【ナイル殺人事件】
製作年 1978年、米
監督  ジョン・ギラーミン 
出演  ピーター・ユスチノフ デビッド・ニーブン ミア・ファロー
【あらすじ】
 莫大な遺産を相続したリネットが突然婚約した。相手は失業中のサイモンという青年だったが、彼は元々リネットの親友だったジャクリーン(ミア・ファロー)の恋人だった。嫉妬に駆られたジャクリーンは2人の新婚旅行先のエジプトにまでついて来るしつこさだったが、何とか彼女をまいてナイル川の遊覧船に乗り込むことができた。船にはリネットとその一族に遺恨を持っている人々が同乗していたが、名探偵エルキュール・ポアロ(ピーター・ユスチノフ)も偶然乗り合わせていた。
 遺跡を観光中に、まいたはずのジャクリーンが現れて2人をいらだたせたが、ある晩、船の展望室でサイモンとジャクリーンは激しく口論し、激高したジャクリーンは持っていた護身用のピストルでサイモンの足を撃ってしまう。動転したジャクリーンは寝込んでしまい看護婦のミス・バウアーズの介護を一晩中うけた。翌朝、今度はリネットが殺されているのが見つかり大騒ぎになった。一番に疑われたのはジャクリーンだったが、付き添われて寝込んでいたので完璧なアリバイがあった。ポアロは旧友のレイス大佐(デビッド・ニーブン)の協力を得て捜査に乗り出すが、同乗者にはそれぞれ動機があり皆疑わしかった。そんなポアロはあやうくコブラに襲われそうになったがレイス大佐に救われた。真犯人が仕掛けたのだろうがポアロは臆せず捜査を続行した。しかし、またもや殺人が起きた。今度はリネットのメイドのルイーズだった。その現場を目撃した作家のサロメ女史も続けざまに殺された。ここにきてポアロは全員を船の展望室に集め、真犯人を言い当てるのだった。
【解説】
 「オリエント急行殺人事件」のヒットをうけて製作されたアガサ・クリスティ原作の映画化で、前作より5倍の製作費をかけている割にはキャストが少々地味ではあるが、音楽にニーノ・ロータ、撮影にジャック・カーディフなど一流のスタッフはそろえてある。
 ポアロ役のピーター・ユスチノフはこれ以後製作された「地中海殺人事件」(82年)、「死海殺人事件」(88年)やTVムービーでもポアロを演じており、ポアロ=ユスチノフの公式が定着した。デビッド・ニーブンは第二次世界大戦でも陸軍大佐で従軍しており、「ナバロンの要塞」(61年)など戦争映画への出演作が多数ある。サロメ女史役のアンジェラ・ランズベリーは、本作品に続いて製作された「クリスタル殺人事件」(80年)でポアロと並ぶ名探偵ミス・マープル役に抜擢されている。また、TVシリーズ「ジェシカおばさんの事件簿」でも名探偵を演じている。ストーカー並のしつこさでつきまとうジャクリーン役のミア・ファローは、夫だったウディ・アレンとの泥沼裁判が有名だが、父親は映画監督、母親は女優という芸能一家で育ったためか早熟で、30歳も年の離れたフランク・シナトラと結婚したのは21歳の時である。ルイーズ役のジェーン・バーキンは、高級ブランド・エルメスのバーキンバックでおなじみである。日本では絶大な人気を誇ったオリビア・ハッセーや、往年の大女優ベティー・デイヴィスも顔を見せている。また、殺されるリネット役のロイス・チャイルドは、「007/ムーンレイカー」(79年)にボンドガールとして出演している。
 ナイル川クルーズは、現在でも盛んで数十隻のクルーズ船が往来している。世界遺産に指定されているカルナック神殿やハトシェプスト葬祭殿など遺跡の大半は、ナイル川沿いにあるため他の交通機関より効率的に回れるという利点がある。中でも有名ホテルチェーンが運行する5つ星クラスのクルーズ船は、浮かぶ宮殿のような豪華さを誇る。暑い地域だけにエアコンは当然のように完備しているが、プールやディスコなどの船内設備やファラオやクレオパトラをイメージしたこった内装の船もあり、今でもヨーロッパからの新婚旅行客を引きつけて止まない。アスワンハイダムができたため多くのクルーズ船は、ルクソール〜アスワン間かアスワン〜アブシンベル間の運行で、国際空港がある首都のカイロからは空路で移動して乗船するのが一般的である。ファルーカと呼ばれるエジプト特有の帆船での遊覧やベリーダンスショー付きのディナークルーズも人気のようである。
 外輪蒸気船が登場する作品はほかに、バスター・キートンのアクロバティクな演技が最も冴えを見せている「キートンの船長」(28年)、蒸気船のレースがクライマックスシーンになっているジョン・フォード監督の「周遊する蒸気船」(35年)、リーサル・ウエポンのコンビが組んだ「マーヴェリック」(94年)は、蒸気船の船上でおこなわれる大ポーカー大会への出場を目指してギャンブラーのメル・ギブソンと詐欺師のジョディ・フォスターが騙しあうという内容だった。