン)など7人が選ばれたが、この中にイエーガーは含まれなかった。こうしてマーキュリー計画は開始されたが、初の有人宇宙飛行はまたしてもソ連のガガーリンに先を越された。しかし、約1ヶ月後アラン・シェパードがアメリカ初の有人宇宙飛行に成功しホワイトハウスでケネディ大統領から表彰されるなど大歓迎を受けた。続いてガス・グリソムが挑むが、着水時にカプセルが沈んでしまい溺れそうになる。シェパードと違い歓迎式典も小規模で寂しい帰還となった。アメリカはまだ周回軌道飛行は行っておらずジョン・グレンが初めて挑みトラブルに遭いながらも無事帰還し英雄となった。取り残された感があったイエーガーだが最新のNF−104を駆って、大空を突き抜け宇宙を垣間見た瞬間、キリもみ状態に陥ったものの緊急脱出し怪我を負いながらも生還をはたした。
【解説】
 トム・ウルフのベストセラー小説を基に製作されたこの映画は、音速の壁”サウンド・バリア”を破るチャック・イエーガーと”マーキュリー・セブン”と呼ばれた7人の宇宙飛行士の物語である。
 脚本も手掛けたフィリップ・カウフマン監督は、作品の数は少ないが「存在の耐えられない軽さ」(88年)「ライジング・サン」(93年)などの話題作を監督している。エド・ハリスやスコット・グレン、デニス・クエイドなど現在でも一線で活躍している俳優が出演しているが、「エイリアン2」(86年)のランス・ヘンリクセンや「ジュラシック・パーク」(93年)のジェフ・ゴールドブラムも出演している。ビル・コンティが手掛けた音楽は、TVなどでよく使われている。
 史上初めて音速を突破した男チャック・イエーガーは、整備士として入隊し第二次世界大戦中パイロットとして従軍した。戦後、テストパイロットとなり1947年10月14日ベルXS−1(後に改称されX−1)で音の壁を突破した。このサウンド・バリアを突破しようとして犠牲になった者は多く、イギリスではデ・ハビランド社長の長男でテスト・パイロットのデハビランドJrが、自社で開発したデハビランドDH108スワローの空中分解で亡くなっており、この出来事はデビッド・リーン監督「超音ジェット機」(52年)でも取り上げられている。映画の中でイエーガーが超音速実験の前日に落馬して肋骨を折ったり、NF−104から緊急脱出して顔に火傷を負ったりしたことはフィクションではなく事実で、数々の飛行記録と不死身伝説を残しながら1975年空軍准将で退役している。引退後も各地の航空ショーなどで飛び続けていたが、音速突破から50周年に当たる1997年の同日には空軍の計らいでF15戦闘機で音速を突破するセレモニーが行われ74歳に達していたイエーガーはいとも簡単にやってのけて観客の喝采を浴びている。本作品にも技術アドバイザーとして参加しちょい役ながら画面にも登場している。
 ベルXS−1が砲弾のような機体形状をしているのは超音速のデータが不足しており、軍には音速を超える身近なものが砲弾しかなかったためである。推進器はジェットではなくアルコールと液体酸素を燃料としたロケットで宇宙計画同様ナチスドイツの技術の応用だった。この記念すべき1号機は現在スミソニアン博物館に展示されている。
 テスト機NF−104の元となったF−104スターファイターは”最後の有人戦闘機”といわれた代物で細長い胴体と極端に小さい翼でほとんどミサイルに近い形状をしていたが、マッハ2が出せる高性能機だった。アメリカよりも海外の軍隊で重用された戦闘機で、日本の航空自衛隊も230機を採用している。NF−104はF−104にロケット・ブースターを装備して大気圏外までの飛行を可能にしたもので、宇宙飛行士の操縦訓練に使われた。
 7人の宇宙飛行士の中、ジョン・グレンは1974年から上院議員を務めていたが、1998年スペースシャトルで日本の向井千秋宇宙飛行士らと共に史上最高齢の77歳で宇宙に飛び立ち話題となったのは記憶に新しい。