【TAXi】
製作年 1997年、米
監督  ジェラール・ピレス
出演  サミー・ナセリ フレデリック・ディーファンタル
【あらすじ】
 フランスの港町マルセイユ。ピザの宅配からタクシーの運転手に転職したダニエル(サミー・ナセリ)はスピード違反の常習だったが、あまりにも速すぎるため警察は取り締まることもできなかった。その頃、何をやってもだめな新米刑事エミリアン(フレデリック・ディーファンタル)は運転免許試験で店に突っ込み落ち込んでいた。エミリアンは女上司のペトラに夢中だったがまったく相手にされていなかった。同じ頃、マルセイユではドイツ人強盗団が銀行を襲うが、警察はまんまと出し抜かれ面目を失う結果となった。
 母親を乗せたことが縁でダニエルはエミリアンと知り合うが、刑事と知らずついスピードを出してしまい例の違反常習のタクシードライバーであることがばれてしまった。しかし、強盗団の捜査に協力することで免許停止を見逃してもらうことになった。警察の捜査陣はエミリアンの提案で追跡装置を強盗団の車に取り付けて一網打尽にしようとしたが、相手の悪知恵の方が上回り逃げられてしまった。しかし、車に詳しいダニエルのおかげで強盗団の身元がわかり、次に狙う銀行の回りには一大捜査網が敷かれた。ダニエルもピザの宅配時代の仲間に協力してもらって、ダニエルが吹っかけた賭けレースに誘われたドイツ人強盗団を工事中の高速道路に誘導し、見事に強盗団を捕らえることに成功した。この功績で2人は勲章を贈呈され、エミリアンはペトラから見直された。そして、ダニエルは警察がスポンサーのカーレーサーになるのだった。
【解説】
 この作品の製作・脚本を手掛けたのは「ニキータ」(90年)「レオン」(94年)などの作品で日本でも絶大な人気を誇るリュック・ベッソンである。ベッソン作品の常連となる俳優のジャン・レノや音楽のエリック・セラを起用した近未来SF「最後の戦い」(83年)で注目され、「グラン・ブルー」(88年)で世界的にも知られるようになった。若い頃から企画を温めていたSF大作「フィフス・エレメント」(97年)も成功させ、フランス映画界を代表する監督となった。「ジャンヌ・ダルク」(99年)以降は製作が主となり若手の映像作家を監督として起用するなど後進の育成にも意欲的である。また、ベッソンが発掘したミラ・ジョボビッチ、ナタリー・ポートマンといった女優はその後大きく躍進しており、目の確かさも立証した。
 主役のタクシーはプジョー406で、プジョーのミドルクラスとして1995年に登場した。セダンの他にブレークと呼ばれるワゴンとフェラーリのデザインで知られるピニン・ファリーナ工房が設計・製作したクーペがある。映画で使われているのは3000tV型6気筒DOHCエンジンをレーシング仕様にチューニングされたものである。ボタン一つでジャッキアップされてリア・ウイングやフロント・スポイラーが出てくるシーンがあるが当然そんな機能はない。実際フランスのタクシーには静かで乗り心地がよいためこのプジョー406が多く使われている。プジョーの歴史は古く18世紀前半にまで遡る。コーヒーミルや傘の骨などを製造していたプジョー一族の内アルマン・プジョーが、1890年にダイムラー製エンジンを搭載したガソリン自動車を完成したのが始まりで、翌年量産化して世界初の自動車メーカーとなった。1929年に3桁の数字の真ん中にゼロが入る車を発表しそれは現在まで続いている。1976年にはシトロエンを吸収合併しPSA(プジョー・シトロエン・グループ)となりルノーを抜いてフランス最大の自動車会社となった。WRC(世界ラリー選手権)やパリ・ダカール・ラリーなどに積極的に参加し幾度となく優勝を遂げている。
 「フェラーリの鷹」と同様悪役は外国車に乗っているが、登場するメルセデス・ベンツE500は開発・製造をポルシェ社が請け負ったモンスター・マシーンである。シャーシとボディは元になっているW124シリーズからの大きな変更はないが、巨大な5000tV型8気筒DOHCエンジンを格納するためフロント部分は設計し直されている。
 続編の「TAXi2」(2000年)では悪役として日本のヤクザが登場し、3台の三菱ランサー・エボリューションYが彼らの足として使われている。初代エボルーションはWRCにエントリーするために生産されたホモロゲーションモデルで、92年にギャランVR4のエンジンを一回り小さなランサーに詰め込んだモデルとして誕生した。エボリューションYはベースとなるランサーがフルモデルチェンジして生まれ変わったエボリューションVをより熟成させて耐久性や走行性能が向上させてある。