インプラント専門医は簡単に見つけられます。でも治療は本当に上手?

虫歯や歯周病・歯の破折などで残念ながら歯を失った時、そのまま放置していても良くないことは、患者自身でもご存知の通りでしょう。そんな折、かかりつけの歯医者からこんなことを言われます。

「歯を抜いた場所ですが、入れ歯ブリッジインプラント、どの治療を選択されますか?」

いずれは考えなければいけないけれど、ついに来たかという感じでしょうか。

「なるべく安くは済ませたいけれど、入れ歯は見た目が.....。ブリッジだと両サイドの健康な歯を削らなければいけないし、値段が高いけどやっぱりインプラントかな。」

しかし何十万円もの費用が掛かるインプラント治療、やはりインプラントの専門医でしっかりとした歯科で治療してもらいたいものですね。

「ところでインプラントの専門医ってどこにあるの?」

そうお思いではないでしょうか。実はインプラント専門医を簡単に探すことができるのです。

日本口腔インプラント学会の資格取得者・研修施設
引用:専門医・指導医|日本口腔インプラント学会日本口腔インプラント学会

日本口腔インプラント学会のホームページにはインプラント専門医・指導医を一覧にした研修施設検索ページが備えられており、ここからインプラント専門医を探すことができます。これで専門医によるインプラント治療が可能な歯科医院が簡単に見つけられますね。

ところでこのインプラント専門医ですが、本当にしっかりとした安心のインプラント治療が受けられるでしょうか...?

インプラント専門医になれる敷居は高くない!?

まずインプラント専門医ですが、これは「公益社団法人日本口腔インプラント学会が定めた規定に従って得られる認定制度である」と定義が決まっています。よって、インプラント治療を専門とする歯科医院でも、この認定制度に準じていないと「インプラント専門医」は名乗ることができません。

そもそも公益社団法人日本口腔インプラント学会とはどのような集まりなのでしょう。この学会は、日本のインプラント治療発展のために歯科医師などの知見者が寄り集まって発足された団体です。厚生労働省などの公的な機関ではありません。つまり「インプラント専門医」は日本口腔インプラント学会による肩書であって、公によって制定された国家資格などではないんです。

インプラント専門医になるには

インプラント専門医申請書さて日本口腔インプラント学会のインプラント専門医になるにはどうすればよいのでしょうか。公益社団法人日本口腔インプラント学会専門医制度規程の第8条に、申請する認定資格条件が記載されています。

専門医制度規程 第8条

  1. 口腔インプラント専門医を申請する者は、 申請時に下記の各号全てに該当することを要する。
    1. 日本国歯科医師の免許を有すること。
    2. 5年以上継続して正会員であること。
    3. 研修施設に通算して5年以上在籍していること。
    4. 日本歯科医師会会員であること。
    5. 専門医教育講座を3回以上受講していること。
    6. 本会学術大会及び支部学術大会に8回以上参加していること。
    7. 本会専門医制度施行細則(以下、「施行細則」という。)に定める 所定の研修を終了していること。
    8. 口腔インプラント指導医2名(内1名は施設長)の推薦が得られること。
    9. 施行細則に定めるインプラント治療の経験があること。
    10. ケースプレゼンテーション試験に 合格していること。
    11. 本会学術大会又は支部学術大会において2回以上発表を行っていること。
    12. 口腔インプラントに関する論文を本会 学会誌 又は委員会が認める外国雑誌 に1編以上発表していること。
  2. 前項にかかわらず、委員会が申請資格を有すると認めた者。

引用:専門医制度規程|日本口腔インプラント学会

最後の一文ではなぜか、前項に書かれている厳しい条件を一蹴する文言が書かれていますが、通常の申請手順をみるとなかなかハードルの高い条件です。まとめると、

  • 学会に5年以上在籍しており、
  • 授業やミーティングに数回参加し、
  • 論文を1度は発表して、
  • インプラント治療の経験がある歯科医師

というような感じです。

この中で、インプラント治療の経験にかかわる条件を抽出すると、専門医制度施行細則の第5条にその詳細項目があります。

専門医制度施行細則 第5条

規程第8条第1項第9号に定める症例は、下記の各号全てに該当することを要する。

  1. 症例数は、20症例以上とし、全て上部構造装着から3年以上を経過していること。なおケースプレゼンテーション症例を含んでもよい。
  2. 症例には、 多数歯欠損( 1顎7歯以上欠損)症例3症例以上含んでいること。但し1症例はボーンアンカードブリッジ(粘膜負担のない上部構造)でなければならない。この場合、欠損歯数とインプラント埋入数とは、一致する必要はない。
  3. 1顎1症例とし、上下顎にインプラントを埋入した症例では、2症例とみなす。

引用:専門医制度施行細則|日本口腔インプラント学会

かみ砕くと「3年を経過した多様性のあるインプラント治療を20症例は抱えなさい」と言うことで、インプラント治療ももちろん携わなければいけません。

また専門医を維持するには、5年に一度の更新が必要です。その際には引き続き、授業やミーティングに参加することと、5年で3症例のインプラント治療のレポートを提出することとされています。

すべての専門医が高い技術力を持つとは限らない

インプラント技術をもつ歯科医師インプラント専門医になるためには少なくとも5年の歳月と一定の知識の習得、そして治療をしなければいけません。よって専門医では、ある程度の診断力や技術力のあるインプラント治療を受診することが期待できるでしょう。

しかし専門医になるための必要な症例数は20症例以上とされていますが、その症例数を5年で割ると、3か月に1度しかインプラント治療をしなくても専門医資格の申請条件をクリアすることになります。さらに専門医になってから更新の際は5年でわずか3症例のインプラント治療と、1年あたりにしたら1症例に満たなくても更新条件をクリアします。

専門医になってからも授業やミーティングに参加することが更新条件となっていることで、インプラント治療に対して前向きな姿勢であることが伺えますが、それでも年間1症例のみのインプラント治療で、高度な技術を保有し続けることができるのでしょうか

インプラント専門医は、あくまで日本口腔インプラント学会が定めた肩書であり、インプラント技術を保証した国家資格でもありません。インプラント治療を受診する際の歯科医院選びの目安にはなりますが、しっかりとした治療が受けられるとは限らないのです。

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